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最新更新 2025年07月10日

無断転載 厳禁

GIOACHINO ROSSINI

ZELMIRA

2幕の音楽のためのドランマ
Azione Tragica in due atti

初演 1822年2月16日 ナポリ サン・カルロ劇場
First performance 16 Feburary 1822, Teatro San Carlo, Napoli

台本作家 アンドレア・レオーネ・トットラ
Librettist Andrea Leone Tottola

原作 ドルモン・ド・ベロワ Dormont De Belloy 本名ピエール=ロラン・ビュイレット Pierre-Laurent Buyrette 1727―1775 戯曲『ゼルミール Zelmire』 1762
Original

《ゼルミーラ》は、ロッシーニがナポリ時代に最後に発表した新作オペラである。この作品は、1820年のナポリの動乱の後、最初のオペラであり、その影響が見られる。また当初からウィーンでの上演が決まっていたため、ロッシーニがより国際的な活動へ足を踏み入れようとする様子も窺える作品である。

作曲

1815年からナポリを拠点に活動してきたロッシーニだったが、長年の激務とナポリを含む両シチリア王国の政情不安から、ナポリを離れる決意をした。
同様に、ロッシーニをナポリに引っ張ってきた興行主ドメニコ・バルバイヤもナポリを離れることにし、1821年夏からウィーンと交渉したのち、11月6日付で同年12月からケルントナートール劇場 Körntnertor Theater ケルンテン門劇場 の興行主を務める契約を結んだ。
後述するが、バルバイアはロッシーニとコルブラン等をウィーンに招き、1822年3月から7月まで大々的なロッシーニのオペラ上演を企画する。その中には次のナポリでの新作、つまり《ゼルミーラ》も含まれており、つまり《ゼルミーラ》はナポリで初演される前からウィーンで上演されることが確実だった。

さて前述の両シチリア王国の政情不安は、1820年の立憲革命の勃発に繋がる。
1820年3月にスペインでスペイン立憲革命が起こり、1812年憲法が復活した。これはイタリアで立憲を求める自由主義組織カルボナーリに強い影響を与え、同年7月にはグリエルモ・ペペ率いる軍隊がナポリに迫り、両シチリア国王フェルディナンド1世に憲法制定を迫った。フェルディナンドはこれを渋々受け入れざるを得なかった。
この混乱によって1820年秋にサン・カルロ劇場で初演される予定されていただった《マオメット2世》は、12月3日に延びた。
《マオメット2世》初演の後、ロッシーニはローマに向かい、《マティルデ・ディ・シャブラン》に取り掛かる。この作品は2月24日、アポッロ劇場 Teatro Apollo で初演された。
ロッシーニがローマに滞在している間に、1821/1822年のサン・カルロ劇場でのシーズンにおいて、1月(実際には2月に伸びる)にロッシーニの新作オペラが上演される予定が決まる。この段階では題材などは決まっていない。

さてナポリの立憲革命は、当然、ウィーン体制に基づくヨーロッパ諸大国を刺激した。オーストリア帝国トロッパウ(現チェコ、オパヴァ)での会議に続き、1821年1月にはオーストリア帝国ライバッハ(現クロアチア リュブリャナ)で、オーストリア(フランツ1世が出席)、ロシア(アレクサンドル1世が出席)、プロイセン、フランスなど間でこの件について議論がなされた。
フェルディナンドは、自身が廃位されるわけでも処刑されるわけでもなかったとはいえ、ライバッハに動乱を鎮圧するよう要請を出した。これを受けてオーストリアが軍を派遣、1821年3月7―9日の戦いでにオーストリア軍はナポリ軍を破り、3月20日、立憲革命は鎮圧された。

ロッシーニがナポリに戻ったのはこの直後の3月23日。そして4月10日はサン・カルロ劇場でハイドン《天地創造》を上演している。

これ以降、ロッシーニの新作オペラへの関りは秋になるまで明らかでない。
8月10日付でロッシーニが母アンナに宛てた手紙には
サン・カルロ(劇場)のために一つ大オペラを書いているところです。
Sto Scrivendo una Grand'Opera Per S. Carlo

とある。わざわざ 大オペラ Grand'Opera と書いているが、時期的に《ゼルミーラ》に取り掛かるには早過ぎるだろう。

10月12日付の、バルバイアに近いアントーニオ・ジャンバニーニ Antonio Giambanini という人物の報告では
マエストロ・ロッシーニ氏が音楽を書くはずの劇の台本はまだ完全には【書き】終えられていない、
Non essendo stato ancora del tutto terminato il Libretto del Dramma su di cui il Sig.r Maestro Rossini deve scrivere la Musica,

とある。逆に言えばこの頃には台本制作が進んでいたことになる。台本作家はアンドレア・レオーネ・トットラ Andrea Leone Tottla。

ロッシーニはローマで初演した《マティルデ・ディ・シャブラン》をナポリ向けに手直し、12月11日、フォンド劇場でナポリ初演となった。
12月27日にはサン・カルロ劇場でのロッシーニのための慈善演奏会で、新作カンタータ《感謝 La riconoscenza》と、《リッチャルドとゾライデ》を1幕に短縮したものが上演された。王室一家が臨席した。

直後の12月15日、トットラの台本は王立警察に検閲のために提出され、23日に許可が下りた。初演までほぼ2か月という頃。

1822年2月1日付で母に宛てた手紙でロッシーニは

数日中に私のオペラ《ゼルミーラ》が舞台に掛けられます
Fra giorni va in Scena la mia Opera Zelmira


と書いている。さらにその4日後の2月5日付の母への手紙では、

私は 私のオペラを【書き】終えました、そして 成功が 作品の価値に見合うことを 私は期待しています
Io ho Finita la Mia Opera, e Spero che il Successo sarà corrispondente al merito d'essa


と書いている。

初演

初演は1822年2月16日、ナポリ、サン・カルロ劇場で行われた。

PolidoroAntonio Ambrosibasso
ZelmiraIsabella Colbransoprano
IloGiovanni Davidtenore
AntenoreAndrea Nozzaritenore
EmmaTeresa Cecconicontralto
LeucippoMichele Benedettibasso
Gran SacerdoteMassimo Orlandinibasso

イザベラ・コルブラン 1785―1845 はスペイン、マドリード生まれのプリマドンナ。スペイン国内、パリ、ボローニャなどで歌った後、ミラノ スカラ座に出演しプリマドンナの地位を固める。それからナポリの興行主ドメニコ・バルバイアと契約し、1811年から1822年までナポリを拠点に大活躍した。ここで1815年にナポリに移ったロッシーニと出会い恋仲になり、1822年に結婚。二人はウィーン、ロンドン、パリで精力的に活動した。しかし1830年にはロッシーニはオランプ・ペリシェ Olympe Pelissier 1799―1878 と恋に落ち、夫婦関係は破綻、同時期に健康を害し、1845年、ボローニャ近郊のカステナーゾで亡くなった。一時代を築いた大プリマドンナとして多くのオペラの初演に出演しているが、ロッシーニのオペラの初演に限ると、《エリザベッタ、イングランドの女王》 1815 のタイトルロール、《オテッロ》 1816 のデズデーモナ、《アルミーダ》 1817 のタイトルロール、《エジプトのモゼ》 1818 のエルチア、《リッチャルドとゾライデ》 1818 のゾライデ、この《エルミオーネ》のタイトルロール、《湖の美女》 1819 のエレナ、《マオメット2世》 1820 のアンナ、《ゼルミーラ》 1822 のタイトルロール を歌った(いずれもナポリ)。

ジョヴァンニ・ダヴィド 1790―1864 は、当時の若い世代の優秀なテノール。父親も高名なテノールで、その教えで1808年にはデビューしていた。ロッシーニのオペラの初演では、ナポリ時代より前、1814年にミラノ スカラ座での《イタリアのトルコ人》でナルチーゾを歌った(その9か月前にスカラ座での《パルミラのアウレリアーノ》初演でタイトルロールを歌う予定だったが、病気降板した)。ナポリでのロッシーニのオペラの初演では、《オテッロ》 1816 のロドリーゴ、《リッチャルドとゾライデ》 1818 のリッチャルド、この《エルミオーネ》のオレステ、《湖の美女》 1819 のジャコモ5世、《ゼルミーラ》 1822 のイーロを歌った。高音に極めて強いテノールで、ナポリ時代のロッシーニのテノール役に大きく貢献した。

アンドレア・ノッツァーリ 1775―1832 は、1790年代末から引退する1825年まで絶大な人気を誇った偉大なテノール。1811年にナポリの興行主ドメニコ・バルバイアと契約し活躍した。ロッシーニのオペラの初演では、《エリザベッタ、イングランドの女王》 1815 のレイチェステル、《オテッロ》 1816 のタイトルロール、《アルミーダ》 1817 のリナルド、《リッチャルドとゾライデ》 1818 のアゴランテ、この《エルミオーネ》のピッロ、《湖の美女》 1819 のロドリーゴ、《マオメット2世》 1820 のパオロ・エリッソ、《ゼルミーラ》 1822 のアンテーノレを歌った。彼の声はバリトンの声質でファルセットーネで高い音域を歌う(いわゆるバリテノール)だった。

アントーニオ・アンブロージ 1786―? は、1810年代から1830年代半ばまでイタリア各地で活躍した優れたバス。特にナポリでは1819年以降非常に人気があった。彼もロッシーニと関わりが深い歌手で、ロッシーニのオペラの初演では、《泥棒かささぎ》 1817 の代官、《ブルグントのアデライデ》 1817 のベレンガーリオ、《マティルデ・ディ・シャブラン》 1821 のジナルド、《ゼルミーラ》 1822 のポリドーロ を歌った。

テレーザ・チェッコーニは1820、30年代に活躍したコントラルト。1823/24年シーズンまでは専らナポリで活動し、その後はフィレンツェ、ボローニャ、トリエステ、ヴィチェンツァ、ジェノヴァなどイタリア各地で活動。1833年1月にはミラノ、スカラ座に出演している。オペラの初演では、この《ゼルミーラ》の他には、1829年5月16日、パルマでのベッリーニ《ザイラ》初演(新公立劇場、現在のレージョ劇場のこけら落とし公演だった)でのネレスターノを歌ったことで知られている。


《ゼルミーラ》の初演は大成功を収めた。
1822年2月18日付の両シチリア王国新聞 Giornale del Regno delle Due Sicilie には絶賛の評が載った。

ゼルミーラは[…]土曜日の晩に この上なく上出来の成功で 王立サン・カルロ劇場での初演を迎えた。[…]私たちの見解では この作品は 【ロッシーニの】他の作品を ひとまとめに集めたよりも 価値がある。

さらにコルブランについて、

彼女は 彼女が望むあらゆる感情を 呼び覚ますことができる: 彼女について 熱狂なしに語ることはできない。

と称賛している。

《ゼルミーラ》は3月6日までに計10公演があった。最終日には国王フェルディナンド1世が臨席し、ロッシーニはじめ出演者たちをねぎらった。

こうして《ゼルミーラ》の大成功と共に、ロッシーニのナポリ時代は終わった。

《ゼルミーラ》 ウィーン上演

《ゼルミーラ》最終日のその夜か翌日、ロッシーニ、コルブラン、ノッツァーリ、ダヴィド、アンブロージはナポリを発ってウィーンへ向かった。その途上の3月16日、ボローニャ近郊のカステナーゾでロッシーニとコルブランは結婚式を挙げた。
一同は3月23日にウィーンに到着。ちょうどこの頃、カール・マリア・フォン・ウェーバーが前年にベルリンで初演したばかりの《魔弾の射手》をケルントナートール劇場で自らの指揮で上演しており【注】、ロッシーニたちは3月27日にそれを観劇している。

ウィーンのケルントナートール劇場では、今や支配人のバルバイアによって、1822年春から夏にかけて、ロッシーニのオペラの連続上演が催された。5月7日《マティルデ・ディ・シャブラン》 、5月30日《エリザベッタ》 、6月21日《泥棒かささぎ》、7月8日《リッチャルドとゾライデ》などが立て続けに上演され、ウィーンはロッシーニ熱に浮かされた。その先陣を切ったのが、4月13日、最新作の《ゼルミーラ》だった。

PolidoroAntonio Ambrosibasso
ZelmiraIsabella Colbransoprano
IloGiovanni Davidtenore
AntenoreAndrea Nozzaritenore
EmmaFanny Eckerlincontralto
LeucippoPio Botticellibasso
EacideGiovanni Rauscher tenore
Gran SacerdoteWeinkopfbasso

Joseph Weigl

主要キャストでナポリから変更があったのは、エンマのファンニ・エッケルリン 1802―1842 である。エッケルリンはミラノ生まれだが父親はポーランド系だという。ミラノ音楽院で学んだ後、記録にある限りでは1817年春、フィレンツェでデビューしたと思われる(つまり15歳くらいの時)。数年間北イタリアの諸都市で活動し、1820年4月にミラノ、スカラ座に出演、うち4月22日には《泥棒かささぎ》でピッポを歌った。1822と24年にウィーン、1823年にナポリで歌い、後にはバルセロナやマドリッドでも歌った。
エッケルリンは装飾歌唱に長けたコントラルト(あるいは今日で言うメッゾソプラノだったかもしれない)だったと言われ、ロッシーニはエッケルリンのために、第2幕にエンマのアリア Ciel pietoso, ciel clemente を追加した。歌詞はジュゼッペ・カルパーニ Giuseppe Carpani による。このアリアは大変優れた音楽で、クリティカルエディションでも N.8b として(補遺ではなく)本編に採用された。近年の上演では必ず含まれている。

ロッシーニは2日目の公演の後、4月15日付で母アンナに宛てた手紙で公演の成功を報告している。

私たちは《ゼルミーラ》の公演に臨んだ それは 絶え間ない喝采を受けるという 新奇な熱狂を 引き起こした。[…]私はあなたに 上演は 途方もない喜びだったと あなたに請け合う。
Noi Siamo Andati In Scena Colla Zelmira La Quale ha fatto un Furore di un Nuovo Genere è un Continuo Aplauso. [...] Vi assicuro che i Spettacori sembrano matti del piacere.


大国の首都の公演だったので、新聞評は多数残されているが、ほぼ絶賛である。
ライプツィヒの公共音楽新聞 Allgemeine musikalische Zeitung 1822年7月号で

《ゼルミーラ》は ―少なくとも このシーズンの間は― 大成功であり そして 大成功であり続けている
Zelmira ist und bleibt - wenigstens für diese Stagione - der Triumph


と、《ゼルミーラが》長期に渡って熱狂を巻き起こし続けている様子を伝えている。
一方でコルブランはこの頃から喉の衰えの兆候を見せ始めたといわれている。

※普請中

《ゼルミーラ》は7月20日までのおよそ3か月半で、合計20回の公演があった。
7月22日、ロッシーニはコルブランを伴ってウィーンを発ち、両親の住むボローニャへと向かった。

注 ウェーバーは、バルバイアからの依頼を受けて、この7か月後の1823年10月25日にケルントナートール劇場で《オイリアンテ》を初演する。

ウィーン以降の上演、パリ

《ゼルミーラ》は、至難な音楽にもかかわらず、ウィーンでの熱狂的な上演の後、様々な都市で上演された。大雑把に言って、1830年代初頭までは頻繁に、さらに1830年末まではしばしば上演があった。
以下ロッシーニの何らかの関与が見られる公演だけを取り上げる。

1821年からオーストリアの宰相を務めていたクレメンス・フォン・メッテルニヒ 1773―1859 は、大のロッシーニ愛好家で、ウィーンでのロッシーニ祭の際は夫妻をしばしば自身の宮殿に招いて歓迎していた。
さて1822年10月から12月、ヴェローナで国際会議が催された(ヴェローナ会議)。1820年に勃発し2年で進行していたスペイン立憲革命に対処するための会議だった。メッテルニヒはこの会議に合わせてロッシーニのオペラやカンタータ、特にウィーンで聞いた《ゼルミーラ》をヴェローナで再び聞くことを切望した。ロッシーニもウィーンでの恩を返さんと、8月30日にボローニャからメッテルニヒに前向きな返答を送っている。しかしこれはコルブランの不調から実現しなかった。ロッシーニは11月29日付でメッテルニヒに宛てた手紙で、ヴェネツィアで《ゼルミーラ》が演奏会形式で上演されるのでそれを聞きに来てはどうか、と提案している。

なぜにヴェネツィアで《ゼルミーラ》が演奏会形式上演かというと、ヴェネツィア初演は一悶着あったからである。
1822/23年、フェニーチェ劇場のカーニヴァルシーズンでは、ロッシーニのイタリアへの最後の新作オペラ《セミラーミデ》が初演されることが決まっていた。初演は1823年2月3日。そしてシーズン開幕公演 1822年12月26日 に《ゼルミーラ》をヴェネツィア初演するつもりだった。
ところが同じヴェネツィアのサン・ベネデット劇場が出し抜いて、1822年9月21日に《ゼルミーラ》をヴェネツィア初演してしまった。そのためフェニーチェ劇場では《ゼルミーラ》を演奏会形式上演することを検討していたのだが、サン・ベネデット劇場からの抗議でそれも出来なくなった。フェニーチェ劇場は代替として《マオメット2世》 1820年12月3日 ナポリ 初演 をロッシーニにヴェネツィア向けに手直ししてもらい、シーズン開幕公演とした。サン・ベネデット劇場での《ゼルミーラ》の上演にはロッシーニは関与していない。

1823年12月13日、ロッシーニとコルブランは英国ロンドンに到着、翌年夏まで滞在し、多数のオペラ上演をはじめとする様々な活動を繰り広げる。1824年1月24日、国王劇場でのロッシーニのシーズンの開幕公演となったのが、やはり《ゼルミーラ》だった。ゼルミーラが コルブラン、イーロが マヌエル・ガルシア Manuel García、アンテーノレが アルベリコ・クリオーニ Alberico Curioni、エンマが ルチア・エリザベス・ヴェストリス Lucia Elisabeth Vestris、ポリドーロが ジュゼッペ・プラッチ Giuseppe Placci、レウチッポが マッテオ・ポルト Matteo Porto。
ロンドンでも《ゼルミーラ》は大成功を収めた。特に伝説的テノール、マヌエル・ガルシアがイーロを歌ったことが大きい(ガルシアがイーロを歌ったのはこのロンドンでの上演だけだったようだ)。一方で、コルブランの喉の衰えは既に隠しようがないほどになっていたようだ。
このロンドンでの上演では、ウィーンでのエンマの追加アリアが採用された他、いくつかの変更がなされた。 第1幕第8場、つまり第6番のアンテーノレのアリアの後のレチタティーヴォと第7番のゼルミーラとエンマの二重唱は、第2幕の第10番 五重唱の後のレチタティーヴォの中に移された。また第6番のアンテーノレのアリアが削除された他、大小様々なカットが入っている。
音楽的には充実した結果を残せたロンドンだったが、結局ロッシーニとコルブランはこの地に腰を据えることなく、1824年7月末にここを離れた。

1824年8月以降、ロッシーニは基本的にパリを拠点とし、ここでは新作、旧作とも頻繁に上演されるようになる。
1826年3月14日、イタリア劇場 Théâtre Italian (会場はルーヴォア劇場 Salle Louvois)で《ゼルミーラ》がパリで初めて上演された。ゼルミーラが ジュディッタ・パスタ Giuditta Pasta、イーロが ジョヴァンニ・バッティスタ・ルビーニ Giovanni Battista Rubini、アンテーノレが マルコ・ボルドーニ Marco Bordogni、ポリドーロが カルロ・ズッケッリ Carlo Zucchelli、エンマが アデライデ・スキアゼッリ Adelaide Schiasetti、レウチッポが ニコラ=プロスペル・ルヴァッスール Nicolas-Prosper Levasseur と、極めて優れた歌手が集められている。
パリでの《ゼルミーラ》で、ロッシーニは第2幕の終盤を大きく改変している。 第10番の五重唱の後のレチタティーヴォが途中(57小節)から変更され、そしてゼルミーラのアリア N. 10bis を追加、レチタティーヴォを挟み、第2幕フィナーレ N. 11a になる。
ゼルミーラの追加アリア N. 10bis については後述するが、カバレッタは《エルミオーネ》第9番 エルミオーネのグランシェーナのうち Il tuo dolor ci affretta... 以降をいくらか手直しして更生している。
第2幕フィナーレは、元々のゼルミーラのアリア・フィナーレを、イーロを主としたゼルミーラとポリドーロとの三重唱に仕立て直している。超高音に強いルビーニを引き立てるため、イーロには高い変ホ音が与えられている。

前述の通り、《ゼルミーラ》は1820年を通して、そして1830年代に入ってもしばらくはヨーロッパの諸都市で頻繁に上演された。これについては、OPERA RARA のCDのブックレットにトム・カウフマンによる上演一覧(不完全ではあろうが)が掲載されているので参照を。そこでの19世紀最後の上演は1839年5月12日、ポルトガル、リスボンのサン・カルロス劇場である。しかしオーストリア国立図書館のサイトで、ケルントナートール劇場での1856年春の公演の出版台本が公開されており、おそらくこれが《ゼルミーラ》の19世紀最後の上演だと思われる。

20世紀以降の上演

ロッシーニのオペラセリアではありがちなことだが、《ゼルミーラ》も2段階復活といったことになった。

20世紀における最初の《ゼルミーラ》公演は、1965年4月10日、初演劇場であるナポリ、サン・カルロ劇場でのものだった。インターネット上には信頼できる情報が見当たらないが、複数の情報を突き合わせる限り以下で間違いはないだろう。ポリドーロが パオロ・ワシントン Paolo Washington,ゼルミーラが ヴィルジニア・ゼアーニ Virginia Zean,イーロが ニコラ・タッゲル Nicola Tagger,アンテーノレが ガストーネ・リマリッリ Gastone Limarilli,エンマが アンナ・マリア・ロータ Anna Maria Rota,レウチッポが グイード・マッツィーニ Guido Mazzini,エアチーデが ジュゼッペ・モレッティ Giuseppe Moretti,大祭司が エンリーコ・カンピ Enrico Campi。指揮は カルロ・フランチ Carlo Franci。演出は マルガリーテ・ヴァルマン Margarete Wallmann(オーストリア人。イタリア語風に マルゲリータ・ワルマン Margherita Wallmann と表記されている)。装置と衣装は ヴェニエロ・コラサンティ Veniero Colasanti と ジョン・ムーア John Moore。他日の公演がいつあったのかは分からなかった。録音が残されており、大幅にカットの入った短縮上演で会ったことが分かる。ニコラ・タッゲル(ユーゴスラヴィア生まれ、イスラエル、テルアヴィヴ育ち)は当時としては高音にも装飾歌唱にも強いテノールだったが、それでもイーロのカヴァティーナでは短縮した上で高いニ音はすべて外さざるを得なかった。ヴェルディテノールとして知られるガストーネ・リマリッリも、アンテーノレを何とか歌う程度。結果としてゼルミーラのヴィルジニア・ゼアーニが核となっている。録音からも観客の反応が冷淡だったことが伝わる。

より本格的な蘇演は、1988年7月19日、イタリア、ヴェネツィア、フェニーチェ劇場での演奏会形式上演である。出演者などの詳細はリンク先を。ここには記載がないが、オーケストラは イ・ソリスティ・ヴェネティ I Solisti Veneti。また大祭司役の歌手が Leslie Fason になっているがこれは Leslie Fyson の誤り。この公演はロッシーニ・ルネサンス初期の画期的公演の一つで、大成功を収めた。YouTubeにライヴ録音が上がっており、観客の熱狂的な反応も聞くことができる。レチタティーヴォや曲の一部にもカットが入っている。

これを受けて翌1989年7月に ERATO による初の商業録音が行われた。出演者は全員前年のヴェネツィアでの公演と同じだが、念のため記載すると: ポリドーロが ホセ・ガルシア José Garcia、ゼルミーラが チェチーリア・ガズディア Cecilia Gasdia、イーロが ウィリアム・マッテウッツィ William Matteuzzi、アンテーノレが クリス・メリット Chris Merritt、エンマが ベルナルダ・フィンク Bernarda Fink、レウチッポが ボアズ・セナトール Boaz Senator(イスラエル生まれ)、エアチーデが ヴァーノン・ミジリー Vernon Midgley、大祭司 レズリー・ファイソン Leslie Fyson。合唱 アンブロジアン・シンガーズ Ambrosian Singers、合唱指導 ジョン・マカーシ John McCarthy。オーケストラ イ・ソリスティ・ヴェネティ I Solisti Veneti、指揮 クラウディオ・シモーネ Claudio Scimone。1989年7月、ヴィチェンツァ、オリンピコ劇場 Teatro Olimpico。このCDには指揮者のクラウディオ・シモーネが音楽的に見直したと書いてある。公演と同じくカットが多い。

舞台上演の蘇演は、1989年4,5月、ローマ歌劇場での公演。記録によると1989年4月26,28,30日,5月2,4,6日の6公演。出演者などはリンク先を。各幕の映像がYouTubeに上がっている。クリティカル・エディション総譜の序文によると、この上演の楽譜を カスリーン・クズミック・ハンゼル Kathleen Kuzmick Hansell が用意し、これがクリティカル・エディション総譜の基になっているという。カットも少ない。

ロッシーニ・オペラ・フェスティヴァルにおける初上演は1995年8月。記録によると公演は8月14,18,21,24日の4回。出演者などはリンク先を。マリエッラ・デヴィーアのタイトルロールを筆頭に、ブルース・フォード、ジョルジョ・スルヤン、ソーニャ・ガナッシなど強力な歌手が揃い、とりわけ当時ほとんど無名だったポール・オースティン・ケリー(同年の《ギヨーム・テル》公演で漁師を歌っていた)がイーロで大きな評判を得た。

※普請中※

近年の上演では、1826年パリ稿が用いられることが増えている。ROFの2009年の上演、ロッシーニ・イン・ヴィルトバートの2018年の公演はパリ稿を用いていた。さらにROFの2025年の公演もパリ稿を用いると予告されている。

原作と台本

《ゼルミーラ》の原作は、ドルモン・ド・ベロワ Dormont De Belloy【注】 1727―1775 の戯曲『ゼルミール Zelmire』 である。これは1762年、パリで初演されて大きな成功を収めた。
アゾル Azor に命を狙われたレスボスの王ポリドル Polidore を、娘のゼルミル Zelmire が匿い、一方でアンテノル Antenor がアゾルを殺害し、その罪をゼルミルに擦り付けようとして、夫であるトロイアの王子イリュス Ilus も彼女に疑いを掛けて、しかし最後にはアンテノルが殺害されてポリドルが救われる、という基本的な構図は原作のままである。役名はほとんどフランス語をイタリア語化しただけで、ゼルミルの侍女もエマ Éma である。
とはいえ、オペラの台本は原作から大きく改変されている。中でも特に重要な変更は次の2つである。

原作では、アゾルはポリドルの息子、したがってゼルミルの兄/弟である。つまり原作では、子が父の王権を奪おうと父親の殺害を目論むというかなりショッキングな(しかし歴史上では度々起きている)背景が据えられている。
未遂とはいえ父殺しの大罪を扱った台本がナポリの厳しい検閲を通るはずがないことは明らかだったので、おそらくトットラは執筆前にアゾールを、同じレスボス島の都市ミティリニの支配者に変更し、さらにゼルミーラに求婚したが断られたという設定を加えた。

もう一つの変更点は幕切れである。原作でもアンテノルが殺害されてポリドルが救われるのだが、アンテノルを殺したのはラムネス Rhamnés という人物である。ラムネスはレスボス軍の将軍で、アンテノルの支持者、協力者である。オペラにおけるレウチッポがアンテーノレの手下で率先して悪事に手を染めるのに対して、ラムネスはアンテノルの悪事に気付いていおらず、ゼルミルがポリドルを殺したと信じていた。しかし彼は、アゾルがアンテノルに殺される直前に書き残した手紙を発見し、アンテノルこそが真の悪人であることに気付き、アンテノルの命令に反して、ポリドルではなくアンテノルを殺した。
この幕切れの変更は、単にオペラ的な劇的場面を据えるためというのみならず、後述する《ゼルミーラ》の政治的仄めかしに関わっていると思われる。


さて《ゼルミーラ》の台本は初演の頃からそのこんがらがった筋が批判の的となっている。

※普請中

注 本名はピエール=ロラン・ビュイレット Pierre-Laurent Buyrette

《ゼルミーラ》の政治的仄めかし

ナポリでのロッシーニのオペラの政治的仄めかしについては依然として調査が進んでいないが、その中では《ゼルミーラ》は比較的それが明確な作品である。

この作品は、前述の通り、1820年の立憲革命がオーストリア軍によって鎮圧された直後に制作されており、それが作品に強い影響を及ぼしている。それは幕切れ辺りではっきり見て取れる。

第2幕フィナーレのカンタービレで、ゼルミーラはポリドーロにこうに歌っている。

Riedi al soglio: irata stella
se ne chiuse a te il sentiero,
pura fede, amor sincero
ti richiama al tuo splendor.
玉座に お戻りください: 怒り狂った運命の星が あなたの道を 閉ざしたけれども、
清らかな信頼が、誠実な愛が あなたに 輝きを 取り戻している。

物語の決着がついた後に、タイトルロールが 玉座に お戻りください Riedi al soglio と歌うのは、このオペラの主題を提示しているに等しい。つまり、フェルディナンド1世に おかえりなさい と言っている。立憲革命によって名目の君主にされてしまった国王に、革命が潰えた後、絶対君主にお戻りください と返り咲きを歓迎しているのだ。

さらにカバレッタでは、ゼルミーラと合唱がこう歌っている。

ゼルミーラ
E dopo il nembo,
di pace in grembo
respiri in sen
sereno il cor.
そして 黒雲の後に、平和の懐で
晴れ晴れと 心が 胸の中で 息をするように。

合唱
Ah, dopo il turbine
di ria procella,
la gioia, il giubilo
c'inondi il cor!
ああ、邪悪な嵐の 暴風雨の後で、
喜びが、歓喜が 私たちの心に 押し寄せるように!

黒雲 nembo や 邪悪な嵐の暴風雨 il turbine di ria procella は立憲革命を示している。

もう一つの重要な政治的仄めかしはイーロである。
前述の通りオペラでは、原作の幕切れを採用せず、イーロが駆けつけてポリドーロとゼルミーラを救う幕切れに変更している。つまりオペラの幕切れは作り直されたオリジナルである。
イーロはトロイアの王子で、レスボスからは異国人である。つまりポリドーロは異国人に救われて王位に返り咲いたわけである。
この幕切れは、初演当時のナポリの(そしてウィーンの)観客が見れば、国王フェルディナンドがオーストリア軍によって救われた現実を容易に思い起こさせたろう。トットラが幕切れを変更したのは、このためである。
だから、ポリドーロとゼルミーラの窮地を救った、言わば英雄がイーロであるにもかかわらず、フィナーレでイーロがほとんどほったらかしにされているのは不思議ではない。いかに命の恩人であっても、このオペラで、オーストリアを示しているイーロを幕切れで英雄として賞賛するわけにはいかないのだ。
こうして老い衰えた国王は、歓喜と称賛の中、王位に返り咲く。なぜならそれはちょっと前の現実と重ねられているからある。

実はイーロがオーストリアを表しているという役回りは、彼が登場した第一声から窺える。
イーロのカヴァティーナ Terra amica の amico は形容詞で 友好的な という意味(英語の friendly)である。paese amico で 友好国 の意味になる。
レスボスに戻ったイーロが Terra amica 友好的な地よ と呼び掛けるのは、戦地から妻子の待つ地に戻って来た夫の言葉としてはどこか奇妙に思われる。しかしイーロの役回りを理解すれば、これはオーストリアがナポリを 友好的な地 と呼び掛けているに等しいことに気付くだろう。トットラはイーロの第一声で、彼がどのような存在であるのか、布石を打っているのだろう。

あらすじ

島国レスボスはポリドーロ王が支配していた。彼の娘ゼルミーラは、レスボス島の都市ミティリニの支配者アゾールからの求婚を退け、トロイアの王子イーロと結婚した。だがイーロが祖国での戦いに出ている間に、ポリドーロを恨むアゾールが攻め込みポリドーロを殺そうとした。ゼルミーラは父親を歴代レスボス王の地下墓所に隠し、自分は父親を憎んでいたと皆に信じ込ませ、ケレスの神殿にポリドーロが逃げ込んだという噂を流す。アゾールはケレスの神殿を焼き討ちし、誰もがポリドーロはそれによって死んだと考える。
だがアゾールは、アンテノレと手下のレウチッポによって暗殺されてしまう。オペラは彼の遺体が発見された直後から始まる。

第1幕
兵士たちがアゾールが暗殺されたと混乱している。レウチッポは謀反人を捜すよう命じる。現れたアンテーノレは、暗殺者への復讐を誓う。レウチッポは、アンテーノレが後継者となるべきだと民衆に訴え、人々もそれに同意する。アンテーノレは密かに野心を燃やす。
人々は去る。実はアゾールを殺したのはアンテーノレの意を汲んだレウチッポだった。二人は、ゼルミーラをアゾール殺しの犯人に仕立てあげ、邪魔なゼルミーラと息子を葬り、アンテーノレがレスボスの玉座に就く計画なのだ。
一方ゼルミーラは、侍女のエンマからも父親殺しと疑われ、無実を証明するためエンマを王家の墓所へと連れて行く。 地下の王家の墓所。身を潜めているポリドーロはゼルミーラを待っている。ゼルミーラがエンマを引き連れて現れる。エンマはポリドーロが生きていることに驚く。父娘は束の間の喜びに浸る。地上から軍楽隊の音が聞こてくる。ゼルミーラはポリドーロにアゾールが殺されたことを知らせ、エンマと共に地上へと戻って行く。
戦いからイーロが戻る。彼は妻と息子に再会できることを喜んでいるが、しかしゼルミーラはイーロに現状を言えず、イーロからポリドーロについて尋ねられると動揺を隠せない。彼女が去ると、アンテーノレとレウチッポがイーロに、ゼルミーラがポリドーロを殺害したのだ、と疑いを植え付ける。
アンテーノレは、イーロも亡き者にするつもりである。レウチッポは、人々にゼルミーラが父殺しの犯人だと信じ込またことを報告する。噂はイーロの耳にも入り、彼は混乱している。アンテーノレはイーロに、ゼルミーラがアゾールを愛し、父を殺したと騙す。 祭司たちが、アンテーノレがレスボスの君主になるべきとの神託を伝える。
 ゼルミーラはエンマに息子を託す。二人は、これが永遠の別れになるのではないかと思い、抱き合って悲しみ合う。
 王宮の広間。人々がアンテーノレを讃えている。アンテーノレは王座から君主になることを宣言、大祭司が王冠を、レウチッポが笏を与える。一同は天に感謝を捧げ、平和を祈る。イーロは、息子が見つからず不安に駆られる。レウチッポは、イーロが一人でいるのを見つけ、短剣で殺害しようとする。間一髪、ゼルミーラが止めに入るが、レウチッポは彼女が殺害をしようとしていたかのように偽る。既にゼルミーラに不信感を抱いていたイーロはレウチッポの言うことを信用してしまう。アンテーノレはさらにアゾール殺害の嫌疑もゼルミーラにかける。混乱で幕となる。

第2幕
 獄中のゼルミーラがイーロに宛てた手紙がレウチッポの手に落ち、さらにアンテーノレに渡る。手紙には、彼女の無実と、復讐への願いが書かれていた。二人はゼルミーラを監視することにする。
 墓所の入り口。イーロは苦悩している。そこに、ポリドーロが墓所から出てくる。ポリドーロが殺されたと信じていたイーロは、彼が生きていたことに驚く。ポリドーロは、アゾールの手から守るためゼルミーラがここに自分を隠したことを説明する。イーロは妻が無実だったことを知り喜ぶ。そして、船に居るトロイの兵を挙げに海岸へと急ぐ。ポリドーロは再び墓所に隠れる。
 ゼルミーラは牢獄から開放されている。エンマが、イーロが兵を挙げて解放に来るとゼルミーラに伝える。それを聞いたアンテーノレとレウチッポは、ゼルミーラから巧みにポリドーロの居場所を聞き出し、ポリドーロを捕らえる。アンテーノレは勝ち誇り、ゼルミーラとポリドーロは束の間の希望が去ってしまったことを嘆く。
 兵士たちがアゾールの灰を持って現れ、復讐を求める。アンテーノレはゼルミーラを犯人だと指し示す。エンマと侍女たちは慈悲を請うが、ポリドーロは暴君に慈悲など請うなと怒る。ゼルミーラとポリドーロは、神の怒りがアンテーノレに落ちるだろうと怒りをぶつけるが、アンテーノレはその前にお前たちが死ぬと言い返す。ゼルミーラとポリドーロは引っ立てられる。焦るアンテーノレとレウチッポは、まずポリドーロを殺害することにする。
 エンマは海岸へと向かい、イーロに事態を報せる。途中で彼女と出会ったイーロは、ゼルミーラとポリドーロの救出に急ぐ。
 地下牢。ゼルミーラとポリドーロが嘆いている。アンテーノレとレウチッポが現れ、ゼルミーラは最後の懇願をする。そこに遠くからイーロの兵士たちの声が聞こえてくる。アンテーノレはポリドーロを剣で殺そうとするが、短剣を隠し持っていたゼルミーラに阻まれる。イーロと兵士たちが突入、父娘は助けられ、ゼルミーラは息子を抱きしめる。イーロはアンテーノレとレウチッポを捕らえる。ゼルミーラはポリドーロを王座に座らせ、一同の喜びで幕となる。

音楽

第1幕
《ゼルミーラ》には序曲がない。ロッシーニは既にナポリでは同様の試みをしていたが(《エジプトのモゼ》など)、《ゼルミーラ》では開幕早々に合唱になり、これはウィーンでもロンドンでもこれは観客を驚かせたようだ。

第1番 導入 Introduzione は、合唱を前に置いた アンテーノレのカンタービレ(緩)/カバレッタ(急)のアリア。 カンタービレ(緩) Che vidi! amici! oh eccesso! は Andante maestoso 2/4 変ロ長調。ここではアンテーノレは何も知らずにアゾール殺害に驚いているふりをしているので、音楽も重苦しい雰囲気に包まれている。テンポ・ディ・メッゾ(中間部) Allegro 4/4 ニ長調でレウチッポがアンテーノレが後継者になるよう訴え兵士たちも同調し、華やかな音楽に転じる。これを受けてカバレッタ(急) (Sorte secondami! Allegro 4/4 ニ長調 では、アンテーノレは心の中で野心を燃やし、伴奏も歌も快活に弾む。

第2番 ポリドーロのカヴァティーナ Cavatina Polidoro は単一構成のカヴァティーナ。Andante sostenuto 6/8 嬰ヘ短調。52小節の短い曲だが、身を潜めるポリドーロの哀れな状況と、娘への愛が描かれている。

第3番 三重唱 Terzettoは、急/急 の二部の間に行進曲と経過区の中間部が挟まるといった構成をしてる。Soave conforto は Allegro animato 4/4 イ長調。3人がそれぞれの感情を明かしてから三重唱に至るという定型的な作りだが、父娘の喜びの迸りとエンマの混乱が巧くまとめられた素晴らしい音楽である。突然、軍楽隊の行進曲が聞こえる。Oh qual fragor! Marziale 4/4 ハ長調。これは次の第4番 イーロのカヴァティーナの前の合唱の音楽である。続く Padre, ti lascio... addio! Allegro 4/4 ハ長調 は短く経過的。Se trova in te scampo Allegro 2/2 イ長調 は、急速な音楽が、イ長調であるにもかかわらず、切迫した空気を醸している。

第4番 合唱とイーロのカヴァティーナ Coro e Cavatina Iloは、合唱を前においた イーロの カンタービレ(緩)/カバレッタ(急)のアリア。合唱 S'intessano agli allori は Marziale 4/4 ハ長調。軍楽調の行進曲だが、歌詞はゼルミーラと再会するイーロの喜びについてである。合唱の入りからバンダ(オーケストラとは別の楽隊)が加わり、音楽が十分に温まったところで、イーロがカヴァティーナを歌い始める。この曲は、テノーレ・コントラルティーノ tenore contraltino と呼ばれる、高音に強く装飾歌唱の技術にも長けたダヴィドの力量を最大限に引き出したもので、ロッシーニのテノールのためのアリアの中でも特に至難なものの一つだろう。カンタービレ(緩) Terra amica, ove respira は Andantino 4/4 ハ長調。全体に高めの音域にふんだんに装飾歌唱が盛り込まれた華やかな音楽だが、しかしそこから死を目前にした戦地から妻子の待つ地へ帰って来たイーロの安堵と喜びが描かれている。終盤のカデンツァで既に高いニ音に達している。カバレッタ Cara! deh attendimi! は Allegretto 2/4 ハ長調。ここでは4回あるニ音のオクターヴ跳躍が超人的で、聞く者に強い高揚感を与える(優秀なロッシーニテノールでも4回とも楽譜通りに歌うことは少ない)。終盤の装飾的にハ音まで上昇する音型も含め、歌いこなせば大喝采間違いなしの難曲にして名アリアである。

第5番 ゼルミーラとイーロの二重唱は 急/緩/急の三部構成。この二重唱は第1幕の物語の転換点に当たる。急 A che quei tronchi accenti? は Allegro giusto 4/4 変ホ長調。穏やかな音楽のイーロの問いかけに対して、ゼルミーラは十六分音符の刻みの震えるような音楽で答える。緩 Ah! se caro a te son'io, は Andante 3/4 ト長調。二人が同様の旋律を交互に歌いそして並行して歌う、という定型的な作りだが、装飾的な音楽の違いから両者の心情が巧妙に描かれている。続く Dimmi... al tuo padre e noto Allegro 3/4 変ロ長調 は経過区。ここではゼルミーラが言葉に窮し、さらにエンマと侍女たちによってゼルミーラがアンテーノレに命を狙われるという知らせがもたらされ、イーロの不安が一気に高まる。急 (Che mai pensar? che dir? は Allegro 2/2 変ホ長調。音楽はいよいよ不安感を増し、二人は速いテンポで動きのある歌でそれぞれに苦しむ。イーロの高いハ音とロ音の連続による no がイーロの悲痛さを際立てている。

第6番 アンテーノレのアリア は、急/緩/急 の三部構成を下敷きにしているが、緩は合唱に当てられている。急 Mentre qual fera ingorda は Allegro vigoroso 4/4 イ長調。下はイ音、上は高いハ音まで2オクターブを超す音域で、装飾歌唱も豊富、音域は全体に中音域を用い、時に低い音も用いる、という典型的なバリテノールのための音楽。これでイーロにゼルミーラへの疑念を煽りたてる。緩 合唱 Di luce sfavillante は Andante 2/4 ハ短調/ハ長調。淡々とした弦群の刻みに乗って、アンテーノレがレスボスの王であるようにという神託が伝えられる。経過区 Vieni la fronte a cingere Allegro 3/4 イ長調 の後、急 (Ah! dopo tanti palpiti は (Allegro) 3/4 イ長調。ここではイ音より高い音も装飾歌唱も影を潜め、その上でシンコペーションを多用し音が上下にせわしなく動く歌で、アンテーノレの屈折した喜びを表している。善人を装っている時は華やかな音楽、心の中で屈折した喜びに浸っている時は捻りのある音楽、とロッシーニは描き分けている。

第7番 ゼルミーラとエンマの二重唱 Duettino [Zelmira - Emma] は、非常に美しい曲だ。Andante con moto 4/4で変わらないが、ヘ短調からヘ長調へ移ることで緩く二部からなる。ハープの分散和音に乗ってコールアングレが侘しげに奏でる伴奏。二重唱とはいえ、基本的に息子を語りかけるゼルミーラが主である。この二重唱の美しい音楽は次の世代の作曲家に強い影響を与え、手法を活用した音楽が多数作られた。例えば ドニゼッティ《愛の妙薬》の有名なネモリーノのアリア 人知れぬ涙 もその一つ。

第8番 第1幕フィナーレ Finale Primo は大規模なフィナーレ。全部で11の部分からなるが、そのうち5つの部分が冒頭の場面に費やされている。ここは王宮の広間で王冠を戴くアンテーノレを讃える合唱などで、Moderato 2/4 で ニ短調とニ長調を行き来する。歓呼に応えるアンテーノレの短い歌 Si, figli miei, di Lesbo だけ Andante 2/4 ニ長調。次の Il figlio mio... は366小節もある長い部分。Allegro agitato 2/2 ト短調。冒頭の場面の ニ短調/ニ短調 からロッシーニとしてはやや離れたト短調に移り、急速なテンポで次々と出来事が起き、ゼルミーラが窮地に陥る。旋律的な部分は中央に置かれたイーロの Numi! qual nero... くらいで、他はひたすら劇的な音楽によって物語が展開されていく。これは初演当時のイタリアオペラでは最先端だったろう。アンテーノレが現れた後、La sorpresa... lo stupore は Andante 2/4 ヘ長調。五重唱と合唱によるコンチェルタートだが、優秀な歌手たちを前提にしているのでかなり手が込んでいる。ニ長調に戻り、Alla strage ognor ti guida Allegro 4/4 ニ長調 は経過区。最後は ストレッタ Fiume, che gli argini rompe, e sorpassa, Veloce 3/4 ニ長調 がさらに Più mosso に上がって締め括られる。

第2幕

※普請中※

対訳付き音楽設計図

登場人物
ポリドーロ
Polidoro,
レスボスの王
Re di Lesbo
バス
basso

ゼルミーラ
Zelmir

ソプラノ
soprano

イーロ
Ilo,
トロイアの王子
principe di Troia
テノール
tenore

アンテーノレ
Antenore

テノール
tenore

エンマ
Emma

コントラルト
contralto

レウチッポ
Leucippo

バス
basso

エアチーデ
Eacide

テノール
tenore

大祭司
Gran Sacerdote

バス
basso


レスボスの人たち
Popolo di Lesbo

合唱
coro

ミュティレネの兵士たち
Guerrieri di Mitilene

合唱
coro

イーロの従者たち
Seguaci d'Ilo

合唱
coro

ゼルミーラの小さな息子
Un piccolo figlio di Zelmira

黙役
coro

日本語訳は極力文学的な色づけをせず、分析的な直訳にしてある。
歌詞とト書きは Helen Greenwald とKathleen Kuzmick Hansell 校訂のクリティカルエディションに従っている。

ATTO PRIMO
N. 1
[Introduzione]

Antenore
Leucippo
Coro
Allegro animato
4/4
d minor
(SCENA PRIMA)(第1場)
(Vasta pianura sul mare, e fuori le mura di Lesbo. Al lato dritto magnifico ingresso alle tombe de' Re di Lesbo, ingombro in parte da annosi cipressi, che lo circondano)(海を臨む 広い平原、そして レスボスの城壁の外。右側に レスボスの王の墓への 立派な入り口、部分的に 年老いたイトスギによって 塞がっている、それは それを 取り囲んでいる)
(La notte è vicina al suo termine. Vari gruppi di Guerrieri di Mitilene sbigottiti attraversano la scena: altri vi si aggirano nel massimo disordine; indi Leucippo, infine Antenore)(夜は その終わりに 近付いている。ミュティレネの兵士たちの 様々な集団 唖然として 舞台を 横切って: 別の者たちは そこで 歩き回っている 最大の混乱で)


CORO PARTE DEL CORO合唱 合唱の一部
Oh sciagura!ああ 惨事だ!

CORO ALTRA PARTE合唱 別の一部
Oh infausto evento!ああ 死をもたらす出来事だ!

CORO I PRIMI合唱 最初の
Dei! qual notte!神々よ! なんという夜だ!

CORO GLI ALTRI合唱 別の
Oh tradimento!ああ 裏切りだ!

CORO TUTTI合唱 全部
Tutti全員
Mi si agghiaccia in seno il cor!心が 私の胸の中で 凍る!

LEUCIPPOレウチッポ
(giungendo premuroso)(急いで 到着して)
Ciel! che avvenne?天よ! 何が 起きたのか?

CORO合唱
Accorri, o forte!駆けつけなさい、ああ 勇者よ!
Sappi... oh pena!理解しなさい… ああ 苦悩だ!

LEUCIPPOレウチッポ
E che?それで 何が?

CORO合唱
Trafitto刺し貫かれて
sulle piume... in grembo a morte寝台の上に… 死の中に
giace Azor!アゾールが 横たわっている!

LEUCIPPOレウチッポ
Che ascolto! Azor!私は 何を 聞いているのだ! アゾールが!
e qual man lo ha trucidato?それで どの手が 彼を 惨殺したのか?

CORO合唱
Ah! s'ignora...ああ! それは 知られていない【≒ 私たちは 知らない】

LEUCIPPOレウチッポ
Oh prence amato!ああ 愛する 君主よ!
tu rapito al nostro amor?君が 私たちの愛から 強奪されたのか?
Su vendetta! e che si aspetta?さあ 復讐だ! そして 何が 待たれているのか【≒ 君たちは 何を ぐずぐずしているのか】
si conosca il traditor.裏切者が 認識されるように【≒ 裏切者を 見つけよう】

CORO合唱
Sì, ti affretta alla vendetta!そうだ、復讐に 急ぎなさい!
Sia punito il traditor.裏切者は 罰せられるがいい。
Che ascolto! Azor!
この後のレウチッポの台詞で Azor は正しくは Azorre であることが分かる(つまり Azor は Azorre の語尾短縮形)。Azorre は アゾッレ、Azor は アゾール で表記する。

Ah! s'ignora...
ignorare は他動詞だが、ここでの s'ignora は自動詞の非人称の si を用いた用法、つまり 人は―、私たちは―、皆は― に近い。

Andante maestoso
2/4
B-flat major
ANTENOREアンテーノレ
(fingendo il massimo smarrimento)(最大の狼狽を 装って)
Che vidi! amici! oh eccesso!私は 何を 見たのだ! 友たちよ! ああ 【なんという】 犯行だ!
Là... il prence è spoglia esangue.あそこで… 君主は 血の気のない死体に なっている。
Il mio vigor già langue.私の活力は 既に 弱っている。
Mi opprime lo stupor.驚愕が 私に 圧迫感を与えている。
Odo le tue querele私は 君の訴えを 聞いている
spettro fremente, irato...震える亡霊よ、怒った【亡霊よ】
ma il malfattor crudele,だが 残酷な犯罪者は、
che ha il sangue tuo versato,その者は 君の血を 流した、
fra l'ombre degli abissi地獄の死霊たちの間で
dovrà seguirti or or.今すぐ 君の 後を追うことになろう。
Allegro
4/4
D major
LEUCIPPOレウチッポ
In te il suo vindice君に 彼の復讐を
ciascuno addita:各々が 示している:
di Azorre Antenoreアンテーノレが アゾッレの
sia successor.後継者であるように。

CORO合唱
Sì, regna, o principe:そうだ、君臨しなさい、ああ 王族の者よ:
al tron t'invita玉座に 君を 招いている
il voto unanime全員一致の 願いが
del nostro cor.私たちの心の。

LEUCIPPOレウチッポ
Del nostro cor私たちの心の。
Sì, regna, o principe:
ロッシーニのオペラではアンテーノレの人物設定が不明瞭だが、ド・ベロワの原作戯曲によると レスボスの王たちの血を引く王子 Prince du sang des Rois Lesbos とある。ここでは 王族の者 と訳した。

(Allegro)
4/4
D major
ANTENOREアンテーノレ
(Sorte secondami!(運命よ 私に 好意を示しなさい!
quest'alma ardita, sì,この 勇敢な魂は、そうだ、
va il prezzo a cogliere代価を 掴みに 行く
del tuo favor.)おまえの愛顧の【≒ おまえに 気に入られることで その報酬を 得ようとしている】。)

LEUCIPPOA E COROレウチッポ と 合唱
Sì, regna, o principe,そうだ、君臨しなさい、ああ 王族の者よ
nel nostro cor.私たちの心の中で。
nel nostro cor.
こちらでは del ではなく nel を用いている。

Recitativo [Dopo l'Introduzione]
Recicativo


4/4
(C major)
LEUCIPPOレウチッポ
Della tenda real la doppia soglia王家の天幕の 二重の入り口は
a veglianti custodi見守る守衛に
affidata non fu?委ねられたのではないのか?

ANTENOREアンテーノレ
L'opprime ancoraまだ 彼らに のしかかっている
narcotico liquor, che loro ad arte眠気を催させる 液体が【≒ 彼らには まだ 眠り薬が 回っている】、それを 彼らに 抜け目なく
forse apprestò l'iniqua man, che aveaおそらく 邪悪な手が 与えた、それは【= 邪悪な手は】
impugnato l'acciar.剣を 握っていた。
ここからアンテーノレとレウチッポが二人だけになるまでのレチタティーヴォは、兵士たちを前にしたお芝居である。

forse apprestò l'iniqua man, che avea
この apprestare は 与える,差し向ける

Moderato
4/4
(C major)
LEUCIPPOレウチッポ
Ma indarno speriしかし 虚しく 期待している
sottrarsi il reo dal fulmin, che il persegue犯行者は 雷から 逃れることを、それは【= 雷は】 彼を【= 犯行者は】 追う
nelle tenebre istesse, ov'ei securo闇の中でさえ、そこで【= 闇の中で】 彼は【= 犯行者は】 確実に
crede avvolger suoi falli. E v'ha misfatto,彼の罪を 包むと 信じている【≒ 犯人が 彼の罪を 確実に 覆い隠すと 確信している 闇の中でさえ 彼を 追う 雷から 逃れようとしても、無駄なことだ】。そして 重罪は あるのか、
che da profondi abissi al chiaro lumeそれを 深い地獄から 明るい光へと
non tragga ognor co' suoi prodigi il nume?神が 奇跡をもって 引き出さない【≒ そして 神が 奇跡で 地獄の底から 明るい光へと 引き出すことのない 犯罪は あるのだろうか】

ANTENOREアンテーノレ
Tutte di Lesbo, o fidi,レスボスのすべての、ああ 忠実な者たちよ、
si percorran le vie: di Argo lo sguardo道を 【視線で】 追いなさい: アルゴスの視線が
abbia ciascun: cade la notte, e forseすべての人を 捉えるように: 夜が 落ちて、そして おそらく
d'intorno qui s'aggiraこの周囲を うろつく
il colpevole ancor: a ravvisarlo再び 犯人は: 彼を 認知するために
vi sarà guida il cielo.天が 君たちの 案内人に なるだろう【≒ 犯人を 見つけるよう 天が 君たちを 導くだろう】
E v'ha misfatto, / che da profondi abissi al chiaro lume / non tragga ognor co' suoi prodigi il nume?
反語表現で遠回しな言い方になっているが、どんな犯罪も 神が 明るみにする という意味。

Allegro
4/4
(C major)
(i Guerrieri partono per vari sentieri)(兵士たちは 去る 様々な道を 通って)

LEUCIPPOレウチッポ
Siam soli.私たちは 二人だけだ。

ANTENOREアンテーノレ
(abbracciandolo)(彼と 抱擁して)
Oh amico!ああ 友よ!

LEUCIPPOレウチッポ
Brami di più? di Lesbo, e Mitilene君は さらに 望むのか? レスボスの、そして ミュティレネの
già il soglio è tuo: ne sgombra a te il sentiero玉座は 既に 君のものだ; それの【= 玉座の】道を 君に 片付けた
questa destra, che tintaこの右手が【≒ この右手が 君の 玉座への道から 邪魔なものを一掃した】、それは 染められた
è del sangue di Azor.アゾールの血で。

ANTENOREアンテーノレ
Non basta: estinta十分ではない: 【↓↓】死んで いない
de' Re di Lesbo ancoraまだ レスボスの王の
non è la prole, e di Zelmira il figlio ...子が、そして ゼルミーラの 息子が…

LEUCIPPOレウチッポ
L'empia sua madre, che la tomba schiuse邪悪な 彼の母が、その者は 墓を 開いた
al vecchio genitor, toglie ogni dritto年老いた父親に、あらゆる権利を 奪った
sul tron degli avi al germe祖先の玉座の上の 子孫から
d'un principe stranier.異国の王子の【≒ 彼の【= 息子の】 邪悪な母親は【= ゼルミーラは】 年老いた父親を【= ポリドーロを】 墓に葬り、先祖代々の玉座に関する あらゆる権利を 異国の王子【= イーロ】】の息子から 奪った。

ANTENOREアンテーノレ
Farla più rea彼女を より 邪悪にすることが
ne gioverà, Leucippo.私たちに 役立つだろう、レウチッポよ。

LEUCIPPOレウチッポ
Il mio disegno私の目論みを
penetrasti, oh Signor. Le fila ordite君は 看破した、ああ 貴君よ。糸は 【↓】既に
già son, perché si creda【↑】織られた; 信じられている
dell'eccidio di Azor Zelmira autrice.ゼルミーラは アゾールの大虐殺の 作り手【≒ 犯人】だと。

ANTENOREアンテーノレ
A te mi affido.私は 君を 信頼している。

LEUCIPPOレウチッポ
Io volo私は 飛んで行く
l'opra a compir.作業を 達成しに。

ANTENOREアンテーノレ
Va', mio sostegno. Oh quale行きなさい、私の 支える人よ。かあ
ben dovuta mercede十分に それ相応の褒美を
a te la mia riconoscenza appresta!私の感謝は 君に 準備をしている!

LEUCIPPOレウチッポ
Regna felice, e la mercede è questa.幸せに 君臨しなさい、そして それが 褒美だ。
(partono per vie opposte)(【二人は】 反対の道を通って 去る)
Allegro
4/4
(C major)
(SCENA Ⅱ)(第2場)
(Emma piena di raccapriccio fugge da Zelmira, che la trattiene)(エンマ 恐怖に満ちて ゼルミーラから 逃げる、その者は 彼女を 引き留める)

ZELMIRAゼルミーラ
Non fuggirmi...私を 避けるでない…

EMMAエンマ
Dileguati!消え去りなさい!

ZELMIRAゼルミーラ
Mi ascolta...けれども 聞きなさい…
all'amica Zelmira友人に相応しい ゼルミーラに
volgi pietoso il ciglio.哀れみ深く 眼を 向けなさい。

EMMAエンマ
Oh cor più feroああ より残忍な心だ
d'Ircana belva! Oh snaturata figlia,ヒルカニアの獣【の心】よりも!ああ 非道な娘よ、
che al furor de' nemiciその者は 敵の激情に
espose il genitor!.. poss'io mirarti父親を 晒した!… 私は 君を 見ることができるのか
senza fremito, e orror?戦慄なしに、そして 恐怖【なしに】

ZELMIRAゼルミーラ
T'inganni... io sono...君は 誤解している… 私は…

EMMAエンマ
Di barbarie inaudita前代未聞の残酷の
il primo esempio.筆頭の模範だ。

ZELMIRAゼルミーラ
Ah no... mi siegui...ああ いいえ… 私に ついて来なさい…

EMMAエンマ
E dove?それで どこに?
Forse a pascer lo sguardoことによると 視線に 糧として与えるために【≒ 目を 楽しませる ために】
sugl'insepolti avanzi埋葬していない 残り物【≒ 遺骸】
dell'autor de' tuoi giorni!君の日々【≒ 君の命】の 作り手の【≒ もしかして 君の命を作った父親の まだ埋葬されていない死体に 目を楽しませるため なのか?】

ZELMIRAゼルミーラ
Ah! meglio apprendiああ! より良く 学び取りなさい
a conoscer Zelmira.ゼルミーラを 知るために。

EMMAエンマ
E che?それでは 何が?

ZELMIRAゼルミーラ
Mi giura私に 誓いなさい
inviolabil silenzio.侵すことのできない 沈黙を。

EMMAエンマ
È il tuo misfatto君の凶行は
palese appien.すっかり 明らかだ。

ZELMIRAゼルミーラ
Sono innocente...私は 無実だ…
Moderato
4/4
(C major)
il padre...父は…
guarda... siam sole?見なさい… 私たちは 二人だけか?

EMMAエンマ
Alcun non ti ode...誰も 君を 聞いていない…

ZELMIRAゼルミーラ
Ebbeneよしそれでは
meco scendi, e vedrai私と 一緒に 下りなさい、そして 君は 理解するだろう
che ingiusta sei, che m'oltraggiasti assai.君が 正しくない ことを、君が 私を 大いに 侮辱したことを。
(Assicuratasi di non essere osservata, prende per mano Emma, si avanza verso la tomba, ne apre sollecitamente l'ingresso, e vi s'introduce con Emma, richiudendone dietro la porta)(見られていないことを 確かめて、彼女は エンマの手を 掴み、墓の方に 近付き、それの入り口を 素早く 開ける、そして そこに エンマと共に そっと入る、それの扉の後ろで 再び閉めて)
N. 2
[Cavatina Polidoro]

Polidoro
Andante sostenuto
6/8
f-sharp minor
(SCENA Ⅲ)(第3場)
(Gran sala sotterranea; robuste colonne ne sostengono la volta. Veggonsi magnifiche urne, e maestosi mausolei innalzati alle ceneri de' Sovrani di Lesbo. Vi si scende per ampia scala di bianco marmo. Alcune lampade accese, e qualche raggio di diurna luce, che penetra appena da un forame superiore, danno debol lume a questo augusto luogo sepolcrale)(地下の 大きな広間; 頑丈な円柱が それの丸天井を 支えている。立派な 【骨】壺が 見える、そして 荘厳な霊廟 レスボスの君主たちの【遺】灰のために 建てられた。そこへと 白い大理石の ゆったりした階段を 通って 下りる。いくつかの 火を点けられた灯り、そして いくつかの 昼の光の光線、それは 高い穴から かろうじて 入り込んでいる、かすかな明かりを 与えている この 厳かな 墓の場所に)
(Polidoro, immerso ne' suoi tristi pensieri, è appoggiato alla base di una colonna. Scuotesi dalla sua concentrazione, guarda sull'alto, e nel vedere già sorto il nuovo giorno, esclama)(ポリドーロは。彼の 打ち沈んだ思いに 没入して、一つの円柱の柱礎に もたれかかっている。彼は 彼の集中から びくっとして、高いところに向かって 見る、そして 既に 新しい陽が 昇ったのを 見ながら、大声で言う)

POLIDOROポリドーロ
Ah! già trascorse il dì...ああ! 既に 日は 過ぎた【≒ 太陽は 沈んだ】
altro ne sorge ancor...【そして】 それの 別のものが【≒ 新たな太陽が】 また 昇っている…
né riedi al genitorそれでも 君は 父親のところに 戻らないのか
Zelmira amata?愛するゼルミーラよ?
Se lungi dal tuo sen君の胸から 遠く離れて
deggio penar così,私は こうして 苦しまなくては ならない 【↑】のならば、
chiuda i miei lumi almenせめて 私の目を 閉じるように
la sorte irata!怒った 運命が。
Recitativo [Dopo la Cavatina Polidoro]
Allegro4/4
4/4
(C major)
(SCENA Ⅳ)
(Discendono dall'alto Zelmira, ed Emma)(高いところから 下りる ゼルミーラは、そして エンマは)
Allegro
4/4
(C major)
POLIDOROポリドーロ
Ma m'illude il desio?だが 願いがは 私を 惑わせているのか?
(lietissimo nel vedere Zelmira)(ゼルミーラを 見て とてもうれしそうに)
no... Ciel pietoso!いいや… 哀れみ深い天よ!
grazie ti rendo! ecco la figlia...私は おまえに 感謝する! ほらここに 娘が…
(nel mirare Emma)(エンマを 見て)
e quella,そして この女は、
che la segue, chi è mai?その者は 彼女に ついて来ている、いったい 誰だ?

ZELMIRAゼルミーラ
(indicando il padre ad Emma)(エンマに 父を 指し示して)
Miralo.彼を 見なさい。

EMMAエンマ
Oh stelle!ああ 星々よ!
che veggo? egli respira?私は 何を 見ているのか? 彼は 息をしているのか【≒ 彼は 生きているのか】
Oh qual sorpresa!ああ なんという 驚きだ!

ZELMIRAゼルミーラ
Ah padre mio!ああ 私の父よ!

POLIDOROポリドーロ
Zelmira!ゼルミーラよ!
(abbracciandosi)(抱き合って)
N. 3
[Terzetto]

Zelmira
Emma
Plidoro
Allegro animato
4/4
A major
POLIDOROポリドーロ
Soave conforto快い 慰めだ
di un padre dolente!苦しむ父の!
Nel giubilo assorto熱中した 歓喜の中で
più affanni non senteもはや 苦悩を 感じていない
il cor, che desìa心は、それは 切望している
sol viver con te!ただ 君と 生きることを!

ZELMIRAゼルミーラ
Le braccia mi stendi,両腕を 私に 伸ばしなさい、
mio dolce ristoro!私の いとしい 慰めよ!
Men fiero tu rendi君は より少なく させる
l'acerbo martoro,【私の】 つらい苦悩を【≒ 君は 私の苦悩を 和らげる】
che l'anima opprimeそれは 【私の】 魂を 重苦しくしている
se teco non è.それが【= 魂が】 君と一緒で ない時には。

EMMAエンマ
Da gioia, e stupore歓喜によって、そして 驚き【によって】
confusa, ed oppressa,混乱した、そして 苦しめられた、
ho l'alma perplessa,途方に暮れた魂を 私は 持っている、
non sono più in me!私は もはや 正気でない!

ZELMIRA, EMMA E POLIDOROゼルミーラ,エンマ と ポリドーロ
Oh grato momento!ああ 心地よい瞬間だ!
oh immenso contento!ああ 計り知れない 満足だ【≒ 喜びだ】
oh immenso piacer!ああ 計り知れない 喜びだ!
Dal fato non spero宿命から 私は 望まない
più bella mercé!さらに 素晴らしい 哀れみを!

POLIDOROポリドーロ
Ma di',ところで 言いなさい
(indica Emma)(エンマを 指し示す)
perché costeiどうして この女が
in questo asilo...この避難所に…

ZELMIRAゼルミーラ
Intendo.私は 分かっている。
Non paventar di lei:彼女のことを 恐れるでない:
mi è fida.彼女は 私に 忠実だ。

EMMAエンマ
(a Zelmira)(ゼルミーラに)
I dubbi miei私の疑いを
perdona...容赦しなさい…
non sono più in me!
non essere in sé 正気でない,抑制が効かない

Marziale
4/4
C major
(qui d'improvviso si ascoltano di sopra alla volta confuse grida, ed una marcia di lontano)(ここに 突然 上の方で 不明瞭な叫び声が 聞こえる、そして 遠くから 行進曲が 【聞こえる】)

ZELMIRA, EMMA E POLIDOROゼルミーラ,エンマ と ポリドーロ
Oh qual fragor!ああ なんという 大音響だ!

POLIDOROポリドーロ
Figlia... ti appressa...娘よ… 近づきなさい【≒ こっちに 来なさい】
(salendo in parte la scala)(部分的に【≒ 数段】 階段を 昇って)
ascolta!聞きなさい!

ZELMIRAゼルミーラ
Di marzial concento勇壮な 快い響きが
risuona questa volta!今度は 響いている!

EMMAエンマ
Lontane strida io sento!私は 遠くの 甲高い叫び声を 聞いている!
Allegro
4/4
C major
ZELMIRAゼルミーラ
Padre, ti lascio... addio!父よ、私は 君と 別れる… さようなら!

POLIDOROポリドーロ
Tu m'abbandoni?君は 私を 置き去りにするのか?

ZELMIRAゼルミーラ
È d'uopo【↓】知る 必要がある
saper che avvenne.何が起きているのか。

POLIDOROポリドーロ
Ah resta!ああ 残りなさい!
Tu accresci il mio timor!君は 私の不安を 増大させている!

ZELMIRA, EMMA E POLIDOROゼルミーラ,エンマ と ポリドーロ
Qual crudeltade è questa!これは なんという 残酷さだ!
ah! mi si spezza il cor!ああ 私の心は 引き裂かれる。
Allegro
2/2
A major
ZELMIRAゼルミーラ
Se trova in te scampoもし 君に【= 慈悲深い神に】 救いを 見出すならば
l'oppresso innocente,虐げられた 無実の者が、
tu salvami il padre君は 私の父を 救出しなさい
o nume clemente,ああ 慈悲深い神よ、
e pera la figliaそして 娘が 死ぬように
pel suo genitor.彼女の父のために。

EMMAエンマ
La mente è confusa!頭脳は 混乱している!
non ho più consiglio!私は もはや 熟慮を 持っていない【≒ 私は もう 動転している】
Mi opprime la immagin像が 私に 圧迫感を与えている
di un nuovo periglio...新たな危険の【≒ 新たな危険を 想像して 私は 重苦しく感じている】
Oh stelle! cessateああ 星々よ! 退きなさい
dal vostro furor!おまえたちの 激情から!

POLIDOROポリドーロ
La mente è in un vortice!頭脳は 渦巻の中にある!
non ho più consiglio!私は もはや 熟慮を 持っていない【≒ 私は もう 思慮に 欠けている】
Mi opprime la immagine像が 私に 圧迫感を与えている
d'un nuovo periglio...新たな危険の【≒ 新たな危険を 想像して 私は 重苦しく感じている】
Oh stelle! cessateああ 星々よ! 退きなさい
dal vostro furor!おまえたちの 激情から!
Recitativo[Dopo il Terzetto]
Moderato
4/4
(C major)
(pausa: i tre attori rinnovano la loro attenzione)(休止【≒ 一瞬 動きが止まる】: 3人の役者は 彼らの注意を 新しくする【≒ 3人の登場人物は 再び 注意する】)
Recitativo


4/4
(C major)
ZELMIRAゼルミーラ
Cessa il clamor.大音響が 止んでいる。

EMMAエンマ
Tutto è silenzio.すべては 静寂だ。

POLIDOROポリドーロ
Ah forseああ、ことによると
l'usurpatore Azor di compre evviva簒奪者アゾールが 万歳を求めることを
fra bellico fragor pascea l'orgoglio.戦争に関する 大音響の中で 自尊心に 糧として与えたのだ


ZELMIRAゼルミーラ
Ah! non tel dissi: estintoああ!私は 君に そのことを 言わなかった: 死んだ
da ignota man fu l'oppressore indegno,未知の手によって 恥ずべき 圧政者は、
che a te rapì lo scettro, a me la pace.その者は 君から 奪った 笏を【≒ 王位を】、私から 平和を。

POLIDOROポリドーロ
Quando?いつなのか?

ZELMIRAゼルミーラ
La scorsa notte, e mentre al sonno昨夜だ、そして 彼が 眠りに
chiuse le luci avea.目を 閉じていた 【↑】間に。

POLIDOROポリドーロ
De' torti miei私の過ちに
è alfin vindice il ciel! oh se opportunoついに 天が 復讐した! ああ もし ちょうどいい時に
Ilo giungesse a queste spiagge!イーロが この海岸に 着く 【↑】ならば!

ZELMIRAゼルミーラ
E qualeそれでは どのような 【↓↓】防御を
dal suo valor potresti彼の勇気から 君は
sperar difesa? immensa gente invade期待 【↑】できたのか? 計り知れない人々が 侵攻している
l'oppressa Lesbo, e vittima egli stesso虐げられた レスボスを、そして 彼自身も 犠牲者だ
della perfidia ostil ...敵意のある 不実な行為の…

POLIDOROポリドーロ
Taci... felice黙りなさい… 幸せに
tragga altrove i suoi dì!彼が 過ごしているように 別なところで 彼の日々を【≒ 彼が 他の地で 幸せに 過ごしていてほしいものだ】
tragga altrove i suoi dì!
この trarre は (時間を)過ごす。

Allegro
4/4
(C major)
ZELMIRAゼルミーラ
Ma il tempo vola...しかし 時が 早く過ぎている…
deggio lasciarti.私は 君と 別れなくては ならない

POLIDOROポリドーロ
Ah no...ああ だめだ…

ZELMIRAゼルミーラ
Dover di figlia【↓】もし 娘の義務が
se ingegnosa mi rese私を 抜け目なく させる ならば
la tua vita a salvar, materno affetto君の命を 助けるために、母親の愛情が
sollecita mi rende私を 熱心に させる
dalle insidie nemiche敵の 罠から
il figlio a preservar.息子を 守るために。

POLIDOROポリドーロ
Pensa, che il solo考えなさい、唯一の
alimento, che nudre糧は、それは 養う
le forze mie spiranti息絶えつつある 私の力を
è il vederti frequente.【糧は】 君に たびたび 会うことだ。

ZELMIRAゼルミーラ
Ah da te lungiああ 君から 遠く離れて【いても】
al par del tuo penoso è il viver mio.私の人生は 君のもの【= 君の人生】と 同じくらい 苦しい。
Mi rivedrai.君は 私と 再会するだろう。

EMMAエンマ
Serba i tuoi giorni.君の日々を 取っておきなさい【≒ 君の命を 守りなさい】

ZELMIRA, EMMA E POLIDOROゼルミーラ,エンマ と ポリドーロ
Addio!さようなら!

(Zelmira, ed Emma vanno per la stessa scala)(ゼルミーラは、そして エンマは 同じ階段に向かって 行く)
N. 4
Coro e Cavatina Ilo

Oreste

Pilade
Marziale
4/4
C major
(SCENA Ⅴ)(第5場)
(Piazza. Tempio di Giove da un lato)(広場。方側に ジョーヴェ【= ユピテル,ジュピター】の神殿)
(Al suono di marcia festiva, e preceduto da' suoi Guerrieri, giunge il principe Ilo. Eacide lo siegue)(楽し気な行進曲の響きに、そして 彼の兵士たちによって 先行されて、王子イーロが 到着する。エアチーデが 彼の 後に続く)

CORO合唱
(Coro di Guerrieri)(兵士たちの合唱)
S'intessano agli alloriゲッケイジュに 編まれるように
i mirti di Cupido,クーピド【= キューピッド,恋愛の神】の ギンバイカが【= 月桂冠に クーピドの愛の花が 編み込まれるように】
e da per tutto il gridoそして あらゆるところで
echeggi del piacer!喜びの 【↑】叫び声が こだまするように!
Dopo i marziali orrori戦争の恐怖の後に
Imen fra le sue tedeイメーン【= ヒューメン,婚礼の神】が 彼の 結婚の松明 たいまつ の間で
oh quanti a te concedeああ 君に 与えることか なんと多くの
istanti di goder!心からの喜びの 瞬間を!
Andantino
4/4
C major
ILOイーロ
Terra amica, ove respira友好的な 地よ、そこでは 息をしている
la consorte, il figlio amato,配偶者が、最愛の息子が、
qual contento in sen m'ispiraなんという 満足を【≒ 喜びを】 私の胸に 吹き込んでいる ことか
quell'aspetto lusinghier!その 喜ばしい 様子が!
Là fra l'armi, e mentre intornoそこでは 武器の間で、そして 周囲で
si aggirava a me il periglio,私に 危険が 繰り返される 【↑】間に、
riveder la sposa, il figlio妻に 再会することは、息子に 【再会することは】
era il dolce mio pensier!私の 甘い思いだった!

CORO合唱
Rivedrai la sposa, il figlio,君は 妻に 再会するだろう、息子に 【再会するだろう】
sarà pago il tuo voler.君の意思は 満足するだろう。
Terra amica, ove respira
この amica は英語の friendly に当たり、友好的な の意味。ここにはこの作品におけるイーロの存在の意味が反映されていると思われる。 ⇒ 《ゼルミーラ》における政治的仄めかし。

quell'aspetto lusinghier!
この quello は Terra amica を受けていると理解した。

Allegretto
2/4
C major
ILOイーロ
Cara! deh attendimi!いとしい女よ! お願いだから 私を 待っていなさい!
Nel tuo bel seno君の 美しい胸に
volar saprò.私は 飛んで行くことが できるだろう。
Felici l'aure,幸福な 微風よ、
che per te spirano!それは 君に向かって 吹いている!
felici i zefiri,幸福な 西風よ、
che a te s'appressano!それは 君に 近づいている!
E avventuratoそして 運がよいと
dirmi potrò私は 私に 言うことが できるだろう【≒ 私は 運がよかったと 実感できるだろう】
quando al mio lato私の傍で
ti rivedrò.私が 君と 再会するであろう 【↑】時には。
La bianca mano 【↓】君の 白い手に
ti bacerò,私は キスしよう、
da te lontano君から 遠く離れては
più non sarò...私は もう いないだろう…
Oh inesprimibile,ああ 言い表せない、
dolce contento!甘い 満足よ【≒ 喜びよ】
Di te il mio petto私の胸は 君に
s'inebriò!陶酔するだろう!

CORO合唱
Gli Dei proteggano神々が 庇護するように
sì bell'ardore:これほどに 素晴らしい 激しい情熱を:
lo serbi Amore,愛の神が 彼を 取っておくように【≒ 守るように】
che lo destò.その者は 彼を 目覚めさせた。
Recitativo [Dopo la Cavatina Ilo]
Recitativo

4/4
(C major)
EACIDEエアチーデ
Godi, o signor: che più a bramar ti resta?心から喜びなさい、ああ 貴君よ:切望するための 何が さらに 君に 残っているのか【≒ さらに 何を 望むことが あるというのか】
Del tuo brando al balen qual polve al vento君の剣の 閃光に 風に吹かれた 塵 ちり のように
si dileguò l'oste orgogliosa, e pace,高慢な敵は 消え去った、そして 平和を、
prezzo della vittoria,勝利の代価【≒ 報酬】である、
alla patria rendesti: or fausto il Nume君は 祖国に 戻した: 今こそ 神は 好意的に
alle famose gesta名高い 武勲に
del tuo valor bella mercede appresta.君の勇敢さの【武勲に】 素晴らしい褒美を 差し伸べている。

ILOイーロ
Sien grazie ai Numi! un avvenir beato神々に 感謝するように! 最高に幸せな 未来を
gustar potrò di cari oggetti allato,私は 味わうことが【≒ 楽しむことが】 できるだろう いとしい対象たちの 傍で、
ma il fervido desio così mi accende,けれども 燃え立った 熱情が これほどに 私を 燃やしているので、
che penoso ogni indugio al cor mi rende.あらゆる遅滞が 私の心に 苦しくさせる。
alla patria rendesti: or fausto il Nume
この fausto は (神が)好意的な。副詞的に採った。

del tuo valor bella mercede appresta.
この apprestare は 与える,差し伸べる。

[Moderato]
4/4
(C major)
Zelmira a che non vien?ゼルミーラは どうして 来ないのか?

EACIDEエアチーデ
Non giunse ancoraまだ 届いていなかった
forse del tuo ritornoおそらく 君の帰りの
la novella alla reggia.知らせが 王宮に。

ILOイーロ
Ite, o miei fidi,行きなさい、ああ 私の 忠実な者たちよ、
voi l'affrettate: a Polidoro, il degno君たちは そのことを【= コロン 以下のことを】 急いでしなさい:ポリドーロに、
genitor di Zelmira,ゼルミーラの 【↑】立派な父である、
che pacifico regnaその者は 平穏に 君臨する
ne' cadenti suoi dì, dite, che il figlio沈み行く 彼の日々に【≒ 彼の 衰退しつつある日々に】【ポリドーロに】言いなさい、義息子が
rispettoso al suo piede,恭しく 彼の足元に
per mai più abbandonarlo, alfin sen riede.二度と 彼を 見捨てることのないように、ついに 戻って来た と。

EACIDEエアチーデ
Volo a' tuoi cenni.私は 君の指示に 飛んで行く。
(parte verso la reggia con alcuni de' Guerrieri)(王宮の方に 去る 何人かの兵士たちと共に)
Allegro
4/4
(C major)
ILOイーロ
Sulle Frigie naviフリュギアの船々の上に
rieda ciascuno, e il mio volere attenda.各人が 戻るように、そして 私の意志を 待つように。

(partono altri verso il lido. Restano altre Guardie)(他の者たちは 海岸の方に 去る。他の 衛兵たちは 残る)

Ma... non m'inganno! è quellaところで… 私は 思い違いをしていない! あの女は
la sposa mia?.. sì... tu mel dici o core私の妻では ないか?… そうだ… おまえは【= 心は】 私に そのことを 言っている ああ 心よ
co' palpiti frequenti! ah vieni... ah vola頻繁な心拍で【≒ ああ 心よ おまえは 激しく 鼓動を打って 私に 彼女が 私の妻であることを 告げている】! ああ 来なさい… ああ 飛んで来なさい
a questo sen, bella Zelmira!この胸に、美しいゼルミーラよ!
(Incontrandola con trasporto)(熱狂をもって 彼女と 出会って)(Incontrandola con trasporto)


(SCENA Ⅵ)(第6場)

(Zelmira, e detto, indi Emma, e Donzelle)(ゼルミーラ、そして 前の場の人たち、それから エンマ、そして 侍女たち)

ZELMIRAゼルミーラ
(Oh cielo!(ああ 天よ!
Egli è fra' suoi... svelargli ah non poss'io彼が 彼の者たち【= 彼の従者たち】の間に…ああ 私は 彼に 打ち明けることは できない
le funeste vicende.)不幸に襲われた できごとを。)

ILOイーロ
Ecco le braccia...ここに 【私の】 両腕が…
Quanto vi desiai care ritorte!なんと 私は おまえたちを【= 枝帯を ≒ 絆を】 切望していたことか いとしい 枝帯よ【≒ 絆よ】

ZELMIRAゼルミーラ
Sposo... (che pena!)夫よ…(なんという 苦しみだ!)
io ti riveggo!.. (oh morte!)私は 君に 再会している!… (ああ 死だ!)

ILOイーロ
Ma qual gelida man?ところで どのような 氷のように冷たい 手は【≒ どうして こんなに 手が 冷たいのか】
Allegro
4/4
(C major)
qual nube ingombraどのような 雲が 妨げているのか
il seren de' tuoi rai?君の目の 輝きを?

ZELMIRAゼルミーラ
Dolce sorpresa...甘美な 驚きが…
inaspettata gioia予期しない 喜びが
smarrì miei sensi...私の感覚を 当惑させている…

ILOイーロ
E a che t'infingi? io veggoそれで どうして 君は 装っているのか? 私は 見ている
del dolor, che ti opprime,苦しみの、それは 君に 圧迫感を与えている、
le tracce su quel volto...【苦しみの】印を その顔の上に…

ZELMIRAゼルミーラ
E da te lungiそれで 君から 遠く離れて
come gioir potea?どのように 喜ぶことが できたのか?

ILOイーロ
Dunque al contentoそれでは 満足に【≒ 喜びに】
ritorna o cara or che ti sono allato.戻りなさい ああ いとしい人よ 私が 君の 傍にいる 今では。

ZELMIRAゼルミーラ
Vorrei... nol posso...私は したいのだが… 私は それを できない…
ah! mel contrasta il fato!ああ! 宿命が 私に 反対している!
N. 5
[Duetto Zelmira - Ilo]

Zelmira
Ilo
Allegro giusto
4/4
E-flat major
ILOイーロ
A che quei tronchi accenti?どうして その 途切れた 口調は【≒ どうして 言葉を 詰まらせているのか】
Dei! e quel pallor perché?神々よ! そして なぜ その 蒼白が【≒ そして どうして 顔が 青白いのか】

ZELMIRAゼルミーラ
(Reggere a' miei tormenti(私の苦悩に 耐えることは
possibile non è!)不可能だ!)v

ILOイーロ
Di te forse non degnoことによると 君に 相応しくないのか
riede il tuo sposo?君の夫は 【その者は】 戻ってきている?

ZELMIRAゼルミーラ
Oimè!ああ!
Deh! non ti muova a sdegnoお願いだから! 怒りに 君の 心を動かさないように
il mio tacer...私の沈黙が【≒ 私の沈黙で 君が 怒ることの ないように】

ILOイーロ
Ma che?いったい 何が?
L'affetto hai spento a segno,君は 情愛を 消したのか、
ch'io ti son grave?私が 君にとって 耐え難くある 【↑】までに?

ZELMIRAゼルミーラ
Ah no...ああ いいや…
Più che ti amai t'adoro...私が 君を 愛していた よりも さらに 私は 君を 熱愛している…
Lungi da' suoi bei lumi彼の【= イーロの】 美しい目から 遠く離れて
deh voi lo dite o numi,お願いだから 君たちは そのことを 言いなさい ああ 神々よ、
se l'alma mia penò!私の魂が やつれた かどうかを!

ILOイーロ
E a che sospiri? il figlio...それで どうして 君は 溜め息をついているのか? 息子が…
forse perì?ことによると 死んだのか?

ZELMIRAゼルミーラ
No, il cielo,いいや、天は、
a' prieghi miei clemente,私の祈りに 情け深く、
ancor quell'innocenteいまだに あの幼子を
al genitor serbò.親に 取っておいた。
L'affetto hai spento a segno, / ch'io ti son grave?
a tal segno che節 ―するほどまでに… の tal が省略されている。

Andante
3/4
G major
ILOイーロ
Ah! se caro a te son'io,ああ! もし 私が 君にとって いとしい のならば、
se respira il figlio ancora,もし 息子が いまだに 息をしているならば、
ecco sorta alfin l'auroraここに ようやく 夜明けの光が 外に出るように
della mia felicità!私の幸福の【≒ ようやく 私の幸せに 夜明けの光が 差すように】

ZELMIRAゼルミーラ
(Quanto costa al labbro mio(私の唇に どれだけ 【苦労を】要するのだ
trarlo ormai dal dolce inganno!今となって 甘い誤りを 彼に 悟らせることは!
La sua gioia in quale affanno彼の喜びは なんという苦悩に
giusto ciel! si cangierà!)公正な天よ! 変わるであろう ことか!
trarlo ormai dal dolce inganno!
trarre qulcu. dall'inganno 人に誤りを悟らせる,人の迷いを覚ます

Allegro
3/4
B-flat major
ILOイーロ
Dimmi... al tuo padre è noto私に言いなさい… 君の父に 知られているのか
il mio ritorno?私の帰還は?

ZELMIRAゼルミーラ
(Oh istante!)(ああ 【何という】 瞬間だ!)

ILOイーロ
Sieguimi... alle sue piante私に ついて来なさい… 彼の 足の裏に【≒ 彼の 足元へと】
guidami pur...どうか 私を 案内しなさい…

ZELMIRAゼルミーラ
T'arresta!止まりなさい!
(fremendo)(震えて)
Non sai...君は 知らないのだ…

ILOイーロ
Tu fremi?君は 震えているのか?

ZELMIRAゼルミーラ
Oh cielo!ああ 天よ!

ILOイーロ
Tu piangi?君は 泣いているのか?

ZELMIRAゼルミーラ
Un denso velo濃いヴェールが
già va offuscando il ciglio...既に 眼を 曇らせている…

CORO DI DONNE侍女たちの合唱
(Donzelle premurose)(侍女たち 急いで)
Zelmira! oh qual periglioゼルミーラよ! ああ なんという危険が
a te sovrasta!君に 差し迫っていることか!

EMMAエンマ
Ahi misera!ああ 哀れな女よ!
tu sei perduta...君は 破滅する…

CORO DI DONNE侍女たちの合唱
Antenoreアンテーノレが
insidia la tua vita...君の命に 危害を与えようとしている【≒ 君の命を 狙っている】

EMMA E CORO DI DONNEエンマ と 侍女たちの合唱
E in te l'ignota mano,そして 君に 未知の手は、
che uccise Azor, si addita...それは アゾールを 殺した、指し示されている【≒ アンテーノレは アゾールを殺した 何者かの手は 君の手だと 指摘している】
Dal stuol feroce, insano残忍な一団から、正気でない 【一団から】
salvati per pietà!逃れなさい 後生だから!

ZELMIRAゼルミーラ
Oh nuovo eccesso!ああ 新たな 犯行が!

ILOイーロ
(a Zelmira)(ゼルミーラに)
Ah! spiegati...ああ! うまく説明しなさい…
Che deggio udir?私は 何を 聞かなくては ならないのか?

ZELMIRAゼルミーラ
(in uno slancio)(衝動で)
Deh fuggimi!お願いだから 私から 逃れなさい!
Torna alla patria, e lasciami祖国に 戻りなさい、そして 私を 置いておきなさい
al fato inesorabil,非常な宿命に、
che mi persegue ognor!それは 常に 私を 追っている【≒ そして 私を 常に 私を 追いかけて来る 非情な運命の中に 置き去りにしなさい】

ZELMIRA, EMMA, ILO E CORO DI DONNEゼルミーラ,エンマ,イーロ と 侍女たちの合唱
Ahi!ああ!
Allegro
2/2
E-flat major
ILOイーロ
(Che mai pensar? che dir?(いったい 何を 考える【べきな】のか? 何を 言う【べきな】のか
Tutto è incertezza, orrore!すべては 不確かさだ、恐ろしい!
Più barbaro martireさらに 残酷な 苦しみを
no, non provai finor!)いいや、私は これまで 感じなかった!)

ZELMIRAゼルミーラ
(Come parlar? che dir?(どうやって 話す【べきな】のか? 何を 言う【べきな】のか?
Tacer deggio ancor?さらに 私は 黙っている べきなのか?
Ahi! non si può soffrireああ! 私は 耐えることが できない
sì barbaro dolor!)これほどに 残酷な 苦しみを!)

EMMA E CORO DI DONNEエンマ と 侍女たち時の合唱
Sorte spietata! ah cessa無慈悲な運命よ! ああ 止めなさい
dal fiero tuo rigor!おまえの 残忍な 手厳しさを!
ché alla barbarie istessa蛮行に ですら
è strano un tal furor.そのような怒りは なじめない 【↑】からだ。

(partono per vie opposte)(【彼らは】 退場する 反対の道を 通って)
Sorte spietata! ah cessa / dal fiero tuo rigor!
cessare 止める は da + 名詞 で ―を 止める の意味で用いられる。desistere da - と同義。

Recitativo [Dopo il Duetto]
[Andante]
4/4
C major
(SCENA Ⅶ)(第7場)
(Antenore, indi Leucippo, poi Ilo di nuovo, infine Sacerdoti dal tempio)(アンテーノレ、それから レウチッポ、その後に 再び イーロ、最後に 寺院の祭司たち

ANTENOREアンテーノレ
T'intendo, istabil Diva, il crin, che m'offri,私は 君【の言葉】を 聞いている、気紛れな 【幸運の】女神よ、【君の】頭髪を、それを 君は 私に 提供している、
audace io stringerò. Di Lesbo al lido勇敢に 私は 握り締めよう【≒ 私は 君が 私に 差し出している 前髪を 勇敢に 掴もう】。 レスボスの海岸に
giunse l'iliaco Prence, e fra brev'oraイリオンの王子が 到着した、そして 短い時間の間に【≒ 間もなく】
al trucidato Azor, al rege estinto惨殺された アゾールと、死んだ王と
avrà pari il destino. Insidia, ed arte,同様な運命を 彼は 受取るだろう。 策謀が、そして 狡猾が
onde assopirlo, e quindiそれによって 彼を 鎮める、そして それから
sorprenderlo all'agguato,奇襲で 彼を 不意打ちにする、
mancar non mi saprà.私には 欠くことが できないだろう【≒ 彼を 油断させておいて、それから 彼を 不意打ちする という 策謀と 狡猾が 私に 欠かせないだろう】
T'intendo, istabil Diva, il crin, che m'offri,
istabile = instabile 不安定な,変わりやすい,気紛れな。この文は afferrare la fortuna per i capellil 幸運の女神の髪の毛を掴む という慣用句に基づいている。幸運の女神 Fortuna は来る時に前髪を掴まないと逃してしまう、という意味。

Allegro
4/4
(C major)
LEUCIPPOレウチッポ
Tutto risponde皆が 応えている
a' tuoi voti, o signor: da me sedotto君の願いに、ああ 貴君よ: 私によって 唆された
di Lesbo e Mitileneレスボスと ミュティレネの
il volgo, ed il guerrier, crede in Zelmira庶民は、そして 兵士たちは、信じている ゼルミーラに
l'omicida di Azor.アゾールの殺害者を【≒ レスボスと ミュティレネの 人々は、そして兵士たちも、ゼルミーラが アゾールを殺した犯人だと 信じている】

ANTENOREアンテーノレ
Novello inciampoもう一つの障害である
a' miei disegni Ilo qui venne: al figlio私の企みにとって イーロが ここに 来た: 息子に対して
il diadema degli avi先祖の王権は
sempre intento a serbar l'armi di Troia常に トロイアの軍隊を 取って置くことに 専念している
può muovere a mio danno. 私の負担で 動かすことが できる。

LEUCIPPOレウチッポ
Ebben col figlioそれでは 息子ともども
cada egli stesso.彼自身も 死ぬがいい。

ANTENOREアンテーノレ
Oh mio verace amico!ああ 私の 真の友よ!
Da sì grave periglioこれほどの重大な危険から
basta a trarmi il tuo braccio, il tuo consiglio.君の腕が 私を 救い出す だけで十分だ。

ILOイーロ
(fremendo)(震えて)
Quai delitti! che intesi! oh Polidoro!なんという犯罪だ! 私は 何を 聞いたのだ! ああ ポリドーロよ!
oh Lesbo sventurata!ああ 不幸な レスボスよ!

LEUCIPPOレウチッポ
(Eccolo!)(ほら ここに 彼が!)

ANTENOREアンテーノレ
(Ei freme!(彼は 震えている!
Secondami.)私の 手助けをしなさい。)

ILOイーロ
Si fugga逃れよう
da una tigre, che tinta雌トラから、それは 染められて
è del sangue paterno... oh infausto lido,いる 父親の血で… ああ 不幸もたらす海岸だ、
dove natura è conculcata, oppressa!そこでは 万物が 踏みにじられている、圧迫されている!
Moderato
4/4
(C major)
ANTENOREアンテーノレ
Ilo!イーロよ!

LEUCIPPOレウチッポ
Signor!貴君よ!

ANTENOREアンテーノレ
Sei tu? qual reo destino君なのか? なんという 邪な運命が
ti trasse in Lesbo?君を レスボスに 引き寄せたのか?

LEUCIPPOレウチッポ
Alla crudel consorte,残酷な 配偶者に、
avida di tua morte,【その者は】 君の死を 渇望している、
vieni tu stesso ad immolarti?君自らが 君を 犠牲に供しに 来ているのか?

ILOイーロ
Antenore!アンテーノレ!
Dell'oppressor di Lesboレスボスの圧政者の
empio seguace! ah! nel mirarti io fremo!邪悪な家来め! ああ! 君を 見ると 私は 震える!

ANTENOREアンテーノレ
Qual fallo è il mio? della spergiura sposaどのような罪が 私のもの【= 私の罪】なのか? 偽りの誓いをした 妻の
la barbarie ne incolpa. Occulto affettoせいにしなさい それについての 蛮行は【≒ 罪が引き起こした蛮行為は 信用ならぬ妻のせいにしなさい】。秘められた情愛が
ad Azor la stringea. Movesti appenaアゾールへの 彼女を 縛った【≒ 彼女は アゾールへの 密かな愛に 縛られた】。君が 【↓】足を 動かした すぐに
da Lesbo il piè, che l'empia a queste spiaggeレスボスから、邪悪な女は この海岸に
le armi affrettò del tuo rivale, e poi君の恋敵の軍隊を 急がせた、そして その後に
al suo furente, ed impudico ardore彼女の 激怒した、そして みだらな熱情に
Patria immolò, consorte, e genitore.犠牲にささげた 祖国を、配偶者を、そして 父親を。

ILOイーロ
Ah! più non reggo! anima infida! e puoiああ! 私は もう 耐え【られ】ない! 信用の置けない魂め! そうやって 君は
tanto infingerti meco?私に対して それほど 装うことが 【↑】できるのか?
esagerarmi l'amoroso affanno?私に 愛の苦悩を 誇張することが 【できるのか】

ANTENOREアンテーノレ
Arma usata è per lei scaltrito inganno.彼女にとって いつもの魂は 抜け目ない欺瞞だ。
N. 6
[Aria Antenore]

Antenore


Coro
Allegro vigoroso
4/4
A major
ANTENOREアンテーノレ
Mentre qual fera ingorda大食いの【≒ 飢えた】野獣のように
arma a ferir l'artiglio,彼女は 傷を負わせるために かぎ爪を 武装させる 【↑】のに、
nei labbri suoi, nel ciglio彼女の 両唇の中では、眼の中では
par che sorrida Amor.愛の神が 微笑んでいる ように見える。
Intrepida, e sicura大胆不敵に、そして確実に
fede, costanza giura,彼女は 信頼を、意志の強固を 誓う、
ma di costanza, e fedeしかし 意志の強固の、そして 信頼【の】
le leggi frange ognor.法を 彼女は 常に 壊している【≒ しかし 彼女は 信頼と誠実の掟 おきて を いつでも 破ってしまう】
Di triste ritorte,悲しい 枝帯【≒ 邪悪な束縛】で、
o Prence infelice!ああ 不幸な王子よ!
la barbara sorte残酷な運命が
avvinse per te!君に 巻き付いている!

ILOイーロ
Oh barbara sorte!ああ 残酷な運命だ!
Mio core infelice!私の 不幸な心よ!
Oh iniqua consorte!ああ 邪悪な 配偶者だ!
tradirmi, e perché?私を 裏切る、だが どうして?

(Dal tempio a passo grave si avanzano i Sacerdoti)(神殿から 重々しい足取りで 祭司たちが 近付く)

ANTENOREアンテーノレ
Ma i sacri ministriところで 聖なる使者たちは
che chiedon da me?私から 何を 求めるのか?
avvinse per te!
avvincere は他動詞だが、ここでは自動詞として用いられている。

Andante
2/4
c minor
([I Sacerdoti,] giunti ad Antenore, lo circondano, e parlano in tuono fatidico e misterioso)([祭司たち、] アンテーノレのところに 来て、彼を 取り囲んで、そして 話す 運命を予言する 口調で そし神秘的な 【口調で】)

CORO合唱
Di luce sfavillante光り輝く 光の
un raggio balenò.光線が ひらめいた。
La voce del Tonanteトナンテ【= ジョーヴェ,ユピテル】の声が
nel tempio risuonò.神殿の中で 響いた。
«Antenore di Lesbo「アンテーノレが レスボスの
sia difensor, sostegno:防衛者で あるように、支える人で 【あるように】
è a lui dovuto un regno,王国は 彼に【= アンテーノレに】 負っている、
che tanto meritò,その者は 大いに 勲功を立てた、
La voce del Tonante
形容詞 tonante は (声が)雷のような という意味。定冠詞付きで名詞化された il Tonante は、雷のような大きな声を轟かすゼウス ≒ ジョーヴェ,ユピテルの代称。

che tanto meritò.》
この che はアンテーノレを受ける関係代名詞と理解した。

(Andante)
2/4
C major
ILOイーロ
(Oh smania atroce!)(ああ 耐えがたい 動揺だ!)
(parte)(去る)

ANTENOREアンテーノレ
(Oh giubilo!)(ああ 歓喜だ!)

CORO合唱
è a lui dovuto un regno,王国は 彼に【= アンテーノレに】 負っている、
che tanto meritò.»その者は 大いに 勲功を立てた。」
Allegro
3/4
A major
LEUCIPPOレウチッポ
Vieni la fronte a cingere来なさい 額【≒ 頭】を 取り巻くために
del Real serto...王の王冠で…

LEUCIPPO E COROレウチッポ と 合唱
Vieni来なさい
a donar ai popoli la pace.国民に 平和を 与えに
Lesbo dolente, e misera苦しむ レスボスが、そして 哀れな 【レスボスが】
sciolga da' lacci il piè.罠から 足を 解放するように。
(Allegro)
3/4
A major
ANTENOREアンテーノレ
(Ah! dopo tanti palpiti(ああ! たくさんの 心臓拍動の 後で
contenta è alfin quest'anima!ついに この魂は 満足している【≒ 喜んでいる】
No che non posso esprimere私は 口に出すことは できない
qual gioia io sento in me!)どのような喜びを 私が 私の中に 感じているか を!

CORO合唱
Di guerra il grido infausto不幸をもたらす 戦争の叫び声は
dovrà cessar per te.君によって 止まるに 違いないだろう。

(Antenore, e Leucippo partono tra' Sacerdoti)(アンテーノレと レウチッポは 去る 祭司たちの中で【≒ 祭司たちに 囲まれて】)
No che non posso esprimere
No che non - ! は 否定のche節の強調。

Recitativo [Dopo l'Aria Antenore]
Andante con moto
4/4
(C major)
(SCENA Ⅷ)(第8場)

(Zelmira, ed Emma)(ゼルミーラ、そして エンマ)
Recitativo


4/4
(C major)
ZELMIRAゼルミーラ
Emma fedel, dal tuo bel core io chieggo忠実なエンマよ、君の 美しい心から 私は 求めている
di tenera amistà la prova estrema.優しい友情の 極度の証 あかし を。

EMMAエンマ
Del sangue mio fa d'uopo?私の血が 必要なのか?
Fino all'ultima stilla最後の滴 しずく まで
versalo pur.どうぞ それを 流しなさい。

ZELMIRAゼルミーラ
Finché lo sposo io possa私が 夫に
disingannar, del padre mio la sorte誤りを気付かせることが 【↑】できる 【↑】までは、私の父の運命を
palesargli, fuggir da questo lido,彼に 明かす【ことが できる までは】、この海岸から 逃亡する【ことが できる までは】
in ermo asilo, ove gli ostili aguati人里離れた 避難所に、そこでは 敵の奇襲は
fian vani a danno suo, serbami il figlio.彼の【= 息子の】打撃には 無益だろう、息子を 取って置きなさい【≒ 息子を 守りなさい】

EMMAエンマ
Sì, d'Antenore, il fiero,はい、アンテーノレの、残忍さを
per te, per lui paventa: il tuo candore君に対しての、彼に対しての【≒ 息子に対しての】 恐れなさい:
osa macchiar nell'incolparti l'empio邪悪な男は 君に 罪を着せることで あえて 汚そうとしている
della morte di Azor.アゾールの死の

ZELMIRAゼルミーラ
Che rea non sono私が 犯行者の女でないことは
se noto è al cielo, dal divin braccio io spero,天には 知られている、私は 神の腕から 期待している、
e soccorso, e difesa: il figlio intanto助けも、保護も: 今のところは 【↓】私の 息子の
salvami per pietà!命を助けなさい 後生だから!

EMMAエンマ
L'usurpator,簒奪者は、
avido di regnar, sull'innocente,君臨することを 切望している、幼子の上に
che del trono di Lesboその者は レスボスの玉座の
può intralciargli il sentier, l'armata destra彼の【= 簒奪者の = アンテーノレの】 道を 邪魔することができる、武装した右手を
scagliar saprà.投げつける 術 すべ を 知っているだろう【≒ 王位に就きたい 簒奪者は レスボスの玉座へと向かうその道を 邪魔することができる 幼子に 武器を持った手を 上げることも 考えているだろう】

ZELMIRAゼルミーラ
Taci! l'ascondi; è a lui黙りなさい! 彼を 隠しなさい: 彼には
periglioso ogni istante... oh pene atroci!あらゆる瞬間が 危険だ… ああ 耐え難い 苦痛だ!
Il vincolo più sacro, e insiem soave最も聖なる 固い絆を、そして 同時に 快い【固い絆を】
voi rendete per me tanto infeliceおまえたちは【= 耐え難い 苦痛は】 私に 大いに 不幸にしている
di consorte, di figlia, e genitrice!配偶者の、娘の、そして 母親の【固い絆を】【≒ 耐え難い苦痛が 妻の、娘の、そして 母親の 最も聖なる と同時に 快い 固い絆を、私にとって ひどく 不幸にしている】
in ermo asilo, ove gli ostili aguati
aguati < aguato = agguato 訳では 奇襲 を採用したが、待ち伏せて襲い掛かること という意味。

fian vani a danno suo, serbami il figlio.
a danno suo, までが Finché に導かれる従属節で、serbami il figlio. が主節でエンマへの命令文。

N. 7
Duettino [Zelmira - Emma]

Zelmira
Emma
Andante con moto
4/4
f minor
ZELMIRAゼルミーラ
(al figlio)(息子に)
Perché mi guardi e piangi,どうして 君は 私を 見詰めて そして 泣いているのか、
parte del sangue mio?私の血の一部よ?
Forse l'estremo addioことによると 最後の別れを
mi annunzia il tuo dolor?君の 悲しみは 私に 告げているのか?

EMMAエンマ
Ma qual pensier funesto!けれども 何という 不吉な 考えを!
Lascialo...彼と 別れなさい…

ZELMIRAゼルミーラ
Un altro amplesso...別の【≒ もう一度】 抱擁を…

EMMAエンマ
Tradirlo può l'eccesso行き過ぎは 彼を 裏切ることが できる
del tuo materno amor.君の 母親の愛の【≒ 君の母の愛が 行き過ぎると 息子を 傷つけることに なりかねない】
(Andante con moto)
4/4
F major
ZELMIRAゼルミーラ
Ah! chi pietà non senteああ! 哀れみを 感じない 者は
del mio crudele affanno,私の つらい 苦悩の、
o chiude un cor tiranno,【↓】胸の中に 暴虐な心を 収めているか、
o non ha in petto un cor.胸の中に 心を 持っていないか だ。

EMMA
Ah! chi pietà non senteああ! 哀れみを 感じない 者は
del suo crudele affanno,彼女の つらい 苦悩の、
o chiude un cor tiranno,【↓】胸の中に 暴虐な心を 収めているか、
o non ha in petto un cor.胸の中に 心を 持っていないか だ。

(viano)(【二人とも】 去る)
o chiude un cor tiranno,
この chiudere は 納める,収容する。

N. 8
Finale Primo










Moderato
2/4
d minor
(SCENA Ⅸ)(第9場)
(Sala magnifica nella Reggia, ov'è innalzato un trono)(王宮の 立派な広間、そこには 玉座が 高くされている【≒ 玉座が 高いところに 据えられている】
(Festiva marcia: precedono in bell'ordine disposte le Guardie Reali di Lesbo, e Mitilene: seguono i Grandi di entrambi i regni, indi le Reali Donzelle cinte di ghirlande di fiori: infine al fianco del Gran Sacerdote, e di Leucippo ed in mezzo a' Ministri di Giove, si avanza Antenore in regal manto, e colla testa nuda. I Paggi, che chiudono la pompa, recano su due dorati bacini la corona gemmata, e lo scettro. Durante la marcia, e finché Antenore è condotto sul trono, si canterà coll'indicato dettaglio il seguente Coro)(陽気な音楽: きちんと配列された 美しい隊形の レスボスの近衛兵たちが 先行する、そして ミュティレネの【近衛兵たちが】: 両方の王国の 貴族たちが 後に続く、それから 王の 侍女たち 花の花冠に 包まれて:最後に 大祭司の隣に、そして レウチッポの【隣に】 そして ジョーヴェの使徒たちの中央に、アンテーノレが 進み出る 王のマントを身に着けて、そして丸出しの頭で【≒ 頭に 何も 被らずに】。小姓たちは、その者たちは 行列を 締めく来る、二つの 金色に輝く 水盤【≒ 盆】の上に 宝石で飾った王冠を 持って来る、そして 笏 しゃく を 【持って来る】。行進の間、そして アンテーノレが 玉座の上に 案内されるまで、次の合唱が 指示された 詳細で【≒ 細かく指定されたとおりに】 歌われる)

CORO DI DONZELLE E DI GUERRIERI侍女たちの合唱 そして 兵士たちの
Sì fausto momentoこれほどに 幸運な瞬間は
di gioia, e piacere歓喜の、そして 喜びは
di eterno contento永遠の満足の
già sembra forier.既に 前兆のように 思われる。

CORO SOPRANI合唱 ソプラノ
Si sparga di fiori花を 撒こう
del soglio il sentier.玉座の道に。

CORO TENORI E BASSI合唱 テノール と バス
Di bellici orrori戦争に関する 恐怖が
sia lungi il pensier.思いから 遠く離れるように。

CORO合唱
Bell'aura di pace平和の 快い微風が
al nembo succeda:黒雲の後に 取って代わるように:
ogni anima riedaどの魂も 戻るように
dal pianto al goder.涙から 喜びに。

CORO SOPRANI合唱 ソプラノ
Se dono de' Numiもし 神々の 贈り物が
è Antenore al trono,玉座に就いた アンテーノレで ある 【↑】ならば、

CORO TENORI E BASSI合唱 テノール と バス
godiam del gran dono,素晴らしい贈り物を 心から喜ぼう、
giuriamo a lui fé.彼に 忠誠を 誓おう。

CORO合唱
Maggior fra gli Eroi英雄たちの中でも 最高の者が
per senno, e valore,知恵において、勇気において、【最高の者が】
di Lesbo, di noiレスボスの、私たちの
sia padre, sia Re.父であるように、王であるように。
Si sparga di fiori / del soglio il sentier.
spargere - di ... ―に…を撒く。
si + 接続法現在三人称単数形 で ―しよう という1人称複数への勧誘の意味になる。

(Moderato)
2/4
D major
CORO合唱
sia padre, sia Re.父であるように、王であるように。
Maggior fra gli Eroi英雄たちの中でも 最高の者が
per senno, e valore,知恵において、勇気において、【最高の者が】
di Lesbo, di noiレスボスの、私たちの
Andante
2/4
D major
ANTENOREアンテーノレ
(in piedi sul trono)(玉座の上に 立って)
Sì, figli miei, di Lesboそうだ、私の子たちよ、レスボスの
Padre, Sovrano, e amico,父が、君主が、そして 友が
al suo splendor anticoその【= レスボスの】 過去の輝きを
renderla appien saprò.それに【= レスボスに 女性名詞単数形】 完全に 元に戻すことが できるだろう。
Primo Tempo
2/4
D major
GRAN SACERDOTE大祭司
Quel fronte illustre, usatoあの 令名高い 額に、慣れた
a verdeggianti allori,青々とした ゲッケイジュに【≒ あの 新たな月桂冠には 慣れている 名高い頭に】
(prende la corona, e ne adorna il capo di Antenore)(王冠を 手に取り、そして それで【= 王冠で】 アンテーノレの頭を 飾る)
Regal Diadema onori.王の王冠が 栄誉を与えるように。

LEUCIPPOレウチッポ
(presenta lo scettro ad Antenore)(アンテーノレに 笏を 差し出す)
Regga lo scettro aurato黄金色の 笏を 手に持つように
la destra, che ti rese 【君の】右手が 【持つように】、それは 君を
chiaro per l'alte imprese.高い偉業によって 高名に 【↑】した。
e ne adorna il capo di Antenore)
ne = di quella = della corona。

chiaro per l'alte imprese.
この chiaro は 高名な で採った。

(Primo Tempo = Moderato)
2/4
d minor
ANTENOREアンテーノレ
E in me di amor paterno,そして 私には 父の愛の、
in voi di pura fede君たちには 純粋な信頼の
stringa un legame eterno永遠の絆を 結ぶように
il ciel, che mi premiò.天が、それは 私に 報いる。

CORO合唱
E in te di amor paterno,そして 君には 父の愛の、
in noi di pura fede私たちには 純粋な信頼の
stringa un legame eterno永遠の絆を 結ぶように
il ciel, che ti premiò.天が それは 君に 報いる。

LEUCIPPOレウチッポ
Alle squadre, che fervide all'Etera分隊【≒ 軍隊】に、それは 熱烈に 天空に
già gli evviva lietissime innalzano,既に 最も 喜ばしい 歓呼の声を 高めている、
ti presenta: la Regia tua porpora人前に出なさい: 君の 王の 紫衣が
loro accresca la gioia, il piacer.彼らの喜びを 増大させるように【≒ 王の紫色の衣装を来た 君が 彼らの前に 姿を著して 彼らを 大いに 喜ばせなさい】

ANTENOREアンテーノレ
Sì... si vada (momento di giubilo!そうだ… 行こう(歓喜の瞬間だ!
quanto all'alma tu sei lusinghier!)なんと 魂に おまえは 喜ばしい ことか!
Alle squadre, che fervide all'Etera
etera = etere 大気,天空。Etera と大文字始まりなので、Cielo と同様に 神 や 天国 の代替語として用いられていると思われる。

(Primo Tempo = Moderato)
2/4
D major
LEUCIPPO E COROレウチッポ と 合唱
Questo giorno ridente, propizioこの 喜んでいる日が、好意的な【日が】
sia di calma l'amico forier.平穏無事の 好意的な 前兆で あるように

ANTENOREアンテーノレ
momento di giubilo!歓喜の瞬間だ!
quanto all'alma tu sei lusinghier!)なんと 魂に おまえは 喜ばしい ことか!)

(tutto il corteggio segue Antenore)(すべての お供は アンテーノレに 付いて行く)
Allegro agitato
2/2
g minor
(SCENA Ⅹ)(第10場)
(Ilo, indi Leucippo guardingo, infine Zelmira)(イーロ、それから レウチッポ 用心深く、最後に ゼルミーラ)

ILOイーロ
Il figlio mio...私の息子は…
stelle! dov'è?星々よ! どこに いるのか?
Ah! nol vegg'io!ああ! 私は 彼を 見ていない!
che pena... oimè!なんという 心痛だ… ああ!
Lo chieggo invano...私は 彼を 虚しく 求めている…
da me sparì...彼は 私から 消えた…
barbara mano残酷な手が
me lo rapì!私から 彼を 奪った!
Oh ciel! che smaniaああ 天よ! なんという 不安が
mi strazia il cor!私の心を ひどく苦しめている 【↑】ことか!
Non so resistere私は 耐えることが できない
al rio dolor!悪質な 苦悩に!
(cade quasi in deliquio su di una sedia)(ほとんど 気絶して 椅子の上に 倒れ込む)

LEUCIPPOレウチッポ
(Eccolo! ansante(そら あそこに 彼が!
giunger lo vidi,私は 見た 彼が 【↑】喘いで【≒ 苦し気に】 【ここに】 着いたのを、
e le sue pianteそして 彼の 足の裏を【≒ 息子の 足取りを】
volli seguir.彼が 追跡し たかった のを。
Svenne! propizio彼が 気が遠くなった! 都合の良い
è ormai l'istante...瞬間だ いまこそ…
giovi ad Antenoreアンテーノレに 役に立つ
(impugna uno stilo, e si avanza a ferire Ilo)(短剣を 掴み、そして 進み出る イーロに 負傷させるために)
il suo morir.)彼の死が。)

(Zelmira, che giunge dall'altro lato, corre a fermarlo, trattenendogli il braccio, e disarmandolo all'improvviso)(ゼルミーラは、その者は 到着する 別の側から、彼を 止めに 急いで向かう、彼の腕を 押さえて、そして だしぬけに 彼から 武器を取り上げる)

ZELMIRAゼルミーラ
Ah! Che tenti! ah fermati!ああ! 君は 何を 試みているのだ! ああ 止めなさい!

(Leucippo profitta di tale circostanza, e lasciando il pugnale in mano a Zelmira, si appressa ad Ilo, e lo scuote)(レウチッポは そのような状況を 利用して、そして 短剣を ゼルミーラの手に 残して、イーロに 近づいて、そして 彼を 動揺させる)

LEUCIPPOレウチッポ
(All'arte!) ah perfida!(狡猾に!)
Ilo! deh salvati!イーロよ! お願いだから 身を守りなさい!

ILOイーロ
Che miro! oh fulmine!私は何を 見ているのだ! ああ 雷だ【≒ 恐ろしい衝撃だ】

ZELMIRAゼルミーラ
(a Leucippo)(レウチッポに)
Empio! che mediti?邪悪な男よ! 君は 何を 企んでいるのか?

LEUCIPPOレウチッポ
S'io non giungeaもし 私が 到着して いなかったならば
pronto a salvarti,素早く 君の 命を助けるために
la donna rea邪悪な女は
volea svenarti.君を 出血多量で死なせる つもりだった。

ZELMIRAゼルミーラ
Ah! non è vero...ああ! それは 真実でない…
sappi... egli stesso...知りなさい… 彼自身が…

ILOイーロ
Numi! qual nero...神々よ! なんという 黒い【≒ 悪意のある】
qual nuovo eccesso!なんという 新たな 犯行だ!
Di sangue sazia血に 満足して
non sei tu appieno?いないのか 君は 十分に?
Ebben feriscimi...よしそれでは 私に 傷を負わせなさい…
ecco il mio seno...ほらここに 私の胸が…
mi unisci... oh barbara!私を 結び付けなさい… ああ 残酷な女め!
al genitor.【君の】父親に。

ZELMIRAゼルミーラ
Ah sposo! ascoltami...ああ 夫よ! 私【の言うこと】を 聞きなさい…

ILOイーロ
Vanne... spietata!行ってしまいなさい… 冷酷な女め!

ZELMIRAゼルミーラ
Colui scagliavasiあの男が 襲った
con destra armata...武装した 右手で…

LEUCIPPOレウチッポ
No, non difenderti...いいや、自己弁護するでない…
taci, o colpevole!黙りなさい、ああ 罪人め!
La tua ferocia君の 残忍は
è manifesta...明らかだ…

ZELMIRAゼルミーラ
Sappi…知りなさい…

LEUCIPPOレウチッポ
taci, o colpevole!黙りなさい、ああ 罪人め!

ZELMIRAゼルミーラ
egli…彼が…

LEUCIPPOレウチッポ
taci, o colpevole!黙りなさい、ああ 罪人め!
La tua ferocia君の 残忍は
è manifesta...明らかだ…

ILOイーロ
Oh della Libiaああ リビアの
belva funesta!死をもたらす 野獣め!
fuggi! allontanati急いで立ち去りなさい! 遠ざかりさい
dal mio furor!私の激怒から!

ZELMIRAゼルミーラ
Oh qual calunnia!ああ なんという誹謗だ!
che pena è questa!これは なんという 苦悩だ!
sento dividermi私は 分裂するのを 感じている
a brani il cor!【↑】私の 心が 小片に【≒ 私の心は 千切れそうだ】

LEUCIPPOレウチッポ
(Vendetta! saziati(復讐よ! 満足しなさい
nel suo dolor!)彼女の苦悩の中で【≒ 彼女が苦しむ姿に 満足しなさい】!)


(SCENA ULTIMA)(最終場)

(Antenore frettoloso con Coro di Guerrieri e Donzelle)(アンテーノレ 慌ただしく 兵士たちの そして 侍女たちの 合唱と共に)

ANTENOREアンテーノレ
Che avvenne?何が 起きたのか?

LEUCIPPOレウチッポ
Al suo consorte彼女の 配偶者に
era per dar la morte死を 与えようと していた
quell'anima crudel.あの 残酷な魂が!

CORO合唱
Come!なんと!

ANTENOREアンテーノレ
Che ascolto!私は 何を 聞いているのだ!

ZELMIRA, EMMA, ILO, ANTENORE, LEUCIPPO E COROゼルミーラ、エンマ、イーロ、アンテーノレ、レウチッポ と 合唱
Oh ciel!ああ 天よ!
e le sue piante
この suo は 息子の と理解した。レウチッポはイーロの息子について言及していないが、その前のイーロの台詞からイーロが息子を捜しに来ていることは明らかである。この pianta は 足の裏 の意味。

Numi! qual nero...
nero は次行の eccesso 犯罪 に係る。

(Vendetta! saziati / nel suo dolor!)
saziati は vendetta に対する呼びかけの命令文と理解した。

Andante
2/4
F major
ILO, ANTENORE E LEUCIPPOイーロ,アンテーノレ と レウチッポ
La sorpresa... lo stupore驚きが… 茫然自失が
mi ha colpito, sbalordito!私を 打った、茫然とさせた!
Già m'ingombra un tetro orrore!既に 暗い恐怖が 私【の頭の中】を 占めている!
mi circonda un freddo gel!冷たい寒気が 私を 取り巻いている!

EMMAエンマ
La sorpresa... lo stupore驚きが… 茫然自失が
m'ha colpita, sbalordita!私を 打った、茫然とさせた!
Già m'ingombra un tetro orrore!既に 暗い恐怖が 私【の頭の中】を 占めている!
mi circonda un freddo gel!冷たい寒気が 私を 取り巻いている!

CORO合唱
La sorpresa... lo stupore驚きが… 茫然自失が
Mi ha colpito, sbalordito!私を 打った、茫然とさせた!
Già m'ingombra un tetro orrore!既に 暗い恐怖が 私【の頭の中】を 占めている!
Mi circonda un freddo gel!冷たい寒気が 私を 取り巻いている!
oh che orror!ああ なんという 恐怖だ!

ZELMIRAゼルミーラ
Giusti Numi! ah! voi che siete公正な 神々よ! ああ! あなたがたは その者たちは
degli oppressi aita, e scudo,虐げられた人たちの 助け 【↑】である、そして 盾【≒ 保護】 【↑】である、
l'innocenza proteggete保護しなさい 潔白を
di quest'anima fedel!この 忠実な魂の!

ZELMIRA, EMMA, ILO E COROゼルミーラ,エンマ,イーロ と 合唱
Oh ciel!ああ 天よ!
Allegro
4/4
D major
ANTENOREアンテーノレ
Alla strage ognor ti guida大虐殺へと いつでも 君を 誘導しているのか
nera furia, che t'invade?悪事に関わる 激怒が、それは 君を 襲う【≒ 君を襲う 悪事を引き起こす怒りが いつでも 君を 殺人へと 向かわせているのか】
Tu di Azor fosti omicida,君は アゾールの 殺害者だった、
tu del padre i giorni hai spenti...君が 父親の 日々【≒ 命】を 消した…

ZELMIRAゼルミーラ
Cessa... oh indegno! e questi accenti止めなさい…ああ 恥ずべき男め! そして これらの口調を
frena pur...どうか 抑えなさい…

ANTENOREアンテーノレ
Guardie! alla pena衛兵たちよ! 刑罰に
sia serbata...彼女が 取っておかれるように【≒ 彼女が 処罰を受けるよう 取り置かれるように】…。

CORO合唱
A morte!死に!

ZELMIRAゼルミーラ
Stelle avverse! iniqua sorte!敵対する 星々だ! 邪悪な運命だ!
oh inaudita crudeltà!ああ 前代未聞の残酷さだ!

ILOイーロ
Stelle avverse! iniqua sorte!敵対する 星々だ! 邪悪な運命だ!
oh inaudita avversità!ああ 前代未聞の残酷さだ!

LEUCIPPO E ANTENOREレウチッポ と アンテーノレ
Vanne pur fra le ritorte,どうぞ 行ってしまいなさい 枝帯【≒ (縛り)縄】の中に
vanne, o mostro d'empietà!行ってしまいなさい、ああ 残忍な態度の怪物め!

CORO合唱
Vanne, o mostro d'empietà!行ってしまいなさい、ああ 残忍な態度の怪物め!
Veloce
3/4
D major
ZELMIRA, EMMA, ILO, ANTENORE, LEUCIPPO E COROゼルミーラ,エンマ,イーロ,アンテーノレ,レウチッポ と 合唱
Fiume, che gli argini rompe, e sorpassa,川が、それは 土手を 壊し、そして 超える、
tremenda folgore che uccide, e passa,凄まじい 稲妻が それは 殺し、そして 通り過ぎる、
è men terribile di quell'affanno,【川も 稲妻も】 この不安よりも より少なく 恐ろしい、
che inesorabile mi strazia il cor!それは 情け容赦なく 私の心を 痛めつける!
Più mosso
3/4
D major
il cor,心を、
che inesorabile mi strazia il cor!それは 情け容赦なく 私の心を 痛めつける!

(Zelmira è condotta fra le Guardie; si cala il sipario)(ゼルミーラは 衛兵たちの間で 連れて行かれる; 幕が 下りる)
ATTO SECONDO
Recitativo
[Allegro moderato]
4/4
(C major)
(SCENA Ⅰ)(第1場)
(Sala magnifica come prima)(立派な広間 前と同じような)
(Antenore, e Leucippo da parti opposte)(アンテーノレ、そして レウチッポ 【それぞれ】 反対の側から)
Recitativo


4/4
(C major)
LEUCIPPOレウチッポ
Gran cose, oh Re!たいへんなことだ、ああ 王よ!

ANTENOREアンテーノレ
Che rechi?君は 何を 持って来ているのか【≒ 君は 何の知らせを伝えに来たのか】

LEUCIPPOレウチッポ
Al suo consorte彼女の配偶者に
questo foglio Zelmiraこの書類を ゼルミーラが
dal carcere inviò. Di un fido servo,牢獄から 送った。忠実な召使いの、
che l'educò bambina,その者は 赤子の彼女を 教育した、
la pietade destò. Ma fu da' miei哀れみを 引き起こした。だが 私のものたち【≒ 私の 手下たち】によって
costui sorpreso e messo in ceppi. Ah leggi,その男は 現場で取り押さえ 【↑】られ、そして 足枷を 付け 【↑】られた 【≒ 束縛された】。ああ 読みなさい、
(dando il foglio ad Antenore, che avidamente lo legge)(書類を アンテーノレに 与えて、その者は 貪るように それを 読む)
ed inarca le ciglia.そして まつ毛を 弓形に曲げなさい【≒ 眉を ひそめなさい】

ANTENOREアンテーノレ
«Ilo, deh vola「イーロよ、お願いだから 飛んで来なさい
co' tuoi prodi a salvarmi. Allor saprai,君の 勇者たちと共に 私を 救助しに。その時 君は 知るだろう、
che rea non son, né parricida: il cielo...私が 犯行者の女では ないことを、父親殺しでも ない 【ことを】: 天よ…
un mio felice inganno...私の 巧みな欺瞞が【≒ 私の 巧妙な 誤魔化しが】
basta... corri... ti affretta;もういい… 駆けつけなさい… 急ぎなさい;
di me, del padre... alla comun vendetta.«z;私に、父に… 共通の復讐を。」
Quai sensi! e Polidoroなんという 【文の】意味だ! それでは ポリドーロは
forse spento non è?ことによると死んでいないのか?

LEUCIPPOレウチッポ
Ma tra le fiammeだが 炎の中で
ei non perì di Cerere nel tempio,彼は チェーレレ【= ケレス,ローマ神話の農業の女神】の神殿での【炎の中で】 死んだのではないのか、
dopo che al vincitor Zelmira istessa勝者【= アンテノーレ】に ゼルミーラ自身が
l'asil del padre palesò?父親の 避難所を 明かした 【↑】後で?

ANTENOREアンテーノレ
L'arcano,謎を、
che qui si asconde, ad ogni costo io voglio,それは ここに【= この手紙に】 潜んでいる、なんとしても 私は、
Leucippo, penetrar.レウチッポよ、看破し 【↑】たい。

LEUCIPPOレウチッポ
Fingi clemenza,寛大さを 装いなさい、
sciogli Zelmira, osservaゼルミーラを 解放しなさい、監視しなさい
vigile i passi suoi.注意深く 彼女の足取りを。

ANTENOREアンテーノレ
T'intendo... io fremo!私は 君【の言うこと】を 理解している… 私は 震えている!

LEUCIPPOレウチッポ
Sguardo lincèo, arte, prontezza! e ardire!目つきの鋭い 注視を、狡猾を、機敏さを! そして 大胆を!


ANTENOREアンテーノレ
Pria che ceder al tron saprò morire.玉座を 諦める 前に 私は 死ぬことが できるだろう【≒ 玉座を 諦めるくらいなら 死のう】
(viano)(【二人とも】 去る)
ed inarca le ciglia.
inarcare le ciglia 眉をひそめる,眉をしかめる

un mio felice inganno...
この felice は 巧みな。父ポリドーロを神殿に隠したと信じさせて、結果的に皆に彼女が父親を殺したと信じ込ませたことを指す。

Pria che ceder al tron saprò morire.
この cedere は 諦める。cedere a - ―を諦める。br>
[Mpderato]
4/4
(C major)
N. 8bis
Coro ed Aria [Emma]

Emma
Coro
Andantino
6/8
c minor
(SCENA Ⅰ bis)(第1場 bis)

(Coro di Damigelle Seguaci di Zelmira indi Emma)(ゼルミーラの家来の乙女たちの合唱 それから エンマ)
(Escono successivamente da un lato osservando con ansietà, se vi dia alcuno nella sala e ne' luoghi vicini)(【彼女たちは】 出て来る 次々に 方側から 気がかりをもって 見守って【≒ 不安げに あたりを窺いながら】、そこに 広間の中に 誰かが 面しているか どうか そして 近くの場所にも)


CORO DI DAMIGELLE乙女たちの合唱
Pian piano inoltrisi,静かに 静かに 進もう、
sia cauto il piede.足取りが 用心深くあるように。
Se alcuno scopreci,もし 誰かが 私たちを 見付けるならば、
se alcun ci vede,もし 誰かが 私たちを 見るならば、
perduto è il misero,哀れな男は【= かわいそうな ゼルミーラの息子は】 破滅する、
perdute siamo!私たちは 破滅する!
(Verso la scena con voce più ferma ad Emma)(舞台のあたりで より きっぱりとした声で エンマに)
Vieni. Rincorati.来なさい。勇気を奮い起こしなさい。
Deh! a noi vien.お願いだから! 私たちのところに 来なさい。
Deserto è il loco.場所は 無人だ。
Ancor per pocoまた 少しの間
si tremerà.震えよう。
se vi dia alcuno nella sala
この dare は自動詞 面する で理解した。vi は副詞 そこに。

Recitativo


4/4
(E-flat major)
EMMAエンマ
(col fanciullo)(【ゼルミーラの】) 子どもと一緒に
Eccolo. A voi l'affido.ほらここに 彼が。君たちに 彼を 私は 託す。
Oh dell'afflitta Lesbo amata speme!ああ 悲嘆に暮れた レスボスの 愛する 希望よ!
su te veglin gli Dei! Ver l'antro cupo君を 神々が 見守るように! 暗闇に包まれた 洞窟の方に
due il traggan di voi. L'altre qui meco君たちの 二人が 彼を 連行するように。他の女たちは ここに 私と共に
sorveglino il nemico, e calde intanto敵を 監視するように、そして その間に 熱心に
mandiamo ai sommi Dei preci nel pianto.至高の神々に 泣きながら 祈りを 送ろう。

(partono le due damigelle col fanciullo)(二人の侍女が 去る 子どもと一緒に)
Andantino
3/4
F major
Ciel pietoso, ciel clemente,哀れみ深い 天よ、寛容な天よ、
il bel pegno a te confido!私は 君に 素晴らしい 証を 任せる!
Salverai tu l'innocente,君は 幼児を 保護するだろう、
d'una madre avrai pietà.君は 母親の哀れみを 受けるだろう。
il bel pegno a te confido!
il bel pegno ゼルミーラの息子を指す。

Allegro
4/4
F major
(sbigottita come chi ode romore improvviso)(ぎょっとして 不意に 物音を 聞いた 人の ように)
Ma... che sento?だが… 私は 何を 聞いているのか?
(alle compagne)(仲間たちに)
alcun s'appressa.誰かが 近付いている。
Ah! correte: i petti imbelliああ! 駆けつけなさい: 戦争に向かない胸々で 対抗しなさい
a que' barbari opponete:あの 野蛮人たちに:
bel morir la vita onora...美しい死は 命に 栄誉を与える…

CORO DI DAMIGELLE乙女たちの合唱
Pronte siamo. Il sangue ancora,私たちは 準備のできた。血を 再び、
sì, per lui si verserà.そうだ、彼のために 流そう。
(Le Damigelle si volgono verso le avvenute della sala osservando da diverse parti, poi tornano)(侍女たちは 広間の入り口の方に 向かう 様々な方を 注意深く見ながら、それから 彼女たちは 戻る)
Non temer. Serena il ciglio.心配するでない。眼を 晴れさせなさい。
Queta è l'aura. Il regal figlio微風は 動かない。王家の息子は
mentre parli è salvo già.君が 言う のに もう 安全だ【≒ 君は 【心配を】 口にしていたものの 王家の息子は もう 安全である】
Le Damigelle si volgono verso le avvenute della sala
avvenuta という単語は伊伊辞典にも載っていない。男性形の avvenuto は 出来事 の意味でここには合わない。ここでは文脈から 入り口 と推測したが、正確な情報があれば変わるかもしれない。

(Allegro)
4/4
F major
EMMAエンマ
Ah se è ver, di quel ch'io sento,ああ もし それが【= 侍女たちの言うことが】 本当ならば、私が 感じたものよりも、
no, più amabile contentoいいや、さらに 感じのいい 満足は【≒ さらに 嬉しい 喜びは】
non si trova, non si dà.見付けられない、与えられない。

CORO DI DAMIGELLE乙女たちの合唱
Non temer. Serena il ciglio.心配するでない。眼を 晴れさせなさい。
Mentre parli è salvo già.君が 言う のに もう 安全だ【≒ 君は 【心配を】 口にしていたものの 王家の息子は もう 安全である】
Recitativo [Dopo il Coro ed Aria Emma]
Moderato
3/4
D major
(SCENA Ⅱ)(第2場)
(Vasta pianura come nel primo atto)(広い平原 第1幕と同様の)
(Ilo pensieroso, indi Polidoro dalla tomba)(イーロ 考え込んで、それから ポリドーロ 墓から)
Recitativo


4/4
(D major)
ILOイーロ
A che difendi una sleale, un'empia,どうして おまえは【= 私の心は】 擁護するのか 卑劣な女を、邪悪な女を、
infelice mio cor?不幸な 私の心よ?
[Primo Tempo]
3/4
(D major)
[Recitativo]


4/4
(D major)
Di ardente affetto,燃えるような情愛の、
che ti strugge per lei, tu fai sentirmiそれは おまえを【= 私の心を】 彼女に対して 憔悴させる、おまえは 私に 感じさせるのか
la fatal possa ancora?死に至らせる力を なおも【≒ おまえは なおも 私に、彼女のために おまえを 憔悴させている 激しい愛の 抗し難い力を 感じさせるのか 】
Taci, pietà non merta, è rea… che mora!静かになりなさい、彼女は 哀れみに 値しない、彼女は 犯行者の女だ… 彼女が 死ぬように!
Ma intanto il figlio amatoけれども その間に 愛する息子を
chi rende a me? misero padre! ah questo誰が 私に 返すのか? 哀れな父親だ! ああ これは
de' fulmini del fato è il più funesto!宿命の雷の中で 最も 死をもたらすものだ!
(resta immerso ne' suoi pensieri)(専心したままでいる 彼の考えの中に【≒ 考え込んだままでいる】)
Primo Tempo
3/4
(C major)
POLIDOROポリドーロ
(sulla soglia della tomba)(墓の入り口の上で)
[Recitativo]


4/4
(C major)
Meglio morir, che viver sempre oppresso死ぬ 方がいい、ずっと 圧迫されて 生きるよりも
da crudi affanni. Oh mia Zelmira! è l'alma過酷な苦悩によって。ああ 私のゼルミーラよ! 魂は
lunge da te trista così, che ognora君から 遠く離れた【魂は】 とても 哀れなので、いつでも
ti predice sciagure. Ah no, non voglioそれは【= 魂は】 君に 災難を 予言している【≒ この心は 君から遠く離れて 惨めなあまり 君が 災難に遭っている姿を 思い浮かべてしまう】。ああ いいや、私は
più palpiti soffrir. Che val la vita,もう 心拍に 苦しみ 【↑】たくない【≒ 私は もうこれ以上 不安に心臓を震わせて 苦しみ たくはない】。人生に 何の価値があるのか、
se tutto già perdei?私が すべてを 失ったのだったら?
Fia sollievo la morte a' mali miei.死は 私の不幸には 苦悩の緩和だろう。
(s'inoltra)(進む)
[Primo Tempo]
3/4
(C majo)
(Ilo si scuote, guarda verso la tomba)(イーロは びくっとして、墓の方を 見詰める)
[Recitativo]


4/4
(C major)
ILOイーロ
Ma chi da quella tombaところで 誰が あの墓から
avanza il piè?足を 進めているのか?
(riconosce Polidoro, che ravvisandolo si slancia al suo seno)(ポリドーロを 認識する、その者は 彼を 認知して 彼の胸に 突進する)
Numi possenti! è un sogno?強力な 神々よ! 【これは】 夢なのか?
è un'illusion?幻覚なのか?

POLIDOROポリドーロ
Ilo! e fia ver? mio figlio!イーロか! それで 【これは】 本当なのか?
Ah! mi è dato il vederti pria di chiuderああ! 私に 与えられたのか 君に 会うことが
le luci?目が 【↑】閉じる 【↑】よりも前に?

ILOイーロ
Io non m'inganno!私は 間違っていない!
Padre! tu vivi? e di Zelmira indegna【義】父よ! 君は 生きているのか? それでは 恥ずべき ゼルミーラの
non cadesti tu vittima?犠牲者に 君は 陥らなかったのか?

POLIDOROポリドーロ
Rispetta敬意を表しなさい
l'alta virtù di lei… misera figlia!彼女の 気高い徳に… 哀れな娘だ!
Deggio ad essa i miei giorni: in quella tomba私は 彼女に 私の日々を 負っている【≒ 私の命は 彼女のおかげだ】: あの墓の中に
seppe celarmi, e poi彼女は 私を 隠すことが できた、そして それから
all'oppressore Azor finse, ch'io m'era彼女は 圧制者 アゾールに 装った、私が
chiuso colà, di Cerere nel tempio身を潜めていた 【↑】と 向こうで【≒ あそこの】 、チェーレレ【= ケレス,ローマ神話の農業の女神】の神殿の中に
da Sacerdoti già cinto,祭司たちに 既に 囲まれて、
ed il sacro recinto allor quell'empioすると その時 あの邪悪な男は 聖なる 囲まれた場所を【≒ 神殿を】
alle fiamme dannò.炎で 地獄に落とした。

ILOイーロ
Dunque è innocenteそれでは 無実なのか
la sposa mia?私の妻は?

POLIDOROポリドーロ
La sua filial pietade,彼女の 子としての哀れみが、
non curando i perigli,危険に 気を配ることなく【≒ 危険を 顧みることなく】
mi alimentò, mi resse in vita.私に 食べ物を与えた、私を 命において 支えた【≒ 私の命を 支えた】

ILOイーロ
Ah padre mio!ああ 私の父よ!
m'abbraccia! un sol momento私を 抱擁しなさい! 一瞬が
ha tutto in me cangiato…私の中で すべてを 変えた…
Innocente Zelmira? oh me beato!ゼルミーラが 無実だって? ああ 私は 最高に幸せだ!
N. 9
[Duetto Ilo - Polidoro]

Ilo
Polidoro
Allegro
4/4
E major
ILOイーロ
In estasi di gioia喜びの陶酔に
tutto rapir mi sento!私は すべてのものが 私を うっとりさせているのを 感じている!
Non reggo a quel contento,私は この満足【≒ 喜び】に 耐え【られ】ない
che già m'inonda il cor!それは 既に 私の心を 溢れさせている!

POLIDOROポリドーロ
Di tante pene, e tante,たくさんの苦悩の、そして たくさんの、
che tollerai fin'ora,それらを 私は 耐えた 今まで、
così felice istanteこれほどに 幸せな瞬間が
temprando va il rigor!【たくさんの苦悩の】手厳しさが 和らぎつつある!

ILO E POLIDOROイーロ と ポリドーロ
Piacere inesprimibile,言い表せない 喜びよ、
oh quanto sei soave!ああ、なんと おまえは 快いことか!
La pace tu rendi all'anima,おまえは 魂に 平安を 戻している、
già oppressa dal dolor!かつて 苦悩によって 虐げられた 【魂に】

ILOイーロ
Vieni: le navi Frigie来なさい: フリュギアの船々が
ti sian di asilo intanto君にとって 避難所に なるように
che co' miei prodi Antenore私の勇者たちと一緒に アンテーノレを
io scenda a debellar.打ち負かしに 私が 下りる【≒ 参加する】 【↑↑】間。

POLIDOROポリドーロ
Tu solo... io... inerme... i perfidi君 一人が… 私は… 武器を持たない… 悪意のある
nemici, che si aggirano敵は、その者たちは うろついている
a noi d'intorno... ah! vittima私たちの 周りを… ああ!
potrei di lor restar.私が 彼らの 【↑】犠牲者の ままでい られれば。

ILOイーロ
Ebben di nuovo celati:よしそれでは もう一度 隠れなさい:
Tu mi vedrai qui rapido君は 見るだろう 私が ここに 早く
tornar co' miei...戻るのを 私の者たち【= 私の勇者たち】と一緒に…

POLIDOROポリドーロ
No... lasciami...いいや… 私を 放っておきなさい 【≒ 私のことは 構わなくていい】
corri a salvar Zelmira...ゼルミーラを 救助しに 駆けつけなさい…
A sì bel voto aspiraこれほどに 立派な願いを 要求している
il tenero mio cor.私の 愛情のこもった心は。

ILOイーロ
Tu accresci il mio coraggioおまえは 私の勇気を 増大させている
o amico ciel pietoso!ああ 好意的な 哀れみ深い 天よ!
Splenda sereno un raggio太陽光線が 晴れ晴れと 輝くように
dopo sì lungo orror!これほどに 長い 恐怖の 後に!

POLIDOROポリドーロ
Tu accresci il suo coraggioおまえは 私の勇気を 増大させている
o amico ciel pietoso!ああ 好意的な 哀れみ深い 天よ!
Splenda un raggio太陽光線が 輝くように
dopo sì lungo orror!これほどに 長い 恐怖の 後に!

(Ilo parte sollecitamente verso il lido; Polidoro rientra nel suo nascondiglio)(イーロは 素早く 去る 海岸の方に; ポリドーロは 隠れ場に 再び入る)
この二重唱は緩いA / B / A’の三部形式と採ることもできるが、調性、テンポとも変わらず伴奏音型も共通しているので、単一構成と理解して構わないだろう。

tutto rapir mi sento!
rapire は他動詞なので tutto を代名詞 すべてのもの で主語に、mi を直接補語 で理解したが、rapire が自動詞的に用いられていると理解し、tutto が副詞的に すっかり で、
私は すっかり 恍惚となっているのを 感じている
と採った方が分かりやすいだろう。

io scenda a debellar.
この scendere 下りる は、(戦いや競争などに)参加する の意味。scender in campo 戦場に下りる で 戦う の意味になる。

Tu accresci il mio coraggio
ここでは accresci を accerescere の直接法現在2人称単数形 で採ったが、命令法現在2人称単数形 で主語のある命令文で採ることもできる。

Recitativo [Dopo il Duetto]
Andante con moto
4/4
(C major)
(SCENA Ⅲ)(第3場)
(Zelmira, indi Emma; in osservazione Antenore, e Leucippo con Guardie)(ゼルミーラ、それから エンマ; 監視するアンテーノレ、そして レウチッポ 衛兵たちと共に)
Recitativo


4/4
(C major)
ZELMIRAゼルミーラ
Chi sciolse i lacci miei? forse conobbe誰が 私の罠を【≒ 私の縄を】 解いたのか? ことによると 見極めたのだ
Ilo la mia innocenza, e dal tirannoイーロが 私の無実を、そして 暴君から
mi ottenne libertà. Padre! tu ignori私の自由を 獲得したのだ。父よ! 君は 知らない
le pene mie, l'arrivo私の苦悩を、
del mio sposo a te caro...私の夫の 【↑】到着を 【君は 知らない】 君にとって 親愛なる 【私の夫の】
Allegro
4/4
(C major)
(Recitativo)


4/4
(C major)
Emma! a che giungiエンマ! どうして 君は 来ているのか
frettolosa così?そのように 大急ぎで?

EMMAエンマ
Lieta novella...喜ばしい知らせが…

ANTENOREアンテーノレ
(Si ascolti.)(聞こう。)

ZELMIRAゼルミーラ
E quale?それで どのような?

EMMAエンマ
Io vidi私は 見た
Ilo, che verso il lidoイーロを、その者は 海岸の方に
movea veloce il piè: s'arresta, e ratto足を 動かした: 彼は 立ち止まり、そして 迅速に
mi dice... «Ah! vola alla mia sposa... il padre私に 言う… 「ああ! 私の妻のところに 飛んで行きなさい… 父親は
fia salvo, fra poco守られるだろう、間もなく
il condurrò nel suo bel seno...».私は 彼を 彼女の 素晴らしい胸に 連れて行くだろう…」
e rapido sparì come un baleno.そして 速く 立ち去った 稲妻のように。

ZELMIRAゼルミーラ
Che narri? ah che la gioia君は 何を 話しているのか? ああ 喜びが
mi tronca il favellar...私の 話すことを 断ち切っている【≒ 喜びで 私は 言葉が 出て来ない】

ANTENOREアンテーノレ
(a Leucippo)(レウチッポに)
(Ed Ilo in salvo(それでは イーロは 安全な場所に)
già trasse Polidor?)既に ポリドーロを 救い出したのか?)

LEUCIPPOレウチッポ
(Con lui non era:(彼は【= イーロは】 まだ 彼【= ポリドーロ】と一緒 ではなかった:
il vidi anch'io: l'errore私も 彼を 見た: 間違いは
giovi a' nostri disegni.)私たちの企みに 役に立つ。)

ZELMIRAゼルミーラ
E come? e quandoそれで どうやって? そして いつ
scovrì l'asil del padre?彼は 父の避難所を 見つけ出したのか?

EMMAエンマ
Il ciel pietoso慈悲深い 天が
un mezzo prodigioso奇跡的な手段を
forse a salvarlo oprò.おそらく 彼を 救出するために 起こしたのだろう。

ZELMIRAゼルミーラ
Ah! ch'io respiro!ああ! 私が 息をつくことよ!
Sul suo naviglio, spero,彼の船団の上に、私は 期待している、
Ilo l'avrà condotto.イーロが それを 指揮したのだろう と。

ANTENOREアンテーノレ
(Aita, oh sorte!)(援助しなさい、ああ 運命よ!)
(si fa innanzi con Leucippo)(前に出る レウチッポと共に)
Ah mentitrice! è il fallo tuo palese:ああ 嘘つきの女め! 君の罪は 明らかだ:
vive ancor Polidoro, e il tuo consorteポリドーロは まだ 生きている、そして 君の配偶者は
già salvo il rende in su le Frigie navi.既に 彼を【= ポリドーロを】 安全に している フリュギアの船々の上で。

ZELMIRAゼルミーラ
Sì... trema o mostro! a fulminarti è armatoそうだ… 震えなさい ああ 怪物よ! 君を 雷撃するために 武装した【≒ 武器を持った】
vindice braccio... sì... respira ancora復讐の腕は… そうだ… まだ 息をしている
per tuo estremo cordoglio君の 最後の嘆きのために【≒ 君が 【死ぬ前に】 最後に 嘆く ように】
il Re di Lesbo, e tornerà sul soglio.レスボスの王は、そして 彼は 戻るだろう 玉座の上に。

LEUCIPPOレウチッポ
Tutta seppi la trama,私は 陰謀を すっかり 知っていた、
che a nasconderlo ordisti:君が 彼を 隠そうと 企んだ 【陰謀を 知っていた】
tu dal tempio di Cerere il salvasti君は チェーレレ【= ケレス,ローマ神話の農業の女神】の神殿から 彼を 救出した
in quello di Diana, e Forba, il primoディアナ【= ローマ神話の月や狩りの女神】のそれ【= 神殿】に、そして フォルバが、
ministro della Diva,女神の 筆頭の使者が、
e l'accolse, e il nascose.彼を 受け入れもした、彼を 隠しもした。

ANTENOREアンテーノレ
Ebben costuiよしそれでは その男は【= フォルバは】
cada svenato, e sull'istante.出血して 倒れるがいい。

ZELMIRAゼルミーラ
Oh quantoああ どれほど
tu sei lunge dal ver! Forba non era君は 真実から 遠く離れていることか! フォルバは
di tal virtù capace. Il padre io solaそのような 徳を 収容できなかった【≒ フォルバには そのような徳は なかった】。父を 私 一人で
là nella tomba, che la cener serraあそこの 墓の中に、それは 隠してる
degli avi suoi, cauta celai.祖先の 【↑】【遺】灰を、【父を】用心深く 隠したのだ。
(si fa innanzi con Leucippo)
farsi innanzi 前に行く,進む

Allegro
4/4
(C major)
LEUCIPPOレウチッポ
Guerrieri!兵士たちよ!
il colpo è fatto!一撃が なされた【≒ ことが 進み始めた】
(entra rapidamente nella tomba colle Guardie)(速く 墓の中に 入る 衛兵たちと共に)
voi mi seguite.君たちは 私の後に ついて来なさい。

ANTENOREアンテーノレ
Ah indegna!ああ 恥ずべき女め!
ti sei tradita.君は 裏切られた。

ZELMIRAゼルミーラ
Oimè!ああ!

ANTENOREアンテーノレ
Più non ti giova君には もう 役立たない
l'artifizio sagace.抜け目ない 策略は

ZELMIRAゼルミーラ
Ah! qual m'invadeああ! なんと 私を 襲うことか
fremito orrendo! e fosse mai possibile?恐ろしい 身震いが!

ANTENOREアンテーノレ
Vedilo!彼を 見なさい!
(mostrandole il padre, che vien guidato dalle Guardie)(彼女に 父親を 見せる、その者は 来る 衛兵たちに 誘導されて)
è Polidoroポリドーロは
già in mio poter...既に 私の力の中に ある…

ZELMIRAゼルミーラ
Oh me infelice! oh furie!ああ 私は 不幸だ! ああ 激怒が!
ah che diss'io!ああ 私は 何を 言ったのだ!


(SCENA Ⅳ)(第4場)
(Polidoro condotto da Leucippo, e Guardie)(ポリドーロ レウチッポに 連れて来られて、そして 衛兵たち)

POLIDOROポリドーロ
Sì, mi uccidete, o barbari,そうだ、私を 殺しなさい、ああ 残酷な者たちよ、
ma presso alla mia figlia.だが 私の娘の 傍で。

ZELMIRAゼルミーラ
Oh sventurato!ああ 不運な男よ!
io stessa... io... sì... la barbara son'io..私自身が… 私が… そうだ… 私が 残酷な女だ…
che tronca i giorni tuoi... morte! a che tardi?その者は 君の日々を 切断している【≒ 君の命を 断ち切っている】… 死よ! おまえは どうして 遅れているのか?
Fa che m'uccida il mio crudele affanno!私の 酷い苦悩に 私を 殺させなさい!

EMMA E POLIDOROエンマ と ポリドーロ
Oh momento!ああ 【なんという】 瞬間だ!

ANTENOREアンテーノレ
(Oh piacer!)(ああ 喜びが!)

LEUCIPPOレウチッポ
(Felice inganno!)(上出来の 策略だ【≒ 策略は うまく行った】!)
il colpo è fatto!
il colpo è fatto この場合は ことが進み始めた といった意味。

(Felice inganno!)
この felice は 上出来の,うまく行った で採った。レウチッポがわざと間違った情報をゼルミーラに言うことで、ポリドーロの居場所を突き止めたことを指す。

N. 10
Quintetto

Zelmira
Emma
Antenore
Leucippo
Polidoro
Coro
Allegro giusto
4/4
C major
ANTENOREアンテーノレ
(a Polidoro)(ポリドーロに)
Ne' lacci miei cadesti,私の罠の中に 君は 落ちた、
già l'artifizio è vinto,もう 【君の】策略は 負かされた【≒ 失敗した】
cadesti, ho vinto:君は 失敗した、私は 勝った:
(a Zelmira)(ゼルミーラに)
e il genitor estintoそして 死んだ父親が
a' piedi tuoi cadrà.君の足元に 倒れるだろう。

POLIDOROポリドーロ
Se del mio sangue hai sete,君が 私の血を 渇望しているのなら、
spietato! il colpo appresta:冷酷な男め! 一撃を 用意しなさい:
di morte è a me più infesta私にとって 死よりも 有害だ
la insana tua viltà.君の 正気でない 卑劣さは。

ZELMIRAゼルミーラ
Me sola uccidi, barbaro,私だけを 殺しなさい、残酷な男よ、
seppi smaltir l'inganno...私は 策略を 消化する【≒ 成し遂げる】ことが できた…
Io del tuo cor tiranno私は 君の 暴虐な心の
sfidai la crudeltà.残酷さに 勇敢に立ち向かった。

LEUCIPPOレウチッポ
No, il tuo maggior tormentoいいや、君の最大の責め苦は
fia nel vederlo oppresso...彼が【= ポリドーロが】 苦しめられるのを 見ることに あるだろう。

EMMAエンマ
(Oh di ferocia eccesso!(ああ 残忍の犯行だ!
che nuova crudeltà!)なんという 新たな 残酷さだ!)
seppi smaltir l'inganno...
smaltire は 消化する あるいは 排水する の意味。ここでは前者が転じて 処理する,完了する の意味で用いられていると思われる。

Andante
2/4
A-flat major
ZELMIRA E POLIDOROゼルミーラ と ポリドーロ
(Ah! m'illuse un sol momento!(ああ! 一瞬が 私を 惑わした!
mi credei felice appieno,私は 私が すっかり 幸せだと 信じた、
ma sparì qual nebbia al ventoしかし 消え失せた 風に吹かれた 霧のように
la speranza dal mio cor.)希望は 私の心から。)

ANTENORE E LEUCIPPOアンテーノレ と レウチッポ
(Più del fato io non pavento,(私は もう 恐れない 宿命の、
se a me fausto arride appieno,もし 私に 【神が】好意的に すっかり 微笑む ならば、
e sparì qual nebbia al ventoそして 消え失せた 風に吹かれた 霧のように
ogni tema dal mio cor.)あらゆる恐れが 私の心から。

EMMAエンマ
(La deluse un sol momento!(一瞬が 彼女を 失望させた!
parve il ciel per voi sereno,空は 君たちに 晴れ渡っていた ように見えた、
ma sparì qual nebbia al ventoしかし 消え失せた 風に吹かれた 霧のように
la speranza dal suo cor.)彼女の心から 希望が。)
Maestoso
3/4
E major
(SCENA Ⅴ)(第5場)
(I Guerrieri di Mitilene si avanzano, recando un'urna: le Donzelle accorrono)(ミュティレネの兵士たちが 進み出る、【骨】壺を 持ってきて、侍女たちが 駆けつける

CORO TENORI E BASSI合唱 テノール と バス
Coro di Guerrieri兵士たちの合唱
Di Azor le ceneriアゾールの【遺】灰を
quest'urna serra:この【骨】壺が 隠している:
abbatti, atterra倒しなさい、打倒しなさい
chi lo svenò.彼を 出血多量で死なせた 者を。

ANTENOREアンテーノレ
(additando Zelmira)(ゼルミーラを 指し示して)
Ecco la perfida,ほらそこに 悪意のある女が、
la traditrice,裏切者の女が、
che all'infeliceその者は 不幸な者に
morte recò.死を もたらした。

CORO TENORI E BASSI合唱 テノール と バス
Cada quell'empia...あの邪悪な女が 倒れるように…

EMMA, POLIDORO E CORO SOPRANIエンマ,ポリドーロ と 合唱 ソプラノ
Coro di Donzelle侍女たちの合唱
Fermate... ah no...止まりなさい… ああ だめだ…

ANTENORE, LEUCIPPO E CORO TENORI E BASSIアンテーノレ,レウチッポ と 合唱 テノール と バス
Strage! vendetta!大虐殺を! 復讐を!

EMMA E CORO SOPRANIエンマ と 合唱 ソプラノ
(prostrate ad Antenore)(アンテーノレに 平服して)
Sospendi il fulmine...雷を 中止しなさい…
Ti parli all'anima,君の 魂に 語るように
signor, pietà!主が、哀れみを!

ANTENORE, LEUCIPPO E CORO TENORI E BASSIアンテーノレ,レウチッポ と 合唱 テノール と バス
Rigor... giustizia,手厳しさを… 公正さを、
non mai pietà.決して 哀れみではなく。

POLIDOROポリドーロ
(alle donzelle)(侍女たちに)
A chi voi supplici?誰に 君たちは 嘆願するのか?
a un oppressore?圧制者にか?
Allontanatevi!遠くに行きなさい!
qual rea viltà?どのような 醜い 卑劣な行為を?

ANTENOREアンテーノレ
(alle Guardie)(衛兵たちに)
Oscuro carcere暗い 牢獄に
l'eroe rinchiuda,偉人を【≒ ポリドーロを】 閉じ込めなさい、
che la sua audaciaその者は 彼の 厚かましさを
frenar non sa.抑えることが できない。

ZELMIRAゼルミーラ
Me ancora o perfidi,私も また ああ 悪意のある者たちよ、
me trascinate...私を 連れて行きなさい…

EMMA E CORO SOPRANIエンマ と 合唱 ソプラノ
Oh qual barbarie,ああ なんという 蛮行だ、
qual empietà!なんという 無慈悲な行いだ!


ZELMIRA, EMMA, ANTENORE, POLIDORO, LEUCIPPO E CORO
Giorno terribil,恐ろしい日だ、
oh avversità!ああ 逆境だ!
A chi voi supplici?
この supplice は形容詞。

Allegro
2/2
C major
ZELMIRA E POLIDOROゼルミーラ と ポリドーロ
(ad Antenore)(アンテーノレに)
De' nostri torti il vindice私たちの過ちの 復讐者を
avrem nel cielo alfine:私たちは 最後に 天に 持つだろう:
veggo strisciar la folgore,私は 見る 稲妻が 這うのを【≒ 走るのを】
che sul tuo crin cadrà.それは 君の頭髪の上に 落ちるだろう。

ANTENOREアンテーノレ
Ma de' celesti il fulmineだが 神々の稲妻は
succeda al vostro fine,君たちの 終わりの後に 続いて起きる【≒ 君たちが 死んだ後に 落ちる】
ma ognun di voi pria vittimaだが 君たちの みんなそれぞれは その前に
del mio furor cadrà.私の怒りの 【↑】犠牲者に 陥るだろう。

LEUCIPPOレウチッポ
Ma de' celesti il fulmineだが 神々の稲妻は
succeda al vostro fine,君たちの 終わりの後に 続いて起きる【≒ 君たちが 死んだ後に 落ちる】
ma ognun di voi pria vittimaだが 君たちの みんなそれぞれは その前に 犠牲者だ。
del suo furor cadrà.彼の怒りの 【↑】犠牲者に 陥るだろう。

EMMA, POLIDORO E CORO SOPRANIエンマ,ポリドーロ と 合唱 ソプラノ
Oh desolata patria!ああ 荒廃した祖国よ!
sotto le tue rovineおまえの 廃墟の下で
il fato inesorabile情け容赦しない 宿命が
ognor ti opprimerà.これからもずっと おまえを 圧迫するだろう。

LEUCIPPO E CORO TENORI E BASSIレウチッポ と 合唱 テノール と バス
L'ira, che accende l'anima,怒りは、それは 魂に 火を点ける、
no, più non ha confine!いいや、もはや 限界を 持たない。
L'orgoglio di quei perfidi悪意ある者たちの 高慢さは
più divampar la fa!さらに それを【= 怒りを】 燃え上らせる

(I Guerrieri conducono Zelmira, e Polidoro)(兵士たちは ゼルミーラを 連れて行く、そして ポリドーロを)
veggo strisciar la folgore,
strisciare 這う は ヘビが這う時に用いられる動詞。ここでは稲妻が空を走る様子をヘビが這う様子にたとえて用いている。

Ma de' celesti il fulmine
celeste は基本的に形容詞 空の,天の,空色の で、名詞で 空 を意味することはなく、空色 や複数形で 天の精霊,(異教の)神々 を意味する。ここでは (異教の)神々 で採った。

ma ognun di voi pria vittima / del mio furor cadrà.
cadere は自動詞で、正しくは cadrà in vittima。

Recitativo [Dopo il Quartetto]
Recitativo


4/4
(C major)br>
LEUCIPPOレウチッポ
(Periglioso è l'indugio: Ilo potria(遅滞は 危険だ: イーロが
giunger co' suoi fra poco, e allora...)到着することが 【↑】できるかもしれない 彼のものたち【≒ 彼の従者たち】と共に 間もなく、そして その時に…)

ANTENOREアンテーノレ
(Vieni,(来なさい、
là nel carcere istessoあそこで まさに 牢獄で
cadrà pria della figlia il padre oppresso.)娘の前に 苦しめられる父親が 倒れるだろう。)
(viano)(【二人とも】 去る)
Allegro
4/4
(C major)
EMMAエンマ
Voliam, compagne, al lido:飛んで行こう、仲間の女たちよ、海岸に:
tutto ad Ilo fia noto: egli si affrettiすべてが イーロに 知られるだろう: 彼が 急いで行くように
a salvar gl'infelici.不幸な者たちを 救出しに。
(vedendolo giungere)(彼が 到着するのを 見て)
Oh ciel pietoso!ああ 哀れみ深い 天よ!
tu qui volgi i suoi passi.おまえは【= 天は】 彼の足を ここに 向けている。
(incontrandolo)(彼を 出迎えて(incontrandolo)
Oh Prence! accorri...ああ 王子よ! 駆けつけなさい…
Alla consorte, al padre sventurato配偶者に、不幸な父に
sovrasta orribil fato...恐ろしい宿命が 差し迫っている…


(SCENA Ⅵ)(第6場)

(Ilo, ed Eacide, seguiti da numerosa schiera, e dette)(イーロ、そして エアチーデ、たくさんの部隊について来られて、そして 前の場の女たち)

ILOイーロ
Emma... non sai...エンマよ… 君は 知らない…

EACIDEエアチーデ
(dirigendosi alla tomba)(墓の方に行き)
Lascia, ch'ei vada...させておきなさい、彼が 行くように…

EMMAエンマ
È Polidoro in predaポリドーロは 略奪品に なっている
dell'empio usurpator...邪悪な 簒奪者の【≒ ポリドーロは 邪悪な 簒奪者に 捕らわれている】

ILOイーロ
Stelle!星々よ!

EACIDEエアチーデ
E chi mai!それで いったい 誰が 【ポリドーロの居場所を 明かしたのか】

EMMAエンマ
Ah! fu Zelmira istessa,ああ! ゼルミーラ自らだった、
che per fatale ingannoその者は 害のある 策略によって
l'asil del padre palesò.父親の避難所を 明かした。

ILOイーロ
Qual colpo!なんという 打撃だ!

EMMAエンマ
Or di entrambi la morte今や 両者の死を
Antenore minaccia: un solo istanteアンテーノレが 脅している: 一瞬が
può forse agli infelici esser funesto.ことによると 不幸な者たちに 死をもたらすことが できる。

ILOイーロ
Santi Numi del ciel! che giorno è questo!天の 聖なる神々よ! これは なんという日だ!
(parte rapidamente co' suoi, Emma, e le altre lo sieguono)(速く 去る 彼の者たち【彼の従者たち】と共に、エンマは、そして他の女たちは 彼の 後を追う)
È Polidoro in preda
この preda は 略奪品。in preda で 強奪された の意味。

Maestoso
4/4
E major
(SCENA Ⅶ)(第7場)
(Orrido sotterraneo)(恐怖を催させる 地下室)
(Polidoro è svenuto su di un sasso. Zelmira dolente gli è al fianco, infine tutti gli attori, che saranno indicati)(ポリドーロは 石の上で 気を失っている。ゼルミーラは 悲痛に 彼のそばにいる、最後に 他の全員、その者たちは 明示されるだろう)

ZELMIRAゼルミーラ
Oh padre! il duol, l'affannoああ 父よ! 苦悩が、不安が
ti oppresse i sensi, ah torna in vita!... almeno君の感情を 圧迫した、ああ 生気に 戻りなさい【≒ 生気を 取り戻しなさい】!… せめて
gli ultimi voti miei, cielo! deh ascolta...私の 最後の願いを、天よ! お願いだから 聞き入れなさい…
Fa', ch'ei figlia mi chiami un'altra volta.させなさい、彼が もう一度 私を 娘と 呼ぶように。

POLIDOROポリドーロ
(rinviene)(意識を取り戻す)
Chi mi richiama alle sventure?誰が 私を 不幸へと 引き戻すのか?

ZELMIRAゼルミーラ
Un Nume,神が、
che le mie preci accolse.その者は 私の祈願を 受け入れた。

POLIDOROポリドーロ
Ah! già decisoああ! もう 決定された
è il nostro fato!私たちの 宿命は。

ZELMIRAゼルミーラ
Ah barbaro consorte!ああ 粗野な 配偶者よ!
così tu ne abbandoniこのように 君は 私たちを 委ねるのか
al nemico furor!敵の怒りに。
ti oppresse i sensi, ah torna in vita!... almeno
tornare in vita 蘇生する,元気を取り戻す。

Allegro giusto
4/4
(C major)
(si sente aprire una porta)(扉を 開けるのが 聞こえる)

POLIDOROポリドーロ
Ah! strider sentoああ! 私は きしるのを 聞いている
la ferrea porta...鉄製の扉が…

(entrano Antenore. e Leucippo, i quali rinchiudono la porta)(アンテノーレ、そして レウチッポが 入る、その者たちは 扉を 再び閉める) 

ZELMIRAゼルミーラ
Ecco il momento estremo...ほらここに 最後の瞬間が…
Antenore! Leucippo!アンテーノレめ! レウチッポめ!

POLIDOROポリドーロ
Oh vista! io fremo!ああ 【なんという】光景だ! 私は 震える!

ANTENOREアンテーノレ
Sì... fremi pur... già l'alma è a te presagaそうだ… どうぞ 震えなさい… 既に 魂は 君に 予見している
del destin, che ti attende...運命を、それは 君を 待っている【≒ 君の心は 君を 待ち受けている運命を 既に 予感している】

POLIDOROポリドーロ
Ebbene appagaよしそれでは 満たしなさい
l'ira, che ti arde in sen...怒りを、それは 君の胸の中で 燃えている…

ZELMIRAゼルミーラ
(facendo scudo a suo padre)(彼女の父親に 盾になって【≒ 彼女の父親を 守って】)(facendo scudo a suo padre)
Che fai? rispetta,君は 何を しているのか? 大切にしなさい、
empio! i suoi giorni...邪悪な男め! 彼の日々を【≒ 彼の命を】

ANTENOREアンテーノレ
Ah no! di vani accentiああ いいや! 無駄な口調の
or più tempo non &egarve;.時間は もはや ない【≒ 無駄な話を 聞いている 時間は ない】
(si ode rumore di armi, voci indistinte, e varj colpi al muro di prospetto)(聞こえる 武器の物音が、かすかな 声が 、そして 正面の壁の 様々な 叩く音が)

CORO合唱
coro di dentro内部からの【≒ 舞台裏の】 合唱
All'armi ! all'armi!武器を取れ! 武器を取れ!

ANTENOREアンテーノレ
Ma qual fragor?ところで どのような 大音響が?

LEUCIPPOレウチッポ
Quai colpi?どのような 叩く音が?

ZELMIRAゼルミーラ
Oh ciel!ああ 天よ!

POLIDOROポリドーロ
Che fia?どうなるのだろう?

CORO合唱
(coro più vicino)(より 近くの 叩く音)
Morte all'usurpator !簒奪者に 死を!

LEUCIPPOレウチッポ
Ah! ne tradisciああ! おまえは【≒ 邪悪な運命は】 私たちを 裏切る
oh ria fortuna!ああ 邪悪な運命め!

ANTENOREアンテーノレ
(snuda il suo ferro, e si scaglia su Polidoro. Ardita Zelmira brandisce un pugnale, e difende a suo padre. Intanto i colpi raddoppiansi, e cresce lo strepito di armi)(彼の剣を 鞘から抜く、そして ポリドーロに 飛び掛かる。勇敢に ゼルミーラは 短剣を 掴む、そして 彼女の父親を 防御する。そうしている間に 叩く音は 増大する、そして 武器の騒音は 増大する)
Invendicato almeno少なくとも 復讐されずに
io non cadrò...私は 倒れないだろう【≒ 私は 】

ZELMIRAゼルミーラ
Non ti appressar! di un ferro,いいや 近づくでない! 剣で、
che cauta ognor celai,それを 私は 用心深く 常に 隠した、
m'arma ancora la destra un Nume amico.好意的な【≒ 私に 味方する】神が 私の右手を 武装させている。

CORO合唱
Viva Zelmira, e Polidoro!ゼルミーラ 万歳、そして ポリドーロ 【万歳】

(Crolla il muro. Si vede parte della piazza dall'apertura. Entra da questa rapidamente Ilo col ferro nudo, seguito da Eacide, Guerrieri Troiani, Popolo di Lesbo armato, Donzelle, ed Emma col piccolo figlio di Zelmira. Antenore e Leucippo son disarmati)(壁が 崩れる。【壁の】穴から 広場の一部が 見える。それ【= その穴】から 速く イーロが 入る 抜き身の剣を持って、エアチーデ、トロイアの兵士たち、武装したレスボスの人々、侍女たち、そしてエンマ ゼルミーラの小さな息子と共に に ついて来られて。アンテーノレと レウチッポは 武器を取り上げられる)

ZELMIRA E POLIDORO
Oh sorte!ああ 【なんという】運命だ!

ILOイーロ
Ah! venite al mio sen padre, consorte!ああ! 私の胸に来なさい 父よ、配偶者よ!

ANTENOREアンテーノレ
(Oh dispetto!)(ああ 悔しさが!)

ZELMIRAゼルミーラ
Oh piacer!ああ 喜びが!
(si sente aprire una porta)
aprire は基本的に 他動詞 開ける か 再帰動詞 aprirsi 開く で、ここでは他動詞であり、da qlqu. ―によって が省略されている と理解した。

Sì... fremi pur... già l'alma è a te presaga / del destin, che ti attende...
essere presago di - ―を予見する。

Invendicato almeno / io non cadrò...
この invendicato 復讐されない は、物語の展開から見て、ポリドーロを殺さずには という意味だと思われる。

Andantino
4/4
B-flat major
Figlio!息子よ!
(abbracciandolo)(彼を 抱擁して)
ti stringo私は 君を 抱き締めている
un'altra volta al mio materno petto!もう一度 私の 母の胸に

LEUCIPPOレウチッポ
(Ah! la rabbia mi uccide!)(ああ! 怒りが 私を 殺す!)

ILOイーロ
Ite, o crudeli,行きなさい、ああ 残酷な男たちよ、
alla pena dovuta a' vostri eccessi.君たちの 犯行に 見合った 刑罰へと。
(Leucippo, ed Antenore sono trascinati altrove dalle Guardie)(レウチッポは、そして アンテーノレは 別なところに 連れて行かれる 衛兵たちによって)

ZELMIRAゼルミーラ
Numi! e fia ver.. ah! dopo tante pene神々よ! それで それは 本当なのだろうか… ああ! たくさんの苦悩の後に
un momento di pace a me sen viene.平和の瞬間が 私に 来ている。
N. 11
Finale Secondo [Aria Zelmira]

Zelmira

Ilo
Polidoro
Coro
Maestoso
4/4
E-flat major
ZELMIRAゼルミーラ
(a Polidoro)(ポリドーロに)
Riedi al soglio: irata stella玉座に 戻りなさい: 怒った 【運命の】星が
se ne chiuse a te il sentiero,【玉座への】道を 君に 閉ざした、
pura fede, amor sincero【けれども】 けがれない信頼が、誠実な愛が
ti richiama al tuo splendor.君に 君の輝きを 引き戻している。
No più affanni in me non sento,私は もう 私の中に 不安を 感じていない、
ah felice appienio sono,ああ 私は すっかり 幸せだ、
se serbai la vita, il trono私が 命を、玉座を 取っておいた以上
all'amato genitor.最愛の 父に【≒ 私が 最愛の父のために 彼の命と 玉座を 残しておいたのだから】
se serbai la vita, il trono
この se は理由を表す。

Allegro
4/4
E-flat major
CORO合唱
(Coro di Guerrieri, e Donzelle, a Polidoro)(兵士たちの合唱、そして 侍女たち、ポリドーロに)
Fa più grato un sì bel donoこのような 素晴らしい贈り物は より ありがたく思わ せる
se a te l'offre il suo gran cor!彼女の 偉大な心が 君に それを 提供する 以上は!

POLIDOROポリドーロ
Sì... mi è grato un sì bel donoそうだ… このような 素晴らしい贈り物は 私には ありがたい
se mi vien dal tuo gran cor.それが 君の 偉大な心から 私に 来る 以上は。

CORO合唱
Fa più grato un sì bel donこのような 素晴らしい贈り物は より ありがたく思わ せる
se a te l'offre il suo gran cor!それが 彼女の 偉大な心から 君に 来る 以上は!
(Allegro)
4/4
E-flat major
ZELMIRAゼルミーラ
Deh! circondatemiお願いだから! 私を 取り囲みなさい
miei cari oggetti!私の 愛する対象たちよ!
voi, che nell' anima君たちよ、その者たちは 魂の中で
soavi affetti,優しい情愛を、
care delizie大切な歓喜を
destate ognor.いつでも 呼び覚ます。

ILOイーロ
Ognor.いつでも。

POLIDOROポリドーロ
Ognor.いつでも。

ZELMIRAゼルミーラ
Ah, sì... compensinoああ、そうだ… 弁償するように
sì dolci istantiこれほどに 甘美な瞬間が
le pene, i palpiti,苦悩を、戦慄を、
ch'ebbi finor.それを 私が 今まで 抱いた。

ILOイーロ
Finor.今まで。

POLIDOROポリドーロ
Finor.今まで。

ZELMIRAゼルミーラ
E dopo il nembo,そして 黒雲の後に
di pace in grembo平和の懐で
respiri in sen胸の中で 息をするように
sereno il cor.晴れ晴れと 心が。

CORO合唱
Ah, dopo il turbineああ、旋風の後で
di ria procella,邪悪な 嵐の、
la gioia, il giubilo喜びが、歓喜が
c'inondi il cor!私たちの心に 押し寄せるように!
APPENDICE Ⅰ
Revisione per Parigi, 1826
Recitativo [Dopo il Quintetto (N. 10), battute 57a - 105a]
Recitativo


4/4
(C major)br>
(SCENA Ⅶ)(第7場)
(Orrido sotterraneo)(恐怖を催させる 地下室)
(Polidoro è svenuto su di un sasso. Zelmira dolente gli è al fianco, infine tutti gli attori, che saranno indicati)(ポリドーロは 石の上で 気を失っている。ゼルミーラは 悲痛に 彼のそばにいる、最後に 他の全員、その者たちは 明示されるだろう)

ZELMIRAゼルミーラ
Oh padre! il duol, l'affannoああ 父よ! 苦悩が、不安が
ti oppresse i sensi, ah torna in vita!... almeno君の感情を 圧迫した、ああ 生気に 戻りなさい【≒ 生気を 取り戻しなさい】!… せめて
gli ultimi voti miei, cielo! deh ascolta...私の 最後の願いを、天よ! お願いだから 聞き入れなさい…
Fa', ch'ei figlia mi chiami un'altra volta.させなさい、彼が もう一度 私を 娘と 呼ぶように。

POLIDOROポリドーロ
(rinviene)(意識を取り戻す)
Chi mi richiama alle sventure?誰が 私を 不幸へと 引き戻すのか?

ZELMIRAゼルミーラ
Un Nume,神が、
che le mie preci accolse,それは 私の祈願を 受け入れた、
e propizio al figlial tenero amore,そして それは【= 神は】 子の 優しい愛に 情け深く
in vita serba il caro genitore.愛する父を 命に 取っておいている【≒ 神は 娘の愛情に 情けをかけて 愛する父の命を 残してくれている 】
N. 10bis
[Aria Zelmira]

Zelmira

Polidoro
Coro
Andantino
3/4
E major
ZELMIRAゼルミーラ
Da te spero, o ciel clemente,私は おまえから 期待している、ああ 慈悲深い天よ、
sol conforto a' mali miei;ただ 私の不幸への 慰め だけを
di quest'anima gementeこの 呻く 魂の
deh! tu calma il reo dolor.お願いだから! 醜い【≒ ひどい 】苦悩を 君が 鎮めなさい。
Cessi il [barbaro periglio,][残酷な危険が] 終わるように、
cada oppresso il traditor.裏切者が 圧迫されて 倒れるように。
Allegro
4/4
C major
(s'ode aprir una porta)(扉を 開けるのが 聞こえる)

POLIDOROポリドーロ
Stridon le ferree porte...鉄製の扉が きしんでいる…

ZELMIRAゼルミーラ
O Dei! qual fier cimento!ああ 神々よ! なんという 残忍な 試練だ!
(vedendo entrar [Antenore e] Leucippo con Guardie)([アンテーノレと] レウチッポが 衛兵たちと共に 入るのを 見て)
Oh vista! Io fremo, e sentoああ 【なんという】光景だ! 私は 震える、そして 私は 感じている
d'ira avvamparmi il cor.怒りで 心臓が 燃え上っているのを。

POLIDOROポリドーロ
Oh vista! Io fremo, e sentoああ 【なんという】光景だ! 私は 震える、そして 私は 感じている
che in sen si gela il cor.胸の中で 心臓が 凍っているのを。

ANTENORE E LEUCIPPOアンテーノレ と レウチッポ
Giunto è il fatal momento,宿命の瞬間が 来た。
Stridon le ferree porte...
初演稿では la ferrea porta と単数形だったが、パリ稿では複数形になっている。これは直前のト書き s'ode aprir una porta が単数形なのと合わないが、音を聞いて複数と思ったということなのだろう。

(Allegro)
4/4
E major
ZELMIRA E POLIDOROゼルミーラ と ポリドーロ
sfogate il reo furor.君たちは 邪悪な怒りを 口に出している。

POLIDOROポリドーロ
Barbari! olà! Fermate...残酷な男たちめ! そら! 止めなさい…

ZELMIRAゼルミーラ
Son scudo al genitor.私は 父の 盾だ【≒ 私が 父を 守る】

ANTENOREアンテーノレ
Invan tu lo difendi君は 虚しく 彼を 防御している
dal giusto mio furor.私の 正当な怒りから。
Più mosso
4/4
E major
ZELMIRAゼルミーラ
Dell'innocenza, o Dei,ああ 神々よ、
vindici ognor voi siete;おまえたちは いつでも 【↑】無実の 復讐者だ;
deh! il padre difendeteお願いだから! 父を 防御しなさい
dall'empio lor furor.彼らの 邪悪な怒りから。
Sperate invano, o barbari!君たちは 虚しく 期待している、ああ 残酷な男たちめ!
ferir l'amato petto,最愛の胸を 傷つけることを、
se prima non vibrateもし 君たちが 先に 振り降ろさないならば
un ferro nel mio cor.剣を 私の心臓に。
(a Polidoro)(ポリドーロに)
Misero genitore!哀れな 父よ!
vano è sperare pietà.哀れみを 期待することは 無駄だ。
Misero genitore!哀れな 父よ!
invan speriamo pietà.私たちは 虚しく 哀れみを 期待している。

ANTENORE E LEUCIPPOアンテーノレ と レウチッポ
Preda del mio furore,私の怒りの 犠牲者が
estinto al suol cadrà.死んで 地に 倒れるだろう。

POLIDOROポリドーロ
Contro il crudel furore,残酷な 激情に抗して、
o ciel! per lei pietà!ああ 天よ! 彼女に 哀れみを!

ZELMIRAゼルミーラ
Che smanie, che terror!なんという不安だ、なんという恐怖だ!
Misero! barbari!哀れな男よ! 残酷な男たちめ!
[Recitativo] Dopo l'Aria Zelmira
Recitativo


4/4
(C major)br>
(si ode rumore di armi, voci indistinte, e vari colpi al muro di prospetto)(聞こえる 武器の物音が、かすかな 声が 、そして 正面の壁の 様々な 叩く音が)

CORO合唱
(Coro di lontano)(遠くの 合唱)
All'armi! all'armi!武器を取れ! 武器を取れ!

ANTENOREアンテーノレ
Ma qual fragor?ところで どのような 大音響が?
[esce][出る]

LEUCIPPOレウチッポ
Quai colpi?どのような 叩く音が?

ZELMIRAゼルミーラ
Oh ciel!ああ 天よ!

POLIDOROポリドーロ
Che fia?どうなるのだろう?

CORO合唱
(Coro più vicino)(より 近くの 叩く音)
Morte all'usurpator!簒奪者に 死を!

LEUCIPPOレウチッポ
Ah! ne tradisciああ! おまえは【≒ 邪悪な運命は】 私たちを 裏切る
oh ria fortuna!ああ 邪悪な 運命め!
(minacciando Polidoro. Ardita Zelmira brandisce un pu4gnale, e difende suo padre. Intanto i colpi raddoppiansi, e cresce lo strepito di armi)(ポリドーロを 脅して。勇敢に ゼルミーラは 短剣を 掴む、そして 彼女の父親を 防御する。そうしている間に 叩く音は 増大する、そして 武器の騒音は 増大する)
Invendicato almeno少なくとも 復讐されずに
io non cadrò...私は 倒れないだろう【≒ 【ポリドーロを】殺す前に 私は 死にはしない】

ZELMIRAゼルミーラ
Non ti appressar! di un ferro,いいや 近づくでない! 剣で、
che cauta ognor celai,それを 私は 用心深く 常に 隠した、
m'arma ancora la destra un Nume amico.好意的な【≒ 私に味方する】神が 私の右手を 武装させている。

CORO合唱
Viva Zelmira, e Polidoro!ゼルミーラ 万歳、そして ポリドーロ 【万歳】

(Crolla il muro. Si vede parte della piazza dall'apertura. Entra da questa rapidamente Ilo col ferro nudo, seguito da Eacide, Guerrieri Troiani, Popolo di Lesbo armato, Donzelle, ed Emma [col piccolo figlio di Zelmira]. Leucippo è disarmato)(壁が 崩れる。【壁の】穴から 広場の一部が 見える。それ【= その穴】から 速く イーロが 入る 抜き身の剣を持って、エアチーデ、トロイアの兵士たち、武装したレスボスの人々、侍女たち、そしてエンマ [ゼルミーラの小さな息子と共に] に ついて来られて。レウチッポは 武器を取り上げられる)

ZELMIRA E POLIDORO
Oh sorte!ああ 【なんという】運命だ!

ILOイーロ
Ah! venite al mio sen, padre, consorte!ああ! 私の胸に来なさい 父よ、配偶者よ!

LEUCIPPOレウチッポ
(Oh dispetto!)(ああ 悔しさ!)
Andantino
4/4
F major
ZELMIRAゼルミーラ
(abbracciandolo)(彼を 抱擁して)
Figlio! ti stringo息子よ! 私は 君を 抱き締めている
un'altra volta al mio materno petto!もう一度 私の 母の胸に

LEUCIPPOレウチッポ
(Ah! la rabbia m'uccide!)(ああ! 怒りが 私を 殺す!)

ILOイーロ
Già in ceppi freme既に 足かせを付けて【≒ 拘束されて】 震えている
l'indegno usurpator, e al suol trafitto恥ずべき 簒奪者は、そして 刺し貫かれて 地面に 【倒れることで】
la pena pagherà del reo delitto.彼は 彼の 邪悪な罪の刑罰の 報いを受けるだろう。

(Leucippo vien trascinato altrove dalle Guardie)(レウチッポは 別なところに 連れて行かれる 衛兵たちによって)

ZELMIRAゼルミーラ
Numi! E fia ver... ah! dopo tante pene神々よ! それで それは 本当なのだろうか… ああ! たくさんの苦悩の後に
un momento di pace a me sen viene.平和の瞬間が 私に 来ている。
N. 11a
Finale Secondo

Zelmira
Emma
Ilo
Polidoro
Coro
Maestoso
4/4
E-flat major
ZELMIRAゼルミーラ
[a Polidoro][ポリドーロに]
Riedi al soglio: irata stella玉座に 戻りなさい: 怒った 【運命の】星は
più non turba in noi la pace.もはや 私たちの 平和を 妨げてはいない。
Allegro
4/4
E-flat major
Deh circondatemiお願いだから! 私を 取り囲みなさい
miei cari oggetti!私の 愛する対象たちよ!
voi, che nell'anima君たちよ、その者たちは 魂の中で
soavi affetti,優しい情愛を、
care delizie大切な歓喜を
destate ognor.いつでも 呼び覚ます。

ILOイーロ
Ognor.いつでも。

POLIDOROポリドーロ
Ognor.いつでも。
Ah, sì... compensinoああ、そうだ… 弁償するように
sì dolci istantiこれほどに 甘美な瞬間が
le pene, i palpiti,苦悩を、戦慄を。
ch'ebbi finor.それを 私が 今まで 抱いた。

ILOイーロ
Finor.今まで。

POLIDOROポリドーロ
Finor.今まで。

ILOイーロ
E dopo il nembo,そして 黒雲の後に
di pace in grembo平和の懐で
respiri in seno胸の中で 息をするように
sereno il cor.晴れ晴れと 心が。

ZELMIRA E POLIDOROゼルミーラ と ポリドーロ
[S&igarave;, sereno il cor.][そうだ、晴れ晴れと 心が。]

CORO合唱
Ah, dopo il turbineああ、旋風の後で
di ria procella,邪悪な 嵐の、
la gioia, il giubilo喜びが、歓喜が
c'inondi il cor!私たちの心に 押し寄せている!

参考資料

GIOACHINO ROSSINI ZELMIRA, Edizione critica a cura di Helen Greenwood e Kathleen Kuzmick Hansell / FONDAZIONE ROSSINI PESARO / 2005

ZELMIRA / Programma di Sala / Rossini Opera Festival, Pesaro, Italy / 2009

ZELMIRA / Programma di Sala / Rossini Opera Festival, Pesaro, Italy / 1995

GIOACHINO ROSSINI LETTERE E DOCUMENTI VOLUME Ⅰ / FONDAZIONE ROSSINI PESARO / 1992

GIOACHINO ROSSINI LETTERE E DOCUMENTI VOLUME Ⅲa / FONDAZIONE ROSSINI PESARO / 2004

Dizionario Rossiniano / Eduardo Rescigno / Biblioteca Universale Rizzoli / 2002 / ISBN 88-17-12894-5 / 9788817128940


PolidoroFederico Sacchibasso
ZelmiraSilvia Dalla Benettasoprano
IloMert Süngütenore
AntenoreJoshua Stewarttenore
EmmaMarina Comparatomezzosoprano
LeucippoLuca Dall'Amicobasso
EacideXiang Xutenore
Gran SacedoteEmmanuel Francobasso

Górecki Chamber Choir, Kraków
Mateusz PrendotaArtistic Director

Virtuosi Brunensis
Gianluigi Gelmetti

Trinkhalle, Bad Wildbad, Germany
19, 20, 21 and 27 July 2017

2017年のロッシーニ・イン・ヴィルトバートでの演奏会形式公演のライヴ録音。既に公式サイトの記録が消されてしまっているが、公演は7月21、27日だったようで、19、20日は総練習だったのだろう。
第2幕の終盤はパリ稿を使用。
ロッシーニ・ルネサンスの立役者の一人、ジャンルイージ・ジェルメッティが亡くなる4年前にロッシーニの大作を指揮したもの、その点では聞くべき点は多々あるものの、歌手はゼルミーラの シルヴィア・ダッラ・ベネッタ、イーロの メルト・シュンギュ、エンマの マリーナ・コンパラートがなんとか及第点という程度で、あとはこの難曲を歌うには力量がだいぶ不足している。オーケストラも非力。また録音も鮮明ではない。
どういうわけか 第3番 三重唱 の冒頭、ポリドーロの Soave conforto の行 くだり が抜けており、そのためカット無しの全曲録音ではない。


Blu-ray Disc
DECCA
0743466


DVD
DECCA
0743465

PolidoroAlex Espositobasso
ZelmiraKate Aldrichsoprano
IloJuan Diego Floreztenore
AntenoreGregory Kundetenore
EmmaMarianna Pizzolatomezzosoprano
LeucippoMirco Palazzibasso
EacideFrancisco Britotenore
Gran SacedoteSávio Sperandiobasso

Coro del Teatro Comunale di Bologna
Maestro del CoroPaolo Vero

Orchestra del Teatro Comunale di Bologna
DirettoreRoberto Abbado

RegiaGiorgio Barberio Corsetti
SceneGiorgio Barberio Corsetti,
Christian Taraborrelli

CostumiChristian Taraborrelli,
Angela Buscemi

Progetto luciGianluca Cappelletti

Vitrifrigo Arena, Pesaro, Italy
August 2009

2009年のロッシーニ・オペラ・フェスティヴァルでの公演の映像。公式サイトの公演記録によると、公演は2009年8月9、12、15、18日の4回。
第2幕の終盤はパリ稿を使用。おそらくこれが近代におけるパリ稿を用いた初の上演だったと思われる。
この頃が全盛期のフアン・ディエゴ・フローレスのイーロと、まさにバリテノールらしいのクンデのアンテーノレと両テノールが極めて充実している。ケイト・オルドリッチのタイトルロールはやや大人しめだが、十分良く歌っている。その他 ポリドーロの アレックス・エスポージト、エンマの マリアンナ・ピッツォラート、レウチッポの ミルキオ・パラッツォ と準主役級も充実している。加えて ロベルト・アッバード の極めて適切かつ引き締まった音楽が素晴らしい。 ジョルジョ・バルベリオ・コルセッティの演出は、舞台を現代のギリシャ辺りの内乱か革命かに設定し、《ゼルミーラ》が内乱によって引き起こされた悲劇(すんでのところで回避されるが)であることを強調している。一方でほとんどすべての場面が暗く陰気で、背景に負傷兵や苦しむ民衆を据えるのも音楽と噛み合っておらず、ちぐはぐな印象が拭えない。
ところでこの演出では、第1幕 第3番 三重唱で、地下に身を潜め空腹のポリドーロ王に娘ゼルミーラが母乳を飲ませるという場面があって、上演や映像を見た人の話題になった。これは ローマの慈愛 という説話に基づいており、これを描いた絵画もいくつもある。実はこの場面はドルモン・ド・ベロワ の原作戯曲で触れられている(もちろんその場面そのものではないが)。ゼルミルはエマにこう語る。

Du lait que pour mon fils elle avoit destiné,
Mon sein même a nourri mon pere insortuné:
私の息子のために 自然が 用意した乳で
私自身の胸が 不幸な私の父に 食物を与えた。

コルセッティはこの通りの場面を作ったのだ。

CD
OPERA RARA
ORC27

PolidoroMarco Vincobasso
ZelmiraElizabeth Futralsoprano
IloAntonino Siragusatenore
AntenoreBruce Fordtenore
EmmaManuela Custermezzosoprano
LeucippoMirco Palazzibasso
EacideAshley Catlingtenore
Gran SacedoteMathias Hausmannbasso

Scottish Chamber Orchestra Chorus
Chorus MasterMark Hindley

Scottish Chamber Orchestra
Maurizio Benini

Uscher Hall, Edinburgh, Scotland
30 August 2003

2003年8月30日、エジンバラ音楽祭での演奏会形式上演のライヴ録音(拍手も含まれている)。公演はこの1日だけだったようである。これが《ゼルミーラ》のスコットランド初演だった。
アントニーノ・シラグーザは最も声に伸びと勢いがあったが頃で、イーロのカヴァティーナでも果敢にすべての高いニ音に挑んでいる。ブルース・フォードは、1995年のROF公演でもアンテーノレを歌っているが、2003年にはもう高いハ音に余裕がなくなっている。それでもシラグーザとフォードの対比はよくできている。エリザベス・フトラルはやや大人しいゼルミーラ。マルコ・ヴィンコのポリドール、マヌエル・クステルのエンマ、ミルコ・パラッツィのレウチッポ、いずれも上々。
以前のOPERA RARAの録音では、歌手はいいが指揮が… という例が少なくなく、しかしこの録音でマウリツィオ・ベニーニが指揮を執ってくれたのはたいへんありがたい。《ゼルミーラ》はオーケストレイションが充実しているので鳴り過ぎに注意が必要だが、節度と盛り上げを両立させるベテランの技が生きた指揮である。

CD
ERATO
2292-45419-2

PolidoroJosé Garciabasso
ZelmiraCecilia Gasdiasoprano
IloWilliam Matteuzzitenore
AntenoreChris Merritttenore
EmmaBernarda Finkmezzosoprano
LeucippoBoaz Senatorbasso
EacideVernon Midgleytenore
Gran SacedoteLeslie Fysonbasso

Ambrosian Singers
Chorus masterJohn Mccarthy

I Solisti Veneti
Claudio Scimone

Teatro Olimpico, Vicenza, Italy
July 1989

前述の通り、1988年7月19日、ヴェネツィア、フェニーチェ劇場での演奏会形式の本格的蘇演の成功を受けて、1年後の1889年7月にヴィチェンツァのオリンピコ劇場での商業録音されたもの。キャストは端役まですべてヴェネツィア公演と同じ。
チェチーリア・ガズディアのゼルミーラ、ウィリアム・マッテウッツィのイーロ、クリス・メリットのアンテーノレはいずれも適役当たり役で、彼ら全盛期の頃にこの録音が実現したのはたいへんありがたい(3人とも1990年代に入ると衰えが目立ち始める)。特にマッテウッツィは、当時は不可能とすら思われた超高音も鮮やかに決めている。後に古楽メッゾとして活躍するベルナルダ・フィンクのエンマも良い。それだけにポリドーロの ホセ・ガルシア の締まりのない歌が惜しい。クラウディオ・シモーネの指揮は総じて手堅いが、時々妙に速いテンポを取るのが気になる。
前年の演奏会形式上演と合わせたからだろうが、カットが多めで、総演奏時間は155分ほどと短い。

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