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最新更新 2026年04月29日

無断転載 厳禁

GIOACHINO ROSSINI

LE SIÈGE DE CORINTHE

暫定版

《コリントスの包囲》は、クリティカルエディションは既に出来上がっているようだが、まだ刊行されていないので、この項は現状利用できる資料を用いた暫定版である。
台本は、2017年にROFでクリティカルエディションを用いて上演された際のプログラム冊子に掲載されているものに基づいている。
楽譜は、TROUPENAS社の出版総譜および出版ピアノ伴奏譜に基づいている。

したがって、将来クリティカルエディションが刊行された後に大幅な修正が予想されることを承知していただきたい。

初演 1826年10月09日 王立音楽アカデミー(会場は サル・ル・ペルティエ)
First performance 09 October 1826, Paris, L'Academie Royale de Musique (Salle Le Peletier)

台本作家 ルイージ・バロキ, アレクサンドル・スメ
Librettist Luigi Balochi【注】, Alexandre Soumet

原作 ロッシーニ《マオメット2世》 1820 ナポリ の チェーザレ・デッラ・ヴァッレ の台本
⇒ デッラ・ヴァッレの悲劇『アンナ・エリツォ』
Original Libretto by Cesare della Valle for Rossini Maometto Secondo 1820 Nappli
-> Anna Erizo by della Valle 1820

注 彼の姓の綴りについては 作曲 の項の 注 を参照。

《コリントスの包囲》は、ロッシーニが初めてフランス語の台本で作曲したオペラであり、初めて書いたパリのグラントペラである。ナポリで初演した《マオメット2世》の改作ではあるが、当時のギリシャ独立戦争に対するギリシャ支援の世論の高まりを背景に、台本も音楽もより劇的に直された壮大なパリのグラントペラになった。

目次

題名の日本語訳について
作曲
初演、オペラ座での19世紀の上演
イタリア語の《コリントスの包囲 L'assedio di Corinto》、フランス、イタリア外の各国初演
20世紀以降の《コリントスの包囲》の公演
トーマス・シッパーズとランドルフ・ミッケルソンによる改竄上演
楽譜の問題と クリティカルエディション
《マオメット2世》と《コリントスの包囲》
メフメト2世とネグロポンテ陥落
ギリシャ独立戦争

音楽
あらすじ

対訳付き音楽設計図

Ouverture

ACTE PREMIER
N. 1 Introduction
N. 2 Récit et Trio
N. 3 Cavatine de Mahomet
N. 4 Scène et Final

ACTE DEUXIÈME
N. 5 Récit, Air et Chœur
N. 6 Scène, Duo et Chœur
N. 7 Divertissement
N. 8 Récit et Final de l'Acte deuxième

ACTE TROISIEME
N. 9 Récit et Air de Néoclès
N. 10 Scène et Trio
N. 11 Récit, Prophétie et Chœur
N. 12 Récit, Prière et Final

参考資料

題名の日本語訳について

Le siège de corinthe は日本では コリントの包囲 と訳されることが多い。おそらく序曲が日本に紹介された時にそう訳されたのだろう。
フランス語 corinthe は コラント に近く発音される。英語 Corinth は コリント、イタリア語 Corinto コリント のような音になる。
一方でこのギリシャの都市はギリシャでは Κόρινθος であり、コリントス に近く発音される。日本の世界地図での一般的なカナ表記も コリントス である。
オペラ御殿では 地名は日本で最も一般的な表記に従う を原則としているので、Le siège de corinthe も コリントスの包囲 と表記する。

Le siège de corinthe が コリントの包囲 と訳されることが多いのは、おそらくこのギリシャの古い都市が、キリスト教の新約聖書の コリントの信徒への手紙 あるいは コリント人への手紙 で コリント として広まっていたからではないだろうか。これ自体、西欧語からの訳に基づいているのではないだろうか。

作曲

パリは、とりわけオペラ座は、ロッシーニがここを拠点とすることを強く願った。というのも、十数年間パリで活躍していたイタリア人作曲家 ガスパーレ・スポンティーニ Gaspare Spontini 1774―1851 が、1820年にパリを離れてしまったからである。
スポンティーニはナポレオンのご贔屓の作曲家で、ナポレオン皇帝時代に代表作《ウェスタの処女(ヴェスタの巫女)》 1805年 と《フェルナン・コルテス》 1809年 をオペラ座で初演した。しかしルイ18世の復古王政後の1819年12月にオペラ座で初演された《オランピ Olympie》がほぼ失敗に終わったことで、プロイセン王フリードリヒ・ヴィルヘルム3世の熱烈な招きに応じてベルリンに移ってしまったのだ。ちなみに《オランピ》は1821年にベルリンで改訂上演されて成功を収めた。
大物オペラ作曲家不在の状況で、パリはオペラ座は、ナポリから離れたロッシーニを切望した。その結果ロッシーニは1824年、本命だったロンドン 【1】ではなく、パリを拠点に選んだ。

ロッシーニがフランス語のオペラを書く計画は彼がパリに腰を据えてすぐにあった。1824年11月12日、ヴィクトル=ジョゼフ=エティエンヌ・ド・ジュイ Victor-Joseph-Étienne de Jouy 1764―1846 (後に《モイーズとファラオン》と《ギヨーム・テル》の台本を手掛ける) が1816年に書いた 《山の老人 Le Vieux de la montagne》 という台本がロッシーニに送られた 【2】
翌1825年6月(後述の通り《ランスへの旅》の初演があった月)には、ロッシーニが《山の老人》に取り組んでいる痕跡が残されている。

ちょうどこの頃、ヨーロッパではギリシャの動向が大きく注目されていた。
ギリシャは1821年からオスマン帝国の支配から脱し独立しようという機運が高まっていた(⇒ ギリシャ独立戦争)。
英国の高名な詩人、ジョージ・ゴードン・バイロン George Gordon Byron 1788―1824 もギリシャ独立のに熱に取りつかれた一人だった。彼はギリシャに向かい、1823年12月にメソロンギという都市に到着、ここはオスマン帝国による1回目の包囲を凌いだ後だった。彼はギリシャ独立戦争を支援したが、その地で1824年4月19日に病没。バイロンの死は欧州のギリシャへの関心をさらに高めた。
1825年4月、そのメソロンギがオスマン帝国軍に包囲され(そして1年後の1826年4月に陥落する)、ヨーロッパではさらにギリシャに同情的な世論が強まった。
その機に、オペラ座当局は、ロッシーニの初のフランス語オペラとして、《マオメット2世》 1820年 ナポリ をオペラ座向けに改作することを思いついた。《マオメット2世》は、オスマン帝国のスルタン、メフメト2世が、ヴェネツィア共和国支配下のネグロポンテ島(現在のエヴィア島)のハルキスを陥落させる史実に基づいた物語で、今の状況に打って付けだった。
パリには1819年2月から、イタリアオペラをイタリア語で上演する イタリア劇場 Théâtre italien という団体が活動していた(当時の使用劇場は サル・ルーヴォア Salle Louvois)。ロッシーニのイタリア時代のオペラも盛んに上演されており、ロッシーニのパリでの初の新作オペラとして シャルル10世の戴冠祝賀作《ランスへの旅》が、1825年6月19日 イタリア劇場で初演された 【3】
《マオメット2世》もイタリア劇場で上演されることが内定していたという。そのためパリで未上演であっても《マオメット2世》の台本や楽譜などは既にパリにもたらされていたようだ。
改作に当たって、舞台はネグロポンテから古都コリントスに移され、被征服者たちはヴェネツィア人からギリシャ人へと変わった。
こうして新作オペラ《コリントスの包囲》は、オスマン帝国軍の侵攻に立ち向かうギリシャ人の悲劇を描くオペラとなる。

《マオメット2世》のパリ向けの改作の計画は、1825年秋頃に始まったようだ。
1825年11月2日、オペラ座の運営局がスメに、オペラ座の舞台美術長 ピエル=リュク=シャルル・シセリ Pierre-Luc-Charles Cicéri が《マオメ2世》のプログラム le programme de Mahomet 2 を請求してきたと伝えている 【4】。スメに請求しているのだから、この プログラム は 《コリントスの包囲》のプログラム ということだろう。この頃はまだ新作オペラの題名は定まっていなかった。

《山の老人》の制作は後回しにされた(そして頓挫する)。12月上旬、《山の老人》の台本作家ジュイが王立劇場の総監督ラ・ロシュフコー子爵ルイ・フランソワ・ソステヌ1世 1785―1864 に、、王立音楽アカデミーの理事会に催促されて《山の老人》の台本を大急ぎで書いたにもかかわらず、それより前にロッシーニの旧作の改作 un ouvrage parodié de M. Rossini が上演されることになったことに不満を訴えている 【5】

《コリントスの包囲》の台本は、ルイージ・バロキ Luigi Balocchi 【6】 1766―1832 と、アレクサンドル・スメ Alexandre Soumet 1788―1845 が受け持つことになった。
バロキはヴェルチェッリ(ミラノとトリノのちょうど中間に位置する)生まれのイタリア人。1802年にパリに移り、イタリア劇場の詩人、舞台監督として働いていた。
スメは、カステルノーダリ(トゥールーズの南東に位置する)生まれ。1810年にパリに出て、詩人、劇作家として活躍した。彼はオペラの世界では、台本作家として高名な他、ベッリーニ《ノルマ》の原作の悲劇 1831年 の作者としても知られる。
バロキは《ランスへの旅》の台本作者としてロッシーニと関り、そしてスメと共同で《コリントスの包囲》の台本を書いた。バロキはさらに《モイーズとファラオン》 1827年 の台本をジュイと共同で書いている。

ロッシーニの作曲の進捗は、作曲家で1814年から1829年までオペラ座の図書館員、写譜係を務めたフランソワ=シャルルマーニュ・ルフェーヴル François-Charlemagne Lefevre 1775―1839 の手紙で追える。
1826年1月18日、オペラ座の運営局がルフェーヴルに、歌手の練習のために《マオメ2世 Mahomet Ⅱ》の第1幕の各役と合唱の写譜を送ってほしいと依頼している 【7】。ルフェーヴルは2月3日に全ての役の第1幕の譜面を送り、合唱の譜面は目下作業中と報告している 【8 】
3月3日付でオペラ座運営局がルフェーブルに宛てた手紙で、題名が《マオメ2世、もしくは コリントスの包囲 Mahomet Ⅱ, ou Le siège de corinthe》と、まだ副題ながら初めて後の題名が現れている 【9】
4月5日付でルフェーヴルがオペラ座運営局に宛てた手紙では、彼はロッシーニから渡された楽譜が誤りだらけで作業にならないことを嘆いた上で、
私は 第3幕のいくつかの部分を受け取りました、
Je reçois quelques fragmens,

と書いている 【10】。この時点では《コリントスの包囲》はまだ完成には遠い状態だったようだ。

1826年4月、メソロンギはついに陥落する。
同じ月の28日、パリのヴォクサル Vauxhall という施設でギリシャ救済演奏会が催され、これにはロッシーニも大きく関わった。多数の貴族、政治家、亡命ギリシャ人たちを前に、オペラ座やイタリア劇場の歌手たちが、ロッシーニのオペラの中でも愛国的な曲を歌った。こうしたギリシャ救済の催しはこの頃パリで様々な分野で多数行われたという。

そのおよそ1か月後、5月22日付でロッシーニがラ・ロシュフコー子爵に宛てた手紙で、舞台を据えた最初のリハーサルが始まったことが報告されている 【11】
しかしさらにおよそ1か月後の6月28日付でロッシーニがバロキに宛てた手紙で、ロッシーニがラ・ロシュフコー子爵と《コリントスの包囲》公演を9月に延期することで合意したと書いている【12】

正確な時期は不明だが、おそらくこの時期にロッシーニは楽譜の出版権を TROUPENAS社 に売った(そしてこれが今日まで続く楽譜の問題の原因になった)。⇒ 楽譜の問題と クリティカルエディション

リハーサルは9月に入って一気に進んだようで、同月26日には1回目の総練習が行われた 【13】。しかしロッシーニらが第2幕と第3幕を手直しするため、2回目の総練習は一週間後の10月3日に延期された 【14】


1 ロンドンはヘンデルの時代からイタリアオペラの上演が盛んで、ロッシーニもここでならばイタリアオペを作曲できた。

2 GIOACHINO ROSSINI LETTERE E DOCUMENTI VOLUME Ⅱ p.289

3 《ランスへの旅》にも既にギリシャ独立戦争への言及が見られる。六重唱でのコリンナの歌の第3節はこのような歌詞である。

Contro i Fedeli ancora
lotta falcata luna;
ma al sacro ardir fortuna
propizia ognor sara.
Come sul Tebro [e a] Solima,
foriera di vittoria,
simbol di pace e gloria
la Croce splendera.
忠実な者たちに対して 今もなお三日月は戦っている、だが運命は 聖なる勇敢に いつでも 好意的だろう。
テヴェレ川でのように、そしてソリマでのように、勝利の前触れに、平和と栄光の象徴である 十字架が輝くだろう。

i Fedeli 忠実な者たち は キリスト教徒 のこと。
falcata luna 三日月 は新月旗を意味し、イスラム教徒、さらに当時のオスマン帝国を指す。
Tebro テヴェレ川 は ローマ、Solima ソリマ は エルサレムを指す。
1821年から始まったギリシャ独立戦争は、《ランスへの旅》制作の頃には激化しており、初演2か月前にメソロンギ包囲戦が始まっている。このコリンナの第3節はそれを反映した内容である。
なお蘇演後は前6行を、削除するか、後2行の歌詞で置き換えて歌うか して、ここを回避することも多い。

4 ivid. p.429

5 ivid. p.446

6 彼の姓はほとんどの場合で Balocchi バロッキ と綴られるが、ペーザロ・ロッシーニ財団刊《ランスへの旅》のクリティカルエディションでは Balochi バロキ を採用しており、同刊の書簡集でも同様である。ここでも Balochi バロキ にする。

7 ivid. p.468 footnote 2

8 ivid. p.478

9 ivid. p.493

10 ivid. p.504

11 ivid. p.536

12 ivid. p.577

13 ivid. p.624

14 ivid. p.625

初演、オペラ座での19世紀の上演

初演は 1826年10月9日、パリ、オペラ座こと 王立音楽アカデミーの劇場 Théâtre de l'Académie Royale de Musique (会場は ル・ペルティエ劇場 Salle Le Peletier)で行われた。

マオメ2世
Mahomet Ⅱ
アンリ=エティエンヌ・デリヴィス
Henri-Étienne Dérivis
バス
basse

クレオメヌ
Cléomène
ルイ・ヌリ
Louis Nourrit
テノール
ténor

パミラ
Pamyra
ロール・サンティ=ダモロ
Laure Cinti-Damoreau
ソプラノ
soprano

ネオクレス
Néoclès
アドルフ・ヌリ
Adolphe Nourrit
テノール
ténor

イエロス
MHiéros,
アレクソンドル=エメ・プレヴォ
Alexandre-Aimé Prévost
バス
basse

アドラスト
Adraste
ルイ=バルテレミ=パスカル・ボネル
Louis-Barthélemy-Pascal Bonel
バス
basse

オマル
Omar
フェルディナン・プレヴォ
Ferdinand Prévost
バス
basse

イスメヌ
Ismène,
フレモン
Frémont
ソプラノ
soprano


指揮はコンサートマスターである アンリ・ヴァレンティノ Henri Valentino。

アンリ=エティエンヌ・デリヴィス 1780―1856 は、1803年から1828年まで25年に渡ってパリのオペラ座で活躍したバス。南フランス、オクシタニーのアルビの生まれ。オペラ座で彼が創唱した役は、スポンティーニ《ヴェスタの巫女(ウェスタの処女》 1807年 の 大祭司、スポンティーニ《フェルナン・コルテズ》 1809年 の 大祭司,ケルビーニ《アボンセラージュ家(アベンセラヘス家)》 1813年 の アルマル、スポンティーニ《オランピ》 1819年 の アンティゴヌ、など数多い。後述するように《コリントスの包囲》初演の時には彼は活動晩期を迎えていた。

ロール・サンティ=ダモロ 1801―1863 は、パリでのロッシーニの秘蔵っ子というべきソプラノ。本名は ロール=サンティ・モンタロン Laure-Cinthie Montalant。パリでイタリアの大プリマドンナ、アンジェリカ・カタラーニ Angelica Catalani 1780―1849 に学び、卓越したイタリア様式の歌唱を身に着けた。またカタラーニの勧めで Cinthie をイタリア風に Cinti と綴るようになった。彼女はイタリア劇場で活動を始めると、ロッシーニのオペラのヒロインで評判を得る。それをロッシーニ自身に見出され、《ランスへの旅》 1825年 のフォルヴィル伯爵夫人に大抜擢される。直後にオペラ座にも進出し、ロッシーニの《モイーズとファラオン》 1827年 の アナイ、《オリ伯爵》 1828年 の 伯爵夫人、そして《ギヨーム・テル》 1829年 の マティルド を創唱した。さらにオベール《ポルティチの口のきけない女》 1828年 の エルヴィル、マイヤベーア《悪魔ロベール》 1831年 のイサベル も創唱している。1835年にオペラ=コミックに移りこちらでも活躍した。1840年代に入ってもしばらく歌っていた。またパリ音楽院での声楽指導も長く務めた。

アドルフ・ヌリ 1802―1839 は、当時のパリの偉大なテノール。ロッシーニ作品の初演には多く関わっており、《コリントの包囲》のネオクレス、《モイーズとファラオン》のアメノフィス、《オリ伯爵》のタイトルロール、《ギヨーム・テル》のアルノルドを創唱した。さらいマイヤベーア《悪魔ロベール》のロベール、《ユグノ》のラウル、アレヴィ《ユダヤの女》のエレアザルを創唱。《コリントスの包囲》が初演された頃はヌリの絶頂期だった。だが1830年代後半になると、ファルセットーネを多用したヌリの優美な歌い方は、ジルベール・デュプレ Gilbert Duprez に代表されるより逞しい新しい歌い方に押され、人気を失っていく。ヌリは発声改善を求めてナポリを訪れるが、ドニゼッティが彼のために書いた新作《ポリウト》が上演禁止になり、また肝心の発声改善が思うように進まず、行き詰まった末にホテルの窓から投身自殺をしてしまった。37歳の誕生日を迎えた直後のことだった。

ルイ・ヌリ 1780―1831 はアドルフ・ヌリの父で、やはりオペラ座の花形テノールだった。ケルビーニ《アボンセラージュ家》 の アルマンゾル、スポンティーニ《オランピ》のカサンドル などを創唱。この《コリントスの包囲》でのネオクレスが彼の最後のオペラ座出演だったとされる。

アレクソンドル=エメ・プレヴォ(彼の名はしばしば アレクシス Alexis と綴られる) は、1814年にオペラ座に初出演して以降、準主役級のバス役を中心に活動したバス。彼はロッシーニ《ギヨーム・テル》初演のジェスレルとして知られる。

アンリ・ヴァレンティノ 1785―1865は、フランソワ・アブネック François Habeneck 1781―1849 と共に1820年代のオペラ座を支えた指揮者。彼がオペラ座での初演の指揮を務めたのは、スポンティーニ《オランピ》、ロッシーニ《モイーズとファラオン》、《ギヨーム・テル》など多数。1831年にオペラ座を離れた。

公演は大成功だった。新聞評はいくつも残されている。

Le Moniteur 紙 1826年10月11日号に掲載された長い公演評には、《コリントスの包囲》について、そればかりかヨーロッパにおけるギリシャ独立戦争の影響について論じる際にしばしば引用される有名な一節がある。

私たちはコリントスにメソロンギを見た; 圧倒的な劇場的幻惑で 私たちの目の前で全滅したコリントスの防衛者たちを 私たちは ネオクレスとも クレオメヌとも 呼びはしなかった。誰もが完全に、他の名前を、もっと最近の記憶にある名前を 口にしていた。この感情が上演全体を支配し、劇的効果を増大させたに違いなかったことを、そして それが 作品の確実な成功に おおいに貢献しているに違いないことを 書き加えねば 私たちは不当だろう。
Nous avons vu Missolonghi dans Corinthe; et pour nous, les défenseurs de Corinthe détruite sous nos yeux avec tout le prestige de l'illusion théâtrale , ne s'appelaient ni Néoclès , ni Cléomène. D'autres noms étaient dans toutes les bouches , et de plus récents souvenirs dans toutes les imaginations . Nous serions injuste si nous n'ajoutions pas que ce sentiment a dû dominer sur toute la représentation , ajouter à l'effet dramatique , et qu'il doit singulièrement contribuer à la réussite certaine de l'ouvrage.


この『コリントスにメソロンギを見た』という言葉が、初演の観客が《コリントスの包囲を》をギリシャ独立戦争に重ねて観劇していた様子を的確に言い表している。

Le Globe紙 1826年10月12日号にも長い評が掲載された。順を追って見ていく。

第1幕 導入 について。
導入は もしかすると この作品で最も完璧な楽曲かもしれない。
L'introduction êst peut-etre le morceau le plus parfait de l'ouvrage.


第2番 三重唱 について。
小三重唱は完全にそのフレーズだけで作られているのだが、このフレーズよりも優雅で感動的なものは想像できない。
On ne peut rien imaginer de plus gracieux, de plus touchant que cette phrase qui compose à elle seule tout ce petit trio


第1幕フィナル について。
フィナルは 特に目立つものはない。
Le finale n'offre rien de très saillant:


第2幕 ディヴェルティスマン Divertissement について。
それは 気晴らしで divertissant あるには 程遠い。
il est loin d'être divertissant:


第2幕 パミラのエール について。
カヴァティヌは […] サンティ嬢によって とても素晴らしく 歌われた
La cavatine [...] est tres bien chantee par mademoiselle Cinti


第3幕 ネオクレスのエール について。
アドルフ・ヌリが歌うエールは、[…]幅広い語法の そして同時に 平易で【訳注 込み入った装飾歌唱が用いられていない という意味だろう】旋律の美しい歌の曲である。とりわけ あなただ 偉大な神よ などのフレーズは、非常に魅力的な感興である。アドルフ・ヌリの本当に清らかで心地よい声が、そこから見事に魅力を存分に引き出していることは間違いない。このオペラでのアドルフ・ヌリよりも 味わい深く、熱を帯びて、表現力豊かに歌うことは 不可能だ。ネオクレス役は 彼の名声に刻印を押し、そして この時代の最も熟達した歌手たちの中に 彼が ふさわしい という地位を 与えるに違いない。
L'air que chante Adolphe Nourrit [...] est d'un style large et en même temps d'un chant facile et mélodieux. Cette phrase surtout: C'est toi, grand Dieu, etc., est une délicieuse inspiration. Il est vrai que la voix si pure et si moelleuse d'Adolphe Nourrit en fait merveilleusement ressortir tout le charme. Il est impossible de chanter avec plus de gout, de chaleur, et d'expression qu'Adolphe Nourrit dans cet opera : le role de Neocles doit mettre le sceau a sa reputation, et lui donner la place qu'il merite parmi les plus habiles chanteurs de l'epoque.


第3幕 三重唱 について。
その旋律は 魅力的で、そして 三重唱を締め括る 私たちは 天で 再会しよう という思いがけない個所は[…]この上なく劇的な効果を持っている。
La melodie en est charmante, et ce mouvement inattendu qui le termine: Nous nous reverrons dans les cieux [...] est de l'effet le plus dramatique.


総評と終演後の様子。
[…]この作品は完全に成功した。私たちは ロッシーニ氏の 他のいかなる楽曲も 初演で これほどに活発な喝采を受けたとは 思わない。1階後部席からの歓声が30分近くも作者を呼んでいた: 残念ながら作曲者は既に劇場を去っていた。
[...] l'ouvrage a complètement réussi. Nous ne croyons pas qu'aucune partition de M. Rossini ait encore été aussi vivement applaudie à la première représentation. Les cris du parterre ont appelé l'auteur pendant près d'une demiheure: malheureusement il avait quitté le théâtre.


歌手については、アドルフ・ヌリを絶賛しているのは第3幕のエールの評のとおり。

サンティ=ダモロについては、前述のように称賛しつつも、しかし別のところでは厳しい評も書いている。
ちなみにサンティは11月10日の9回目の公演では不調降板し、ルイズ=ジュルメ・ダバディ Luise-Zulmé Dabadie(旧姓 ルル Leroux)が代役に立ったのだが、ダバディの方が好評だったと伝えられる。【1】

デリヴィスに対しては一貫して厳しい。マオメの第1幕のカヴァティヌでのデリヴィスについて
マオメがエールを歌うのだが、【音楽そのものを】厳しく判断すべきではない、というのも それは デリヴィスの【声楽的】限界に収められるように すっかり歪められていたからであり、また彼が叫んででエールをさらに歪めているからである。
Mahomet chante un air qu'il ne faut pas juger sévèrement, puisqu'il a été complètement défiguré pour être mis à la portée de Dérivis, qui le défigure encore par la manière dont il le crie.

デリヴィスは初演当時46歳、歌手生活も晩期に入っていた。前半は、ロッシーニがデリヴィスのために難しい装飾歌唱を外して容易に歌えるよう直すなどの手加減をしたことを指しているのだろう。それでもデリヴィスにはロッシーニの音楽は厳しかったことが後半から分かる。

ともあれ《コリントスの包囲》は初演で大成功を収め、そしてオペラ座のレパートリーに入った。1826年中(つまり2か月弱)に13回、1827年に30回、1828年に20回、1829年に7回と上演され、1839年に計100回に至り、19世紀の総上演数は150回以上を数えた。
なおオペラ座では1835年以降は、短縮されたかたちでバレなどとの2本立てで上演されたそうである。

パリの他でのフランス語の《コリントスの包囲 Le siège de corinthe》の公演については情報が乏しい。
1827年から1830年の間に ベルギーブリュッセルの モネ劇場 で公演があったらしいが、正確な日付や出演者の情報などは見当たらなかった。


1 GIOACHINO ROSSINI LETTERE E DOCUMENTI VOLUME Ⅱ p.507 footnote 2

イタリア語の《コリントスの包囲 L'assedio di Corinto》
フランス、イタリア外の各国初演

まずイタリア語訳詞台本での役名について触れておく。
イタリア語訳詞台本での役名は、オリジナルのフランス語台本での役名をイタリア語化した程度でまったく違う名前に変更されてはいないが、Pamyra と Pamira のように綴りは大差なくともアクセントが異なる場合はある。

フランス語台本イタリア語訳詞台本
Mahomet Ⅱ
マオメ2世
Maometto Ⅱ
マオメット2世

Cléomène
クレオメヌ
Cleomene【1】
クレオメーネ

Pamyra
パミラ
Pamira【2】
パミーラ

Néoclès
ネオクレス
Neocle
ネオークレ

MHiéros
イエロス
Jero
イエロ

Adraste
アドラスト
Adrasto
アドラスト

Omar
オマル
Omar
オマル

Ismène
イスメヌ
Ismene
イズメーネ


オペラ座で成功したオペラは、イタリアにもたらされることが多いのだが、当時のパリのグラントペラは程度の差はあれど政治性を持っていることが多く、その台本をそのままイタリア語に直しただけではイタリア各都市の厳しい検閲を通ることが難しいことがあった。そこで検閲で問題にならないように、フランス語台本を訳す際に政治性、宗教性など問題になりそうな個所を緩和したり削除したり、時には設定や展開まで変更したりするがよく行われた。
《コリントスの包囲》の場合 イスラム教徒のオスマン帝国の侵略に対してコリントスのキリスト教徒たちが徹底抗戦の末全滅する、という筋書きはあまり問題にならなかったようで、展開が改変されるほどではなかった。それでもフランス語台本と異なる訳は随所に見られる。

イタリア語の《コリントスの包囲 L'assedio di Corinto》の初演は、1827年冬(1827年12月か、あるいは1828年1月かもしれない)、ローマ、アッカデミア・フィラルモニカ・ロマーナ Accademia Filarmonica Romana(1821年創立のローマの音楽院)での演奏会形式の上演だった。ただしこの時用いられた訳詞はその後一般的になった訳詞とは異なる。

舞台初演は、1828年1月31日、パルマ、ドゥカーレ劇場。訳詞は カリスト・バッシ Calisto Bassi による。これが後に一般的になる。
この時のパミーラは ジュディッタ・グリージ Giuditta Grisi 1805―1840だった。彼女はジューリア・グリージの姉で、1830年にベッリーニ《カプレーティ家とモンテッキ家》初演でロメオを創唱したことで名高い。

この後、イタリア語の《コリントスの包囲 L'assedio di Corinto》はイタリア各都市の劇場で盛んに上演される人気作になった。
初演直後の主要な公演についてのみ触れる。

1828年四旬節、フィレンツェ、ペルゴラ劇場。ここでもジュディッタ・グリージがパミーラを歌った。

1828年春、ジェノヴァで新しい劇場、カルロ・フェリーチェ劇場が開場した。こけら落とは4月7日、ヴィンチェンツォ・ベッリーニ《ビアンカとフェルナンド》のジェノヴァ向けの改訂稿初演。またガエターノ・ドニゼッティは5月12日に新作《アリーナ、ゴルコンダの女王》を初演。
ドニゼッティはさらにロッシーニ《コリントスの包囲 L'assedio di Corinto》の上演を監修した(公演は5月だったとされる)。アントーニオ・タンブリーニがタイトルロール(彼は以降いくつかの公演で歌った)。この時ドニゼッティは、第2幕のパミーラとマオメットの二重唱 Che vedo? ohimè! の最後の 急 (パリの段階で削除されていた)を pietosa all'amor mio で埋めた。これは好評を博し、続くイタリア各地での《コリントスの包囲 L'assedio di Corinto》の公演でも採用されたのみならず、ナポリのGIRARD社が出版したピアノ伴奏譜にも採用され、(DONIZETTI)とドニゼッティの名前が記されていた。これをRICORDI社が引き継いだが、そこではドニゼッティの名前は消えてしまった。

1828年秋、ボローニャ、コムナーレ劇場。

1828年10月4日、ナポリ、サン・カルロ劇場。マオメットが タンブリーニ、ネオークレが ジョヴァンニ・バッティスタ・ルビーニ、パミーラが アデライデ・トージ と豪華な面々による公演だった。これは、1820年同劇場での《マオメット2世》初演とは異なり、好評だったようで、1830年にトージを起用した再演があった。

1828年12月26日、ミラノ、スカラ座。マオメットが タンブリーニ、パミーラが エンリケッタ(アンリエット)・メリク=ラランド とこちらも豪華な面々だった。
ちなみにスカラ座ではこの4年4か月前の1824年8月16日に《マオメット2世》が上演されており、両作を同じ劇場で上演した数少ない劇場の一つになった。

1829年1月17日、ヴェネツィア、ラ・フェニーチェ劇場。ラ・フェニーチェ劇場のサイトの公演記録が閲覧でき、1月17日から3月21日までに23回もの公演があったことが分かる。ここでもジュディッタ・グリージがパミーラを歌った。

イタリア語の《コリントスの包囲 L'assedio di Corinto》は、1835年頃までイタリア各地で盛んに上演され、1840、50年代にも散発的な上演があった。
確認できる最後の公演は1867年3月27日、ヴェネツィアのラ・フェニーチェ劇場での公演。これは、公演記録が正しければ、1公演だけだった。
この時期は、イタリアが自由と統一を求める人々が政治的弾圧に苦しむ時代から、リソルジメント末期に当たる。意識してであれ無意識であれ、イタリア人たちは《コリントスの包囲》に不満のはけ口を見出していたのではないだろうか。

ところで、イタリアでの《コリントスの包囲 L'assedio di Corinto》の上演でのネオークレの声種については触れておいた方がよいだろう。
《マオメット2世》のカルボが男装メッゾソプラノ役なことから、イタリア語の《コリントスの包囲 L'assedio di Corinto》でもネオークレはメッゾソプラノが歌うことが多かった。
とはいえ、イタリアでのネオークレが必ずメッゾソプラノだったわけではないことが、各地の公演の出版台本から分かる。
1828年で見ると、パルマ ドゥカーレ劇場、フィレンツェ ペルゴラ劇場、フィレンツェ イントレピーディ劇場、ボローニャ コムナーレ劇場、パルマ カロリーノ劇場ではネオークレをメッゾソプラノが歌っているが、しかしヴェネツィア サン・ベネデット劇場、ジェノヴァ カルロ・フェリーチェ劇場、ナポリ、サン・カルロ劇場、ミラノ スカラ座では、オリジナル同様、テノールが受け持っている。ヴェネツィア ラ・フェニーチェ劇場では、1829年の公演ではメッゾソプラノだったが、1836年の上演ではテノール。一方スカラ座では、1842年の公演ではメッゾソプラノになったが、1855年の公演では再びテノールである。
ネオークレをテノールが受け持っているのは主要劇場に多い。これはパリのオペラ座のために書かれたネオークレのアリアは、当時のイタリアのテノールにとって様式が異なっており、それを乗り越えられる優秀なテノール(ジェノヴァでのジョヴァンニ・ダヴィド、ナポリでのジョヴァンニ・バッティスタ・ルビーニのような)でなければ歌えなかったからではないか。そうした歌手は地方劇場では得難かったのだろう。

ドイツ語圏での初演は、1829年1月3日、ドレスデン 王立劇場。イタリア語による上演。

スペイン初演は、1829年12月19日、マドリード、プリンシペ劇場。イタリア語による上演。Gaceta de Madrid 紙 1829年12月22日号に
19日、彼らは【≒ 王族は】 この宮廷劇場では初となる、マエストロ・ロッシーニのオペラ《コリントスの包囲》の上演を見た。
el 19 vieron ejecutar El sitio de Corinto, ópera del maestro Rossini, nueva en los teatros de esta corte.

とある。宮廷劇場とは プリンシペ劇場 Teatro del Principe、現在のエスパニョル劇場 Teatro Español のこと。 マオメットが、《マオメット2世》初演のマオメット、フィリッポ・ガッリ Filippo Galli、ネオークレがメッゾソプラノ ブリジダ・ロレンツァーニ Brigida Lorenzani 1805―1881 だったことが分かっている。
ちなみにカタルーニャのバルセロナでは1831年に上演された。劇場は、出版台本には この上なく素晴らしい町バルセロナの劇場 TEATRO DELL'ECCELENTISSIMA CITTÁ DI BARCELLONA とあるが、これはプリンシパル劇場 Teatre Principal のことだろう。

1831年7月(おそらく半ば)、ウィーンで《コリントスの包囲》の上演があったことが分かっている。というのも、ウィーン滞在中のフレデリック・ショパンがこの公演を観劇して、家族宛ての手紙で報告しているからである。インターネット上に公開されている19世紀ドイツのショパン研究の権威、フリードリヒ・ニーックス の Frédéric Chopin als Mensch und Musiker の182ページにはこうある。
ロッシーニの《コリントスの包囲》が先日ここでとてもよく上演された、そして私はこのオペラを知ることができて嬉しく思っている。ハイネフェッター嬢も、ヴィルト氏、ビンダー氏そしてフォルティ氏も […]そこに出演して そして 最善を尽くしていた。
Rossini's 'Belagerung von Corinth' wurde neulich hier sehr gut aufgeführt, und ich bin froh, diese Oper kennen gelernt zu haben. Fräulein Heinefetter, sowie die Herren Wild, Binder und Forti [...] traten darin auf und gaben ihr Bestes.

Heinefetter はおそらくザビーネ・ハイネフェッター Sabine Heinefetter 1809―1872 で、彼女はソプラノ、つまりパミラだったろう。この公演がフランス語だったのかイタリア語だったのかあるいはドイツ語だったかは分からない。またこれがオーストリア初演だったかどうかも分からないが、これより前にオーストリアで公演が合った情報はない。

英国初演は、1834年6月5日、ロンドン。イタリア語。マオメット2世が タンブリーニ、クレオメーネが ニコラ・イヴァノフ Nicola Ivanoff、パミーラが ジューリア・グリージ Giulia Grisi(ジュディッタの妹)、ネオークレが ルビーニ、などと豪華な面々だった。
ちなみにその2年後の1836年11月8日、英国ロンドン、ドルリーレーン劇場で ジェイムズ・プランシェ James Planché による 英語訳詞 The siege of Corinth が上演された【4】

米国初演は、1835年2月6日、ニューヨーク。イタリア語の《コリントスの包囲 L'assedio di Corinto》【5】,【6】。イタリアからの長期巡業オペラ団による公演と思われる。マオメット2世が ポルト Porto、クレオメーネが ルイージ・ラヴァーリア Luigi Ravaglia、パミーラが クレメンティ―ナ・ファンティ Clementina Fanti、ネオークレが ジュリア・ウィートリー Julia Wheatley、イエロが フェッレーロ Ferrero、アドラストが スパニョーリ Sapignolli、オマルが モンテラージ Monterasi、イズメーネが ロジーナ・ファンティ Rosina Fanti。
一座のプリマドンナ、クレメンティ―ナ(本名クレメンタ Clementa)・ファンティは1809年、ボローニャ近郊ゾーラ・プレドーザのジェッソ地区の生まれ。米国には1833年から1835年まで滞在し、たいへん人気があったという。1905年まで長命した。
ちなみにこの一座はこの半月後の2月22日にニューヨークのシティ・ホテルでモーツァルト レクイエムの米国初演を行っており、C. ファンティ、ウィートリー、ラヴァーリア、ポルトが参加した。

ポルトガル初演は、おそらく 1835年、リスボン、サン・カルロス劇場。
ちなみにポルトガルでは1837年、ポルト サン・ジョアン劇場でも上演された。

2026年時点で日本では未上演である。

※ 公演情報の多くはCoragoの検索結果から辿った各公演の出版台本に基づいている。

1 1828年パルマでのイタリア語舞台初演の出版台本では Cleoméne と-me- の e にアキュートアクセントが入っている。

2 フランス語台本の Pamyra は -ra にアクセントが入るが、イタリア語台本の Pamira は -mi- にアクセントが入る。
3 Operas in English A Dictionary, p. 450 / Margaret Ross Griffel / Scarecrow Press / 2013 / 9780810883253

4 Records of the New York stage, from 1750 to 1860, p. 126 / Joseph N. Ireland / T. H. Morreli Publisher / 1867

5 フランクリン・メーサ Franklin Mesa著 Opera: An Encyclopedia of World Premieres and Significant Performances, Singers, Composers, Librettists, Arias and Conductors, 1597-2000 の249ページに New Orleans , Théâtre d'Orléans , Dec. 16, 1830 (in French as Le siège de corinthe) という記述があり、これが正しいならばこれが米国初演ということになる。しかし他にこの情報は見当たらず、またこの日この劇場で上演されたのは《オリ伯爵 Le comte ory》とする記述がある(未確認)ことから、この情報は保留とする。

20世紀以降の《コリントスの包囲》の公演

フランス語の《コリントスの包囲 Le siège de corinthe》にせよイタリア語の《コリントスの包囲 L'assedio di Corinto》にせよ、20世紀最初の《コリントスの包囲》の公演がいつどこでなのかは、調べが つかなかった。

少なくとも第二次世界大戦後の最初の重要な上演は、1949年、フィレンツェでの公演でのイタリア語の《コリントスの包囲 L'assedio di Corinto》の公演である(これを20世紀最初の《コリントスの包囲》の上演としている資料もある)。
フィレンツェ五月音楽祭のアーカイヴのサイトに公演記録がある。それによると公演は1949年6月4,8,12日の3回、市立劇場。マオメット2世が ライムンド・トレス Raimundo Torres 1912―1987 スペイン人のバス、クレオメーネが ミルト・ピッキ Mirto Picchi、パミーラが レナータ・テバルディ Renata Tebaldi、ネオークレが ミリアム・ピアッツィーニ Miriam Pirazzini、イエロが ジューリオ・ネーリ Giulio Neri、アドラストが ブレンノ・リストーリ Brenno Ristori、オマルが エツィオ・アキッリ Ezio Achilli、イスメーネが ジャンネッラ・ボネッリ Giannella Borelli。ガブリエーレ・サンティーニ Gabriele Santini 指揮 フィレンツェ五月音楽祭管弦楽団 Orchestra del Maggio Musicale Fiorentino、フィレンツェ五月音楽祭合唱団 Coro del Maggio Musicale Fiorentino、合唱指導 アンドレア・モロジーニ Andrea Morosini。演出 エンリーコ・フリジェーリオ Enrico Frigerio。舞台 ジャンニ・ラット Gianni Ratto。衣装 エベ・コルチャギ Ebe Colciaghi。
フィレンツェ五月音楽祭は1933年の創立以来、上演の途絶えていた名作を上演して蘇らせることが常で、この《コリントスの包囲 L'assedio di Corinto》もその一つだった。
まだデビューして数年の27歳のテバルディがパミーラを歌った(テバルディもペーザロ生まれ)

テバルディはさらに2度パミーラを歌った。
1951年にはローマ歌劇場がイタリア語の《コリントスの包囲 L'assedio di Corinto》を上演した。ローマ歌劇場のアーカイヴのサイトに公演記録がある。出演者などはこちらを。公演は1951年5月5,9,11,13日の4回。Allestimento del "Maggio Musicale Fiorentino とあり、フィレンツェ五月音楽祭と提携した公演で、演出、舞台、指揮、パミーラ(テバルディ)、クレオメーネ、ネオークレ、イエロが共通している。
YouTubeに不完全な全曲録音があがっているが、音質は極めて悪い。

1952年1月には、ナポリ、サン・カルロ劇場で、やはりパミーラにテバルディを起用したイタリア語の《コリントスの包囲 L'assedio di Corinto》の公演があった。インターネット上に公演記録は見当たらなかったが、このライヴ録音はLPやCDで何度も発売されている。それによると、マオメット2世が マーリオ・ペトリ Mario Petri、クレオメーネが ミルト・ピッキ Mirto Picchi、パミーラが レナータ・テバルディ Renata Tebaldi、ネオークレが ミリアム・ピアッツィーニ Miriam Pirazzini、イエロが ラッファエーレ・アリエ Raffaele Arie、アドラストが ピエロ・デ・パルマ Piero de Palma、オマルが アウグスト・ロマーニ Augusto Romani、イスメーネが アンナ・マリア・ボレッリ Anna Maria Borrelli。ガブリエーレ・サンティーニ Gabriele Santini 指揮 ナポリ・サン・カルロ劇場管弦楽団,合唱団 Orchestra e Coro del Teatro di San Carlo Napoli。
ライヴ録音は1月2日の公演のものとされる。

オリジナルのフランス語の《コリントスの包囲 Le siège de corinthe》が20世紀のいつ初めて上演されたのかは調べが付かなかった。
全曲ではないが、1967年頃にパリのORTF フランス放送協会 がフランス語の《コリントスの包囲 Le siège de corinthe》の抜粋を放送用に収録したことが分かっている。マオメ2世が クリスタ・クリスティッチ Krista Kristic、クレオメヌが レミ・コラザ Remy Corazza、パミラが クリスティーヌ・エダ=ピエール Christiane Eda-Pierre、ネオクレスが アンドレ・マラブレラ Andre Mallabrera、イエロスが ピーエル・ト Pierre Thau、オマルが ベルナール・ドミニ Bernard Demigny、イスメヌが イサベル・アンドレアニ Isabel Anhdreani。マルセル・クロ Marcel Couraud 指揮 ORTF管弦楽団,合唱団 Orchestre national de l'ORTF。収録日は不明だが、1968年1月4日に放送された。
実際に録音を聞いていないので収録箇所を正確に把握できないが、第1幕のマオメのカヴァティヌで La gloire et la fortune が歌われているという情報がある。TROUPENAS社の出版総譜にもイタリア語の《コリントスの包囲 L'assedio di Corinto》にも欠けているこの箇所を、当時オーケストラ伴奏で演奏したのは驚きだ。

1969年春、ミラノのスカラ座がイタリア語の《コリントスの包囲 L'assedio di Corinto》を上演した。この公演は大きな評判を呼び起こしたが、しかしトーマス・シッパーズとランドルフ・ミッケルソンによって用意された楽譜は極めて問題のあるものだった。これについては別項を立てる。⇒ トーマス・シッパーズとランドルフ・ミッケルソンによる改竄上演

1974年にEMIがロンドンでイタリア語の《コリントスの包囲 L'assedio di Corinto》を全曲録音し、これはLPと後にCDで発売された。これもシッパーズとミッケルソンの上演譜を用いていたが、スカラ座の時とは少し異なる。⇒ トーマス・シッパーズとランドルフ・ミッケルソンによる改竄上演

翌1975年にはメトロポリタン歌劇場で公演があった。キャストは、そしておそらく楽譜の状態は、EMI録音と同様と思われる。⇒ トーマス・シッパーズとランドルフ・ミッケルソンによる改竄上演

1982年、フィレンツェでイタリア語の《コリントスの包囲 L'assedio di Corinto》の公演があった。フィレンツェ五月音楽祭のアーカイヴに公演記録がある。それによると公演は1982年12月18,21,23,28,30日、市立劇場。マオメット2世が ニコラ・ギュゼレフ Nicola Ghiuselev、クレオメーネが オッターヴィオ・ガラヴェンタ Ottavio Garaventa、パミーラが カーティア・リッチャレッリ Katia Ricciarellia、ネオークレが マルティーヌ・デュプイ Martine Dupuy、イエロが アントーニオ・ゼルビーニ、アドラウストが オッターヴィオ・タッデイ Ottavio Taddei、オマルが アルマンド・カフォーリオ Armando Caforio、イスメーネが グローリア・バンディテッリ Gloria BanditelIi。エリアフ・インバル Eliahu Inbal 指揮 フィレンツェ五月音楽祭管弦楽団 Orchestra del Maggio Musicale Fiorentino、フィレンツェ五月音楽祭合唱団 Coro del Maggio Musicale Fiorentino、合唱指導 ロベルト・ガッビアーニ Roberto Gabbiani。演出、舞台と衣装が ピエール・ルイージ・ピッツィ Pier Luigi Pizzi。
YouTubeに不完全ながら全曲録音が上がっている。ネオークレはメッゾソプラノが受け持っているものの、第3幕のネオークレのアリアは E fia ver, mio Signor が歌われた。

1985年11,12月、初演地パリのオペラ座(ただしこの時はガルニエ宮)でフランス語の《コリントスの包囲 Le siège de corinthe》が上演された。。1972/1973年シーズン以降ののオペラ座の公演記録を公開しているMEMOPÉRA公演記録が見られる。それによると、公演は1985年11月15,18,20,22,24,26日,12月2,4,7,10日の10回。マオメ2世が フェルッチョ・フルラネット Ferruccio Furlanetto、クレオメヌが カーティス・レイヤム Curtis Rayam、パミラが カーティア・リッチャレッリ Katia Ricciarelli(11月15,18日,12月2,4日)と クリスティーヌ・バルボー Christine Barbaux(11月20,22,24,26日,12月7,10日)、ネオクレスが マルティーヌ・デュピュイ Martine Dupuy、イエロスが ジャン=フィリップ・クルティス Jean-Philippe Courtis、オマルが ハリー・ピーターズ Harry Peeters 、イスメヌがエヴァ・ソロヴァ Eva Saurova。(ここにはアドラスト役の表記がない)。指揮が アーノルド・エストマン Arnold Östman。
フランス語上演だが、ネオクレスはメッゾソプラノが受け持っている(第3幕のエールはオリジナルの Grand Dieu,)。

1992年、ジェノヴァ、カルロ・フェニーチェ劇場でフランス語の《コリントスの包囲 Le siège de corinthe》の公演があった。これがイタリアで初のフランス語の《コリントスの包囲 Le siège de corinthe》の上演だったという。OPERA '92 ANNUARIO DELL'OPERA LIRICA IN ITALIA / E.D.T. Edizioni di Torino / 9788870631616 記載の公演記録によると、マオメ2世が マルチェッロ・リッピ Marcello Lippi と 6月10日のみ フランコ・フェデリーチ Franco Federici、クレオメヌが ダーノ・ラッファンティ Dano Raffanti、パミラが ルチアーナ・セッラ Luciana Serra、ネオクレスが マウリツィオ・コメンチーニ Maurizio Comencini、イエロスが アルナンド・カフォーリオ Arnando Caforio、アドラウストが ヴィート・マルティーノ Vito Martino、オマルが フランチェスコ・ファチーニ Francesco Facini、イスメヌが フランチェスカ・プロッヴィジョナート Francesca Provvisionato。パオロ・オルミ Paolo Olmi 指揮 ジェノヴァ・オペラ市立劇場管弦楽団,合唱団。Orchestra e coro del Teatro Comunale dell'Opera di Genova。演出、舞台と衣装が アッティーリオ・コロンネッロ Attilio Colonnello。合唱指導が ジャンフランコ・コズミ Gianfranco Cosmi。公演は6月2,4,7,10,12,14日の6回(12日と14日は定期外公演 fuori abbonamento)。
公演後すぐにCDで、16年後にDVDでも発売された。CDの収録日は 1992年6月2/14日、一方DVDは収録日を 7月2日 と表示しているが、初日 6月2日 の誤記だと思われる。この公演のCDによってオリジナルのフランス語版の音楽が広く知られるようになった。

1993年、オペラの舞台であるギリシャでの初演があった。The Athenian 誌 1993年1月号に載った公演案内によると、1993年1月3、6、11日、アテネのギリシャ国立歌劇場。指揮者や出演者などの詳細は不明で、歌唱がイタリア語だったのかフランス語だったのかすら分からないが、演出は マーリオ・コッラーディ Mario Corradi だったという。

2000年、ロッシーニ・オペラ・フェスティヴァル ROFで《コリントスの包囲 Le siège de corinthe》が初めて取り上げられた。もちろんフランス語による。2000年8月5,8,11,14日、ロッシーニ劇場 Teatro Rossini。公演記録。出演者などはこちらを。
この時の公演の楽譜についてはプログラム冊子の配役表に Revisione della fonte Troupenas, preparatoria alla edizione critica della Fondazione Rossini di Pesaro と告知された。⇒ 楽譜の問題と クリティカルエディション
この公演は、優れた歌手が何人も起用されたにもかかわらず、オペラの演出が初めてだったマッシモ・カストリの舞台(3幕すべてが数本の木があるだけの草原のような場所)が不評だった。ROFでの再演はない。

この2000年のROF公演は翌年のリヨン国立歌劇場での公演と提携していたようである。このリヨン公演はインターネット上に信頼できる情報がないが、YouTube には10月90日公演の私的収録の映像が上がっており、その冒頭の表示によると、マオメ2世が ミケーレ・ペルトゥージ Michele Pertusi、クレオメヌが スティーヴン=マーク・ブラウン Stephen-Mark Brown、パミラが ダリーナ・タコヴァ Darina Takova、ネオクレスが マルク・ラオ Mark Laho、イエロスが クリストフ・ペル Christoph Pel、アドラウストが ジェラール・ブルゴワン Gerard Bourgoin、オマルが ポール・ゲ Paul Gay、イスメヌが エレヌ・オバディア Helene Obadia。マウリツィオ・ベニーニ Maurizio Benini 指揮 リヨン歌劇場管弦楽団、合唱団。演出が マッシモ・カストリ Massimo Castri、舞台と衣装が マウリツィオ・バロ Maurizio Balò。
指揮、演出、オーケストラ、マオメ、クレオメヌがROF公演と共通している。
なおリヨン公演では第2幕のバレが省略された。
YouTubeに全曲映像があがっている。

2002年6月、物語の舞台であるコリントスでイタリア語の《コリントスの包囲 L'assedio di Corinto》が上演された。ギリシャ国立歌劇場のサイトギリシャ国立歌劇場の80年というページから2002年の公演を辿ると公演情報が見られる。それによると、かつてのコリントス(現在のコリントスより内陸)の城塞、アクロコリントス Acrocorinth の岩壁の麓の特設舞台で、ギリシャ国立歌劇場によって上演されたという。演出,舞台装置,衣装が ニコス・ペトロプロス Nikos Petropoulos。指揮が ニールス・ムース Niels Muus。マオメット2世が イルダール・アブドラザコフ Ildar Abdrazakov、パミーラが ルチアーナ・セッラ Luciana Serra、ネオークレが ダニエラ・バルチェッローナ Daniela Barcellona、とある。一方YouTubeに私的収録(おそらく記録用だろう)の全曲映像と全曲音声上がっており、そこからクレオメーネが グレゴリー・クンデ Gregory Kunde、イエロが ディミトリ・カヴラコス Dimitri Kavrakos 、アドラストが タナシス・エヴァンゲロウ Thanasis Evangelou、オマルが キロス・パトサリディス Kiros Patsalidis、イスメーネが ヴィクトリア・マイファトヴァ Victoria Maifatova と分かる。
なおアルベルト・ゼッダの公式サイト年代順公演記録によると、2002年6月28,30日、アテネ、ギリシャ国立歌劇場 とあり、あるいは予定ではゼッダが指揮するはずだったのかもしれない。

2006 / 2007年のシーズンに、米国 メリーランド州のボルチモア・オペラ(当時の正式な名称は Lyric Opera House だが、もっぱら The Baltimore Opera と呼ばれていた)でイタリア語の《コリントスの包囲 L'assedio di Corinto》の公演があった。地元紙THE BALTIMORE SUN紙の2005年11月20日刊での公演予告によると、公演は2006年10月、ソプラノ(つまりパミーラ)が エリザベス・フトラル Elizabeth Futral、メッゾソプラノ(ネオークレ)がヴィヴィカ・ジュノー Vivica Genaux、指揮が スティーヴン・ホワイト Steven White(フトラルの夫)。インターネット上で信頼できる情報はこれくらいだが、公演を観劇した人の感想や断片的な情報は残っており、それらを集めると、マオメットが デイヴィッド・カッシング David Cushing、クレオメーネが ブルース・フォード Bruce Ford、イエロが ブレダン・クック Brendan Cooke。演出が エリザベス・バックマン Elizabeth Bachman。
フトラルが第2幕で Ah! che spiegar non posso を歌ったという感想があり、あるいはMETでのシッパーズとミッケルソンの改竄譜を用いていたのかもしれない。
もしかしたらこれがイタリア語の《コリントスの包囲 L'assedio di Corinto》の直近の上演かもしれない。

2010年、ドイツ、バート・ヴィルトバートでの ヴィルトバートでのロッシーニ Rossini in Wildbad でフランス語の《コリントスの包囲 Le siège de corinthe》が上演された。この音楽祭が公開している2010年公演プログラム冊子のPDFによると、公演は7月18、23日の2回、トリンクハレ Trinkhalle。使用楽譜について、上記公演プログラム冊子によると、ジャン=リュク・タンゴによる 本来の版に従った そして 上演資料に従った 改訂稿 Revision nach der Originalausgabe und nach den Aufführungs-Quellen von Jean-Luc Tingaud とあり、さらに フロリアン・バウアーによる 音楽祭のの新版 Neuausgabe des Festivals von Florian Bauer ともある。一方NAXOSから発売されたCD付属のブックレットでの英語の同様の内容では、前者の 上演資料 の部分が the parts for the first performance (Théâtre de l’Académie de Musique, Paris, 9 October 1826) と記述されており、上演資料とは初演時のパート譜であることが分かる。これ以上詳しいことは分からないが、録音で聞ける演奏は基本的にTROUPENAS社の出版総譜に基づいており、おそらく細かい点で近年発見された資料を反映させているということではないか。NAXOS からCDが出た。出演者などは ⇒ 参考資料 を。

2017年、ロッシーニ・オペラ・フェスティヴァル ROFで新制作上演が行われた。公演記録。出演者などは公演記録を。これはダミアン・コラス校訂のクリティカルエディションを用いた初の公演だったと思われる。⇒ 楽譜の問題と クリティカルエディション
音楽面では総じて充実していたものの、ラ・フラ・デルス・バウスのカルルス・パドリッサの演出はかなり不評だった。

2021年、アテネでフランス語の《コリントスの包囲 Le siège de corinthe》が上演された。幸いなことにアドラストを歌ったクリストス・ケクリスのサイトに公演情報がある。以下英語版に基づくと、公演は2021年10月19日、オリンピア市マリア・カラス音楽劇場。マオメ2世が ナウエル・ディ・ピエロ Nahuel Di Pierro (アルゼンチン生まれ)、クレオメヌが ジョン・アーヴィン John Irvin (米国生まれ)、パミラが クリスティーナ・プーリチ Christina Poulitsi、ネオクレスが セルゲイ・ロマノフスキ Sergey Romanovsky (ロシア生まれ)、イエロスが クリストフォロス・スタンボグリス Christoforos Stamboglis、アドラウストが クリストフ・ケクリス Christos Kechris、オマルが ニコス・コテンディス Nikos Kotenidis、イスメヌが メーリ=エレン・ネジ Mairy-Elen Nezi。ヨルゴス・ペトル Giorgos Petrou 指揮。 ギリシャ語でドレスリハーサルの様子を紹介しているサイトがあるのだが、この写真を見ると、背景に映像を投影した演奏会形式上演だったことが分かる。

2023年、ドイツのエアフルト劇場でフランス語の《コリントスの包囲 Le siège de corinthe》が上演された。公演記録によると、マオメ2世が アルトゥーロ・エスピノーサ Arturo Espinosa(チリ生まれ)、クレオメヌが リュク・ロベール Luc Robert (カナダ生まれ)、パミラが カンデラ・ゴテッリ Candela Gotelli (アルゼンチン生まれのイタリア系)、ネオクレスが ブレット・スプレイグ Brett Sprague (米国生まれ)、イエロスが エマヌエル・イェッセル Emanuel Jessel、アドラウストが Ks.イェルク・ラートマン Ks. Jörg Rathmann、オマルが トビアス・シェーファー Tobias Schafer、イスメヌが ヴァレリア・ムドラ Valeria Mudra (ウクライナ生まれ)。ヤニス・プスプリカス Yannis Pouspourikas 指揮 フィルハーモニッシェス・オルケスター・エアフルト、エアフルト劇場オペラ合唱団。演出が マルクス・ディエツ Markus Dietz、舞台が イネス・ナディール Ines Nadler、衣装が マイケ・ヘッガー Mayke Hegger。ここには初日 2023年1月28日 の日付しかないが、THEATERKOMPASSというサイトのこの公演の案内によると、公演はさらに2月5,8,25日,3月3,12,26日、4月14日の計8回行われた。コラス校訂のクリティカルエディションを使用したとあり、バレも含めての上演。

2026年のロッシーニ・オペラ・フェスティヴァル ROFでは、初演200周年を記念した上演が予定されている。公演案内

トーマス・シッパーズとランドルフ・ミッケルソンによる改竄上演

ミラノのスカラ座は1969年春のシーズンに《コリントスの包囲 L'assedio di Corinto》を上演した。スカラ座のサイトのアーカイヴの公演記録。出演者などの詳細は各公演日の公演ポスターで分かる。公演は1969年4月11,14,17,20日と5月2日の5回。4月20日のイスメーネだけ代わっているが、それ以外はシングルキャスト。

この時用いられた楽譜は、スカラ座の上演告知ポスターによると、指揮を受け持ったトーマス・シッパーズ Thomas Schippers と音楽学者の ランドルフ・ミッケルソン Randolph Mickelson によって用意されたものだった。このシッパーズとミッケルソンによる上演譜は、イタリア語の《コリントスの包囲 L'assedio di Corinto》そのものではなく、そこに《マオメット2世》の音楽を多く盛り込んだ(その上で大幅なカットを入れた)もので、恣意的で非常に問題の多いものであった。
以下いくつかの点に絞って見て行く。

イタリアでは《コリントスの包囲》のネオークレはしばしばメッゾソプラノが受け持っていた。シッパーズとミッケルソンによる上演譜でもネオークレはメッゾソプラノであるが、その上で第3幕のアリア E fia ver, mio Signor を《マオメット2世》のカルボのアリア Non temer: d'un basso affetto にすっかり差し替えてしまった。後者は 緩 カンタービレ / 急 カバレッタ の二部構成のアリアで、歌詞も音楽も性格もまったく異なり長さもずっと長いのだが、まったくお構いなしだった。
それだけではない。シッパーズとミッケルソンは、ネオークレに、舞台裏からのギリシャ人の娘たちの祈りの合唱に続いて、ネオークレのアリアを途中 No, ben credo al tuo detto から端折りつつアリアの最後まで歌わせた。結果、ホーンはアリアを2つほぼ立て続けに歌ったのである。

第2幕のパミーラのアリア Dal soggiorno degli estinti も《マオメット2世》のアリアに差し替えられた。これは事情がややこしいので順を追って説明する。
Dal soggiorno degli estinti(元のフランス語では Du séjour de la lumière,)は、《マオメット2世》第2幕フィナーレのアンナの Madre, a te che sull'empiro の更生である。これは 急 / 緩 / 大詰めの自刃の場面 の緩 にあたる
シッパーズとミッケルソンはこの箇所を《マオメット2世》のものに差替えただけでなく、これに先立つ 急 Si, ferite: il chieggo, il merto; も含めて差し替えた。この時点で 急 / 緩 の形である。
ロッシーニが《コリントスの包囲》でこの後に据えた 急 Mais apres un long orage, は、《マオメット2世》のカルボのアリアの 急 カバレッタ E d'un trono alla speranza の更生である。そしてこれは先のネオークレのアリアの差し替えの中に含まれていた。そのままでは2役が同じ音楽を被って歌うことになる。
そこでシッパーズとミッケルソンは、これを外し、代わりに若き日のロッシーニの《バビロニアのチーロ Ciro in Babilonia》1812 からヒロイン アミーラ のアリアのカバレッタ No, più non spero, oh Dio! を引っ張って来て 急 として据え付けた。これで 急 / 緩 / 急 の三部構成のアリアが仕立てられた。
しかしまだブレイクする前のロッシーニの宗教オペラのアリアは、パリでのグラントペラの音楽の中ではもちろん、ナポリ時代末期のロッシーニ音楽ともかなり異質で、不格好な接ぎものになってしまった。ロッシーニ研究の権威 フィリップ・ゴセット Philip Gossett はその著 Divas and Scholars の中でこの措置を 冷笑を招くような結果になった with a ludicrous result と批判している。 ただし残されたライヴ録音ではこの箇所は歌われておらず、早い段階で外されたのかもしれない。

これらの差し替えは、歌手のためだったに違いない。このスカラ座公演では2人の米国人歌手、ベヴァリー・シルズとマリリン・ホーンがスカラ座デビューしている。シルズは見事な高音と超絶的な装飾歌唱の技術を誇ったソプラノだった。ホーンは当時コロラトゥーラ・メッゾソプラノとしては一人飛び抜けていた歌手だった。彼女たちの力量を存分に発揮させるためにこうした措置を施したと思われる。
果たせるかな、スカラ座での《コリントスの包囲》公演は大成功を収め、この作品が再び脚光を浴びることとなった。ただ、当時はフランス語の《コリントスの包囲 Le siège de corinthe》も《マオメット2世》も一般的にはまったく知られておらず、多くの人々にこれがロッシーニの書いた《コリントスの包囲》だと誤認することになった。

不幸なことにこの改竄はさらに先に進んでしまった。

1974年、EMIがシッパーズとミッケルソンによる上演譜を用いて全曲録音を行った。⇒ 参考資料。 これは主要4役と指揮者が翌年のメトロポリタン歌劇場公演と共通しており、明らかに関連のある録音だと思われる。
こちらでも前述の差し替えは行われており、シルズは第2幕のアリアで No, più non spero, oh Dio! を歌っている。
一方、ネオークレは第3幕で2つのアリアを立て続けに歌うことはなくなった。その代わり、舞台裏からの祈りの場面で(ネオクレスでなく)クレオメーネを登場させ、その後にネオークレ、クレオメーネ、マオメットの三重唱 Pria svenar con ferme ciglia を挿入した。これは《マオメット2世》が1822/1823年のカーニヴァルシーズンに上演される際に第2幕に新たに追加した三重唱である。したがって、たしかにこの三重唱も《マオメット2世》に由来する音楽ではあるのだが、この追加三重唱はロッシーニのナポリ時代初期の様式で書かれたような音楽で、《コリントスの包囲》の中ではかなり異質に聞こえる。

翌年、メトロポリタン歌劇場で《コリントスの包囲 L'assedio di Corinto》の公演が行われた。これがMETでの初上演だった。1975年4月7日を皮切りに、同月10,12,15,19,21,28日、5月5,12,15,19日と公演があり、さらに半年後の同年10月13,18,25,28、11月3日、翌1976年1月5,17,24日と、計19回の公演があった。初日4月7日の公演記録。主要4役はほとんどこのまま。1976年1月5日公演だけ パミーラが リタ・シェーン Rita Shane(シルズと同様ニューヨーク・シティ・オペラ出身で、この時のシルズのアンダーだったという)、ネオークレがジョアン・グリッロ Joann Grillo、クレオメーネが エンリーコ・ディ・ジュゼッペ Enrico Di Giuseppe(彼は1月17日公演でも歌った)に変わった。指揮は、1975年5月15日と、10月28日の第3幕だけリチャード・ウォイタック Richard Woitach、その他はすべてシッパーズ。
シルズはこれがMETの本公演のデビューだった。スカラ座で熱狂を巻き起こしたホーンが外れても、METでこの作品が19回も上演されたのは、シルズの歌唱力と人気のおかげだろう。
この時のライヴ録音はほとんど出回っておらず、楽譜の詳細は確認できないが、第2幕のアリアで No, più non spero, oh Dio! が歌われたことは確認されている。

スカラ座公演(とそのライヴ録音)、EMI録音、MET公演は、その後長らく《コリントスの包囲》を正しい姿から遠くに伝え広めてしまった。その悪影響は半世紀を過ぎてなお残っている。

楽譜の問題と クリティカル・エディション

《コリントスの包囲》には様々な楽譜の問題がある。
まず、自筆譜の大半が失われている。自筆総譜のうち、序曲がパリ国立図書館に、第3幕のネオクレスのエールが スウェーデンの 音楽文化振興財団 Stiftelsen Musikkulturens Främjande、通称 ルドルフ・ニーダール Rudolf Nydahl ・コレクション に所蔵されているだけである。それ以外にスケッチなどが残されているものの、この大作の全貌を明らかにするにはあまりに乏しい。

自筆譜の大半が失われているのは、初演直後に総譜が出版されたからである。パリのオペラ座で上演されるオペラは総譜とピアノ伴奏譜が出版されるのが常で、これは作曲家に早期に利益をもたらす一方、出版後に素材が処分されるという問題も多くおきた。
ロッシーニは初演前(1826年夏頃か)にパリのTROUPENAS社に《コリントスの包囲》の出版権を売る契約をした。

このため、《コリントスの包囲》で最優先すべき資料は TROUPENAS社 の出版譜にならざるを得ないのだが、これが問題だらけである。
TROUPENAS社は、おそらく初演より前の段階でピアノ伴奏譜を、初演後に総譜を制作、出版した。後者が後の上演の基本素材になっている。
両者は内容に少なからぬ相違がある。
たとえば第1幕、マオメの登場のエールは、出版ピアノ伴奏譜には La gloire et la fortune があるのだが、出版総譜には無い。
第2幕の始めは、出版ピアノ伴奏譜では イスメヌと女声合唱のバラード ⇒ パミラのレシとエール ⇒ パミラとマオメのレシと二重唱 という順番だったが、出版総譜ではバラードが二重唱の後に回されて パミラのレシとエール ⇒ パミラとマオメのレシと二重唱 ⇒ バラード という順番に変わった。新聞評から、初日では第2幕冒頭は、ピアノ伴奏譜と同様、バラードが演奏されたことが分かっている。
第2幕 第6番 のパミラとマオメの二重唱の Andantino は、出版ピアノ伴奏譜が48小節に対して、出版総譜は54小節と、後者の方が長い。またパミラの最初の一節の歌詞が異なる。

出版ピアノ伴奏譜
Dans un modeste asile,
mon âme était tranquille,
jaloux de mon bonheur,
un malfaissant génie
empoisonna ma vie,
et causa mon malheur.
Sans l'aveu de mon père...
ô serment trop coupable!
Le ciel inexorable
me punit et m'accable.
Ah! la mort, oui, la mort seul,
en ce funeste instant,
peut terminer mon tourment.

出版総譜
Puis-je livrer ma âme,
à ma funeste flamme
sans l'aveu de mon père...
O serment trop coupable!
Le ciel inexorable
me punit et m'accable.
Ah! la mort, oui, la mort seul
en ce funeste instant
peut terminer mon tourment.

第7番 ディヴェルティスマン のうち、バレの場面である 舞踊のエール は、出版総譜では第1番と第2番があるのに対して、ピアノ伴奏譜では第1番にあたるものしか掲載されていない。クリティカルエディションの校訂者 ダミアン・コラスによると、この 舞踊のエール は元々5曲あったところが、初演の10日前に3曲が省かれ2曲になったという。
第3幕、第10番のレシの拍子は、TROUPENAS社の出版ピアノ伴奏譜では 4/4 だったが、出版総譜では 2/2 に変えられた。一般的にレシは 4/4 で記譜されるので、出版総譜がなぜ 2/2 なのか疑問である。またレシの箇所に与えられた速度標語もいくつか相違がある。

これらの相違は、ピアノ伴奏譜が発刊された後に、上演が続く間に成された変更、改変が総譜に反映されたためと推測しうるが、自筆総譜がなければはっきりとしたことは分からない。。
ともかくも、どちらの楽譜も《コリントスの包囲》の理想的なな形態とは言い難い。

また相違以前に、出版総譜には間違いが多数あると指摘されている。

オペラ座ではリハーサル期間が長く、その間に台本、音楽とも頻繁に変更されることが常だった。特に総練習の後には、上演時間短縮のために大小さまざまなカットが入れられることも普通だった。
自筆譜の大半が失われている現状では、これら変更を辿ることは極めて困難である。
そのため、長年にわたって、多くの問題があることは承知の上で、TROUPENAS社の出版総譜に基づいて上演するほかなかった。

前述の通り、2000年にロッシーニ・オペラ・フェスティヴァル ROF で初めて《コリントスの包囲 Le siège de corinthe》が上演されるにあたり、上演譜について ペーザロのロッシーニ財団のクリティカルエディションの準備の、TROUPENAS社の楽譜に基づいた改訂稿 Revisione della fonte Troupenas, preparatoria alla edizione critica della Fondazione Rossini di Pesaro という告知があった。
公演の録音を聞く限り、その実体は TROUPENAS社の出版ピアノ伴奏譜に基づいた上演譜 と言ってよいだろう。
具体的には、
第1幕 第3番 マオメのカヴァティヌ のうち La gloire et la fortune を採用。
第2幕は冒頭は イスメヌと女声合唱のバラード ⇒ パミラのレシとエール ⇒ パミラとマオメのレシと二重唱 の順番。ただしパミラのエールでの女声合唱は、出版ピアノ伴奏譜および出版総譜でのギリシャ人の女たちの合唱ではなく、トルコ人の女たちの合唱である(2017年のROF公演と同じ)。
第2幕 第6番 のパミラとマオメの二重唱の Andantino は 出版ピアノ伴奏譜の歌詞と音楽に基づく。
など。
一方で 第3幕 第10番 三重唱 は第1節を欠いており、つまり出版総譜と同じ扱いである。
出版ピアノ伴奏譜にも出版総譜にも掲載がない個所はそのまま。
ゴセットは Divas and Scholars の中で、この時のROFの上演譜を批判している。たしかに クリティカルエディションであればもっと包括的な見直しが必要だと思うが、しかし出版総譜より前の段階を伝えている出版ピアノ伴奏譜に基づいて上演譜を作成することは、十分意義のある試みだと思われる。

クリティカルエディションはダミアン・コラスの校訂で成立し(しかしまだ刊行されていない)、これを用いてROFで2017年8月に公演が催された。
公演の録音を聞く限り、TROUPENAS社の出版総譜とは異なる箇所がいくつもある。
最も大きな相違は第3幕幕切れである。出版総譜では(2000年ROF公演や2001年リヨン公演でも)、パミラが自刃し、遠くのギリシャ人たちの ああ 祖国よ! という声が聞こえた後、炎上するコリントスの町を描く101小節もの長い管弦楽だけの後奏で幕を閉じるのだが、2017年ROFでの公演ではここに歌が加えられている。
また2017年ROFの上演では音楽の分量がだいぶ増えた。コラスによると、出版総譜では400小節以上も削除されたというが、彼はそのいくつかを戻したようだ。
第2幕 第6番の二重唱は、出版ピアノ伴奏譜でも出版総譜でも 急 Allegro giusto と 緩 Andantino だけで、本来三部構成の締め括りとしてあるべき(そして実際に《マオメット2世》ではあった) 急 がなかった。2017年ROFでの上演ではその締めの急 Allegro vivace が加えられた。
また《マオメット2世》から更生された箇所は《コリントスの包囲》では短縮されていることが少なくないのだが、2017年ROFでの公演ではこれらが先祖返り的に《マオメット2世》での状態に戻されている。第1幕 導入 の序奏、第1幕フィナーレのコンチェルタート、第2幕 パミラとマオメの二重唱の Andantino、など。詳細は各箇所の傍注を。
第2幕のディヴェルティスマンのうち 舞踊のエール は、前述の通り、元々5曲あったものが初演直前に2曲に減らされ。TROUPENAS社の出版総譜でもこの2曲だけが載っていたが、クリティカルエディションではおそらく本来の5曲目だったと思われる ギャロップ Galop を復活させている。
校訂の詳細については、クリティカルエディションが刊行され、楽譜と校訂報告が読めるようになるを待とう。

《マオメット2世》と《コリントスの包囲》

《コリントスの包囲》はその半分以上を《マオメット2世》の音楽から更生しており、物語の大筋も大同小異と言えるのだが、しかし両者の印象は明らかに異なる。それは大局的には《コリントスの包囲》に時事的政治性が強く盛り込まれたことによるのだが、ここではもう少し細かく見てみたい。

《コリントスの包囲》では、第2幕幕切れでマオメがコリントス総攻撃を決意する。オスマン帝国軍は極めて強力で、コリントスのギリシャ兵士たちや市民たちが敵う相手ではない。
ネオクレスのエール Grand Dieu, faut-il qu'un peuple qui t'adore は、最後の戦いを前にした彼の死の覚悟といったものが色濃い。彼は神に抗議したり、思い直したり、連れ戻したパミラとの結婚に希望を抱きつつ、しかし彼女もまた母の墓前で父の言いつけを守って自刃するつもりであることも理解している。死を前にして不安定に渦巻く感情は、かなりロマン的であり、ロッシーニもそれを受けてイタリア時代とは異なる劇的で振幅の大きな音楽を書いている。結果、このエールは時代を先駆する斬新な詩句音楽になった。初演のオペラ座の観客もそれを即座に理解したことだろう。
一方《マオメット2世》 第2幕のカルボのアリア Non temer: d’un basso affetto は、声種が違うという以上に性格がまったく異なる。ここでカルボは、アンナが気高くマオメットの求愛を退けるだろう という願望を歌っているだけで、長めのアリアにもかかわらず彼の感情は安定している。この安定に乗って、ロッシーニは 緩 では旋律的に、急 では装飾的に、イタリアオペラの様式でメッゾソプラノの魅力を存分に引き出している。これは古典的なイタリアオペラのアリアの作り方だ。
このように2つの歌は性格がまったく異なる。したがって、《コリントスの包囲》がイタリア語でカルボがメッゾソプラノによって歌われるからといって、ネオークレのアリアをカルボの Non temer に差し替えるのは、《コリントスの包囲》の斬新さを全く理解していないに等しい。

第3幕幕切れ前の 旗の祝福と預言 の場面は《コリントスの包囲》のために新たに作られたもの。イエロスは人々に祖国のために死ぬことを促し、そしてギリシャの未来の復活という預言を告げる。この場面は宗教的預言を借りた扇動、アジテーションであり、メソロンギ陥落に同情するパリの人たちを、我が国のことかのごとく愛国的熱狂へと駆り立てる詩句音楽だ。この曲が1830、40年代のオペラに強い影響を与えたのは疑いない。
正直なところ、悲痛な三重唱と悲劇的な幕切れの間にこの場面を挟むのは、本来の劇的効果を台無しにしているのだが、それでもこの場面が当時の観客を興奮させたことは容易に想像できる。

両ヒロインの自刃は、その意味がまったく異なる。
《マオメット2世》のアンナは、ウベルト(マオメット)への愛と 祖国への忠誠と 父への義務の間で激しく葛藤する。結果、彼女は(本当に愛しているとは思えない)カルボと結婚の誓いを立て、父に(明らかに一時的にすぎない)反撃のきっかけを与え、それからマオメットの前で命を絶つ。彼女は最後までマオメットへの愛を棄てられなかった。だからアンナは、自らを追い込んでおいてから、矛盾に自刃で決着をつけた。このアンナの痛ましく哀れな死に、観客は心を揺さ振られる。《マオメット2世》は、激しい歴史の嵐を背景に据えつつも、基本的にアンナの愛の悲劇である。
一方《コリントスの包囲》でのパミラは、第2幕の幕切れでマオメに対する愛を断ち切っている。そして第3幕で彼女も死の覚悟をもって母の墓前に戻り、全滅したギリシャ軍と運命を共にせんと自刃する。これは愛国的行為であり、壮絶な死である。コリントス炎上を描くオーケストラの激しい後奏が、あらゆる個の感情を飲み込む。

余談になるが、《マオメット2世》はトルコのイスタンブルで上演されたことがあるが、ギリシャではない。一方《コリントスの包囲》はギリシャのアテネやコリントスで上演されたことがあるが、トルコではない。これも両作の性格の相違によるものだろう。

メフメト2世とネグロポンテ陥落

《コリントスの包囲》の台本は《マオメット2世》の台本、さらに台本作家チェーザレ・デッラ・ヴァッレ自身の原作悲劇『アンナ・エリツォ』に基づいており、それは1470年、オスマン帝国のスルタン、メフメト2世によるネグロポンテ攻略を背景にしている。
メフメト2世 1432―148 は、オスマン帝国の歴史上、最も重要なスルタンの一人である。1451年に2度目にスルタンに即位してから亡くなるまでのおよそ30年間、彼は「征服王」の異名を取るほど領土拡大に野心を燃やし続けた。
1453年、まだ20歳そこそこのメフメト2世は、東ローマ帝国の首都コンスタンティノープルを、15万といわれる大軍で包囲、強固な城壁に阻まれ攻略に2ヶ月を要したが、5月29日、コンスタンティノポリスは陥落、皇帝コンスタンティノス11世は戦死し、東ローマ帝国は滅んだ。
その後も遠征を重ねるメフメト2世に、エーゲ海やアドリア海の沿岸に多数の植民都市を持つヴェネツィア共和国は強い危機感を抱いた。1463年以降、ヴェネツィア共和国とオスマン帝国は度々戦闘に至った。
その中に ネグロポンテ陥落 がある。ネグロポンテ島(ギリシャ名 エヴィア島)は、ギリシャ本土の東側に位置する南北に細長い大きな島である。ヴェネツィア共和国にとってクレタ島に次ぐ重要な場所だった。
メフメト2世は1458年にネグロポンテを訪問しているが、これは攻略への下見だったのかもしれない。
1469年暮れ、メフメトはネグロポンテ攻略を決め、6月に大群を向かわせ、中心都市カルキスを包囲した。ネグロポンテの人口では2、3千人ほど。強固な城壁が町を守っていたが、オスマン帝国軍には強力な大砲があり、敵うはずもなかった。7月12日、城壁が破られ町は陥落、14日にメフメト2世が入城。ヴェネツィア人は全員処刑されたとも言われる。
ところでメフメト2世は知性と教養の高い人物でもあった。被征服地においても、同化を強要するのではなく、各地の文化を尊重した。また芸術を愛し、読書や詩作を好む文人でもあった。ヴェネツィアの画家、ジェンティーレ・ベッリーニをコンスタンティノープルに招き、有名な肖像画を描かせている。

ギリシャ独立運動

ギリシャがオスマン帝国から独立を果たすまでの道のりは複雑で長いが、ここではオペラの理解に役立つ程度の情報を提供する。

1820年代はギリシャ独立戦争の時代だった。長らくオスマン帝国の支配下にあったギリシャは、18世紀になるとオスマン帝国の弱体化とフランス革命の影響から独立機運が高まっていく。
後に独立戦争の勃発とされるのは1821年で、ギリシャ各地で反乱が起こった。これに対してオスマン帝国は十分な対処ができなかった。
ギリシャ独立の動きに対してヨーロッパの姿勢は揺らいでいた。旧体制維持を是とするウィーン体制では反乱独立運動は、たとえ反乱の相手がオスマン帝国であっても、支援できるものではなかった。
一方で、ギリシャ独立戦争より前から、ヨーロッパでは古代ギリシャがヨーロッパの祖であるという 新ギリシャ主義、フィルヘレニズムが広まっていた。そのためギリシャ独立戦争が勃発するとヨーロッパの世論はギリシャを支持するようになった。
ギリシャ側が内紛で混乱すると、オスマン帝国の反撃が広まり、エジプト(これもオスマン帝国から離れ、事実上の独立王朝 ムハンマド・アリー朝に向かうところだった)に助力を求めた。オスマン帝国軍とエジプト軍はギリシャのいくつかの主要都市を包囲したが、中でも有名なのは中西部の港湾都市メソロンギである。メソロンギは既に1822年、1823年と2度にわたってにオスマン帝国軍に包囲されたが、その時はかろうじて凌いだ。しかし1825年4月から始まった包囲は1年間も続き、1826年4月に陥落、市民は虐殺された。
メソロンギの包囲は、新ギリシャ主義のヨーロッパ市民を激しく動揺させた。

※普請中※

音楽

《コリントスの包囲 Le siège de corinthe》は、クリティカルエディションは作られたもののまだ刊行されていない。さらに元となった《マオメット2世》もクリティカルエディションが刊行されていない。したがって音楽について述べるには限界があるが、ここでは参考にできる資料の範囲内で述べていきたい。

序曲は、単独で演奏会でも頻繁に取り上げられる有名な曲。
勇ましい短い序奏 Allegro vivace 2/2 ハ長調 は、《ビアンカとファッリエーロ》序曲 の序奏のうち Allegro vivace を更生したもの。
ギリシャの喪を表す行進曲 Marche lugubre greque Lent 2/4 ニ短調 (Marche lugubre はほぼ Marche funebre 葬送行進曲 と同義)。この箇所は、ジョヴァンニ・シモーネ・マイル 1763―1845 の 音楽のための聖劇 Dramma sacro per musica《アタリア Atalia》 第1幕の 宗教的行進曲 Marcia religiosa を用いている(概要はほぼ同じ)。ロッシーニは《アタリア》の初演に関わっており 【1】、音楽を知っていた。
主部はAllegro assai 2/4 ハ長調。展開部を欠いたソナタ形式。イタリアではオペラの序曲をほぼ定型通りに書いていたロッシーニだが、《コリントスの包囲》の序曲は構成もオーケストレイションももっと手が込んでいる。
第1主題は三連符が連なったせわしない音楽。
これに続く経過的な箇所はたいへん激しく劇的で、印象が強い。
第2主題はかなり控えめで短い。
ロッシーニの序曲の常だが、コデッタ(小結尾)がたいへん充実しており、力強いリズムが印象的である。この箇所は、第2幕フィナルのアンサンブルBravons son empire Allegro 4/4 ハ長調 から採られているが、これはさらに メッサ・デ・グローリア 1820年3月24日 ナポリ 初演 の 天のいと高き所には神に栄光あれ Gloria in excelsis Deo の素材を更生したものである。
再現部に入る前に再び経過的な箇所が2度現れる。
再現部では第2主題のみ再現、したがって短い
そして再びコデッタが大きく繰り広げられる。
勇壮なコーダの最後にもう一度冒頭部分が再現して締め括られる。
ソナタ形式に基づきつつ、両主題より他の箇所の方が充実しているという珍しい曲である。いずれにせよ、大作歴史悲劇の幕開けに相応しい、またオペラ座の優秀なオーケストラを用いることができる充実したオーケストレイションの、立派な序曲である。

1 マイル《アタリア》は、1822年3月10日(四旬節の最中)、ナポリ、サン・カルロ劇場で初演された。これはロッシーニ《ゼルミーラ》 1822年2月16日、同劇場で初演 の3月6日、10回目の最終公演 の直後のこと。ロッシーニは《ゼルミーラ》最終公演の直後にナポリを発っており、《アタリア》初演には立ち会っていないが、1819年にマイルに四旬節向けの新作を依頼したのはロッシーニである。また、2月下旬にナポリの興行主ドメニコ・バルバイヤの招きでナポリにやって来たガエターノ・ドニゼッティ(マイルの愛弟子)がマイルに宛てた手紙から、ロッシーニが《アタリア》のリハーサルを行っていたことが分かっている。詳細は ウィリアム・アシュブルック William Ashbrook 『ドニゼッティと彼のオペラ Donizetti and his Operas』 p.25 を。

第1幕
第1幕は、概ね《マオメット2世》の第1幕(1時間半弱かかる)からいくつかの曲を削除して50分前後にまで短縮したようなものになっている。

第1番 導入 は、全体で《マオメット2世》 第1幕 第1番 導入を手直しして更生している。
冒頭の序奏と合唱 Ta noble voix, seigneur, nous assemble en ces lieux は Maestoso 3/4 変イ長調。序奏では、陥落間近の一同の絶望的心境が重苦しい音楽で描かれている。21小節。ここは《マオメット2世》 第1幕 第1番 導入 の序奏の更生で、《マオメット2世》では40小節あった。2017年ROFの上演では《マオメット2世》 の状態に戻されている。
序奏の重苦しさのまま兵士たちの合唱 Ta noble voix, seigneur, nous assemble en ces lieux になる。ここも《マオメット2世》 第1番 の Al tuo cenno, Erisso, accolti の更生。
クレオメヌのレシの後、アンサンブル En ce péril funeste à quoi sert le courage?になる。Andante maestoso 2/4。一部の兵士たちの弱音に対してネオクレスとイエロスが徹底抗戦を主張し、ト短調 → ト長調 → ト短調 ト長調と同主調で動きながら徐々に熱が高まっていく。
勝利を誓うアンサンブル Oui, jurons, jurons tous, par ces armes Allegro moderato 2/2 変ホ長調 は、当然勇ましい音楽なのだが、しかしこれは冒頭の Maesotoso の音楽を快活に変形したもののようにも思われる。もしロッシーニが意図的にこうしたのだとすると、意味深である。

第2番 レシと三重唱 は、レシを前に置いた 緩 / 急 の二部構成の三重唱。 レシの後、緩 Andantino 3/4 ホ長調 Disgrâce horrible! は、まず三者が短く感情を爆発させた後、3役が同様の旋律でそれぞれの思いを歌う。定型に則った作りだが、旋律そのものが美しい上に、一人一人でオーケストラの伴奏が微妙に変化して陰影をつけて、たいへん美しい三重唱に仕上がっている。またここはパミラのみならず二人のテノール役(特にネオクレス)にイタリア様式の装飾歌唱が残されている。これは《マオメット2世》 第1幕 第3番 シェーナと大三重唱 から 緩 (Ohime! qual fulmine 3/4 ホ長調 の更生。
中間部でオスマン帝国軍が城塞を上って来たことが伝えられ、音楽が一気に緊迫する。ここでも《マオメット2世》のシェーナの素材が用いられている。
急 Rassurez-vous, mon pere, en ce moment は Allegro 4/4 ホ長調。パミラの独唱が主で、キッパリとした伴奏に乗って、パミラの強い決意が描かれる。《マオメット2世》 第3番 の Dicesti assai. T’intendo. Più mosso 4/4 ホ長調 の更生。

第3番 マオメのカヴァティヌ は、合唱を前に置いた 緩 / 急 の二部構成のカヴァティヌ。《マオメット2世》 第1幕 第4番 合唱とマオメットのカヴァティーナ の更生。ただしカンタービレの冒頭をレシに置き換えている。また《マオメット2世》で用いられた舞台外のバンダはピット内のオーケストラに取り込まれている。マオメットの込み入った装飾歌唱はマオメでは簡素にされている。
合唱 La flamme rapide, は Allegro 2/4 ハ長調。トルコ風の強烈な音楽がオスマン帝国軍の勇ましさ恐ろしさを描いている。
緩 La gloire et la fortune は Cantabile 2/2 ヘ長調。征服者であるスルタン マオメの堂々とした威厳ある姿を深いバスの声で印象付けている。この箇所はTROUPENAS社のピアノ伴奏譜にはあるが、出版総譜にはなく、それを引き継いでイタリア語の《コリントスの包囲 L'assedio di Corinto》の楽譜にもない。
中間部 Hommage, gloire, honneur au plus vaillant héros! は Allegro 4/4 ヘ長調。マオメの勝利宣言に兵士たちが湧きかえる。
急 Chef d'un peuple indomptable et guidant sa vaillance, は Allegro moderato 4/4 ヘ長調。マオメは世界征服の野心を露わにする。これはロッシーニのオペラの中でも最も英雄的な音楽の一つだろう。なおTROUPENAS社のピアノ伴奏譜と出版総譜ではマオメの歌詞にさらに
La Grece sans defense
Se courbe sous mes fers.
防衛のないギリシャは
私の 鉄鎖の 下で 服従する。
という2行があったが、2017年ROFの上演ではない。

第4番 セヌとフィナルは、大規模な第1幕フィナル。。
セヌは、マオメがオマルにアテネである娘と恋に落ちたことを打ち明ける前半と、捕らわれのクレオメヌを尋問する後半から成る。特に前半は語り口調と歌を絡めたフランス風のセヌに仕上がっており、征服者マオメとは異なる愛する男の姿を浮かび上がらせている。。
フィナルは、まず Arretez! écoutez!.. Allegro 4/4 ハ長調 で始まる。緊迫した音楽で、パミラとマオメがそれぞれ相手がアテネで愛を誓った相手だと気づく。これは《マオメット2世》 第1幕 第5番 合唱、三重唱と第1幕フィナーレ のうちの Guardie, olà, costor si traggano Allegro 4/4 ハ長調 の更生。
コンチェルタート Ah! / L'amant qui m'enchaine が続く。Andantino 2/4 変イ長調。 これは《マオメット2世》 第1幕 第5番 のうちの (Ritrovo l'amante の更生。パミラ、クレオメヌ、マオメ、イスメヌに合唱も加わった大規模なアンサンブルから、パミラの苦悩が浮かび上がる。なおこのコンチェルタートは TROUPENAS社のピアノ伴奏譜では61小節だが、《マオメット2世》では117小節あり、半分近くに短縮されたことが分かる。2017年ROFの上演では《マオメット2世》の状態に戻されている。
経過区 Pamyra m'est rendue!。4/4 に変わる。これは《マオメット2世》 第1幕 第5番 合唱、三重唱と第1幕フィナーレ のうちの Rendimi il padre, oh barbaro... に基づいているが、展開が異なるのでかなり手直ししており、とりわけ激怒したクレオメヌが娘を呪う部分はオーケストラが雄弁である。
ストレッタ Jour deplorable,は Allegro 4/4 ハ長調。ナポリ時代後期のロッシーニらしい充実した第1幕フィナーレ。スピード感や迫力はもちろん、パミラがホ音からイ音まで半音階で上行する悲痛さも見事。なおこれは《マオメット2世》 第1幕 第5番 のうちの (Ah! perche fra le spade nemiche を更生しているが、独唱の旋律はより激しいものに変えられた。

第2幕
第5番 レシ、エールと合唱。ただし合唱はあくまで補助的に用いられている。
グラントペラのレシらしく劇的なレシで、パミラは上のイ音に達する。
エールは、少々事情が複雑だ。
出版ピアノ伴奏譜と出版総譜では、緩 Andantino / 急 Allegro の二部構成のエール なのだが、2017年ROFの上演ではこれに先立って 急 Ô patrie infortunée! が置かれている。Maestoso 4/4 ホ長調。これは《マオメット2世》第2幕フィナーレの 急 Si, ferite: il chieggo, il merto の更生である。この Maestoso は Andantino の前に置かれていたもので、おそらく《コリントスの包囲》でも採用が検討されたものの初演前に削除されたのだろう。これを復活させたことで、2017年ROFの上演でのエールは 急 / 緩 / 急の三部構成になっている。
この Ô patrie infortunée! は、《マオメット2世》では地下墓地になだれ込んできたオスマン帝国兵たちを前に歌う緊迫した激しい音楽で、それを祖国への思いにうまく当て嵌めている。
出版ピアノ伴奏譜と出版総譜では次の Andantino から 緩 / 急の二部構成のエールになる。
緩 Du sejour de la lumiere, は Andantino 3/4 ト長調。これは《マオメット2世》 第2幕 第11番 シェーナと第2幕フィナーレ からアンナの Madre, a te che sull'Empiro を更生したもの。亡き母に天国から見守ってほしいと祈る状況は変わらず、切々とした美しい音楽である。
Allegro 4/4 イ長調 に代わり、中間部。女声合唱がマオメがやって来ることを告げ、パミラにマオメと結婚することでギリシャを救うよう促す。
急 Mais après un long orage, も《マオメット2世》の音楽なのだが、これは第2幕 第9番 シェーナとカルボのアリア から カバレッタ E d'un trono alla speranza を手直しして更生したもの。苦難の中で希望を抱く素敵な音楽なのだが、同じオペラとはいえ 別の役、別の声種のための音楽に基づいているので、どうしても印象が異なる気がする。

第6番 セヌ、二重唱と合唱は、セヌを前に置いた 急 / 緩 / 急 の三部構成の二重唱。ただしTROUPENAS社の出版ピアノ伴奏譜と出版総譜には後ろの 急 がない。
急 Que vois-je! O ciel! tu verses des larmes! は Allegro giusto 4/4 ハ長調。二人は同様な音楽で順番に歌うのだが、装飾歌唱などの微妙な相違によってそれぞれの感情の違いが浮かび上がっている。どちらの場合でも第1ヴァイオリンが時々パミラの零れ落ちる涙を描いているのが芸が細かい。
緩 Dans un modeste asile, は Andantino 6/8 変イ長調。ここは二人とも傍白 à part で、かつパミラが主体の二重唱。彼女はアテネでアルマンゾルの名を騙るマオメと愛の契りを交わしたことを思い出し後悔に暮れる。頻出するヘ音のオクターヴ上下跳躍がパミラの心痛を際立たせている。なおこの箇所は、出版ピアノ伴奏譜と出版総譜で内容が異なる。前者が48小節に対して、後者は54小節、音楽も多少異なり、またパミラの最初の一節の歌詞が異なる。2017年ROFの上演では、パミラの歌詞は出版ピアノ伴奏譜と同じで、音楽は《マオメット2世》の状態 65小節 に戻されている。
経過区は賑やかな音楽でオマルが結婚式の準備ができたことを告げる。これはTROUPENAS社の出版ピアノ伴奏譜および出版総譜にはない。
この後2017年ROFの上演では 急 Rien ne peut me soustraire Allegro 2/2 ハ長調 が置かれているが、これはTROUPENAS社の出版ピアノ伴奏譜および出版総譜にはない。これは《マオメット2世》 第7番 二重唱 の急 Gli estremi accenti ascolta の更生である。ここは歌詞の内容的にも音楽的にも重要度の高いもので、また三部構成を締め括るものとしてあるべきなのだが、しかしパミラがエール、二重唱と歌いっぱなしでかつこの後バレがあることから、外されたのではないだかろうか。
最後は Allegro vivace 4/4 ハ長調 のアンサンブルで締め括られる。
C major
第7番 ディヴェルティスマン は、イスメヌと女声合唱のバラード、バレである舞踊のエール、そして賛歌の3部分からなる。
バラードは 前奏的な La jeune Pamyra s'avance.(出版ピアノ伴奏譜と出版総譜ではイスメヌの歌の部分がない)の後、合唱の L'hymen lui donne。Allegretto 3/4 ハ長調。これは《エルミオーネ》 第1幕 第2番 合唱 Dall'Oriente ⇒ 《マオメット2世》 1822年ヴェネツィア改訂稿 第1幕 第2番 女たちの合唱 In oriente の更生。《コリントスの包囲》での音楽は後者に近い。歯切れのよい快活な女声合唱の曲だが、どことなく勇ましさも感じられるのは、原曲がエルミオーネを狩りに誘う曲だったから。
舞踏のエールはバレの音楽。結婚式の前の余興という設定なので、悲壮感漂う《コリントスの包囲》の中で際立って明るく華やかな音楽である。
舞踊のエール第1番。Lent 2/4 変ロ長調 と Allegro 3/4 変ロ長調。後者の一部に《ランスへの旅》 第1番 導入 でのコルテーゼ夫人の登場の歌 Di vaghi raggi adorno, の音楽 Allegretto 3/4 ハ長調 の素材が用いられている。出版ピアノ伴奏譜ではこの箇所だけ変ホ長調に転じている(そしてまた変ロ長調に戻る)が、出版総譜では変ロ長調に改められている。
舞踊のエール第2番。バレの音楽。Maestoso 3/4 ニ長調 と Allegro moderato 2/4 ニ長調。前述の通りこの第2番は出版総譜にしかない ⇒ 楽譜の問題と クリティカルエディション。後者の一部に《ランスへの旅》 第9番 フィナーレ の一節 Allegro 4/4 ヘ長調 の素材が用いられている。
舞踊のエール第3番 フィナル。バラード=ギャロップ Ballabile - Galop。初演前に外されたようで、TROUPENAS社の出版ピアノ伴奏譜および出版総譜にはない。近年復活し、2017年ROFでの公演でも採用されている。詳細はクリティカルエディションの報告を待とう。
賛歌 Divin prophète, は Adagio non troppo 3/4 ハ長調。人々が神に結婚を祝福するよう願う音楽。2台のハープの分散和音に導かれ、2群のチェロが陶酔的に美しい音楽を奏で、これが拡大し合唱に至る。結婚式の開始を告げるに相応しい甘美な音楽なのだが、前奏と合唱で1回ずつトロンボーンとオフィクレイドによる重苦しい変ロ音が鳴り響く。これはパミラの動揺なのか、それとも彼女の神の警告なのか(トロンボーンは 神の楽器 として知られる)。

第8番 レシと 第2幕のフィナル は規模の大きなフィナル。レシ、三重唱、経過区、三重唱、経過区、アンサンブル、ストレッタ、という作り。
レシでは、捕らわれたネオクレスをマオメが尋問する。ネオクレスがパミラを非難する時にはオーケストラ伴奏に Allegro の指示がついて激しい口調になる。パミラはとっさにネオクレスは兄だと偽る。
三重唱 Il est son f®rave;;re! は Andante 2/4 ホ長調。三人それぞれの反応。Andante だが音楽には緊張感があり、マオメは明らかに苛立っている。
経過区 Allegro 4/4 イ長調。オマルがギリシャ人たちが蜂起したことを報せる。せわしない弦の動きが緊張感を高める。
アンサンブル Bravons son empire, では、遠くのギリシャ人たちの合唱を皮切りに一同の感情の高ぶって行く。途中でパミラがマオメへの愛を断ち切り、それにマオメが憤るやり取りがあり、それも合唱の中に飲み込まれる。この強烈なリズムの音楽は、メッサ・デ・グローリア 1820年3月24日 ナポリ 初演 の 天のいと高き所には神に栄光あれ Gloria in excelsis Deo の素材を用いている。最後にマオメが総攻撃を決意する。 ストレッタ Aux armes! sa fureur se ranime. は、Allegro vivace 4/4 ハ長調。このストレッタは、ロッシーニの全オペラの中でもおそらく最も手の込んだ激しい音楽ではないかと思われ、また当時のオペラ座としても特に強烈なものだったろう。ロッシーニが歌とオーケストラ両面でオペラ座の能力を存分に引き出そうとしたことが分かる。

第3幕
第9番 レシ、祈りとネオクレスのエール。レシの前半(第1場と第2場)は、地下墓地を表す暗い重い音楽に、クラリネットのオブリガートによる侘しい音楽が挟まれている。これらは《マオメット2世》 第2幕 第9番 シェーナとカルボのアリア の前奏の更生。後半は、弦の三十二分音符の刻みでネオクレスが呟く。ここはエールでの 死の覚悟 の前触れになっている。ハープの音が聞こえ、祈り に続く。
祈り O toi que je revere, は Lento 3/4 ニ短調。2台のハープと木管に伴われた美しくも悲痛な女声合唱。これは《マオメット2世》 第2幕 第11番 シェーナと第2幕フィナーレ の中の祈り Nume, cui 'l sole e trono, の更生。
ネオクレスのエール Grand Dieu, faut-il qu'un peuple qui t'adore は、ロッシーニが《コリントスの包囲》で新たに書き下ろした音楽の中でも際立って斬新なもの。Allegro agitato 4/4 ト長調 / ト短調。概ね A / B / A’ / B’ / A’’ / B’’ の構成。Aではオーケストラが激しく唸り、ネオクレスの不安や苦悩が爆発する。Bでは思い直し、神に感謝する。これが3回繰り返され、Bが長くなって行って、ネオクレスは落ち着いていく。最後の戦いで死ぬことを覚悟しているネオクレスの葛藤が、斬新な音楽で描かれている。
終止せず第10番に続く。

第10番 セヌと三重唱。セヌはクレオメヌとパミラの父娘再会と和解の場面。長く劇的で、ことにクレオメヌがパミラを拒絶して罵る箇所は、弦の強い音楽に乗ってクレオメヌが激しく歌い語る。アリアのないクレオメヌが最も活躍する場面である。
三重唱 Céleste providence, は、悲痛な美しさに満ちた曲。Andante assai 2/4 a minor / A major。哀感に包まれた前奏の後、同じ歌詞、同様の音楽を一人、二人、三人と歌っていく作りなのだが、控えめな伴奏(第2ヴァイオリンのピッツィカートの分散和音が主)に乗って、感情を抑えつつ、しかし死の覚悟はもはや隠しようがない、悲壮感漂う三重唱。曲尾でいよいよ別れるという時に感情が爆発するのが感動的だ。これは《マオメット2世》第2幕 第10番 三重唱 を手直しして更生している。

第11番 レシ、預言と合唱 は、イエロスによる愛国的場面。導入的なレシの後、いわゆる 旗の祝福 の場面になる。ここはイエロスの問いかけ対して総合唱が応える形で、拡大されたレシといったもの。預言 は2つの部分からなる。前半 Quel nuage sanglant a voilé ce rivage! は Lent 4/4 ヘ短調。厳かな音楽でイエロスが切れ切れに預言を告げる。彼の 自由よ! Liberté! の一言で音楽は Allegro 4/4 ハ長調 に転じ、古代ギリシャがペルシャ軍と戦った頃を引き合いに出し、人々を鼓舞する。最後の合唱 Répondons à ce cri de victoire, は Allegro brillante 4/4 ヘ長調。ダイナミックな合唱が、未来のために死の戦いへと向かう人々の熱狂を描いている。この合唱はロッシーニが書いた音楽で最も煽情的なものだろう。この箇所が1830、40年代のオペラに与えた影響は大きい。

第12番 レシ、祈りとフィナル は、パミラのレシ、パミラ、イスメヌと女声合唱の祈り、そして大規模なアンサンブルのフィナルから成る。 レシは基本的に 祈り のテンポ Andantino を先取りした穏やかなものだが、敵に襲われた時の話をする時だけ Allegro で興奮気味になる。
祈り Juste ciel, ah! ta clémence は Andantino 3/4 嬰ヘ短調。2台のハープの分散和音に乗って、パミラ、イスメヌと女声合唱が天に哀れみを乞う。美しくも、勝利への希望よりは死の覚悟が漂う悲痛な音楽である。これは《マオメット2世》 第1幕 第3番 大三重唱 の中の 祈り Giusto Ciel, in tal periglio の更生。《マオメット2世》では第1幕の中盤にあった曲だが、たいへんに美しい音楽なので、《コリントスの包囲》では幕切れ直前に据えて重要な曲に高めている。
フィナルは Allegro vivace 3/4 イ短調 / イ長調。オスマン帝国軍がなだれ込んで来てから弦群がくさび型スタッカートの付いた8分音符で唸りを上げ、これはそのまま大炎上するコリントスの姿を描く。オペラ座の優秀なオーケストラを用いて書かれたこの音楽は、1826年当時としては極めて斬新かつ強烈な音楽で、初演の観客を熱狂させたのみならず、後の音楽にも多大な影響を与えたことだろう。
なおTROUPENAS社の出版ピアノ伴奏譜でも出版総譜でも、パミラが自刃し、ギリシャ人たちの ああ 祖国よ! という声が聞こえた後、炎上するコリントスの町を描く101小節もの長い管弦楽だけの後奏で幕を閉じるのだが、2017年の公演ではここにかなりの量の歌が加えられている。

《コリントスの包囲》は、オペラ座で150回以上もの公演があったことからも分かる通り、1820年代後半を代表する傑作オペラの一つである。ことに新たに書かれた音楽、とりわけ第2幕フィナル、ネオクレスのエール、第3幕フィナルは、ロッシーニが後にオペラ座のために書いたグラントペラ、《モイーズとファラオン》や《ギヨーム・テル》の音楽と比べてもさらに時代を先取りした斬新さが窺える。
もっとも《コリントスの包囲》にはいくらか問題もある。たとえば、一方《マオメット2世》から更生された音楽は、いずれも本来の素晴らしさを残しているものの、《マオメット2世》で緻密に設計されていた作劇設計を外してバラバラに更生したことで、本来の効果が弱まっているのは否めない。そのこともあって《コリントスの包囲》は、その経験の後に作られた《モイーズとファラオン》に比べると、新旧音楽が今一つまとまり切っていないと言える。
もっとも、これがフランス語で初めて書いたオペラで、初のオペラ座でのグラントペラで、しかもメソロンギと包囲と陥落という政治的性会性からかなり急いで書かなければならなかったことを考えると、ロッシーニは不慣れな中、見事な成果を挙げたのは間違いない。

あらすじ

台本には時代設定はないが、メフメト2世がコリントスなどギリシャ各地を征服したのは1458年である。

第1幕
コリントスの元老院の宮殿。コリントスの長クレオメヌが兵士たちを招集している。コリントスは既にマオメ2世率いるオスマン帝国軍に包囲されており、コリントス軍はこれに立ち向かうも多数の戦死者を出していた。クレオメヌは兵士たちに、戦闘の継続か降伏かを問う。一部の兵士は絶望的な状況に弱音を吐くが、若く勇敢な兵士ネオクレスが徹底抗戦を主張、墓守の老人イエロスも、死んで天に祝福されると皆を鼓舞する。内心では徹底抗戦を期待していたクレオメヌは、兵士たちの決意を歓迎する。一同は死を覚悟しつつ、ギリシャのために戦おうと士気を高める。
クレオメヌは自信を取り戻し、イエロスは神に祈願しに行く。ネオクレスは、クレオメヌが以前彼の娘パミラとの結婚を約束したことを思い出させる。クレオメヌはパミラに、自分が戦死した時の保護者すなわち結婚相手としてネオクレスを選んだと伝える。しかしパミラは動揺してこれを拒み、彼女がアテネでアルマンゾルという男と契りを交わしたことを告白する。ネオクレスとクレオメヌは衝撃を受け、三人はそれぞれ天に祈る。そこにマオメの大軍がコリントスの城塞を上って来ていることが伝えられる。クレオメヌは娘に短剣を与え、敵に捕らえられるよりもこの短剣で自ら命を絶つよう告げる。ネオクレスとクレオメヌは兵士たちを引き連れて出陣する。
コリントスの広場。オスマン帝国軍がコリントス軍を駆逐して市街に入り、勝利を喜ぶ。マオメが入場、コリントスの素晴らしい街を破壊せず残すことで後世に自分の勝利を伝えたいと述べ、そして世界征服への野心を燃やす。
マオメは腹心の部下オマルに、かつてアルマンゾルの名を騙ってアテネに滞在した時に、美しい娘に出会って恋に落ちたことを明かす。彼はこれからアテネに向かいその娘を探すつもりで、それゆえギリシャに対していつもより寛大な態度を取っているのだ。
捕らえられたクレオメヌがマオメの前に連れて来られる。マオメは彼にギリシャ軍の完全降伏を迫るが、クレオメヌはこれを撥ね付ける。マオメが彼を引っ立てるよう命じた時に、パミラが駆けつけ、マオメに父を助けるよう懇願する。パミラは彼がアルマンゾルだと、マオメも彼女がアテネで出会った娘だと気付く。マオメはパミラが自分と結婚すればギリシャを解放すると告げる。これに対してクレオメヌは、娘はネオクレスと婚約していると返すが、パミラがそれを拒否するので、彼は激怒して娘を呪う。愛する人と父親の間に板挟みにパミラは激しく動揺する。一同の混乱の中、マオメはパミラを自陣へと連れ去る。

第2幕
マオメの大天幕。パミラは、愛した人が征服者なことに、父親に怒りをぶつけられたことに、そしてコリントスがオスマン帝国軍に占領されたことに、深く悲しんでいる。そして彼女は亡き母に祈りを捧げる。トルコ人の女たちは、マオメの妃になることでギリシャを救うよう促すが、パミラはそれには耳を貸さず、将来のギリシャの解放を夢見る。
マオメはパミラに優しく言葉をかけるが、彼女は不安で泣き出してしまう。彼女は、アテネでアルマンゾルと誓いを交わしたことで天に罰せられた、死だけがこの苦しみを終わらせられる、と嘆く。マオメは彼女のあまりの動揺ぶりに戸惑う。 結婚式を前にした催しが始まる。祭壇の準備が整った時に、オスマン帝国軍に歯向かおうとして捕らえられたネオクレスが連れて来られる。彼は、生き残ったギリシャ人は女たちまでもが城塞を死守しようとしているのに、パミラは征服者を歓迎している、と激しく非難する。彼が名を明かそうとすると、パミラは咄嗟に自分の兄だと偽る。それを聞いてマオメは彼の鎖を解かせる。結婚式が始まるという時になって、城塞で女たちも含めたギリシャ人たちが反乱を起こしているという報せがもたらされる。彼らの声に、パミラはマオメに結婚の拒否を告げる。怒ったマオメはコリントスを滅ぼさんと意気を上げ、パミラを含めたギリシャ人たちは死に希望を見出す。

第3幕
コリントスの地下墓地。マオメの陣地から脱出したネオクレスがアドラストと出会い、戦況が絶望的であると告げられる。ネオクレスは彼に、パミラが父に許しを乞いに来たことをクレオメヌに伝えるよう頼む。
地下墓地の天井ドームの方からパミラを含めたギリシア人の娘たちの祈りの声が聞こえる。ネオクレスは絶望的な戦況に神に問いかけるが、しかしパミラが神のおかげで絆から逃れてここまで戻って来たことに希望を見出す。
クレオメヌはネオクレスと再会し喜ぶが、パミラに対しては怒りが収まらない。現れたパミラが彼の膝を抱いて許しを乞うても、彼は去るよう突き放す。だがパミラが母の墓前でネオクレスと結婚の誓いを立てるという言葉に、父の怒りも収まる。そして三人は天に 苦しみを終わらせるよう祈る。
出陣しようとするクレオメヌとネオクレスをイエロスが留める。彼は集まったギリシャ人たちを前に、祖国のために死のうと旗を祝福する。そして ギリシャが将来解放される という預言を授かる。一同は祖国のために戦うと誓う。
残ったパミラと女たちは天に祈りを捧げる。彼女たちは死を覚悟している。
オスマン帝国の兵士たちがパミラを捜して地下墓地になだれ込む。マオメは兵士たちに彼女を捕えるよう命じるが、パミラは短剣を示して抵抗する。地下墓地の壁が崩れ、コリントスが燃え上っているのが見える。遠くからギリシャ人たちの 祖国よ という声が聞こえる。なおもパミラを求めるマオメを前に、パミラは自刃する。オスマン帝国の兵士たちの喜びの声で幕となる。

対訳付き音楽設計図

登場人物
マオメ2世
Mahomet Ⅱ

バス
basse

クレオメヌ
Cléomène,
ギリシャの長【注1】 そして パミラの父
chef des Grecs et pére de
テノール
ténor

パミラ
Pamyra

ソプラノ
soprano

ネオクrス
Néoclès,
若いギリシャの戦士
jeune guerrier grec
テノール
ténor

イエロス
MHiéros,
老人、地下墓地の番人
vieillard, gardien des tombeaux【注2】
バス
basse

アドラスト
Adraste,
クレオメヌの腹心の友
confident de Cléomène
バス
basse【注3】

オマル
Omar,
マオメの腹心の部下
confident de Mahomet
バス
basse

イスメヌ
Ismène,
パミラの腹心の友
confidente de Pamyra
ソプラノ
soprano


ギリシャの女たち
Femmes grecques
合唱
chœur

トルコ人の女たち
Femmes turques
合唱
chœur

マオメの従者の戦士たち
Guerriers du la suite de Mmahomet
合唱
chœur

クレオメヌの従者の戦士たち
Guerriers du la suite de Cléomèness
合唱
chœur

イスラム教の聖職者たち
Imans
合唱
chœur

トルコ人の兵士たち
Soldats turcs
合唱
chœur

ギリシャの兵士たち
Soldat grecs
合唱
chœur


注1 台本には chef が何を意味するのかははっきり書かれていない。クレオメヌはおそらく都市国家コリントスの首長ではないかと思われるが、第1幕第5場で彼が捕らえられて連行されて来る時にオマルが un de leurs chefs 彼らの 長たちのうちの 一人 と述べており、これは コリントスを支配する族長たちの一人 という意味に理解し得る。ここでは 長 ちょう と曖昧に訳す。

注2 イエロスは台本ではこのように設定されているが、第2幕 第11番 の預言の場面で彼は神の啓示を受けているので、実際には彼は祭司長のような聖職者なのだろう。明らかに検閲で墓守に変更させられたと思われる。

注3 アドラストはRICORDIの楽譜ではテノールに指定されており、上演でもテノールが受け持つこともしばしばある。

日本語訳は極力文学的な色づけをせず、分析的な直訳にしてある。

Ouverture Allegro vivace
2/2
C major
序奏と ギリシャの喪を表す行進曲 を持った 展開部のないソナタ形式の序曲。

序奏。
《ビアンカとファッリエーロ》序曲 の序奏の Allegro vivace を更生。

Marche lugubre greque

Lent
2/4
d minor
ギリシャの喪を表す行進曲。

この箇所は、ジョヴァンニ・シモーネ・マイル 1763―1845 の 音楽のための聖劇 Dramma sacro per musica《アタリア Atalia》 第1幕の 宗教的行進曲 Marcia religiosa をほぼそのまま用いている。⇒ 音楽
Allegro assai
2/4
C major
主部。
コデッタ(小結尾)は第2幕フィナルでのギリシャ人たちの合唱 Bravons son empire から採られている。これは メッサ・デ・グローリア の 天のいと高き所には神に栄光あれ Gloria in excelsis Deo の素材を更生したもの。

ACTE PREMIER
N. 1
Introduction

Cléomène
Néoclès
Hiéros
Adraste
Chœur
Maestoso
3/4
A-flat major
Scène Ⅰ第1場
Cléomène, Néoclès, Hiéros, Adraste, guerriers grecs.クレオメヌ、ネオクレス、イエロス、アドラスト、ギリシャの戦士たち。

Le théâtre représente le vestibule du Palais du Sénat.舞台は 元老院の 玄関広間を 表している。

CH&Oelig; DE GUERRIERS戦士たちの合唱
(à Cléomène)(クレオメヌに)
Ta noble voix, seigneur, nous assemble en ces lieux君の 高貴な声が、領主よ、私たちを この場所に 集めている
pour défendre l'asile où dorment nos aïeux.安らぎの場を 守る ために そこでは 私たちの 祖先たちが 眠っている【≒ 私たちの 祖先が 眠っている 地下墓所を 守る ために】

Cléomène a l'air sombre et rêveur; les Guerriers le regardent et disent:クレオメヌは 憂鬱な そして 物思いにふけった 様子をしている; 戦士たちは 彼を 見て そして 言う;

(Mais, ô ciel!... il garde le silence...(だが、ああ 天よ!… 彼は 沈黙を 保っている…
Il hésite, il balance...彼は 迷っている、彼は ためらっている…
et le trouble est peint dans ses yeux...そして 動揺が 彼の両目に 現れている…
Ah! pour nous plus d'espérance:ああ! 私たちには もう 希望が 【ない】
le destin trahit nos vœux.)運命は 私たちの願いを 見捨てている。)
《マオメット2世》 第1幕 第1番 導入 の前奏と 合唱 Al tuo cenno, Erisso, accolti を更生。 第1番全体で《マオメット2世》 第1幕 第1番 導入を手直しして更生している。

前奏は、《マオメット2世》では40小節あったが、《コリントスの包囲》では21小節に短縮されている。2017年ROFの上演では《マオメット2世》 の状態に戻されている。

Récit


4/4
(E-flat major)
CLÉOMÈNEクレオメヌ
Depuis longtemps du vainqueur de Byzance,ずっと前から ビザンツの征服者の、
qui de toutes parts,その者は 至る所で、
assiège nos remparts,私たちの城塞を 包囲している、
nous avons affronté la farouche arrogance.粗暴な傲慢に 私たちは 立ち向かってきた。
Depuis longtemps du vainqueur de Byzance,
この Byzance はいわゆるビザンツ帝国 すなわち 東ローマ帝国 を指す。オスマン帝国のメフメト2世は1453年にコンスタンティノープルを陥落させ、東ローマ帝国を滅ぼしていた。《コリントスの包囲》のモデルであるネグロポンテ包囲戦は1470年6月から7月までの約1か月間続いた。

Andante
3/4
E-flat major
4小節

(Récit)


4/4
(E-flat major)
Votre vaillance君たちの 勇敢さは
chaque jour du tyran sait braver la fureur;毎日 暴君の 激しい怒りに 勇敢に立ち向かう すべを心得ている;
Maestoso
4/4
(E-flat major)
mais l'avenir m'effraie...だが 将来が 私を 怯えさせている…
Allegro
4/4
(E-flat major)
Hélas! au champ d'honneur,悲しいかな! 名誉ある戦場で
nos plus braves guerriers trouvent leurs funérailles;私たちの この上なく 勇敢な 戦士たちは 彼らの 埋葬を 見つけている【≒ 私たちの この上なく 勇敢な 戦士たちは 地に倒れて死んでいる】
des fléaux dévorants assiègent nos murailles...貪欲な 災いが 私たちの城壁を 包囲している。
Le glaive musulman, le bronze des batailles,イスラム教徒の剣が、戦闘の青銅が、
moissonnent à l'envi le peuple et les soldats;民を そして 兵士たちを 競って 刈っている。
nos plus braves guerriers trouvent leurs funérailles;
funérailles 葬式,埋葬 ⇒ 死んで地に埋められること ⇒ 地に倒れて死ぬこと。

Allegro moderato
4/4
(E-flat major)
Mahomet furieux nous menace et nous presse;激怒したマオメは 私たちを 脅し そして 差し迫っている;
des flots de sang vont inonder la Grèce...大量の血が ギリシャを ずぶ濡れにしようとしている…
Moderato
4/4
(E-flat major)
Pour fuir le joug du tyran,暴君の 束縛を 避ける ために【≒ 暴君の 支配から 免れる ために】
ciel! quel parti prendre?天よ! どのような 選択を す【べき】か?
Faut-il combattre encore, ou bien faut-il se rendre?なおも 戦う べきなのか、あるいは 降伏す べきなのか
Ô terrible moment!ああ 恐ろしい 時だ!
Le danger est extrême...危険は 極限である…
Parlez tous librement:皆 自由に 話しなさい:
L'avis qui prévaudra sera ma loi suprême.【他の 意見に】 勝る ところの 意見が 私の 至高の 法に なるだろう。
ciel! quel parti prendre?
この parti は 選択。

Andante maestoso
2/4
g minor
CH&Oelig; DE GUERRIERS戦士たちの合唱
En ce péril funeste à quoi sert le courage?この 致命的な 危機において 勇気が 何に 役に立つのか?
D'un horrible esclavage恐ろしい 隷属の状態から
comment nous préserver!どうやって 免れるのか?

NÉOCLÈSネオクレス
Guerriers, que la patrie戦士たちよ、祖国が
à nos bras se confie;私たちの腕に 頼る 【↑】ところの;
au prix de notre vie,私たちの命を 代償に
nous devons la sauver.私たちは それを【= 祖国を】 救わなくては ならない。
Que ne peut le courageなぜ 勇気を 【出すことが】 できないのだ
quand on fuit l'esclavage!隷属の状態を 逃れる 時に!
D'un conquérant barbare野蛮な 征服者の
il faut tromper la rage.激しい怒りを 欺か なくてはならない【≒ 蛮族の 征服者の 激情を くじかなくてはならない】
Le jour de la vengeance復讐の日が
enfin luira pour nous.ついに 私たちに 輝くだろう。

HiÉROSイエロス
Oui, combattez; le ciel veille sur vous.そうだ、戦いなさい; 天が 君たちを 注意深く見守っている。
Guerriers, que la patrie
この que は Guerriers を受ける関係代名詞と理解した。

Que ne peut le courage
que ne で なぜ―ないのか と非難を表す。

(Andante maestoso)
2/4
G major
Le glaive homicide殺人に使われる 剣は【≒ 敵を殺す 剣は】
du brave est l'égide;勇者の 盾だ;
l'honneur seul le guide;名誉だけが 彼を【= 勇者を】 導く;
d'un pas intrépide,勇敢な 歩みで
bravant le trépas,死に 勇敢に立ち向かって、
il vole aux combats.彼は【= 勇者は】 戦いへと 飛んで行く。
Et s'il succombe à la horde cruelle...そして もし 彼が 残忍な 群れによって 息絶える としても…
la palme immortelle不滅の ヤシの葉が
console ses regards.彼の眼差しを 慰める。
la palme immortelle
palme は 椰子 ヤシ。キリスト教ではナツメヤシの葉が勝利の象徴として用いられ、ここでもその意味である。しかしヤシの少ない日本ではこれを 棕櫚 シュロ で訳すことが広まった。ここでは シュロ にせず ヤシ で訳した。

(Andante maestoso)
2/4
g minor
CLÉOMÈNEクレオメヌ
Le glaive homicide殺人に使われる 剣が【≒ 敵を殺す 剣が】
du brave est l'égide,勇者の 盾だ;
l'honneur seul guide名誉だけが 導く
son bras intrépide.彼の 勇敢な 腕を。

HiÉROSイエロス
Amis, courons aux armes!友たちよ、武器を取って 駆けつけよう!
Ah! bannissez votre effroi, vos alarmes!ああ! 君たちの恐怖を、君たちの 不安を 遠ざけなさい!

NÉOCLÈSネオクレス
Aux armes, aux armes,武器を取れ、武器を取れ、
point d'effroi, point d'alarmes!恐怖なく、不安なく!

HiÉROSイエロス
Aux armes, aux armes,武器を取れ、武器を取れ、
Le glaive homicide殺人に使われる 剣が【≒ 敵を殺す 剣が】
du brave est l'égide,勇者の 盾だ;

CH&Oelig; DE GUERRIERS戦士たちの合唱
Aux armes, aux armes!武器を取れ、武器を取れ!

CLÉOMÈNEクレオメヌ
Aux armes, point d'effroi, point d'alarmes!武器を取れ、恐怖なく、不安なく!

NÉOCLÈS, CLÉOMÈNE ET HiÉROSネオクレス、クレオメヌ と イエロス
Le glaive homicide殺人に使われる 剣が【≒ 敵を殺す 剣が】
sera notre l'égide,勇者の 盾だ;
この箇所と続く箇所は TROUPENAS社 の出版ピアノ伴奏譜の状態に従っている。ROF2017年の上演の音声でもほぼ同様に歌っていると思われるが、一方でROF2017年の公演プログラムに掲載された台本の歌詞は出版ピアノ伴奏譜の歌詞とは少し異なっている。クリティカルエディションが刊行された際に確認したい。

(Andante maestoso)
2/4
G major
NÉOCLÈSネオクレス
Aux armes, aux armes,武器を取れ、武器を取れ、
point d'effroi, point d'alarmes!恐怖なく、不安なく!

CLÉOMÈNE ET HiÉROSクレオメヌ と イエロス
Aux armes, aux armes,武器を取れ、武器を取れ、
La gloire nous guide.栄光が 私たちを 導く。

CH&Oelig; DE GUERRIERS戦士たちの合唱
Aux armes, aux armes,武器を取れ、武器を取れ、

NÉOCLÈSネオクレス
Un courage intrépide勇敢な 勇気は
Sait braver le trépas.死に 勇敢に立ち向かうことが できる。

CLÉOMÈNE, HiÉROS ET CH&Oelig; DE GUERRIERSクレオメヌ、イエロス と 戦士たちの合唱
Notre âme intrépide私たちの 勇敢な 魂は
sait braver le trépas!死に 勇敢に立ち向かうことが できる。

NÉOCLÈS ET CLÉOMÈNEネオクレス と クレオメヌ
Le ciel guide nos pas.天が 私たちの 歩みを 導く。

HiÉROSイエロス
Le ciel même guide nos pas.天 自身が 私たちの 歩みを 導く。

NÉOCLÈS, CLÉOMÈNE ET HiÉROSネオクレス、クレオメヌ と イエロス
Volons aux combats.戦いへと 飛んで行こう。
Récitatif


4/4
(C major)
CLÉOMÈNEクレオメヌ
Vaillants guerriers, votre noble courage勇敢な 戦士たちよ、君たちの 気高い勇気は
de la victoire offre le sûr présage;勝利の たしかな 前触れを 示している;
j'ai dû vous consulter;私は 君たちに 相談しなくてはならなかった;
mais j'admire votre courage,だが 私は 君たちの勇気に 感服している、
dont jamais je n'ai su douter.それを 決して 私は 疑うことが できなかった。
Allegro moderato
2/2
(C major)
Ah! sur l'autel de la patrie,ああ! 祖国の 祭壇に かけて
jurons de vaincre ou de mourir.誓おう 打ち破ると さもなければ 死ぬと。
Allegro
2/2
(C major)
Qui de nous pourrait souffrir私たちの 誰が 耐えることが できるだろうか
la honte, ou l'infamie?不名誉を あるいは 恥辱を?
L'honneur nous est bien plus cher que la vie.名誉は 私たちにとって まさに 命より もっと 大切だ 。
Allegro moderato
2/2
E-flat major
NÉOCLÈS, CLÉOMÈNE, HiÉROS ET CH&Oelig; DE GUERRIERSネオクレス、クレオメヌ、イエロス と 戦士たちの合唱
Oui, jurons, jurons tous, par ces armesそうだ、誓おう、皆 誓おう、これらの 武器に よって
de sauver la Grèce et ses remparts;ギリシャと その 城塞を 救うと;
méprisant les dangers, les alarmes,危険を、不安を ものともせずに、
rangeons-nous près de nos étendards.私たちの 旗の そばに 整列しよう。
Combattons, et s'il faut qu'on succombe,戦おう、そして もし 死ななければ ならない としても、
si le sort nous condamne au malheur,もし 運命が 私たちに 不運を 余儀なくさせる としても、
que Corinthe nous serve de tombe,コリントスが 私たちに 墓の 役目を果たすように
monument de gloire et d'honneur.栄光の そして 名誉の 記念碑【の 役目を果たすように】
[N. 2]
Récit et Trio


Pamyra
Cléomène
Néoclès
Hiéros

Récit.


4/4
(C major)
Scène Ⅱ第2場
Cléomène, Hiéros, Néoclèsクレオメヌ、イエロス、ネオクレス

CLÉOMÈNEクレオメヌ
La Grèce est libre encor; nous vaincrons nos tyrans.ギリシャは まだ 自由だ; 私たちは 私たちの 暴君を 打ち破るだろう。
Ma belliqueuse ivresse a passé dans nos rangs;私の 好戦的な 恍惚は 私たちの 仲間の 中へと 移った【≒ 私の 徹底抗戦しようという熱意は 私たちの 仲間へと 伝わった】
レシを前に置いた 緩 / 急 の二部構成の三重唱。
レシ。
Allegro moderato
4/4
(C major)
1小節。
(Récit)


4/4
(C major)
Allez, sage Hiéros...行きなさい、賢明な イエロスよ…

HiÉROSイエロス
Oui, dans ce jour d'alarmes,はい、この 不安の日に、
intéressons le ciel au succès de nos armes.天に 私たちの 軍隊の 勝利への 興味を持たせよう。
(il sort)(彼は 出る)
Maestoso
4/4
(C major)
4小節

(Récit)


4/4
(C major)
NÉOCLÈSネオクレス
Ta fille m'est promise, et d'un hymen si beau君の娘は 私に 約束されている【≒ 君は 君の娘を 私と結婚させると 約束した】、そして とても 素晴らしい 結婚式の
nous devions dans Corinthe allumer le flambeau;松明 たいまつ に 私たちは コリントスで 明かりをつける はずだった;
Tiendras-tu tes serments?君は 君の 誓いを 守るだろうか?

CLÉOMÈNEクレオメヌ
Oui, ma foi t'est donnée.そうだ、私の誓いは 君に 与えられた。
Ta fille m'est promise, et d'un hymen si beau
hymen イメン は元々は ヒュメナイオス,ギリシャ神話の結婚の神 のことだが、この台本では hymen は 結婚 もしくは 結婚式 の意味で用いられている。

Allegro moderato
4/4
(C major)
Scène Ⅲ第3場
Les mêmes, Pamyra.同じ人たち、パミラ。

CLÉOMÈNEクレオメヌ
Approche, Pamyra.近付きなさい、パミラよ。
Approche, Pamyra. Cette grande journée近付きなさい、パミラよ。この 重要な一日は
moderato
4/4
(C major)
Cette grande journéeこの 重要な日は
peut nous être fatale et doit fixer ton sort.私たちにとって 致命的で ある かもしれない そして 君の 運命を 決めるに 違いない。
Ton père en combattant peut rencontrer la mort,君の父は 戦う時に 死に 出くわす かもしれない、
la mort est préférable au malheur d'être esclave;死は 奴隷になる 不幸よりは 好ましい;
pour être ton appui, j'ai fait choix du plus brave,君の 支えに なる ために、私は この上ない 勇者を 選んだ、
de Néoclès...ネオクレスを…

PAMYRAパミラ
(à part)(脇で【≒ 傍白】)
Qu'entends-je!...私は 何を 聞いているのだ!

NÉOCLÈSネオクレス
Assure mon bonheur,私の幸福を 保証しなさい、
et du pied des autels, je vole au champ d'honneur.そうしたら 祭壇の足元から、私は 名誉の 戦場まで 飛んで行く。

PAMYRAパミラ
(à part)(脇で【≒ 傍白】)
Ô douleur!ああ、苦悩だ!

CLÉOMÈNEクレオメヌ
Viens, suis-nous, la pompe est déjà prête.来なさい、私たちに 従いなさい、盛儀は 既に 用意ができている【≒ 盛大な 結婚式は 既に 準備が整っている】

PAMYRAパミラ
Quoi! dans ce jour de deuil?なんと! この 苦悩に満ちた 日に?

NÉOCLÈSネオクレス
Pamyra!...パミラよ!…

CLÉOMÈNEクレオメヌ
Qui t'arrête?何が 君を 阻止しているのか?

PAMYRAパミラ
Je vous donne mes jours, mon père, ils sont à vous;私は あなたに 私の 日々を 与えている【≒ 私は あなたに 私の命を 委ねている】、私の 父よ、それらは【= 私の命は】 あなたのものだ;
mais cet hymen...しかし この 結婚は…
Allegro
4/4
(C major)
NÉOCLÈS ET CLÉOMÈNEネオクレス と クレオメヌ
Grands Dieux!偉大な神々よ!

PAMYRAパミラ
J'embrasse vos genoux.私は あなたの 膝を 抱擁する【≒ 私は あなたに 懇願する】
(Recit.)


4/4
(C major)
NÉOCLÈSネオクレス
Jour fatal!致命的な 日だ!

CLÉOMÈNEクレオメヌ
Coupable mystère!罪深い 秘密だ!
Ton cœur a-t-il flatté les vœux d'un autre amant?君の心は 別の 恋人の 誓いに 満足したのか?

PAMYRAパミラ
Almanzor, dans Athènes, a reçu mes serments.アルマンゾルが、アテネで、私の 誓いを 受け入れた。

CLÉOMÈNEクレオメヌ
Quel est cet Almanzor, quel est ce téméraire?その アルマンゾルは 誰だ、その 向こう見ずな奴は 誰だ?

PAMYRAパミラ
Pamyra lui garde sa foi.パミラは 彼に 彼女の 誓約を 守っている。

CLÉOMÈNEクレオメヌ
Bannis cet amour de ton âme;その 愛を 君の 魂から 遠ざけなさい;
si tu ne renonçais à ta coupable flamme,もし 君が 君の 罪深い 熱意を 断たない ならば、
mes malédictions tomberaient sur toi.私の呪いが 君に 降り注ぐだろう。
Viens, suis-nous, la pompe est déjà prête.
pompe は 盛大さ,豪華さ の意味だが、この台本では 盛大な儀式 のような意味で用いられている。盛儀 で訳す。

Quoi! dans ce jour de deuil?
deuil は 喪 つまり親族など近しい人と死に別れた時の苦しみや悲しみ を意味する。en eduil で 喪に服す(形容詞句)。この台本では deuil は 苦悩 や 悲しみ を意味しており、そのように訳した。

J'embrasse vos genoux.
embrasser genoux 古代において懇願する人が懇願される人のの膝を抱きかかえて懇願することに由来する表現。

si tu ne renonçais à ta coupable flamme,
flamme 炎 はこの台本ではしばしば 熱意(特に恋愛の) として用いられている。

mes malédictions tomberaient sur toi.
TOUPENAS社の出版ピアノ伴奏譜(とおそらく出版総譜も)では
Le courroux paternel retomberait sur toi.
父の 怒りが 君に 降りかかるだろう。
となっている。

Trio

Andantino
3/4
E major
PAMYRAパミラ
Disgrâce horrible!恐ろしい 失寵だ!
Affreux tourments!ひどい 苦しみだ!
Ce coup terribleこの 凄まじい 打撃は
glace mes sens.私の 感覚を 凍らせる【≒ 私を ぞっとさせる】

NÉOCLÈS ET CLÉOMÈNEネオクレス と クレオメヌ
Mystère horrible!恐ろしい 秘密だ!
Affreux tourments!ひどい 苦しみだ!
Ce coup terribleこの 凄まじい 打撃は
glace mes sens.私の 感覚を 凍らせる【≒ 私を ぞっとさせる】

PAMYRAパミラ
Ciel! sois propice à ma prière!天よ! 私の 祈りに 恵み深く ありなさい!
Tu vois ma peine, en toi seul j'espère;君は 私の 心痛を 見ている、私は 君だけに 頼っている;
fléchis d'un père和らげなさい 父の
la juste colère!もっともな 怒りを!
Du sort contraire逆の 運命の【≒ 逆運の】
suspends les coups.打撃を 中断しなさい。

NÉOCLÈSネオクレス
Ciel! sois propice à ma prière,天よ! 私の 祈りに 恵み深く ありなさい!
Tu vois ma peine, en toi seul j'espère;君は 私の 心痛を 見ている、私は 君だけに 頼っている;
Ah! mets un terme à ma misère,ああ! 私の謎に 終止符を打ちなさい、
Du sort contraire逆の 運命の【≒ 逆運の】
suspends les coups.打撃を 中断しなさい。

CLÉOMÈNEクレオメヌ
O ciel! sois propice à ma prière,ああ 天よ! 私の 祈りに 恵み深く ありなさい!
Tu vois ma peine, en toi seul j'espère;君は 私の 心痛を 見ている、私は 君だけに 頼っている;
Ah! mets un terme à ma misère,ああ! 私の謎に 終止符を打ちなさい、
Du sort contraire逆の 運命の【≒ 逆運の】
suspends les coups.打撃を 中断しなさい。
緩。

《マオメット2世》 第1幕 第3番 シェーナと大三重唱 から、一つ目の三重唱 34 ホ長調 (Ohime! qual fulmine を手直しして更生。《マオメット2世》の大三重唱では2つに分かれていた三重唱(中央に祈りの歌を挟んでいた)を抜き出したようなもの。

Disgrâce horrible!
disgrâce 寵愛を失うこと。この場合は 父の愛を失うこと。

Allegro
4/4
C major
Scène Ⅳ第4場
Des Guerriers grecs et plusieurs Femmes grecques, entrent en désordre sur la scène.ギリシャの兵士たちが そして 何人もの ギリシャの 女たちが、舞台に 混乱して 入って来る。

CH&Oelig;UR DE GUERRIERS GRECS ET DE FEMMES GRECQUESギリシャの戦士たちの そして ギリシャの女たちの 合唱
(à Cléomène)(クレオメヌに)
Dans les deux camps, un cri de mort s'élève...二つの 陣営の 中で、死の 叫びが 湧き上がっている…
déjà le fer brille de toutes parts.既に 至る所で 剣が 光っている。
Guidez nos pas, et reprenons le glaive;私たちの 歩みを 導きなさい、そうすれば 剣を 再び取ろう;
les Musulmans montent sur nos remparts.イスラム教徒たちは 城塞の上に 昇っている。

PAMYRAパミラ
Ô jour de deuil! un cri de mort s'élève...ああ 悲しみの日だ! 死の 叫びが 湧き上がっている…
Déjà le fer brille de toutes parts.既に 至る所で 剣が 光っている。

NÉOCLÈS ET CLÉOMÈNEネオクレス と クレオメヌ
Guidez leurs pas, voici l'instant du glaive,彼らの 歩みを 導きなさい、これが 剣の 瞬間だ!
courons défendre nos remparts.私たちの 城塞を 守りに 急いで行こう。

PAMYRA, NÉOCLÈS, CLÉOMÈNE ET CH&Oelig;UR DE GUERRIERS GRECS ET DE FEMMES GRECQUESパミラ、ネオクレス、クレオメヌ と ギリシャの戦士たちの そして ギリシャの女たちの 合唱
courons.急いで行こう。
《マオメット2世》 第1幕 第3番 シェーナと大三重唱 から 二つ目の三重唱の前のシェーナの素材を用いている。

(Recit.)


4/4
(C major)
CLÉOMÈNEクレオメヌ
Marchons, guerriers, marchons!進もう、戦士たちよ、進もう!

PAMYRAパミラ
Ô mon père! Ô douleur!ああ 私の 父よ! ああ 苦悩だ!

CLÉOMÈNEクレオメヌ
Si le sort trompe ma valeur,もし 運命が 私の 勇気を 欺くならば、
si nous tombons frappés dans les champs du carnage,もし 私たちが 殺戮の 戦場で 打たれて 倒れるならば、
de la honte des fers subiras-tu l'outrage?鉄鎖の 不名誉の 恥辱を 君は 受けるのか【≒ 君は 敵に 拘束されるという 不名誉な恥辱に 耐えるのか】

PAMYRAパミラ
Mon père!私の父よ!

CLÉOMÈNEクレオメヌ
(lui donnant un poignard)(彼女に 短剣を 与えて)
Que ce fer me réponde de toi.この剣が 私に 君を 保証するように。
Si le sort trompe ma valeur,
この valeur は 勇気,勇敢さ。この台本では一貫してこの意味で用いられている。

Que ce fer me réponde de toi.
クレオメヌはパミラに、敵に捕らわれそうになった時にはこの剣で自刃して不名誉の恥辱から逃れるように と告げている。

Maestoso
4/4
(C major)
PAMYRAパミラ
Je vous comprends... rassurez-vous, mon père.私は あなたを 理解している… 安心しなさい、私の父よ。
(Recit.)


4/4
(C major)
NÉOCLÈSネオクレス
L'ennemi terrassé va mordre la poussière.叩きのめされた 敵は 地面に倒れる だろう。

CLÉOMÈNEクレオメヌ
(à Pamyra)(パミラに)
Sois digne de ton nom, de la Grèce et de moi.君の 名前に、ギリシャに そして 私に 相応しく ありなさい。
L'ennemi terrassé va mordre la poussière.
TOUPENAS社の出版ピアノ伴奏譜(とおそらく出版総譜も)ではこの台詞はクレオメヌのもの。
mordre la poussière 直訳すると 埃を噛む で、地面に倒れる の意味になり、さらに転じて 敗北する を意味する。

Allegro
4/4
E major
PAMYRAパミラ
Rassurez-vous, mon père, en ce moment funeste,安心しなさい、私の 父よ、この 致命的な 瞬間に
je saurai braver leur fureur.私は 彼らの 激しい怒りに 勇敢に立ち向かうことが できるだろう。
Si, pour fuir l'esclavage, un seul espoir me reste,そうだ、隷属の状態を 避ける ために、唯一の 希望が 私に 残っている、
l'exemple de mon père enflamme mon cœur.私の 父の 模範が 私の 心を 燃え上らせている。

PAMYRA ET CHŒUR DE FEMMESパミラ と 女たちの合唱
Ô Dieu, toi que j'implore, et dont l'appui nous reste,ああ 神よ、私が 懇願する ところの 君よ、そして その 支えに 私たちは 留まっている、
protège la patrie... en ce moment funeste,祖国を 守りなさい… この 致命的な 瞬間に、
seconde leur valeur.彼らの 勇気を 補佐しなさい。

NÉOCLÈS, CLÉOMÈNE ET CHŒUR D'HOMMESネオクレス、クレオメヌと 男たちの合唱
Ah, quel instant funeste! Ce glaive seul me reste!ああ、なんという 致命的な 瞬間だ! この 剣 だけが 私に 残っている!
Un courage indomptable enflamme notre cœur;不屈な 勇気が 私たちの 心を 燃え上らせている;
Du sort inexorable,容赦しない 運命の
je brave la fureur!激しい怒りに 私は 勇敢に立ち向かう!

CLÉOMÈNEクレオメヌ
Ma fille!... rappelle-toi!...私の 娘よ!… 覚えていなさい【≒ 忘れるでない】!…

PAMYRAパミラ
Ce poignard...この 短剣が…

CLÉOMÈNEクレオメヌ
Sois digne de moi.私に 相応しく ありなさい。

NÉOCLÈSネオクレス
Ah, quel instant funeste!ああ、なんという 致命的な 瞬間だ!
Ce glaive seul me reste;この 剣 だけが 私に 残っている;
je brave leur fureur!私は 彼らの 激しい怒りに 勇敢に立ち向かう!

NÉOCLÈS ET CLÉOMÈNEネオクレス と クレオメヌ
Ô ciel! sois favorable a ma valeur.ああ 天よ! 私の 勇気に 好意的で ありなさい。

PAMYRA ET CHŒURパミラ と 合唱
Ô ciel! sois favorable a leur valeur.ああ 天よ! 彼らの 勇気に 好意的で ありなさい。
《マオメット2世》 第1幕 第3番 シェーナと大三重唱 から 二つ目の三重唱 のうち Più mosso 4/4 ホ長調、Dicesti assai. T'intendo. を手直しして更生。

[N. 3]
Cavatine [de Mahomet]



Allegro
2/4
C major
Scène Ⅴ第5場
Le théâtre change et représente la place de Corinthe. Des Soldats musulmans traversent le théâtre, poursuivant des Soldats grecs; d'autres Soldats turcs arrivent pêle-mêle.舞台は 変わり そして コリントスの 広場を 表す。イスラム教徒の 兵士たちが、ギリシャの 兵士たちを 追いかけて 舞台を 横切る、; 別の トルコ人の 兵士たちが ごちゃごちゃに 到着する。

CHŒUR DE SOLDATS MUSULMANSイスラム教徒の兵士たちの合唱
La flamme rapide,速い 炎が、
le glaive homicide人殺しの 剣が
partout sèment l'horreur.いたるところで 恐怖を まき散らしている。
Corinthe enfin cède à notre valeur.コリントスは ついに 私たちの 勇敢さに 屈している。
Image effroyable恐ろしい 像 である
de deuil et d'horreur,悲しみの そして 恐怖の、
la ville coupable罪深い 都市は 【≒ 悲しみと 恐怖の 恐ろしい ありさまになった 罪深い都市 コリントスは】
maudit sa fureur.その 激しい怒りを 呪っている【≒ 【今や】 自らの 【無謀な】 怒りを 呪っているだろう

À la fin du Choeur, Mahomet arrive suivi de ses Généraux et d'un corps d'élite.合唱の 終わりに、マオメが 到着する 彼の 将軍たちに そして 精鋭隊に 付き従われて。
合唱を前に置いた 緩 / 急 の二部構成のカヴァティヌ。
急。

N. 3 マオメのカヴァティヌ 全体(合唱を含む)が、《マオメット2世》 第1幕 第4番 合唱とマオメットのカヴァティーナ の更生。概要は概ね同じ。

Image effroyable
これは la ville coupable つまり コリントス と同格と理解した。

[N. 3a]
[Andante della Cavatine de Mahomet]

Récit


4/4
(C major)
Scène Ⅵ第6場
Les mêmes, Mahomet et sa suite.同じ人たち、マオメと 彼の従者たち。

MAHOMETマオメ
(à ses Guerriers)(彼の 戦士たちに)
Qu'à ma voix la victoire s'arrête!私の声に 勝利が 終わるように【≒ 勝利に 一段落つけるよう 私は 命じる】
Guerriers, relevez-vous: au sein de ces remparts,戦士たちよ、この城塞の 只中で 立ち上がりなさい、
respectez ces palais, ces prodiges des arts;この宮殿を、この芸術の奇跡を 尊重しなさい;
je veux y graver ma conquête,私は それに 私の征服を 刻みたい
je veux, à la postérité私は 望む、後世の人々に
qu'ils recommandent ma victoire;それらが 私の 勝利を 勧告することを【≒ 私は この宮殿が 後世の人たちに 私の勝利を 伝えることを 望む】
sans les arts, frères de la gloire,芸術なしに、栄光の 兄弟たちよ、
il n'est point d'immortalité.不朽の名声は ない。
レシ。

Qu'à ma voix la victoire s'arrête!
このマオメの台詞は、メフメト2世がコンスタンティノーブルを陥落させた時に、素晴らしい街を残すために兵士たちに略奪や破壊を禁じた、という伝承に基づいているのだろう。当時は都市の陥落の後、勝利した側が3日間の略奪を行うという慣例があった。たしかにメフメト2世はコンスタンティノーブル陥落の際は兵士たちを制しようとしたが、実際にはコンスタンティノープルでも他都市でもオスマン帝国兵による略奪があり、また多くの市民住民を捕らえて奴隷として連行した。前の場面でクレオメヌが娘パミラに 捕らえられるよりも死ぬように と命じているのも、彼女が奴隷女になって辱めを受けないようにとの思いからである。

Cantabile
2/2
F major
La gloire et la fortune栄光と 運命が
à nos armes fidèles,私たちの 軍隊に 忠実な 【栄光と 運命が】
de palmes immortelles不滅の ヤシの葉を
couronnent nos travaux.私たちの 業績に 戴かせる。
《マオメット2世》 第1幕 第4番 合唱とマオメットのカヴァティーナ の 緩 カンタービレ Maestoso 4/4 ヘ長調 Sorgete: e in si bel giorno, からの a Maometto intorno 以下を更生。
これ以降この曲の終わりまでは基本的に《マオメット2世》 第4番 の更生。

この箇所はTROUPENAS社のピアノ伴奏譜には掲載されているが、出版総譜には掲載されていない。

Allegro
4/4
F major
CHŒUR DE SOLDATS MUSULMANSイスラム教徒の兵士たちの合唱
Hommage, gloire, honneur au plus vaillant héros!最も 勇敢な 英雄に 敬意を、栄光を、名誉を!
《マオメット2世》 第1幕 第4番 合唱とマオメットのカヴァティーナ の中間部(テンポ・ディ・メッゾ) Del mondo al vincitor の更生。

Allegro moderato
4/4
F major
MAHOMETマオメ
Chef d'un peuple indomptable et guidant sa vaillance,不屈の 民の 長【であり】 そして その 勇敢さを 導く 【長である】
je vais à ma puissance私は 私の力で
soumettre l'univers.世界を 服従させる 【↑】だろう。

CHŒUR DE SOLDATS MUSULMANSイスラム教徒の兵士たちの合唱
Soumise à ta puissance,君の 力に 服従させられて
l'Asie est dans les fers.アジアは 鉄鎖のなかに いる【≒ 東方は 屈服している】

MAHOMETマオメ
De palmes immortelles不滅の ヤシの葉を
couronnent nos travaux.私たちの 業績に 戴かせる。
出版総譜ではマオメの歌詞には
La Grece sans defense
Se courbe sous mes fers.
防衛のないギリシャは
私の 鉄鎖の 下で 服従する。
という2行があったが、2017年ROFの上演では無くなっている。

l'Asie est dans les fers.
この Asie アジア は中東辺りのこと。メフメト2世はカスピ海、ペルシャ湾より東にはあまり出征しなかった。

[N. 4]
Scène et Final

Pamyra
Cléomène
Omar
Mahomet
Scène


4/4
(C major)
Scène Ⅶ第5場
Les mêmes, Omar.同じ人たち、オマル。

OMARオマル
Nous avons triomphé, mais de leur citadelle私たちは 勝利を収めた、しかし 彼らの 城塞の
les Grecs encor défendent les chemins;ギリシャ人たちは まだ 道々を 守っている【≒ ギリシャ人たちは まだ 抵抗している】
un de leurs chefs est tombé dans nos mains;彼らの 長たちのうちの 一人が 私たちの 手の 中に 落ちた;
ordonnez-vous sa mort?あなたは 彼の死を 命じるか?
Maestoso
4/4
(C major)
MAHOMETマオメ
Qu'en ces lieux on l'appelle.彼を この場所に 呼び出す ように。
allez; je veux l'interroger.行きなさい; 私は 彼を 尋問したい。
(il fait signe aux Gardes)(彼は 衛兵たちに 指示を する)
Moderato
4/4
(C major)
OMARオマル
Mahomet est vainqueur et craint de se venger?マオメは 勝者である それにもかかわらず 復讐されることを 恐れているのか?
Allegro
4/4
(C major)
MAHOMETマオメ
Ami, pardonne à ma faiblesse:友よ、私の 弱みを 許しなさい:
avant d'y paraître en vainqueur,そこに 征服者として 現れる 前に
sous le nom d'Almanzor, je parcourus la Grèce.アルマンゾルの名の下で、私は ギリシャを くまなく歩き回った。

OMARオマル
Sous le nom d'Almanzor?アルマンゾルの名の下で?

MAHOMETマオメ
Une jeune beauté一人の 美しい 若い女が
se montra dans Athène à mon œil enchanté.アテネで 魔法にかけられた 私の目に 現れた【≒ アテネで 美しい娘が 現れ 私の目を 魅惑した】
je marche vers Athène et mon bonheur commence.【これから】 私は アテネに向かって 進み それから 私の 幸福が 始まる。
Ami, j'adore ses appâts,友よ、私は 彼女の 誘惑を 熱愛している
son souvenir m'ordonne la clémence;彼女の 思い出が 私に 寛大さを 命じている;
avant d'y paraître en vainqueur,
y = そこに = à la Grece ギリシャに。


3/4
E-flat major
mais mon captif porte vers moi ses pas.ところで 私の 捕虜が 私の方に 彼の足を 運んでいる。

4/4
C major
Scène Ⅷ第6場
Les mêmes, Cléomène au milieu des Gardes.同じ人たち、衛兵たちの 間の クレオメヌ。

MAHOMETマオメ
Chef des Grecs révoltés, ordonne à tes soldats反乱を起こした ギリシャの 長よ、君の兵士たちに 命じなさい
de déposer le glaive.剣を 置くように と。

CLÉOMÈNEクレオメヌ
Ils n'obéiront pas,彼らは 従わないだろう、
la Grèce à sa gloire est fidèle.ギリシャは その栄光に 忠実だ。

MAHOMETマオメ
On dit que vers la citadelle,城塞に 向かって、
les bataillons s'empressent d'accourir;【トルコ人の】 大隊が 急いで 駆けつけている 【↑】と 言われている;
sauront-ils s'y défendre?彼らは そこで 身を守ることが できるのか?

CLÉOMÈNEクレオメヌ
Ils pourront y mourir!彼らは そこで 死ぬことが できるだろう!

MAHOMETマオメ
Réprime les transports où se livre ton âme,君の 魂が 身を任せている ところの 激情を 抑えなさい、
veux-tu que sur ces murs mon bras lance la flamme?君は 望んでいるのか この城塞に 私の腕が 炎を 放つ ことを?

CLÉOMÈNEクレオメヌ
Tu n'en as pas besoin;君は それを 必要としない;
les Grecs, s'ils sont vaincus, t'épargneront ce soin.ギリシャは、もし 彼らが 打ち破られるならば、君に その 配慮を 免れさせるだろう【≒ もし ギリシャが 敗北するならば、君に そのような 手間を 取らせないだろう】

MAHOMETマオメ
Téméraire!向こう見ずな者め!

CLÉOMÈNEクレオメヌ
Ils bravent ta haine;彼らは 君の 憎悪に 勇敢に立ち向かっている;
ils rejoindront leurs frères expirants:彼らは 彼らの 瀕死の 兄弟たちと 再び一緒になるだろう【≒ 彼らは 彼らの 死に行く 仲間たちと 【天国で】 合流するだろう】
leur trépas héroïque est l'effroi des tyrans!彼らの 英雄的な 死は 暴君たちの 恐怖だ!
Tu frémis!君は 震えなさい!

MAHOMETマオメ
Gardes! qu'on l'entraîne.衛兵たちよ! 彼を 連れて行くように。
De leur audace ils subiront la peine;彼らの 厚かましさの 罰を 彼らは 受けるだろう;
Que dans les fers ils soient précipités.彼らが 鉄鎖に 駆り立てられる ように。
veux-tu que sur ces murs mon bras lance la flamme?
murs(mur 壁 の複数形)は、大雑把に 壁で囲まれた場所 を意味する。この台本では、城壁に囲まれた 城塞、具体的には旧コリントスに聳え立つアクロコリントスを意味する場合と、四方を壁で囲まれた 地下墓地 を意味する場合とがある。

les Grecs, s'ils sont vaincus, t'épargneront ce soin.
ギリシャは全滅するまで戦い抜くので、敗北する時におまえが城塞を焼き払う手間をかけさせないだろう といった意味。これは第2幕第5場でネオクレスがマオメに言い放つ台詞と関連する。

Final

Allegro
4/4
C major
Scène Ⅸ第9場
Pamyra, les précédents, Ismène, Femmes grecques.パミラ、前の場の人たち、イスメヌ、ギリシャの女たち。

PAMYRAパミラ
Arrêtez! écoutez!..止めなさい! 聞きなさい!…

MAHOMETマオメ
(aux Gardes)(衛兵たちに)
Allez, obéissez!行きなさい、従いなさい!

PAMYRAパミラ
(à Cléomène)(クレオメヌに)
Mon père! ô fortune cruelle!私の 父よ! ああ 酷い 運命だ!
Mes larmes du vainqueur fléchiront le courroux.私の涙が 征服者の 怒りを 和らげるだろう。
(À Mahomet)(マオメに)
Seigneur, je tombe à vos genoux.貴君よ、私は あなたの足元に 倒れる【≒ 私は あなたに 平伏す】

MAHOMETマオメ
(reconnaissant Pamyra)(パミラを それと分かり)
Quelle voix!..なんという 声だ!…

PAMYRAパミラ
(reconnaissant Mahomet)(マオメを それと分かり)
Ciel, que vois-je?天よ、私は 何を 見ているのか?

MAHOMETマオメ
Pamyra!パミラよ!

PAMYRAパミラ
Almanzor!アルマンゾルよ!

MAHOMETマオメ
Oui, dieux!... C'est elle!そうだ、神よ!… 彼女だ!
Je sens désarmer ma fureur.私は 私の 怒りが 静まるのを 感じている。
Andantino
2/4
A-flat major
PAMYRA, ISÈNE,CLÉOMÈNE, OMAR, MAHOMET ET CHŒURパミラ、イスメヌ、クレオメヌ、オマル、マオメ と 合唱
Ah!ああ!

PAMYRAパミラ
L'amant qui m'enchaîne私を 【愛の】鎖でつなぐ ところの 愛する人が
mérite ma haine...私の 憎しみに 値する【≒ 私を 愛で 縛る 人が 憎むべき人だとは】
Fortune inhumaine,無情な 運命よ、
tu causes ma peine.おまえが 私の 心痛を 引き起こしている。
Ô ciel, je t'implore,ああ 天よ、私は おまえに 懇願する、
ah! brise la chaîneああ! 【愛の】鎖を 断ちなさい
qui fait mon malheur.私の 不幸を 作る ところの 【鎖を】

CLÉOMÈNEクレオメヌ
L'objet qui l'enchaîne彼女を 【愛の】鎖でつなぐ ところの 対象が
mérite sa haine.彼女の 憎しみに 値する。
Fortune inhumaine,無情な運命よ、
tu causes ma peine.おまえが 私の 心痛を 引き起こしている。
Ô ciel, je t'implore,ああ 天よ、私は おまえに 懇願する、
ah! brise la chaîneああ! 【愛の】鎖を 断ちなさい
qui fait mon malheur.私の 不幸を 作る ところの 【鎖を】

MAHOMETマオメ
Ses larmes, sa peine,彼女の 涙が、彼女の 心痛が、
désarment mon cœur.私の 心を 鎮める。
Sa grâce est certaine,彼女の 優美は 確かだ、
je plains sa douleur.私は 彼女の 苦悩を 哀れに思っている。
Quel charme m'enchaîne!なんという魅力が 私を 【愛の】鎖で縛っていることか!
L'amour de la haine憎しみの 愛が
éteint la furerur.激しい怒りを 弱める。

ISMÈNEイスメヌ
L'objet qui l'enchaîne彼女を 【愛の】鎖でつなぐ ところの 対象が
mérite sa haine.彼女の 憎しみに 値する。
Fortune inhumaine,無情な運命よ、
tu causes sa peine.おまえが 彼女の 心痛を 引き起こしている。
Ô ciel, je t'imploreああ 天よ、私は おまえに 懇願する、
ah! brise la chaîneああ! 【愛の】鎖を 断ちなさい
qui fait son malheur.彼女の 不幸を 作る ところの 【鎖を】

CHŒUR DE SOLDATS MUSULMANSイスラム教徒の兵士たちの合唱
Ses larmes, sa peine彼女の 涙が、彼女の 心痛が、
désarment son cœur.彼の 心を 鎮める。
Sa grâce est certaine,彼女の 優美は 確実だ、
il plaint sa douleur.彼は 彼女の 苦悩を 哀れに思っている。
Quel charme l'enchaîne!なんという魅力が 彼を 【愛の】鎖で縛っていることか!
Il cède, elle enchaîne彼は 譲歩し、彼女は 【愛の】鎖で縛る
l'aimable vainqueur優しい 征服者を
qui fait sa douleur.彼女の 苦悩を 作る ところの 【征服者を】

CHŒUR DE FEMMES GRECQUESギリシャの女たちの合唱
Fortune inhumaine,無情な運命よ、
sa perte est certaine.彼女の 損害は たしかだ。
L'objet qui l'enchaîne彼女を 【愛の】鎖でつなぐ ところの 対象が
mérite sa haine.彼女の 憎しみに 値する。
Ô ciel, je t'imploreああ 天よ、私は おまえに 懇願する、
ah! brise la chaîneああ! 【愛の】鎖を 断ちなさい
qui fait son malheur.彼女の 不幸を 作る ところの 【鎖を】

TOUS全員
Quel trouble, hélas.なんという 混乱だ、ああ。
Ô jour de douleur!ああ 苦悩の日だ!
コンチェルタート。 《マオメット2世》第1幕フィナーレ の (Ritrovo l’amante 2/4 変イ長調 の更生。この箇所はTROUPENAS社のピアノ伴奏譜では61小節だが、《マオメット2世》では117小節あり、半分近くに短縮されたことが分かる。2017年ROFの上演では《マオメット2世》の状態に戻している。
L'amour de la haine
2017年のROFの公演プログラムでは L'amour de la heine となっているが、haine の誤植だと理解した。


4/4
A-flat major
MAHOMETマオメ
Pamyra m'est rendue!パミラが 私に 返された【≒ パミラが 私のもとに 戻って来た】

PAMYRAパミラ
En quel jour de douleur!なんという 苦悩の 日に!

MAHOMETマオメ
Ce jour peut se changer en un jour d'allégresse;この日は 歓喜の 日に 変わり 得る;
qu'elle soit mon épouse et je sauve la Grèce.彼女が 私の 妻に なるように そうすれば 私は ギリシャを 救う。

PAMYRAパミラ
Ô mon père! ô mon père!ああ 私の 父よ! ああ 私の 父よ!

CLÉOMÈNEクレオメヌ
Ô contrainte! ô fureur!ああ 強制だ【≒ ああ 力づくだ】! ああ 激怒だ!
(à Pamyra)(パミラに)
Repousse un coupable hyménée!罪深い 結婚を 拒絶しなさい!

MAHOMETマオメ
(à Pamyra)(パミラに)
Viens, suis-mois dans mon camp.来なさい、私の 陣営へと 私の後に ついて来なさい。

CLÉOMÈNEクレオメヌ
(à la même)(同じ人【= パミラ】に)
Suis ton père à la mort!死へと 君の父の後に ついて来なさい!
À Néoclès tu fus donnée.ネオクレスに 君は 与えられた。

MAHOMETマオメ
À Néoclès?ネオクレスに?

CLÉOMÈNEクレオメヌ
Lui seul dispose de ton sort.彼 だけが 君の 運命を 意のままにする【≒ 彼 だけが 君の 運命を 決められる】

PAMYRAパミラ
Non, jamais!いいや、決して!

CLÉOMÈNEクレオメヌ
Fille ingrate! opprobre de ton père,恩知らずな 娘め! 君の 父の 恥辱め、
à ton front criminel j'attache ma colère.君の 罪のある 額に 私は 私の 怒りを 縛る【≒ 私は 君の 罪深い 顔に 私の 怒りを ぶつける】
Je te maudis...私は 君を 呪う…

Tous, excepté Cléomène全員、クレオメヌを除き
Affreux transport!恐ろしい 激情だ!
Repousse un coupable hyménée!
hyménée = hymen。前述の通り 結婚 もしくは 結婚式 の意味で用いられている。

Allegro
4/4
C major
PAMYRAパミラ
Jour déplorable,ひどい 日だ、
le sort m'accable!運命が 私を 打ちのめす!
Ah! je succombe à ma douleur.ああ! 私は 私の 苦悩で 死ぬ。

CLÉOMÈNEクレオメヌ
Fille rebelle à la voix de ton père,君の父の声に 逆らう 娘よ、
crains la colère怒りを 恐れなさい
d'un dieu vengeur.復讐の 神の 【怒りを】

MAHOMETマオメ
(à Pamyra)(パミラに)
Viens, suis-moi... mon amour, ma puissance来なさい、私の後に ついて来なさい… 私の 愛が、私の力が
vont bientôt désarmer sa vengeance.すぐに 彼の 復讐を 無力にするだろう。
Son refus, sa coupable arrogance,彼の 拒絶は、彼の 罪深い 傲慢は、
livreront tout un peuple au malheur.すべての 民を 不幸に 引き渡すだろう。

CLÉOMÈNEクレオメヌ
Dieu puissant, viens punir son offense!強力な 神よ、彼女の 侮辱を 罰しに 来なさい!
Sur sa tête accomplis ma vengeance;彼女の 頭の 上に 私の 復讐を 成し遂げなさい;
rien ne peut égaler ma souffrance;私の 苦悩に 匹敵し 得るものは ない;
son amour me condamne au malheur.彼女の 【マオメへの】 愛は 私を 不幸へと 余儀なくさせている。

PAMYRAパミラ
Sort fatal! ô remords! ô souffrance!不幸をもたらす 運命だ! ああ 後悔だ! ああ 苦悩だ!
Mon amoure me condamne au malheur!私の 愛は 私に 不幸を 余儀なくさせている!
Dieu puissant, ah! rends-moi l'espérance!強力な 神よ、ああ! 私に 希望を 取り戻させなさい!
Mon cœur succombe à ma douleur.私の 心は 私の 苦悩で 死ぬ。

ISMÈNE ET FEMMES GRECQUESイスメヌ と ギリシャの女たち
De l'amour la funeste puissance愛の 不幸をもたらす 力が
pour jamais lui ravit l'espérance;彼女から 永久に 希望を 奪っている;
rien ne peut égaler sa souffrance;彼女の 苦悩に 匹敵し 得るものは ない;
son amour la condamne au malheur.彼女の 愛は 彼女に 不幸を 余儀なくさせている

OMAR ET SOLDATS MUSULMANSオマル と イスラム教徒の兵士たち
L'insensé croit braver sa puissance;常軌を逸した男は 彼の力に 勇敢に立ち向かっていると 思っている【≒ ネオクレスは マオメの力に 勇敢に立ち向かっていると 思っている】
il nourrit une vaine espérance;彼は 虚しい 希望を 抱いている;
sa fureur, sa coupable arrogance,彼の 激しい怒りは、彼の 罪深い 傲慢は
livreront tout un peuple au malheur.すべての 民を 不幸に 引き渡すだろう。

Mahomet entraîne Pamyra.マオメは パミラを 連れて行く。
ストレッタ。

《マオメット2世》 第1幕 第5番 のうちの (Ah! perche fra le spade nemiche を更生しているが、独唱の旋律はより激しいものに変えられた。

ACTE DEUXIÈME
[N. 5]
Récit, Air et Chœur


Récit

Allegro assai
4/4
C major
Scène Ⅰ第1場

Le théâtre représente le pavillon de Mahomet.舞台は マオメの 大天幕を 表している。

Pamyra, Ismène, femmes turques.パミラ、イスメヌ、トルコ人の女たち。

PAMYRAパミラ
Que vais-je devenir?... destin inexorable!私は どうなるのだろうか?… 無慈悲な 運命だ!
Ah! comment me soustraire au pouvoir indomptableああ! どうやって 私は 手に負えない 力から 逃れるのか
d'un amant, d'un vainqueur?愛する人の、征服者の 【手に負えない 力から】
Le courroux paternel me poursuit et m'accable...父の 怒りが 私に 付きまとい そして 私を 打ちのめす…
Corinthe est dans les fers... Jour de deuil et d'horreur!コリントスは 鉄鎖の 中に ある【≒ コリントスは 占領された】… 悲しみの そして 恐怖の 日だ!
Vos chants, vos jeux, ces fleurs, ces flambeaux, cette fête...君たちの 歌が、君たちの 遊びが【≒ 君たちの 踊りが】、これらの 花々が、これらの 松明 たいまつ が、この 祝宴が…
tout augmente ma douleur.すべてが 私の 苦悩を 増大させている。
De noirs cyprès je doit couvrir ma tête...黒い イトスギで 私は 私の 頭を 覆わなくては ならない…
La mort, oui, la mort seule est l'espoir de mon cœur.死が、そうだ、死だけが 私の 心の 希望だ。
レシを前に置いた パミラの 急 / 緩 / 急 の三部構成のエール。et Chœur とあるが、女声合唱が加わるのは補助的で、あくまでパミラのエール。
レシ。

TROUPENAS社の出版ピアノ伴奏譜では拍子が 2/2 になっているが、これは誤りだろう。

Le théâtre représente le pavillon de Mahomet.
この pavillon は野外の 大天幕 の意味で用いられている。

Air

Maestoso
4/4
E major
Ô patrie infortunée!ああ 不幸な 祖国よ!
Quelle affreuse destinée!なんと 恐ろしい 運命だ!
Mais de gloire environnée,しかし 取り囲まれた 栄光の
tu sauras briser tes fers.おまえは おまえの 鉄鎖を 断つことが できるだろう【≒ おまえは 封じ込まれた 栄光を 解放することが できるだろう】

CHŒUR DE FEMMES TURQUESトルコ人の女たちの合唱
(à Pamyra)(パミラに)
De la Grèces infortunée不幸なギリシャの
tu déplores les revers;裏目を 君は 嘆いている【≒ 君は 不幸な ギリシャの 敗北を 嘆いている】
oui, de gloire environnée,そうだ、取り囲まれた 栄光の
tu sauras briser ses fers.その鉄鎖を 君は 断つことが できるだろう【≒ 君は 封じ込まれた ギリシャの栄光を 解放することが できるだろう】
Ah! dissipe ta tristesse!ああ! 君の 悲しみを 晴らしなさい!


《マオメット2世》 第2幕 第11番 シェーナと第2幕フィナーレ から Si, ferite: il chieggo, il merto; の更生。

この箇所はTROUPENAS社の出版ピアノ伴奏譜でも出版総譜でも採用されていない。速度標語などは《マオメット2世》のものを採った。

Mais de gloire environnée, / tu sauras briser tes fers.
briser les fers de qn …を解放する。

Andantino
3/4
G major
PAMYRAパミラ
Du séjour de la lumière,光の 滞在地 から【≒ 光の 世界 から ≒ 天国 から】
daigne hélas! ma tendre mère,ああ 私の 優しい 母よ、
accueillir ma prière,私の 祈りを 受け入れ 【↑】てください、
et veiller sur mon destin.そして 私の 運命を 注意深く見守【↑↑】ってください。
緩。

《マオメット2世》 第11番 から Madre, a te che sull'Empiro の更生。装飾歌唱を緩和している他、終盤の音楽が僅かに異なる。

Allegro
4/4
E major
CHŒUR DE FEMMES TURQUESトルコ人の女たちの合唱
Il vient... couronne sa tendresse,彼が 来る… 彼の 愛情に 冠を被せなさい【≒ 彼の 愛情に 報いなさい】
ah! pourquoi verser des pleurs;ああ! どうして 涙を 流すのだ;
monte au trône, sauve la Grèce,玉座に 上りなさい、ギリシャを 救いなさい、
mets un terme à ses malheurs.その 不幸に 終止符を打ちなさい。
TROUPENAS社の出版ピアノ伴奏譜および出版総譜では歌詞が異なる。
Quel bruit!
Ah, contre leur furie
rien ne peut nous secourir.
O mes freres! o ma patrie!
l'heure approche, il faut mourir.
なんという 物音だ!
ああ、彼らの 怒りに 対して
何も 私たちを 救出することは でき ない。
ああ 私の 同胞たちよ! ああ 私の 祖国よ!
時が 近付いている、死ななくてはならない。
歌詞の内容からして、彼女たちはギリシャ人の女たちということになる。

(Allegro)
4/4
E major
PAMYRAパミラ
Mais après un long orage,しかし 長い 嵐の 後で
à l'abri de l'esclavage,隷属の状態を 逃れて、
ma patrie, ô doux présage!私の 祖国は、ああ 甘美な 予想よ【≒ ああ 心地よい 予感よ】
reverra ses plus beaux jours.その 最も 美しい 日々を 再び見るだろう。

CHŒUR DE FEMMES TURQUESトルコ人の女たちの合唱
Du trône il offre le partage彼は 彼女に 玉座の 分割を 提供する
au tendre objet de ses amours;彼の 愛の 優しい 対象に;
à la Grèce, après l'orage,ギリシャに、嵐の 後に
il peut rendre ses beaux jour.彼は その 美しい 日々を 返す ことができる。
《マオメット2世》 第2幕 第9番 シェーナとカルボのアリア から カバレッタ E d'un trono alla speranza をソプラノ向けに手直しして更生。出版ピアノ伴奏譜も出版総譜も101小節。《マオメット2世》では127小節あった。

合唱は、TROUPENAS社の出版ピアノ伴奏譜および出版総譜では歌詞が異なる。
Tant de constance et de courage
grand dieu, merite ton secours.
A la Grece, o doux presage,
tu rendras ses beaux jours
たくさんの 毅然たる態度と 勇気は
偉大な神よ、君の救いに 値する。
ギリシャに、ああ 心地よい 前触れだ、
君は その 素晴らしい 日々を 返すだろう。
これもギリシャ人の女たちの合唱ということになる。

à l'abri de l'esclavage,
à l'abri de - ―を逃れて。abri は 避難所。

[N. 6]
[Scène, Duo et Chœur]



[Scène]

Allegro
4/4
(C major)
Scène Ⅱ第2場
Les mêmes, Mahomet.同じ人たち、マオメ。

MAHOMETマオメ
(à Pamyra)(パミラに)
Rassure-toi... mon pouvoir t'environne;安心しなさい… 私の 力が 君を 取り囲んでいる;
je dépose à tes pieds l'orgueil de ma couronne;私は 君の 足元に 私の 王冠の 誇りを 置く;
la victoire a placé vingt sceptres dans ma main;勝利は 私の 手の 中に 20の 王杖 おうじょう を 置いた【≒ 勝利によって 私は 20の 支配権を 手に入れた】
ils t'appartiennent tous...それらは すべて 君のものである…

PAMYRAパミラ
Ciel!天よ!

MAHOMETマオメ
Pourquoi ces alarmes?なぜ それらの 不安を?
Tout reconnaît ici le pouvoir de tes charmes.ここでは 皆が 君の 魅力の 力を 認めている。

PAMYRAパミラ
Ah! de Corinthe en deuil reprenons le chemin.ああ! 悲嘆に暮れて コリントスへ向かう 道に 戻ろう。
Infidèle à mon Dieu, maudite par mon père...私の 神に 不誠実で、私の 父に 呪われて…

MAHOMETマオメ
Nous apaiserons sa colère,私たちは 彼の 怒りを 鎮めるだろう、
et lui-même en ces lieux bénira ton hymen.そして 彼自身が この地で 君の 結婚を 祝福するだろう。
Ah! de Corinthe en deuil reprenons le chemin.
en deuil 喪に服して。ここでは 悲嘆に暮れて で訳した。le chemin de - ―に向かう道。

[Duo]

Allegro giusto
4/4
C major
Pamyra témoigne la plus vive douleur et verse des larmes.パミラは 最も 激しい 苦悩を 示し そして 涙を 流す。

MAHOMETマオメ
Que vois-je! Ô ciel! tu verses des larmes!私は 何を 見ているのだ! ああ 天よ! 君は 涙を 流している!
D'où naissent tes alarmes?君の 不安は どこから 生じているのか?
Dévoile-moi ton cœur.君の心を 私に 明らかにしなさい。

PAMYRAパミラ
Oui, la douleur me fait verser des larmes...はい、苦悩が 私に 涙を 流さ せている…
Les plus cruelles alarmes最も むごい 不安が
sans cesse agitent mon cœur.休みなく 私の 心を 取り乱させている。
急 / 緩 / 急 の三部構成の二重唱。
急。

《マオメット2世》 第2幕 第7番 シェーナと アンナとマオメットの二重唱 の Anna... tu piangi! Il pianto の更生。
この二重唱全体が 《マオメット2世》 第7番 の二重唱の更生。

Andantino
6/8
A-flat major
(à part)(脇で【≒ 傍白】)
Dans un modeste asile,質素な 隠れ家で、
mon âme était tranquille,私の 魂は 穏やかだった、
jaloux de mon bonheur,私の 幸福を 妬んで、
un malfaissant génie悪意のある 精が【≒ 悪魔が】
empoisonna ma vie,私の命に 毒を盛って、
causa mon malheur.私の 不幸を 引き起こした。
Sans l'aveu de mon père...私の父の 許可 なしに…
ô serment trop coupable!ああ あまりにも 罪深い 誓いだ!
Le ciel inexorable無慈悲な 天は
me punit et m'accable.私を 罰し そして 私を 打ちのめす。
Ah! la mort, oui, la mort seul,ああ! 死が、そうだ、死だけが、
en ce funeste instant,この 災いをもたらす 瞬間に、
peut terminer mon tourment.私の 激しい苦しみを 終わらせる ことができる。

MAHOMETマオメ
(à part)(脇で【≒ 傍白】)
Ciel! quel étrange délire!天よ! なんと 奇妙な 錯乱だ!
Interdite... agitée... elle tremble et soupire.狼狽して… 動揺して… 彼女は 震え そして 溜め息をついている。
Rien ne calme son martyre.彼女の 苦痛を 和らげるものは ない。
Dans son cœur je voudrais lire...彼女の 心の 中を 私は 読み たいのだが…
Trahit-elle son serment?彼女の誓いに 彼女は 背いたのか?
Quel trouble! quel délire!なんという 動揺だ! なんという 錯乱だ!
緩。

《マオメット2世》 第7番 の二重唱 の (Lieta, innocente, un giorno の更生。

この箇所は、出版ピアノ伴奏譜と出版総譜で歌詞と音楽が少し異なる。前者が48小節に対して、後者は54小節。出版総譜では、出版ピアノ伴奏でのパミラの歌詞の最初の6行が次の3行に差し替えられている。
Puis-je livrer ma âme,
à ma funeste flamme
sans l'aveu de mon père...
私は 私の 魂を 委ねることが できる、
私の 災いをもたらす 炎に
私の父の 許可 なしに…
2017年ROFの上演では、パミラの歌詞は出版ピアノ伴奏譜と同じで、音楽は《マオメット2世》の状態 65小節 に戻されている。⇒ 楽譜の問題と クリティカルエディション

Dans un modeste asile,
この asile 隠れ家 について詳しいことは分からない。《マオメット2世》の台本では、アンナは父がヴェネツィアに赴いている間コリントスに残され、その際にウベルトの名を騙るマオメットに出会って恋に落ちている。おそらく《コリントスの包囲》でも、パミラは父が不在の間どこか目立たない家(アテネの?)に身を潜めていて、そこでアルマンゾルの名を騙るマオメと出会った、ということだと思われる。なお《コリントスの包囲》では他2箇所で asile が用いられているが、どちらも 地下墓所 を指している。

un malfaissant génie
マオメのこと。

ô serment trop coupable!
アルマンゾルの名を騙ったマオメと 愛の誓いを結んだこと。




OMARオマル
L'autel de l'hyménée結婚の 祭壇が
brille de tous ses feux,その すべての 火で 輝いている、
quelle heureuse journée!なんという 幸せな 日だ!
Le ciel comble tes vœux.天が 君の 望みを 満たしている。

MAHOMETマオメ
Ah! viens serrer la chaîneああ! 【愛の】鎖を 締めに 来なさい【≒ 契りを 結びに 来なさい】
d'où dépend mon bonheur.そこに 私の 幸福が かかっている ところの。
Idole de mon âme,私の 魂の 偶像よ、
ah, comble mon bonheur!ああ、私の 幸福を 満たしなさい!

PAMYRAパミラ
Grand Dieu, calme ma peine,偉大な 神よ、私の 心痛を 鎮めなさい、
termine mon malheur!私の 不幸を 終わらせなさい!
Ah! laisse-moi, le cielああ! 私を 放っておきなさい、天は
s'oppose 'agrave; mon bonheur.私の 幸福に 反対している。
経過区。

この箇所はTROUPENAS社の出版ピアノ伴奏譜および出版総譜にはない。後の Allegro vivace と同じ素材を用いているので、速度標語、拍子、調性はそれと同じだろう。

Allegro
2/2
C major
PAMYRAパミラ
Rien ne peut me soustraire私を 逃れさせることが できるものは ない
à mon funeste sort.私の 災いをもたらす 運命から。
J'aime, et le ciel condamne私は 愛している、そして 天は 非難している
un coupable transport.罪深い 激情を。
Moudite par mon père...私の父に 呪われて…
Je dois chercer la mort.私は 死を 探さ なくてはならない。

MAHOMETマオメ
D'une injuste colère【父親の】 不当な 怒りの
méprise le transport!激情を 軽蔑しなさい!
Viens! Si la Grèce t'est chère,来なさい! もし ギリシャが 君にとって 大切であるならば、
partage mon sort.私の 運命を 共有しなさい。
Ah! viens, ou pour ton pèreああ! 来なさい、さもなければ 君の 父に 対する
crains l'opprobre et la mort.恥辱と 死を 恐れなさい。
《マオメット2世》 第7番 の二重唱 の急 Gli estremi accenti ascolta の更生(途中まで)。
この箇所はTROUPENAS社の出版ピアノ伴奏譜および出版総譜にはない。速度標語などは《マオメット2世》のものを採った。

Allegro vivace
4/4
C major
Scène Ⅳ第4場
Les mêmes, Guerriers turcs, Suite de Mahomet, Imans, Odalisques, etc.同じ人たち、トルコ人の 戦士たち、マオメの従者たち、イスラム教の聖職者たち、オダリスク【= ハレムの女奴隷】たち等々。

OMAR ET CHŒUR DE TURQUESオマル と トルコ人の合唱
La fête d'hyménée結婚の 祝宴が
nous assemble en ces lieux.私たちを この地に 集めている。
Ô chaîne fortunée!ああ 幸福な 絆だ!
Transports délicieux!甘美な 熱狂だ!

PAMYRAパミラ
(à part)(脇で【≒ 傍白】)
Ô comble de misère!ああ 不幸の 極みだ!
Ô malheureux transport!ああ いまいましい 激情だ!

MAHOMETマオメ
(à Pamyra)(パミラに)
Calme ta peine amère,君の つらい 心痛を 静めなさい、
partage un doux transport!甘美な 激情を 共有しなさい!

PAMYRAパミラ
Affreuse destinée!恐ろしい 運命だ!
le ciel maudit mes feux.天は 私の 火を 呪っている【≒ 天は 私の 熱情を 呪っている】

OMAR ET CHŒUR DE TURQUESオマル と トルコ人の合唱
Quelle heureuse journée!なんという 幸福な 日だ!
Tout sourit à ses vœux.皆が 彼の 願いに 微笑んでいる。

MAHOMETマオメ
Ô chaîne fortunée!ああ 幸福な 絆だ!
Le ciel comble mes vœux.天は 私の 願いを 満たしている。
Tout sourit à ses vœux.
ses は 彼の = マオメの と理解した。

[N. 7]
[Divertissement]






Récit

Allegro moderato
4/4
(C major)
MAHOMETマオメ
Triomphe, Pamyra, de l'effroi qui t'arrête;打ち勝ちなさい、パミラよ、君を 捕らえる ところの 恐怖に;
mon peuple vient, préside à cette illustre fête.私の 民が 来る、 この 華々しい 祝宴を 主催されて。

Pamyra s'assied à côté de Mahomet.パミラは マオメの 隣に 座る。
[Ballade]

Allegretto
3/4
C major
ISMÈNEイスメヌ
La jeune Pamyra s'avance.若い パミラが 前に出ている。
Par vos chants et vos jeux honorez sa présence.君たちの 歌と 動きで 彼女の 出席を 称えなさい【≒ 君たちの 歌と 踊りで 彼女の 臨席に 敬意を表しなさい】
イスメヌの歌は出版譜にはない。

(Allegretto)
3/4
C major
L'hymen lui donne結婚式は 彼女に 与える
une couronne,冠を、
et l'environneそして 彼女を 取り巻く
de sa splendeur.その【= 冠の】 光輝で。
Mais la tristesseだが 悲しみが
toujours la presse,常に 彼女を 押し【苦しめ】ている、
et sa tendresseそして 彼女の 愛情が
fait son malheur.彼女の 不幸を 生んでいる。
Rien ne la charme彼女を 喜ばせるものは 何もない
ni l'intéresse.彼女の 興味を 引く ものも。
Ciel! de son père天よ! 彼女の 父親の
éteins la haine,憎しみを 和らげなさい、
ou romps la chaîneさもなければ 絆を 断ち切りなさい
d'un tendre amour.愛情のこもった 愛の。
Ô ciel propice!ああ 恵み深い 天よ
Calme sa peine.彼女の 心痛を 鎮めなさい。
Sèche ses larmes彼女の 涙を 乾かしなさい
et puisse-t-elle,そして 彼女が できるように
loin des alarmes,不安から 遠く離れて、
voir un beau jour.素晴らしい 日を 見ることが。

CHŒUR DE FEMMES TURQUESトルコ人の女たちの合唱
Viens, jeune reine,来なさい、若い 王妃よ、
calme ta peine,君の 苦悩を 鎮めなさい、
sois souveraine支配者に なりなさい
de ce séjour.この 滞在地 の。
Loin des alarmes不安から 遠く離れて
goûter les charmes,魅力を 味わいなさい
d'un tendre amour.優しい 愛の。
《エルミオーネ》 第1幕 第2番 合唱 Dall'Oriente ⇒ 《マオメット2世》 1822年ヴェネツィア改訂稿 第1幕 第2番 女たちの合唱 In oriente の更生。《コリントスの包囲》での音楽は後者に近い。

この曲は、TROUPENAS社の出版ピアノ伴奏譜では第2幕の冒頭に置かれている。

[1er Air de danse]

Lent
2/4
B-flat major
Allegro
3/4
B-flat major
出版総譜では終止線で6つの部分に分かれているが、ここではとりあえず一つとして扱った。

[2e Air de danse]

Maestoso
3/4
D major
Allegro moderato
2/4
D major
出版総譜では終止線で9つの部分に分かれているが、ここではとりあえず一つとして扱った。

[3e Air de danse]
Final





TOUPENAS社の出版ピアノ伴奏譜および出版総譜にはない。

Hymne

Adagio non troppo
3/4
C major
CHŒUR DE FEMMES TURQUES ET DE TURCSトルコ人の女たちと トルコ人たちの 合唱
Divin prophète,神の 預言者よ、
entends nos vœux;私たちの 願いを 聞きなさい;
l'hymen s'apprête,結婚式が 準備されている、
bénis leurs nœuds.彼らの 絆を 祝福しなさい。
Ciel, sois propice,天よ、恵み深く ありなさい、
et sur leur têteそして 彼らの 頭の 上に
verse à jamais永久に  注ぎなさい
tes doux bienfaits.君の 愛情のこもった 恩恵を。

Pendant le chœur, on place un autel sur le milieu du théâtre, et tout se prépare pour l'hymen.合唱の間、舞台の 中央に 祭壇が 据えられる、そして 結婚式のために すべてが 用意される。
[N. 8]
[Récit et] Final [de l'Acte deuxième]




[Récit]

Allegro
4/4
(C major)
MAHOMETマオメ
(descendant de son trône)(彼の 玉座 から 下りて)
Pamyra!パミラよ!

PAMYRAパミラ
(avec crainte)(恐れを もって)
Cet autel...この 祭壇は…

MAHOMETマオメ
Quel bruit se fait entendre?何の 喧噪が 聞かれるのか?


Scène Ⅴ第5場
Les précédents, Omar; puis Néoclès enchaîné.前の場の人たち、オマル それから 鎖につながれた ネオクレス。

OMARオマル
À nous combattre encore un Grec osait prétendre;一人の ギリシャ男が 厚かましくも なお 私たちと 戦うことを 望んで いた;
Un désespoir funeste égare sa raison.死をもたらす 絶望が 彼の 理性を 錯乱させている。
Tout chargé de fers on l'amène.鉄鎖で すっかり 重くのしかかられて 彼は 連れて来られている。
De la fille de Cléomène,クレオメヌの娘の、
dans ses affreux trasports, il prononçait le nom.彼の 恐ろしい 激情の 中で、彼は 名前を 発した。

PAMYRAパミラ
(à part)(脇で【≒ 傍白】)
Que vois-je! Néoclès.私は 何を 見ているのだ! ネオクレスだ。

NÉOCLÈSネオクレス
(à part)(脇で【≒ 傍白】)
C'est elle!彼女だ!

MAHOMETマオメ
Jeune Grec, esclave rebelle,若い ギリシャ男よ、反逆する 奴隷よ、
quel espoir aux combats a pu te rappeler?どのような 希望が 戦いに 君を 呼び戻すことが でき たのか?
Seul... que prétends-tu?ひとりきりで… 君は 何を 切望しているのか?

NÉOCLÈSネオクレス
Mourir ou t'immoler.死ぬか あるいは 君を 【神への】犠牲に捧げるか【≒ 死ぬか 君を 殺すか】 だ。
Voilà ce que des Grecs un tyran doit attendre,それが 暴君が ギリシャ人たちから 予期す べき ことだ【≒ そのことを 暴君は ギリシャ人に 覚悟す べきだ】
et la paix qu'en leur nom je devais t'apporter.そして 【それは】 私が 彼らの 名に おいて 君に もたらせるべき ところの 和平である【≒ 私たちの死か 暴君の死か ということが 私が ギリシャ人を 代表して 君に もたらすべき 和平だ】

MAHOMETマオメ
Ils repoussent la main que je daignais leur tendre.彼らは 私が 彼らに 差し出した ところの 手を 拒絶している。

NÉOCLÈSネオクレス
Toi qui les vis combattre, en pourrais-tu douter?彼らが 戦うのを 見た ところの君よ、君は そのことを 疑うことが できるだろうか?
Sais-tu qu'en ce moment, de notre mort jalouse,君は 知っているのか この瞬間に、私たちの 死を 妬んで、
nous disputant l'honneur de garder ce rempart,この 城塞を 守る 名誉を得るために 私たちと 競って、
nos vierges en deuil, nos épouses,悲嘆に暮れた 私たちの 娘たちが、私たちの 妻たちが、
de la palme funèbre ont réclamé leur part?葬式の ヤシの葉の 彼女たちの 割り当てを 求めた 【↑↑↑】ことを【≒ このところ 【家族が 戦死して】 喪服を着た 私たちの 娘たちや 妻たちが、私たちの 死に 倣おうと、この 城塞を 死守するという 名誉を 私たちと 競って、自分たちの 葬式に用いる ヤシの葉を 求めた ことを 君は 知っているのか】
Tout chargé de fers on l'amène.
ここから3行のオマルの台詞は出版ピアノ伴奏譜と出版総譜では欠けている。

Voilà ce que des Grecs un tyran doit attendre, / et la paix qu'en leur nom je devais t'apporter.
ギリシャ人は 暴君に対して徹底抗戦して、自分たちが死ぬか 暴君を倒すか の2択しかないことを 暴君は 覚悟すべきであり、ネオクレスは ギリシャ人を代表して、死ぬか殺すか という『和平』をもたらしに来ている、といった意味。un tyran と不定冠詞付きなので、この 暴君 は マオメ だけを指しているのではなく、ギリシャに侵略する暴君を広く指している。ギリシャが、ペルシャ戦争におけるクセルクセス1世など、古代から近隣国から侵略を受けて来た苦難を反映する台詞。

Sais-tu qu'en ce moment, de notre mort jalouse,
en ce moment が複合過去で用いられるときは、近い過去から現在までの継続を表す。

nous disputant l'honneur de garder ce rempart,
この nous は à nous と理解した。disputer - à qc ―をめぐって人と競う。

de la palme funèbre ont réclamé leur part?
キリスト教では palme ヤシ(日本では一般的に 棕櫚 シュロ で訳される)は 死への勝利の象徴 である。palme funèbre は葬儀の際に死者にたむけるヤシの葉こと。それを自分たちのために求めるということは、彼女たちが城壁を守るために戦って死ぬ決意であることを意味する。

Allegro
4/4
(C major)
D'un beau trépas tout respire l'ivresse,皆が 立派な 死の 陶酔を 吸う【≒ 誰もが 立派な 死に 夢中に なっている】
tandis que Pamyra par des chants d'allégresse,一方 パミラは 歓喜の 歌によって、
accueille un vainqueur flétrissant品位を落とす 征服者を 迎えている【≒ 恥ずべき 征服者を 迎えている】
D'un beau trépas tout respire l'ivresse,
この ivresse 陶酔 は 夢中,熱狂 の意味合い。

accueille un vainqueur flétrissant
flétrissant は flétrir 萎れさせる,品位を落とす の現在分詞。この場合は 恥ずべき の意味合い。

Allegro mesuré
4/4
(C major)
et, sur le tombeau de la Grèceそして、ギリシャの 墓の 上で
ose couvrir son front de fleurs teintes de sang.厚かましくも 彼女の 頭を 血で 染められた 花々で 覆っている【≒ 一方で パミラは 恥ずべき 征服者を 喜びの歌で 歓迎し そして 墓場と化したギリシャの地で 彼女の 頭に ギリシャ人の血で 染まった 花々を 飾っている】

PAMYRAパミラ
Où fuir?どこに 逃げる【べきな】のか?

MAHOMETマオメ
(à Néoclès)(ネオクレスに)
À ma fureur rien ne peut te soustraire.私の 激しい怒りから 君を 守ることが できる ものは 何もない。
Quel es-tu? quel es-tu?君は 誰だ? 君は 誰だ?

NÉOCLÈSネオクレス
Je suis...私は…

PAMYRAパミラ
Il est mon frère.彼は 私の 兄だ。

MAHOMETマオメ
(à Néoclès)(ネオクレスに)
Son frère!彼女の 兄だと!

PAMYRAパミラ
De la mort j'ai dû te préserver.私は 君を 死から 守らなくては ならなか った。
Allegro mesuré 節度あるアレグロ の指示は出版総譜にだけあり、出版ピアノ伴奏譜にはない。

Final

Andante
2/4
E major
MAHOMETマオメ
Il est son frère!彼が 彼女の 兄だと!
Sa voix si chère彼女の いとしい 声が
de ma colère私の 怒りから
doit le sauver.彼を 救うに 違いない。

PAMYRAパミラ
Il est mon frère!彼は 私の 兄だ!
Ma voix si chère私の いとしい 声が
de ta colère君の怒りから
doit le sauver.彼を 救うに 違いない。

NÉOCLÈSネオクレス
(à part)(脇で【≒ 傍白】)
Qui! moi, son frère!なんだって! 私が、彼女の 兄だと!
Sa voix si chère彼女の いとしい 声が
de sa colère彼の 怒りから
doit me sauver.私を 救うに 違いない。
Allegro
4/4
A major
MAHOMETマオメ
Qu'on détache ses fers.彼の 鉄鎖を 外すように。

NÉOCLÈSネオクレス
(à part)(脇で【≒ 傍白】)
Ô contrainte! ô fureur!ああ 強制だ! ああ 激しい怒りだ!

MAHOMETマオメ
Tu seras le témoin de l'hymen de ta sœur.君は 君の 妹の 結婚の 立会人に なるだろう。

NÉOCLÈSネオクレス
Qu'entends-je?私は 何を 聞いているのか?

MAHOMETマオメ
Vois l'autel, la pompe est déjà prête.祭壇を 見なさい、盛儀は 既に 準備ができている【≒ 盛大な祝宴は 既に 用意ができている】

NÉOCLÈSネオクレス
Je serais le témoin de cette horrible fête?私が この 恐ろしい 祝宴の 立会人に なるであろうか?
Non, la mort...いいや、死を…

MAHOMETマオメ
Insensé!常軌を逸した男め!

PAMYRAパミラ
Mahomet!マオメよ!

MAHOMETマオメ
Calme-toi.落ち着きなさい。
Viens, l'autel est paré.来なさい、祭壇の 準備ができた。

PAMYRAパミラ
Que résoudre? que faire?何を 解決するのか【≒ どう 解決すればよいのか】? 何を するのか【≒ 何を すればよいのか】

MAHOMETマオメ
Songe à tous nos serments.私たちの 誓いを すべて 思い浮かべなさい。

NÉOCLÈSネオクレス
Souviens-toi de ton père;君の 父親を 思い出しなさい;
il t'appelle, il t'attend...彼が 君を 呼んでいる、彼は 君を 待っている…

MAHOMETマオメ
Pamyra, sois à mois.パミラよ、私のものに なりなさい。
Andantino
3/4
C major
Idole de mon âme,私の 魂の 偶像よ、
viens, l'autel te réclame;来なさい、祭壇が 君を 必要としている;
couronne enfin la flammeついに 【愛の】熱意に 冠をかぶせなさい
d'un amant, d'un vainqueur.愛する男の、征服者の。

NÉOCLÈSネオクレス
(à part)(脇で【≒ 傍白】)
Son père la réclame...彼女の 父が 彼女を 呼び求めている…
Dieu! faut-il qu'en son âme神よ! 彼女の 魂に
elle écoute sa flamme?彼女は 彼の【= マオメの】 熱意を 聞き入れ 【↑】 なくてはならないのか?
Ô vengeance! ô fureur!ああ 復讐だ! ああ 激しい怒りだ!

PAMYRAパミラ
Le trouble est dans mon âme;動揺が 私の 心の 中に ある;
je rougis de ma flamme,私は 私の 【愛の】熱意を 恥じている、
mon père me réclame;私の 父が 私を 呼び求めている;
Ô remords! ô douleur!ああ 後悔だ! ああ 苦悩だ!
elle écoute sa flamme?
sa は 彼女の父の と採ることも可能だが、次行でネオクレスが怒りを露わにするのであれば、これは マオメの と採るべきだろう。

Allegro
4/4
C major
OMARオマル
Corinthe nous défie; elle a repris les armes.コリントスが 私たちに 挑んでいる; それは【= コリントスは 女性名詞】 武器を 再び取った。

MAHOMETマオメ
Corinthe!... quand je puis la livrer au trépas!...コリントスが!… いつ 私は それを 死に 引き渡すことが できるのだ!…

OMARオマル
Entends au loin le cri d'alarmes;遠くの 警報の 叫びを 聞きなさい;
les vierges sur les murs se mêlent aux soldats.乙女たちが 城塞の上で 兵士たちに 加わっている。
Regarde...見なさい…

Le rideau du fond se lève, et laisse voir la citadelle couverte de Femmes et de Guerriers armés.奥の 幕が 上がり、そして 女たちで そして 武装した 兵士たちで 覆われた 城塞を 見 させる。

NÉOCLÈSネオクレス
Quel spectacle!なんという 光景だ!

PAMYRAパミラ
Ô remords!ああ 後悔だ!

MAHOMETマオメ
Ô délire!ああ 錯乱だ!

CLÉOMÈNEクレオメヌ
Pamyra.パミラよ。

PAMYRAパミラ
Je t'entends, et mon amour expire.私は 君【の声】を 聞いている、そして 私の 愛は 消え去る。
Corinthe nous défie; elle a repris les armes.
Corinthe は女性名詞。

Pamyra.
このクレオメヌの呼び声は、ROF2017のプログラム冊子に掲載の台本にはないが、TROUPENAS社の出版ピアノ伴奏譜にも出版総譜にもある。舞台裏からの声と思われる。

(Allegro)
4/4
C major
CHŒUR DES GRECSギリシャ人たちの合唱
(du haut de la citadelle)(城塞の上から)
Bravons son empire,彼の 支配力に 勇敢に立ち向かおう、
vengeons nos affronts;私たちの【受けた】 侮辱の 仕返しをしよう;
palmes du martyre,殉教の ヤシの葉よ、
ombragez nos fronts.私たちの 頭に 影を落としなさい【≒ 私たちの 頭を 覆いなさい】

NÉOCLÈSネオクレス
Bravons leur empire,彼らの 支配力に 勇敢に立ち向かおう、
vengeons nos affronts;私たちの【受けた】 侮辱の 仕返しをしよう;
palmes du martyre,殉教の ヤシの葉よ、
ombragez nos fronts.私たちの 頭に 影を落としなさい【≒ 私たちの 頭を 覆いなさい】

OMAR ET CHŒUR DE TURCSオマル と トルコ人たちの合唱
Reprends ton empire;君の 支配力を 取り戻しなさい;
marchons, combattons:進もう、戦おう;
ce peuple enfin expire;この 民は ついに 死ぬ;
marchons, combattons.進もう、戦おう。

MAHOMETマオメ
Funeste délire!死をもたらす 錯乱だ!
Ô comble d'affronts!ああ 侮辱の 極みだ!
Devant mon empire,私の 支配力の 前で、
courbez tous vos fronts.皆 君たちの 頭を 下げなさい。

PAMYRA ET ISMÈREパミラ と イスメル
Vengeons nos affronts;私たちの【受けた】 侮辱の 仕返しをしよう;
palmes du martyre,殉教の ヤシの葉よ、
ombragez nos fronts.私たちの 頭に 影を落としなさい【≒ 私たちの 頭を 覆いなさい】

CHŒUR DE FEMMES TURQUESトルコ人の女たちの合唱
Funeste délire!死をもたらす 錯乱だ!
Souffrez vos affronts:君たちの【受けた】 侮辱を 我慢しなさい;
devant son empire,彼の 支配力の 前で、
courbez tous vos fronts.皆 君たちの 頭を 下げなさい。

MAHOMETマオメ
(à Pamyra)(パミラに)
Tu l'entends... tu peux seule apaiser ma furie:君は そのことを【= 今から言うことを】 聞きなさい… 君 だけが 私の 激怒を 鎮めることが できる;
tu tiens entre tes mains le sort de la patrie;君は 君の 両手の 中に 祖国の 運命を 握っている;
tous les Grecs vont périr sous le fer, dans les feux,すべての ギリシャ人は 剣の 下で、火の 中で 死ぬだろう、
si ta main... dans l'instant...もし 君の 手が… すぐに…

PAMYRAパミラ
Qu'on m'immole avec eux!彼らと 共に 私が 犠牲にされるように【≒ 私も 彼らと共に 犠牲に なるように】

MAHOMETマオメ
Qu'oses-tu dire?君は 何を 思い切って 言っているのか?

NÉOCLÈSネオクレス
Je triomphe!...私は 勝利を収めている【≒ 私の 勝ちだ】!…

PAMYRAパミラ
Oui, j'aspire comme eux aux lauriers du martyre.そうだ、私は 彼らと 同じように 殉教の ゲイッケイジュを 熱望している【≒ 私は 彼らと 同じように 殉教の 栄誉を 熱望している】

MAHOMETマオメ
Mon espoir, tes serments, mes vœux, seraient trahis!私の 希望は、君の 誓いは、私の 願いは、裏切られたのだな!

PAMYRAパミラ
J'adorais Almanzor... Je meurs pour mon pays.私は アルマンゾルを 熱愛した… 私は 私の 国の ために 死ぬ。

NÉOCLÈSネオクレス
Pamyra!...パミラよ!…

MAHOMETマオメ
Sois à moi...私のものに なりなさい…

PAMYRAパミラ
Plus d'hymen.もう 結婚は ない。

MAHOMETマオメ
Suis mes pas!私の 歩みの 後について来なさい!

NÉOCLÈSネオクレス
Je triomphe!私は 勝利を収めている【≒ 私の 勝ちだ】!…

MAHOMETマオメ
Ô fureur!ああ 激しい怒りだ!

NÉOCLÈSネオクレス
Ô victoire!ああ 勝利だ!

PAMYRAパミラ
Ô mon père!ああ 私の 父よ!

MAHOMETマオメ
Vois l'autel.祭壇を 見なさい。

PAMYRAパミラ
Non, la mort!いいや、死を!

NÉOCLÈSネオクレス
Cette mort...その 死は…

PAMYRAパミラ
C'est la gloire.それは 栄光だ。

MAHOMETマオメ
Je frémis...私は 震える…

PAMYRAパミラ
Viens, mon frère!来なさい、私の 兄よ!

NÉOCLÈSネオクレス
Oui, marchons.そうだ、進もう。

MAHOMETマオメ
Au trépas.死に向かって。
(avec fureur)(激しい怒りを もって)
Eh bien! que le soleil, témoin de ma victoire,よろしい! 私の 勝利の 証人である、太陽が、
demain cherche Corinthe et ne la trouve pas.明日 コリントスを 探し求め それなのに それを 見つけ【られ】ない 【↑】ように。
Bravons son empire,
この empire は 支配力。

Allegro vivace
4/4
E major
MAHOMET, OMAR et CHŒUR DES TURCSマオメ、オマル と トルコ人たちの合唱
Aux armes! sa fureur se ranime.武器を取れ! 彼の 激しい怒りが 活気を取り戻している。
Dans le fond de ce cœur frémissant.この 震える 心の 奥底で。
Tout un peuple sera sa victime,すべての 民は 彼の 犠牲者に なるだろう、
ces flambeaux s'éteindront dans le sang.これらの 【結婚式の】松明 たいまつ は 血の中で 消えるだろう。

NÉOCLÈSネオクレス
Oh transport! Sa fureur se ranimeああ 熱狂だ! 彼女の 激しい怒りが 活気を取り戻している
dans le fond de son cœur frémissant.あの 震える 心の 奥底で。
Des combats je peux être victime,私は 戦いの 犠牲者に なる かもしれない【が】
l'héroïne est digne de son sang.英雄の女は 彼女の 血筋に 相応しい。

PAMYRA ET ISmÈNEパミラ と イスメヌ
De la mort je puis être victime.私は 死の 犠牲者に なる かもしれない。
Je souris au destin qui m'attend.私は 私を 待っている ところの 運命に 微笑む。
Ô transport! tout mon cœur se ranime,ああ 熱狂だ! すべての 私の 心が 活気を取り戻している、
à l'espoir d'un trépas éclatant.輝く 死の 希望に。

CHŒUR DES FEMMES TURQUESトルコ人の女たちの合唱
Ô douleur! sa fureur se ranimeああ 苦悩だ! 彼の 激しい怒りが 活気を取り戻している
dans le fond de ce cœur frémissant,あの 震える 心の 奥底で、
tout un peuple sera sa victime,すべての 民が 彼の 犠牲者に なるだろう、
ces flambeaux s'éteindront dans le sang.これらの 【結婚式の】松明 たいまつ は 血の中で 消えるだろう。

CHŒUR DES GRECSギリシャ人たちの合唱
De la mort je peux être victime,私は 死の 犠牲者に なることが できる、
je souris au destin qui m'attend.私は 私を 待っている ところの 運命に 微笑む。
Ô transport! tout mon cœur se ranime,ああ 熱狂だ! 私の 心は すっかり 活気を取り戻している、
à l'espoir d'un trépas éclatant.輝く 死の 希望に。

A un signe de Mahomet, les Gardes entourent Néoclès et Pamyra.マオメの 合図で、衛兵たちは ネオクレスと パミラを 取り囲む。
Sortie tumultueuse.騒然たる 退場。
Aux armes! sa fureur se ranime.
ROF2017のプログラム冊子掲載の台本ではこのように行末にピリオドが打たれているのだが、おそらくこの行はピリオドなしで次行と繋がっていると思われる。またマオメだけは ma fureur となっているのではないかと思われる。これらはクリティカルエディション総譜が刊行された時に確認したい。

ACTE TROISIEME
[N. 9]
[Récit,] Prière [et] Air [de Néoclès]

Néoclès
Adraste

[Récit]

Andante
4/4
c minor
Scène Ⅰ第1場
Le théâtre représente les tombeaux de Corinthe, éclairés par des feux multipliés.舞台は コリントスの 【地下】墓【地】を 表している、多数の 火によって 照らされた
Néoclès seul.ネオクレス 一人。

NÉOCLÈSネオクレス
Avançons... oui, ces murs... c'est ici... plus d'effroi.前進しよう… そうだ、この 壁【に囲われた場所】だ… ここだ…
Salut, tombeaux sacrés! salut, dernier asile,【おまえたちに】挨拶を【送ろう】 、聖なる 【地下】【地】よ! 挨拶を、最後の 安らぎの場よ、
où pour fuir l'esclavage un grand peuple s'exile,たくさんの 民が 隷属の状態から 逃げる ために 亡命している ところの【≒ 多くの人々が 奴隷になることから 逃れて来た 最後の 安らぎの場よ】
j'arrive à temps, les Grecs ne mourront pas sans moi.私は 【ギリシャ人たちの反撃に】 間に合って 到着している、ギリシャ人たちは 私 無しでは 死なないだろう。


Scène Ⅱ第2場
Néoclès, Adraste.ネオクレス、アドラスト。

ADRASTEアドラスト
(avec surprise)(驚きを もって)
Ciel! que vois-je! quels traits à mes regards offerts!天よ! 私は 何を 見ているのだ! どの 顔だちが 私の 目線に 示されているのだ【≒ 私の目は 誰の顔を 見ているのだ】
Néoclès avec nous dans ces demeures sombres?ネオクレスが 私たちと共に この 暗い 【死者の】住まいに【≒ ネオクレスが この 暗い 地下墓地に 私たちと いっしょに いるのか】

NÉOCLÈSネオクレス
À la faveur du combat et des ombres,戦闘に そして 闇に 乗じて、
j'ai trompé mes gardiens et j'ai brisé mes fers;私は 私の 番人たちの 裏をかき そして 私は 私の 鉄鎖を 砕いた;
oui, sous ces voûtes funéraires,そうだ、この 墓の 丸天井の 下で、
à la lueur des sinistres flambeaux,不気味な 松明 たいまつ の 光で、
je viens joindre une offrande à celle de mes frères.私は 【神への】 捧げものを 私の 兄弟たちの ものに 付け加えに 来ている【≒ 私は 同志たちが 神に 身を捧げた ことの 後に続き 私も 神に 自分の身を 捧げに 来ている】

ADRASTEアドラスト
Les destins ont trompé nos efforts téméraires,運命は 私たちの 大胆不敵な 努力【の期待】を 裏切った、
et la patrie, hélas! n'est plus qu'en ces tombeaux.そして 祖国は、悲しいかな! もう この 【地下】【地】に しか ない。

NÉOCLÈSネオクレス
De mon retour avertis Cléomène;私の 帰還を クレオメヌに 知らせなさい;
sa fille revient parmi nous.彼の 娘が 私たちの 中に 戻って来る。
Sa fille, qu'en ces murs Néoclès lui ramène,彼の 娘は、その者は この 城塞に ネオクレスが 彼に 連れ戻している【≒ ネオクレスが 彼へと この城塞に 連れ戻して来ている 彼の娘は】
lui demande en pleurant d'embrasser ses genoux.泣きながら 彼に 彼の膝を 抱擁することを 求めている【≒ 泣きながら 彼に 懇願することを 求めている】

Adraste sort.アドラストは 出て行く。
TROUPENAS社の出版ピアノ伴奏譜では速度標語が Maestoso。

Avançons... oui, ces murs... c'est ici... plus d'effroi.
第3幕では murs 複数形 はほとんどで 四方を壁に囲まれた場所 すなわち 地下墓地 を指している。

où pour fuir l'esclavage un grand peuple s'exile,
多くの人々が 捕らえられて奴隷になることを拒み 死んで地下墓所に葬られた という意味。

Ciel! que vois-je! quels traits à mes regards offerts!
quels は 節が感嘆符で終わっているので なんという で訳すこともできるが、que vois-je! を受けてこちらも感嘆符で終わる疑問文であると理解し、quels は どの と採った。

Moderato
4/4
E major
Scène Ⅲ第3場
Néoclès, seul.ネオクレス 一人。

NÉOCLÈSネオクレス
Les destins ont trompé notre attente,運命は 私たちの 期待を 裏切った、
un grand peuple périt opprimé;たくさんの 民が 弾圧されて 死んでいる;
mais fuyant une chaîne insultante,しかし 侮辱的な 鎖を 逃れて、
chez les morts il descend tout armé.それは【= 人々は】 死者たちの ところに 完全武装して 下りる。

On entend au-dessus de la voûte le chant des Filles grecques.丸天井の 上の方で ギリシャ人の娘たちの 歌が 聞こえる。

Ciel! Écoutons...天よ! 聞こう…
On entend au-dessus de la voute le chant des Filles grecques.
《マオメット2世》の台本のト書きでは、地下墓地について
Ampio sotterraneo del tempio, tutto sparso di sepolcri,
寺院の 広い 地下室、墓が 一面に 散在する、
とあり、これ設定は《コリントスの包囲》でも踏襲されているようである。

[Prière]

Lento
3/4
d minor
CHŒUR DES FILLES GRECQUES ET PAMYRAギリシャ人の娘たちの合唱 と パミラ
Ô toi que je révère,ああ 私が 崇める ところの 君よ
vers la céleste sphère天球の 方に
j'élève ma prière.私は 私の 祈りを 上げる。

NÉOCLÈSネオクレス
On prie...誰かが 祈っている…

CHŒUR DES FILLES GRECQUES ET PAMYRAギリシャ人の娘たちの合唱 と パミラ
Ô toi que je révère,ああ 私が 崇める ところの 君よ
écoute ma prière!...私の 祈りを 聞きなさい!…

NÉOCLÈSネオクレス
Qu'entends-je! Pamyra, du fond du sanctuaire,私は 何を 聞いているのだ! パミラが、聖域の 奥から
Ô ciel, avec ses sœurs, élève sa prière.ああ 天よ、彼女の 姉妹たちと 共に、彼女の 祈りを 上げている。

CHŒUR DES FILLES GRECQUES ET PAMYRAギリシャ人の娘たちの合唱 と パミラ
Quand Dieu lance le tonnerre神が 雷を 放つ 時に
sur la race sanguinaire血を好む 民族の 上に
de ces ennemis cruelsこれらの 残忍な 敵たちで
qui menacent tes autels.君の 祭壇を 脅す ところの【≒ 君の 祭壇を あの 残忍な 敵で 脅かす 残虐な 民族に 神が 雷を 放つ 時には。】
[Air]

Allegro agitato
4/4
g minor
NÉOCLÈSネオクレス
Grand Dieu, faut-il qu'un peuple qui t'adore偉大な 神よ、君を 崇拝する ところの 民が
quitte à jamais les foyers paternels?永久に 父たちの 家々を 離れ 【↑】なければならないのか【≒ あなたを 崇める 人々が 永久に 先祖伝来の 家を 棄てなくては ならないのか】
Tout l'abandonne... il t'appelle... il t'implore.皆が それを 放棄し… それは 君を 呼んでいる… それは 君に 懇願している【≒ 誰がも 家を 棄てて… 誰もが 君を 呼び求めて… 誰もが 君に 懇願している】
Laisseras-tu renverser tes autels?君は 君の 祭壇を ひっくり返 させておくのだろうか?
Non, non, j'en crois ta parole immortelle.いいや、いいや、私は 君の 永遠の 言葉を 信用する。
Contre ta loi l'enfer conspire en vain.君の 法に 対して 地獄が 虚しく 陰謀を企てている【≒ 地獄は 君の 法に 逆らって 陰謀を企てているが 無駄なことだ】
Nous périrons; mais la race infidèle私たちは 死ぬだろう; だが 異教の 民族は
paiera bientôt son triomphe.すぐに その 勝利の 代償を払うだろう。
De Pamyra j'ai pu briser la chaîneパミラの 【愛の】鎖を 私は 断つことが できた
et du tyran mépriser le courroux;そして 暴君の 怒りを 軽蔑することが 【できた】
ah! c'est le ciel qui dans ces lieux l'amèneああ! この場所に 彼女を 連れて来るのは 天だ
pour triompher ou mourir avec nous.私たちと 共に 勝利を収める ために あるいは 死ぬ ために。
Non, non, j'en crois ta parole immortelle.
en croire - ―を信用する,信頼する。動詞句。

Un poco più lento
4/4

G major
C'est toi, grand Dieu, qui des bords de l'abîme,君だ、偉大な 神よ、深淵の 淵 から【≒ 破滅の 際 から】
daigne sauver l'innocente victime.罪のない 犠牲を 救って くださる 【↑】者は。
Par toi l'espérance en mon cœur se ranime.君に よって 希望が 私の心の中で 活気を取り戻している。
Des bords de l'abîme,深淵の 淵 から【≒ 破滅の 際 から】
sauvant la victime,犠牲を 救うことで、
tu daignes combler mes vœux.君は 私の 願いを 満たして くださる。
C'est toi, grand Dieu, qui des bords de l'abîme,
abîme 深淵 は 破滅 の意味でも用いられる。

daigne sauver l'innocente victime.
この victime は 神に捧げられる犠牲,生贄 いけにえ の意味。マオメと結婚するために連れ去られたパミラを 犠牲 と言い表している。

Par toi l'espérance en mon cœur se ranime.
ネオクレスの 希望 は、パミラと結婚すること。

Primo tempo
4/4

G major
Près de l'urne de sa mère,彼女の 母親の 骨壺の そばに、
en ce séjour ténébreux,この 暗闇の 【死者の】住みかに【≒ この 暗い 地下墓地に】
soumise aux lois de son père,彼女の 父親の 法に 従って【≒ 彼女の 父親の 言いつけに 従って】
elle fuit d'horribles nœuds.彼女は 恐ろしい 絆から 逃げて来ている。
soumise aux lois de son père,
lois de son père, 彼女の父親の法 は、第1幕 第2番 の三重唱で、クレオメヌがパミラに 捕らわれそうになったら短剣で自ら命を絶つよう命じたこと を指す。これは、彼女が死ぬために地下墓地に来たことを示唆している。

elle fuit d'horribles nœuds.
fuit は直接法現在三人称単数形と直接法単純過去三人称単数形が同形で、どちらでも採れる。ここでは前者で採った。
Un poco più lento
4/4

G major
C'est toi, grand Dieu, qui des bords de l'abîme,君だ、偉大な 神よ、深淵の 淵 から【≒ 破滅の 際 から】
daigne sauver l'innocente victime.罪のない 犠牲を 救って くださる 【↑】者は。
Par toi l'espérance en mon cœur se ranime.君に よって 希望が 私の心の中で 活気を取り戻している。
Des bords de l'abîme,深淵の 淵 から【≒ 破滅の 際 から】
sauvant la victime,犠牲を 救うことで、
tu daignes combler mes vœux.君は 私の 願いを 満たして くださる。
Più mosso
4/4

G major
sauvant la victime,犠牲を 救うことで、
tu daignes combler mes vœux.君は 私の 願いを 満たして くださる。
[N. 10]
[Scène et] Trio





[Scène]


2/2
(C major)
Scène Ⅳ第4場
Néoclès, Cléomène.ネオクレス、クレオメヌ。

NÉOCLÈSネオクレス
(accourant vers Cléomène)(クレオメヌの方に 駆けつけて)
Cher Cléomène...愛する クレオメヌよ…

CLÉOMÈNEクレオメヌ
Ô toi, que je croyais perdu,ああ 失われたと 私が 思った ところの、君よ、
à notre dernier jour tu nous es donc rendu!私たちの 最後の 日に 君は それゆえ 私たちに 返された!
Un fils me reste encor pour essuyer mes larmes.一人の 息子が まだ 私には 残っている 私の 涙を 拭う ために。

NÉOCLÈSネオクレス
(avec hésitation)(ためらいながら)
Pamyra! cet objet de mes tendres alarmes...パミラが! この 私の 愛情のこもった 不安の 対象が【≒ 私が 心から 不安に思っている あの人が】

CLÉOMÈNEクレオメヌ
L'infidèle a brisé nos plus sacrés liens;不信心な者は 私たちの 最も 神聖な 絆を 断った;
qu'elle épargne à mon cœur sa présence ennemie.彼女が 彼女の 敵の 存在を 私の 心に 免れさせるように【≒ 彼女が 敵の中に いることを 彼女が 私の 心に 思い出させずに済ませるように】

NÉOCLÈSネオクレス
Elle a sauvé mes jours.彼女は 私の 日々を 救った【≒ 彼女は 私の 命を 救った】

CLÉOMÈNEクレオメヌ
Elle a flétri les miens.彼女は 私のものの 価値をおとしめた【≒ 彼女は 私の 日々を 汚 けが した ≒ 彼女は 私の 人生を 汚 けが した】
Je descends au tombeau tout chargé d'infamie!私は 恥辱を すべて 背負って 墓に 下りる!

NÉOCLÈSネオクレス
Si, conduite à vos pieds par un remords soudain...もし、あなたの 足元に 突然の 後悔によって 【彼女が】 連れて来られ たら ならば…

CLÉOMÈNEクレオメヌ
Ce poignard, à tes yeux, lui percerait le sein.この 短剣が、君の 目の前で、彼女の 胸を 突き通すだろうに。

NÉOCLÈSネオクレス
Sa douleur...彼女の 苦悩は…

CLÉOMÈNEクレオメヌ
Et la mienne!...それで 私のものは【私の 苦悩は】!…

NÉOCLÈSネオクレス
Un père...父親は…

CLÉOMÈNEクレオメヌ
Plus de grâce...もはや 赦免は ない…
このレシの拍子は、TROUPENAS社の出版ピアノ伴奏譜では 4/4 だったが、出版総譜では 2/2 に変えられた。一般的にレシは 4/4 で記譜されるので、出版総譜がなぜ 2/2 なのか疑問である。ここではとりあえず出版総譜に従う。

Allegro
2/2
(C major)
Ciel! que vois-je?天よ! 私は 何を 見ているのか?


Scène Ⅴ第5場
Les mêmes, Pamyra.同じ人たち、パミラ。

PAMYRAパミラ
(se précipitant aux genoux de son père)(彼女の 父親の 膝に 駆け寄って【≒ 彼女の 父親に 駆け寄って 膝を 抱えて】)
Elle expire à vos pieds qu'elle embrasse.彼女は 彼女が 抱擁する ところの あなたの 両足で 死ぬ【≒ パミラは彼女が 抱き締める 父親の 足の 下 もと で 死ぬ】

CLÉOMÈNEクレオメヌ
(il porte les mains sur son poignard, Néoclès le retient)(彼は 両手を 短剣の上に 運ぶ、ネオクレスは 彼を 制止する)
Que me veux-tu, perfide? et quel est ton dessein?君は 何を 望んでいるのか、裏切者よ? そして 君の 意図は どうなのか?

PAMYRAパミラ
Mon père!...私の 父よ!…

CLÉOMÈNEクレオメヌ
Quelle est ta famille?誰が 君の 家族だと?
Je fus père autrefois; mais je n'ai plus de fille,私は かつて 父親だった; しかし 私は もう 娘を 持っていない、
dans le camp d'un barbare, elle a porté ses pas.野蛮人の 野営の中に、彼女は 彼女の 足を 運んだ。

PAMYRAパミラ
Elle est à vos genoux.彼女は あなたの 両膝に いる【≒ 彼女は あなたに 平伏している】

CLÉOMÈNEクレオメヌ
Je ne l'aperçois pas.私は 彼女が 見えない【≒ 私には そんな女は 見えない】
TROUPENAS社の出版ピアノ伴奏譜では Allegro moderato 4/4。


2/2
(C major)
Je n'y vois qu'un objet, dont l'impure faiblesse,私は そこに 一つの 対象 しか 見ていない、その 不純な 弱さは、
d'une honte éternelle a couvert ma vieillesse永遠の 恥辱で 私の 老年を 覆った
et qui, pour me fléchir, feignant un vain remords,そして、私の 心を動かす ために、虚しい 後悔を 装って、
vient jusqu'en ces tombeaux déshonorer ma mort.この 【地下】【地】 まで 私の 死の 名誉を傷つけに 来ている【≒ 私が 足元に 見ているのは、不純な 意志の弱さのせいで 私の老年を 末代までの恥で 覆い尽くし、そして、私の 怒りを 和らげようと、上辺だけの 後悔を 装い、私の 死の 名誉を傷つけに この 地下墓地に まで 来ている 者 だけだ】
Fuis; nos tyrans te redemandent,逃げなさい【≒ 立ち去りなさい】; 私たちの 暴君たちが 君を 再び要求している、
au sérail du vainqueur les voluptés t'attendent.征服者の 後宮で 逸楽が 君を 待っている。
Embrasés par nos mains, nos palais, nos tombeaux,私たちの 手によって 火を点けられて、私たちの 宮殿は、【そして】 私たちの 【地下】【地】は、
à ton affreux hymen serviront de flambeaux;君の おぞましい 結婚式で 松明 たいまつ の 役目を果たすだろう;
et ton regard, demain, dans la pompe des fêtes,そして 君の 視線は、明日、祝宴の 盛儀の 中で、
au bout d'un fer sanglant, verra passer nos têtes:血にまみれた 剣の 先端に、私たちの 頭が 移るのを 見るだろう:
TROUPENAS社の出版総譜では特に区切りはないが、出版ピアノ伴奏譜では、Je n'y vois qu'un objet, dont l'impure faiblesse, の1小節前に Moderato 4/4 の指示があり、ここでも一応区切りを入れておく。

Allegro giusto
2/2
(C major)
va couronner ton front d'un opprobre éclatant,君の 頭に 輝かしい 恥辱の 冠をかぶせに 行きなさい、
fuis! Quitte ces tombeaux, ou j'en sors à l'instant.逃げなさい【≒ 立ち去りなさい】! この 【地下】【地】を 離れなさい、さもないと 私は 今すぐに ここから 出る。

2/2
(C major)
PAMYRAパミラ
Mon père!...私の 父よ!…

NÉOCLÈSネオクレス
Ayez pitié de sa douleur mortelle.彼女の 死ぬほどの 苦悩を 哀みなさい。

CLÉOMÈNEクレオメヌ
Loin de ces murs sacrés qu'elle porte ses pas.彼女が 足を 運んでいる ところの この 聖なる 壁々から 遠くに【≒ 彼女が 訪れている この 聖なる 地下墓地から 遠くへと 【離れなさい】】

PAMYRAパミラ
Qui vient pour y mourir ne les quittera pas.ここに 死にに 来ている 者は それらを【= 壁々を ≒ 地下墓地を】 離れは しない。

CLÉOMÈNEクレオメヌ
Y mourir! La patrie exile une infidèle!ここで 死ぬ だと! 祖国は 不信心な女を 国外追放する!
Il faut pour le trépas des âmes dignes d'elle.死のためには それに【= 祖国に】 相応しい 魂が 必要だ。
Esclave d'un tyran, de quel front oses-tu暴君の 虜 とりこ よ、どの 顔で 君は 厚かましくも
réclamer les honneurs gardés à la vertu?徳行のために 取っておかれた 名誉を 要求するのか【= 【祖国のために死ぬという】 徳の高い行為のために 残されている 【この地下墓地に埋葬されるという】 名誉を 要求するのか】
Ton exécrable amour...君の おぞましい 愛は…

PAMYRAパミラ
Il expire en mon âme.それは【= 愛は】 私の 魂の 中で 消え去っている。
La patrie, en mourant, m'épure de sa flamme.死につつある 祖国は、私から その炎を 浄化する【≒ 滅び行く祖国は 私から 愛の 炎を 追い払った】

NÉOCLÈSネオクレス
(à Cléomène)(クレオメヌに)
Eh bien!それでは!

CLÉOMÈNEクレオメヌ
S'il était vrai... si, digne encore de moi,もし それが 本当ならば… もし、まだ 私に 相応しく、
tu jurais d'étouffer ta flamme criminelle...君が 君の 罪深い 炎を 消すと 誓う 【↑】ならば…

PAMYRAパミラ
Devant la tombe maternelle,母の 墓の 前で、
à Néoclès je viens donner ma foi.ネオクレスに 私は 私の 【結婚の】 誓いを 与えるだろう。

NÉOCLÈS ET CLÉOMÈNEネオクレス と クレオメヌ
Ciel!天よ!

PAMYRAパミラ
Trompons un tyran dans sa fureur jalouse.嫉妬深い 激怒の 中にいる 暴君を 欺こう。

CLÉOMÈNEクレオメヌ
Mes enfants!...私の 子たちよ!…

NÉOCLÈSネオクレス
Pamyra!...パミラよ!…

PAMYRAパミラ
Sans autels, ni flambeaux,祭壇も なく、松明 たいまつ も 【なく】
que j'emporte au cercueil le nom de ton épouse.私が 君の 妻の 名を 棺に 持って行くように。

NÉOCLÈSネオクレス
Que son char vainqueur passe entre nos tombeaux.彼女の 勝ち誇った 2輪馬車が 私たちの 墓の 間を 通るように。

CLÉOMÈNEクレオメヌ
Venez, venez tous deux; que ma main vous bénisse.来なさい、二人とも 来なさい; 私の 【右】手が 君たちを 祝福するように。
TROUPENAS社の出版総譜には特に区切りは無いが、出版ピアノ伴奏譜には Moderato 4/4の指示がある。

Quelle est ta famille?
この直前にパミラがクレオメヌを on père!... 私の 父よ!… と呼びかけたのに対して、彼女をもはや娘と認めていないクレオメヌは 誰が 君の父だと? といった意味で応えている。そして次の台詞に繋がる

à ton affreux hymen serviront de flambeaux;
servir à - de ... …にとって―の役目を果たす。

au bout d'un fer sanglant, verra passer nos têtes:
この passer はもしかしたら passer de vie a trépasの 生から死へ通り過ぎる ≒ 死ぬ の意味で用いられているのかもしれない。ともかくも、一本の剣の先 au bout d'un fer と 複数の頭 têtes であれば、首が剣で切り落とされるような状況を表していると思われる。

réclamer les honneurs gardés à la vertu?
garder qc a - ―のために何かを取っておく。この la vertu は 徳行 で、祖国のために死ぬことを指す。les honneurs は、地下墓地に埋葬される名誉 だろう。

Loin de ces murs sacrés qu'elle porte ses pas.
パミラに対して言っている。

Que son char vainqueur passe entre nos tombeaux.
char は 古代の馬に引かれる2輪の戦車、英 chariot、日 二輪戦車 のこと。フランス語で char funèbre は 霊柩車 corbillard を意味し、ここでの char はその意味合い。祖国のために命を落としたパミラの棺を乗せた二輪戦車が、先に亡くなり埋葬されたクレオメヌとネオクレスの墓の間を 勝ち誇って通って行くがいい、という意味。

Largo
2/2
(C major)
Ce tombeau pour autel... qu'un père vous unisse.この 墓は 祭壇の 代わりだ… 父親が 君たちを 結び付けるように。
(il les unit)(彼は 彼らを 結び付ける)
[Trio]

Andante assai
2/4
a minor
CLÉOMÈNEクレオメヌ
Céleste providence,天の 摂理よ、
j'implore ta puissance:私は 君の 力に 懇願する:
termine la souffrance苦しみを 終わりにしなさい
d'un peuple malheureux.不幸な 民の 【苦しみを】
Jamais de l'innocence決して 無実の者の
tu n'as trompé les vœux.願いを 君は 裏切ることは なかった。
この箇所と続く箇所は、TROUPENAS社のピアノ伴奏譜にはあるが、出版総譜にはない。

(Andante assai)
2/4
A major
j'implore ta puissance:私は 君の 力に 懇願する:
ah daigne écouter nos vœux.ああ 私たちの 願いを 聞いて ください。
(Andante assai)
2/4
a minor
PAMYRA ET NÉOCLÈSパミラ と ネオクレス
Céleste providence,天の 摂理よ、
j'implore ta puissance:私は 君の 力に 懇願する:
termine la souffrance苦しみを 終わりにしなさい
d'un peuple malheureux.不幸な 民の 【苦しみを】
Jamais de l'innocence決して 無実の者の
tu n'as trompé les vœux.願いを 君は 裏切ることは なかった。
(Andante assai)
2/4
A major
j'implore ta puissance:私は 君の 力に 懇願する:
ah daigne écouter nos vœux.ああ 私たちの 願いを 聞いて ください。
(Andante assai)
2/4
a minor
PAMYRA, NÉOCLÈS ET CLÉOMÈNEパミラ、ネオクレス と クレオメヌ
Céleste providence,天の 摂理よ、
j'implore ta puissance:私は 君の 力に 懇願する:
termine la souffrance苦しみを 終わりにしなさい
d'un peuple malheureux.不幸な 民の 【苦しみを】
Jamais de l'innocence決して 無実の者の
tu n'as trompé les vœux.願いを 君は 裏切ることは なかった。
(Andante assai)
2/4
A major
j'implore ta puissance:私は 君の 力に 懇願する:
ah daigne écouter nos vœux.ああ 私たちの 願いを 聞いて ください。

PAMYRAパミラ
(à Cléomène et à Néoclès, prêts à sortir)(クレオメヌに そして ネオクレスに、出る 用意のできた)
Mon père!...私の 父よ!…

NÉOCLÈSネオクレス
Il faut partir...出発しなくては ならない…
最後のパミラとネオクレスのやりとりには a piacere の指示が付いている。

Allegro
2/2
A major
CLÉOMÈNEクレオメヌ
Ah! reçois nos adieux!ああ! 私たちの 別れの挨拶を 受け取りなさい!

PAMYRA, NÉOCLÈS ET CLÉOMÈNEパミラ、ネオクレス と クレオメヌ
Nous nous reverrons dans les cieux.私たちは 天で 再び会おう。

Cléomène et Néoclès son prêts à sortir; Hiéros les arrête.クレオメヌと ネオクレスは 出る 用意ができている; イエロスが 彼らを 止める。
[N. 11]
Récit, [Prophétie et] Chœur


[Récit]


4/4
(C major)
Scène Ⅵ第6場
Les précédents, Hiéros, suivi d'Adraste et d'Ismène, Femmes, Jeunes filles et Guerriers grecs.前の場の人たち、イエロス、アドラストと イスメヌに 後について来られて、女たち、若い娘たち と ギリシャ人の戦士たち。

HiÉROSイエロス
Je viens de parcourir la belliqueuse enceinte;私は 攻撃的な 城壁を 一瞥した ばかりである【≒ 私は 敵の攻撃を防いでいる 城壁を 見てきた ところだ】
déjà les Musulmans s'avancent sur nos pas;既に イスラム教徒たちは 私たちの 歩みの 上を 前進している【≒ イスラム教徒たちは 私たちの 足跡をたどって 進軍している】
nous n'avons plus d'espoir que dans un beau trépas.私たちは もう 立派な 死にしか 希望を抱くことを 持っていない。
Allegro
4/4
(C major)
1小節。

TROUPENAS社のピアノ伴奏譜にはこの速度指示はない。

Récit


4/4
(C major)
CLÉOMÈNEクレオメヌ
A cette mort auguste et sainteこの 威厳のある そして 聖なる 死を
les trois cents immortels ne se refusaient pas;300人の 不死の者たちは 受け入れなく なかった【≒ 【スパルタの】 不滅の 三百人隊も 威厳のある そして 聖なる 死を 受け入れた】
ne leur cédons point cette gloire.この 栄光を 彼らに 譲ら ないように しよう【≒ 死を受け入れるという栄光を 私たちが 三百人隊に 譲歩しは しない ≒ 死を受け入れるという栄光において 私たちは 三百人隊に 負けはしない】
Je veux que devant nos tombeaux私は 願っている 私たちの 【地下】【地】の 前で
le Musulman troublé doute de sa victoire.動揺した イスラム教徒が【= マオメが】 彼の 勝利を 危ぶむ 【↑】ことを。
les trois cents immortels ne se refusaient pas;
les trois cents immortels これは 三百人隊 として知られる精鋭部隊。この場面の後で言及されるスパルタ王レオニダスが、紀元前480年、テルモピュライでペルシャの大軍と戦った際に率いた。後述するように、彼らは大軍相手に善戦したものの、レオニダス王も含め打ち破れた。

Andante maestoso
4/4
(C major)
Vieillard, chéri du ciel, bénissez nos drapeaux.老人よ、天の お気に入りよ【= 神に 愛されし 老人よ】、私たちの 旗を 祝福しなさい。

HiÉROSイエロス
Les siècles à venir garderont la mémoire後世は 記憶を 取っておくだろう
de ce noble trépas qui venge nos affronts.私たちの 侮辱の 仕返しをする ところの この 高貴な 死の 【記憶を】
Guerriers, prosternez tous vos fronts.戦士たちよ、皆 君たちの 頭を 下げなさい。
Les siècles à venir garderont la mémoire
siècles à venir 来るべき時代 ≒ 後世。

Guerriers, prosternez tous vos fronts.
prosterner は一般的に代名動詞 se prosterner 平伏す で用いられるが、ここでは他動詞で (頭を)下げる,(頭 こうべ を)垂れる で用いられている。

Allegro giusto
4/4
C major
2小節。

TROUPENAS社のピアノ伴奏譜では Allegro。
Récit


4/4
(C major)
Tous les Guerriers se prosternent, ainsi que les Femmes.戦士たちは 皆 平伏す、そして 女たちも。

Fermez-vous tous vos cœurs à d'indignes alarmes?君たちは 皆 恥ずべき 不安に対して 君たちの 心を 閉ざすか?
In tempo
4/4
C major
CHŒUR DE JEUNES FILLES, FEMMES ET GUERRIERS GRECS若い娘たち、女たち と ギリシャ人の戦士たちの合唱
Oui, tous, nous le jurons.はい、皆、私たちは それを 誓う。
Récit


4/4
(C major)
HiÉROSイエロス
Guerriers, reviendrez-vous avec ou sur vos armes?戦士たちよ、君たちは 武器と 共に あるいは 【武器の】上で 帰って来るか【≒ 君たちは 君たちの 武器を 持って あるいは 武器を 携えて 帰って来るか?】
Guerriers, reviendrez-vous avec ou sur vos armes?
sur vos armes 君たちの武器の上で がどういう状態を表すのか、よく分からなかった。sur は、英語の on と同様に、対象と接している状態を表すので、身体と武器が接している状態を表すと思われる。ここでは 武器を 携えて と訳した。
ちなみにフランスでは

A tempo
4/4
C major
CHŒUR GÉNEÉRAL総合唱
Oui, tous, nous le jurons.はい、皆、私たちは それを 誓う。
Récit


4/4
(C major)
HiÉROSイエロス
Saurez-vous tous mourir pour la patrie en larmes?涙に暮れる 祖国の ために 君たちは 皆 死ぬことが できるか?
A tempo
4/4
C major
CHŒUR GÉNEÉRAL総合唱
Oui, tous, nous le jurons.はい、皆、私たちは それを 誓う。
(Récit)


4/4
(C major)
HiÉROSイエロス
Au nom de Dieu qui vous inspire,君たちに 霊感を与える ところの 神の 名において
je bénis vos fronts glorieux;私は 君たちの 栄光に満ちた 頭を 祝福する;
j'attache à vos drapeaux les palmes du martyre,私は 君たちの 旗に 殉教の ヤシを 結び付ける、
Allegro vivace
4/4
(C major)
levez-vous pour mourir; je vous ouvre les cieux.死ぬ ために 決起しなさい; 私は 君たちに 天を 開く。
(après avoire touché les drapeaux)(【軍】旗に 触れた 後で)
Marchons; mais, ô transports! ô prophétique ivresse!進もう; だが、ああ 激情だ! ああ 預言の 陶酔だ!
Dieu lui-même commande à mes sens agités;神 自身が 私の 興奮した 感覚に 命令している;
il dévoile à mes yeux l'avenir de la Grèce.彼は 私の 目に ギリシャの 未来を 明かしている。
Avant de mourir, écoutez.死ぬ前に、聞きなさい。
Maestoso
4/4
C major
CHŒUR GÉNEÉRAL総合唱
Dieu dévoile à ses yeux l'avenir de la Grèce,神が 彼の目に ギリシャの 未来を 明かしている、
écoutez! écoutez!聞きなさい! 聞きなさい!
[Prophétie et] Chœur

Lent
4/4
f minor
HiÉROSイエロス
Quel nuage sanglant a voilé ce rivage!なんという 血に染まった 雲が この海岸を 曇らせている ことか!
Tout un peuple s'endort du sommeil du trépas;民は 皆 死の 眠りに 眠り込んでいる;
je vois peser sur lui cinq siècles d'esclavage,私は それに【= 民に】 隷属の状態の 5世紀が 重く圧し掛かるのを 見ている、
et le bruit de ses fers ne le réveille pas!そして その【= 民の】 鉄鎖の 物音は それを【= 民を】 起こさない【≒ 彼らを 束縛する 鉄鎖の音にも 彼らが 目覚めることは ない】!。

CHŒUR GÉNEÉRAL総合唱
Et le bruit de ses fers ne le réveille pas!そして その【= 民の】 鉄鎖の 物音は それを【= 民を】 起こさない【≒ 彼らを 束縛する 鉄鎖の音にも 彼らが 目覚めることは ない】
Hélas! Hélas!悲しいかな! 悲しいかな!

HiÉROSイエロス
Il se réveille enfin; peuples, séchez vos larmes.それは【= 民は】 最後には 目を覚ます; 民よ、涙を 乾かしなさい。

CHŒUR GÉNEÉRAL総合唱
Séchons, séchons nos larmes!乾かそう、私たちの 涙を 乾かそう!
TROUPENAS社のピアノ伴奏譜では Très lent。

Allegro
4/4
C major
HiÉROSイエロス
Liberté!自由を!

CHŒUR GÉNEÉRAL総合唱
Liberté!自由を!
TROUPENAS社のピアノ伴奏譜では
Liberté!
だったが、出版総譜では
O patrie!
ああ 祖国よ!
に変更されている。

Récit.


4/4
(C major)
HiÉROSイエロス
Tous tes fils se lèvent à ton nom.君の 子たちは 皆 君の 名に おいて 目覚める。
a Tempo
4/4
C major
2小節。

Récit.


4/4
(C major)
Le vent fait voler sur leurs armes風が その武器の上に 舞 わせる
la poussière de Marathon.マラトンの 塵 ちり を。
la poussière de Marathon.
マラトンはアテネ近郊のギリシャの都市。マラソン の語源となったことで知られる。紀元前490年、ペルシャの大軍がマラトンに上陸した際、数で劣るギリシャ軍がこれを撃退したことで、古代ギリシャにおける軍事的栄光の一つになっている。

a Tempo
4/4
C major
CHŒUR GÉNEÉRAL総合唱
Marathon! Marathon!マラトンよ! マラトンよ!
Récit.


4/4
(C major)
HiÉROSイエロス
Comme un grand bouclier, Dieu protège nos villes,大きな 盾の ように、神は 私たちの 都市を 守る、
notre cendre féconde enfante des soldats;私たちの 肥沃な 【遺】灰は 兵士たちを 生み出す;
l'écho sacré des Thermopylesテルモピュライの 聖なる こだまは
se souvient de Léonidas.レオニダスを 思い出す。
l'écho sacré des Thermopyles / se souvient de Léonidas.
Léonidas はスパルタ王レオニダスのこと。Thermopylesは、彼が紀元前480年にペルシャの大軍と戦ったギリシャの要衝テルモピュライ。スパルタ軍は善戦したものの、レオニダス王は戦死し、スパルタ軍も破れた。しかし彼らの勇猛は後々まで讃えられ、またこれがギリシャの精神的よりどころになり、後に強力なペルシャ軍をギリシャから追い払うことに成功する要因となった。

a Tempo
4/4
C major
CHŒUR GÉNEÉRAL総合唱
Léonidas! Léonidas!レオニダスよ! レオニダスよ!
Allegro brillante
4/4
F major
HiÉROSイエロス
Répondons à ce cri de victoire,この 勝利の 叫びに 応えよう、
méritons un trépas immortel;不滅の 死に 値しよう;
nous verrons dans les champs de la gloire私たちは 見るだろう 栄光の 戦場で
le tombeau se changer en autel.墓が 祭壇に 変わるのを。

TOUS ENSEMBLES全唱
Répondons à ce cri de victoire,この 勝利の 叫びに 応えよう、
méritons un trépas immortel;不滅の 死に 値しよう;
nous verrons dans les champs de la gloire私たちは 見るだろう 栄光の 戦場で
le tombeau se changer en autel.墓が 祭壇に 変わるのを。
TROUPENAS社のピアノ伴奏譜では拍子が 2/2。
Un poco più animato
4/4
F major
TOUS ENSEMBLES全唱
Répondons à ce cri de victoire,この 勝利の 叫びに 応えよう、
méritons un trépas immortel;不滅の 死に 値しよう;
nous verrons dans les champs de la gloire私たちは 見るだろう 栄光の 戦場で
le tombeau se changer en autel.墓が 祭壇に 変わるのを。

Tous sortent, excepté Pamyra et les Femmes.皆 出る パミラと 女たちを 除いて。
TROUPENAS社のピアノ伴奏譜にはこの速度指示はない。

[N. 12]
Récit, [Prière et] Final

Pamyra
Ismène
Mahomet
Chœur
Récit

Andantino
2/2
(C major)
PAMYRAパミラ
L'heure fatale approche... Il faut vaincre ou périr!運命の 時が 近付いている… 打ち破らなければ ならない さもなければ 死ななければ。
Pour leur dieu, pour la Grèce, ils sauront tous mourir.彼らの 神の ために、ギリシャの ために、彼らは 皆 死ぬことが できるだろう【≒ 彼らは 皆 いかにして 死ぬべきか 心得ているだろう】
Voûtes paisibles et sombres,平和で 暗い 丸天井よ、
asile de la mort,死者の 隠れ家よ、
vous qui nous protégez et couvrez de vos ombres,その【= 丸天井の】 陰で 私たちを 守り そして 覆う ところの 君たち【= 丸天井】よ、
ah! si le sort des Grecs trahit le noble effort,ああ! もし 運命が ギリシャ人たちの 崇高な 努力を 裏切る ならば、
écroulez-vous... 【君たちは = 丸天井は】 崩れなさい…
TROUPENAS社のピアノ伴奏譜では拍子は4/4。

Allegro
2/2
(C major)
que parmi vos décombres君たちの【= 丸天井の】 瓦礫の 中に
les vils esclaves du croissant,新月旗の 卑しい 奴隷たちが、
affamés de carnage et de crimes,殺人を そして 虐殺を 渇望した 、
en cherchant leurs victimes,たとえ 彼らの 犠牲者を 捜しても【≒ たとえ 殺戮を 渇望した 卑劣な オスマン帝国の 奴隷たちが 地下墓地の 丸天井の 瓦礫の中に 彼らが 虐殺した 人々を 捜しても】
n'y retrouvent que du sang.そこに 血 しか 見つけ出さない 【↑↑↑↑】ように。
TROUPENAS社のピアノ伴奏譜では拍子は4/4。

les vils esclaves du croissant,
croissant オスマン帝国やトルコなどで用いられている、三日月と星の旗印。イスラム教(徒)の象徴。

(Andantino)
2/2
(C major)
Entourez-moi, mes sœurs. Victime volontaire,私を 取り囲みなさい、私の 姉妹たちよ。自発的な 犠牲者である、
Pamyra n'a plus rien qui l'attache à la terre.パミラは この世に 彼女を 繋ぎ留める ものを 何も 持っていない【≒ 自ら 進んで 犠牲者となる パミラには 彼女を この世に 繋ぎ留めるものは 何もない】
TROUPENAS社のピアノ伴奏譜では拍子は4/4。

[Prière]

Andantino
3/4
f-sharp minor
Juste ciel, ah! ta clémence公正な 天よ、ああ! 君の 慈悲が
est ma seule espérance!私の 唯一の 希望だ!
Daigne plaindre ma souffrance,私の 苦しみに 同情して ください、
mets un terme à ma douleur.私の 苦悩に 終止符を 打ちなさい。

ISMÈNEイスメヌ
Juste ciel, ah! ta clémence公正な 天よ、ああ! 君の 慈悲が
est sa seule espérance!彼女の 唯一の 希望だ!
Daigne plaindre sa souffrance,彼女の 苦しみに 同情して ください、
mets un terme à sa douleur.彼女の 苦悩に 終止符を 打ちなさい。

CHŒUR DE FEMMES GRECQUESギリシャ人の女たちの合唱
Juste ciel, de ta clémence,公正な 天よ、君の 寛大で、
nous implorons ta faveur.私たちは 君の 恩恵を 懇願している。
Mets un terme à sa douleur.彼女の 苦悩に 終止符を 打ちなさい。
《マオメット2世》 第1幕 第3番 大三重唱 の中の 祈り Giusto Ciel, in tal periglio の更生。

Final

Allegro vivace
3/4
a minor
Scène Ⅷ第8場
Les précédents, Troupe de Musulmans.前の場の人たち、イスラム教徒たちの部隊。

PAMYRAパミラ
Mais quels accents se font entendre?だが どのような 調子が 聞かれるのか【≒ 何の 声が 聞こえてくるのか】
Le sort trahit nos combattants.運命は 私たちの 兵士たちを 見捨てている。
Ils sont tous morts pour nous défendre.彼らは 皆 私たちを 守るために 死んだ。
Viens, fier vainqueur, viens, je t'attends.来なさい、尊大な 征服者よ、来なさい、私は 君を 待っている。

CHŒUR DE MUSULMANSイスラム教徒たちの合唱
Frappons, frappons sans plus attendre,打とう、もう 待つこと なしに 打とう、
foulons aux pieds leurs corps sanglants.彼らの 血まみれの 身体を 足で 押しつぶそう【≒ 彼らの 血まみれの 身体を 踏みにじろう】

ISMÈNE ET CHŒUR DE FEMMES GRECQUESイスメヌ と ギリシャの女たちの合唱
Ils sont tous morts pour nous défendre.彼らは 皆 私たちを 守るために 死んだ。
Viens, fier vainqueur, viens, je t'attends.来なさい、尊大な 征服者よ、来なさい、私は 君を 待っている。

Scène Ⅸ第9場
Les précédents, Mahomet.前の場の人たち、マオメ。

MAHOMETマオメ
Que Pamyra soit ma conquête!パミラが 私の 獲得物に なるように!
Qu'on la saisisse!... Allez!...彼女を 捕まえるように!… 行け!…

PAMYRAパミラ
Arrête!止まりなさい!
Ou ce poignard perce mon sein.さもなければ この 短剣が 私の 胸を 突き通す。

MAHOMETマオメ
(avec effroi)(恐怖を もって)
Pamyra! Ciel!... quelle tempête,パミラよ! 天よ!… なんという 嵐が、
autour de nous, mugit soudain.私たちの 周囲で、突然 轟いていることか、

CHŒUR DE MUSULMANSイスラム教徒たちの合唱
Ciel! quelle tempête,天よ! なんという 嵐が、
autour de nous, mugit saudain.私たちの 周囲で、突然 轟いていることか、

On entend éclater l'incendie, le mur s'écroule.火事が 爆発するのが 聞こえる【≒ 炎が 燃え上る音が 聞こえる】、【地下墓地の】壁が 崩れる。

CHŒUR DE GRECS DANS LE LONTAIN遠くのギリシャ人たちの合唱

Ô patrie!ああ 祖国よ!

On voit Corinthe embrasée.コリントスが 燃えているのが 見える。

PAMYRAパミラ
Entends les chants de notre fête;私たちの 祝宴の 歌を 聞きなさい;
vois les flambeaux de notre hymen.私たちの 結婚式の 松明 たいまつ を 見なさい。

ISMÈNE ET CHŒUR DE FEMMES GRECQUESイスメヌ と ギリシャの女たちの合唱
Chantons l'hymne au courage!勇気への 賛歌を 歌おう!
Un dieu nous voit du haut de cieux;神が 私たちを 天の 高みから 見ている;
Pour fuir les fers de l'esclavage,隷属の状態の 鉄鎖から 逃れるために、
Corinthe expire dans les feux.コリントスは 火の中で 消え去る。

MAHOMETマオメ
Cruel délire! aveugle rage!酷い むごい 錯乱だ! 盲目の 激怒だ!
De sa fureur trompez les vœux,【2行下 血まみれの夜 と 恐ろしい惨事は】 彼女の 激しい怒りの 願いを 裏切りなさい、
elle est le prix de mon courage,彼女は 私の 勇気の 報いだ、
l'autel nous attend tous les deux,祭壇が 私たちを 二人とも 待っている、
nuit sanglante, désastre affreux!血まみれの 夜よ、恐ろしい 惨事よ!

Entends les chants de notre fête; 以降の歌詞は TROUPENAS社の出版ピアノ伴奏譜にも出版総譜にもない。次の箇所も含めて、オーケストラのみの幕切れになる。

(Allegro vivace)
3/4
A major
MAHOMETマオメ
Cruel délire! aveugle rage!酷い むごい 錯乱だ! 盲目の 激怒だ!
De sa fureur trompez les vœux,【2行下 血まみれの夜 と 恐ろしい惨事は】 彼女の 激しい怒りの 願いを 裏切りなさい、
elle est le prix de mon courage,彼女は 私の 勇気の 報いだ、
l'autel nous attend tous les deux,祭壇が 私たちを 二人とも 待っている、
nuit sanglante, désastre affreux!血まみれの 夜よ、恐ろしい 惨事よ!

PAMYRAパミラ
Pour fuir les fers de l'esclavage,隷属の状態の 鉄鎖から 逃れるために、
ce fer sacré reste à mes vœux.この 聖なる 剣が 私の 願いに 残っている。
Pamyra se frappe.パミラは 自らを 打つ【≒ パミラは 剣で 自らを刺す】。

ISMÈNE ET CHŒUR DE FEMMES GRECQUESイスメヌ と ギリシャの女たちの合唱
Chantons l'hymne au courage!勇気への 賛歌を 歌おう!
Un dieu nous voit du haut de cieux;神が 私たちを 天の 高みから 見ている;
Pour fuir les fers de l'esclavage,隷属の状態の 鉄鎖から 逃れるために、
Corinthe expire dans les feux.コリントスは 火の中で 消え去る。

CHŒUR DE MUSULMANSイスラム教徒たちの合唱
Heureux délire! ô douce image!幸福な 錯乱だ! ああ 甘美な 像よ!
Corinthe expire dans les feux.コリントスは 火の中で 消え去る。
Tous ses malheurs sont notre ouvrage,その 不幸は すべて 私たちの 仕業だ、
le sort enfin comble nos vœux.運命は ついに 私たちの 願いを 満たしている。
TROUPENAS社の出版ピアノ伴奏譜および出版総譜ではこの箇所に歌はなく、オーケストラのみ。

クリティカルエディションが未刊行なので、この箇所がどのような歌詞で歌われているか正確なことは分からない。発刊されてから確認する。

参考資料

Le siège de corinthe / Programma di Sala / Rossini Opera Festival, Pesaro, Italy / 2017

Le siège de corinthe / Programma di Sala / Rossini Opera Festival, Pesaro, Italy / 2000

GIOACHINO ROSSINI LETTERE E DOCUMENTI VOLUME Ⅱ / FONDAZIONE ROSSINI PESARO / 1996

GIOACHINO ROSSINI LETTERE E DOCUMENTI VOLUME Ⅲa / FONDAZIONE ROSSINI PESARO / 2004

Dizionario Rossiniano / Eduardo Rescigno / Biblioteca Universale Rizzoli / 2002 / ISBN 88-17-12894-5 / 9788817128940

C Major
Blu-Ray Disc
765904
810116910274

DVD
765808
810116910267
Mahomet ⅡLuca Pisaronibasse
CléomèneJohn Irvinténor
PamyraNino Machaidzesoprano
NéoclèsSergey Romanovskyténor
HiérosCarlo Cignibasse
AdrasteXabier Anduagatenore
OmarIurii Samoilovténor
IsmèneCecilia Molinarisoprano

Coro del teatro Ventidio Basso
Chorus MasterGiovanni Farina

Orchestra Sinfonica Nazionale della RAI
ConductorRoberto Abbado

Stage ProjectLa Fura dels Baus
Stage Director and Set DesignerCarlus Padrissa
Scenic and Pictorial Elements, Costume and Video DesignerLita Cabellut
Lighting DesignerFabio Rossi

Adriatic Arena, Pesaro, Italy
2017

2017年、ロッシーニ・オペラ・フェスティヴァル ROF での公演の収録。公演記録。公演は8月10,13,16,19日、アドリアティック・アレーナ(現 ヴィトリフリーゴ・アレーナ Vitrifrigo Arena)で行われた。
公演プログラムの配役表には、Edizione critica della Fondazione Rossini, in collaborazione con Casa Ricordi, a cura di Damien Colas と記載されており、これが《コリントスの包囲 Le siège de corinthe》のクリティカルエディションを用いた初の公演だったと思われる。⇒ 楽譜の問題と クリティカルエディション
演奏はたいへん素晴らしい。ルカ・ピサロ―二のタイトルロールは、やや軽めながらも力強さと気品を兼ね備えたバス=バリトンの声で残忍な征服者と優しい恋人の両面を描いている。難役ネオクレスのセルゲイ・ロマノフスキーは力強い中音域と輝かしい高音が映えた立派な歌唱(それでも第3幕のアリアの終盤では少し苦労しているが)。パミラのニーノ・マチャイゼは、充実した声で芯の強いパミラを歌っている。フランス語が不明瞭になりがちなのと、装飾歌唱の混んだところでは少しもたつくのが惜しい。最も称賛すべきはロベルト・アッバード の指揮で、この作品の持つイタリア的要素とフランス的要素をどちらも極めて適切に扱い、作品全体をしっかりまとめ上げている。
ラ・フラ・デルス・バウスのカルルス・パドリッサの演出はまったくの不評だった。舞台を枯渇した水資源を争奪する近未来に据えており、このアイデア自体は否定しないし、これによって宗教対立や民族対立といった今日では扱いづらい要素を緩和する目的は果たしているとは思う。しかしそうした毒抜きによって舞台表現の説得力が薄くなり、また水資源の象徴として大きなペットボトルを多用したことで舞台がひどく安っぽくなり、パリのグラントペラの壮大な音楽と相反してしまっている。バイロンの詩を引用するなどの工夫も成果を上げていない。音楽と舞台の相乗に十分な配慮が行き届いていない演出と言えるだろう。

CD
NAXOS
8.660329-30
Mahomet ⅡLorenzo Regazzobasse
CléomèneMarc Salaténor
PamyraMajella Cullaghsoprano
NéoclèsMichael Spyresténor
HiérosMatthieu Lécroartbasse
AdrasteGustavo Quaresma Ramostenore
OmarMarco Filippo Romanoténor
IsmèneSilvia Beltramimezzosoprano

Camerata Bach Choir, Poznań
Chorus-masterIńaki Encina Oyón

Virtuosi Brunensis
Jean-Luc Tingaud

Trinkhalle, Bad Wildbad, Germany
18, 20, 23 July 2010

2010年、ドイツ、バート・ヴィルトバートでの ヴィルトバートでのロッシーニ の演奏会形式公演のライヴ録音。この音楽祭が公開している2010年公演プログラム冊子のPDFによると、公演は7月18、23日の2回。20日は修正用の収録日だったのだろうか。
使用楽譜について、上記公演プログラム冊子によると、ジャン=リュク・タンゴによる 本来の版に従った そして 上演資料に従った 改訂稿 Revision nach der Originalausgabe und nach den Aufführungs-Quellen von Jean-Luc Tingaud とあり、さらに フロリアン・バウアーによる 音楽祭のの新版 Neuausgabe des Festivals von Florian Bauer ともある。CD付属のブックレットでの英語の同様の内容では、前者の 上演資料 の部分が the parts for the first performance (Théâtre de l’Académie de Musique, Paris, 9 October 1826) と記述されており、上演資料とは初演時のパート譜のようである。これ以上詳しいことは分からないが、演奏は基本的にTROUPENAS社の出版総譜に基づいており、おそらく細かい点で近年発見された資料を反映しているのではないだろうか。
マチュー・レクロアールが特筆すべきイエロスで、フランス人歌手らしい明るく柔らかい響きの声と美しいフランス語の発音、そして押し引きの巧みな演技で際立っている。彼はバスではなくバリトンで、深々とした低音には少しだけ物足りないが、それでも彼のおかげで 旗の祝福と予言 の場面が映えている。ネオクレスを歌うマイケル・スパイアーズは、ちょうど国際的にブレイクし始めた頃。伸びやかな美声と安定した高音で難役ネオクレスを立派にこなしている。第3幕の至難なネオクレスのアリアも素晴らしい。欲を言うならば、さらに数年後であれば彼はさらに充実したネオクレスを歌えたに違いないだろうということか。マジェラ・カラー(アイルランド人。日本では マジェラ・カラーフ というカナ表記が多いが、本人が マジェラ・カラー のように発音している)は、少々大柄ながら、力感のある声と卓越した歌唱技術でパミラをよく歌っている。ロッシーニのバスのベテラン、ロレンツォ・レガッツォは、いつもながらの見事な歌だが、その温かく柔らかい声がマオメの冷酷な征服者の性格をやや緩和しているようにも思われる。ジャン=リュク・タンゴは、この規模の大きな作品を丁寧に扱っているのは分かるとはいえ、オーケストラも合唱も一部の若手歌手もパリのグラントペラに挑むには力不足という不利な条件を克服するまでには至っていない。もっともこれはこの規模の小さな音楽祭でロッシーニの大作を上演する時の常であるが。
このCDの大きな弱点は録音の悪さにある。いかにライヴ録音とはいえ、マイク設置に制約がある舞台上演でなく演奏会形式上演で、2010年なのにこれほど録音がぼやけているのは理解し難い。
第8番 レシと第2幕フィナーレ のうち、レシの冒頭4小節がカットされている。

DVD PAL
HCD 4057
8018783040573

CD
7140/42
8010984101862
Mahomet ⅡMarcello Lippibasse
CléomèneDano Raffantiténor
PamyraLuciana Serrasoprano
NéoclèsMaurizio Comenciniténor
HiérosArmando Caforiobasse
AdrasteVito Martinotenore
OmarFrancesco Faciniténor
IsmèneFrancesca Provvisionatosoprano

Coro del Teatro Carlo Felice di Genova
Prague Philarmonic Choir
Maestro del CoroGianfranco Cosmi

Orchestra del Teatro Carlo Felice di Genova
DirettorePaolo Olmi

Regia, Scene, CostumiAttilio Colonnello
Collaborazione scenograficaTommaso Gomez

Teatro Carlo Felice di Genova
2 June 1992 (DVD, its inlay card incorrectly dates the recording date as il 2 luglio 1992)
2 /14 June1992 (CD)

1992年6月、ジェノヴァ、カルロ・フェニーチェ劇場での公演のライヴ収録。公演は6月2,4,7,10,12,14日の6回(12日と14日は定期外公演 fuori abbonamento)。これがイタリアで初のフランス語の《コリントスの包囲》の上演だったという。
フランス語による上演かつネオクレスばテノール、バレも採用という、当時としてはパリでの初演時の形態に基づいた画期的な上演だった。またそれがCDで広く発売されたことで、《コリントスの包囲》の本来の姿を理解する上で貴重なものだった。ただ1992年ではまだロッシーニ・ルネサンスが広く浸透するよりも少し前で、特に男声歌手に不足も感じられるが、それでも今でも価値は十分にある。
ルチアーナ・セッラのパミラが素晴らしい。持ち前の硬質な美声と高度な歌唱技術で、歴史の災難に巻き込まれながら最後には毅然とした意志を貫くパミラを見事に歌い演じている。マルチェッロ・リッピはバスではなくバリトンで、軽めの声は暴君役にはやや貫禄不足だが、その分運動性は十分高く、楽譜にない装飾歌唱を様々に盛り込んでいる。マウリツィオ・コメンチーニは高音にとても強いテノールだが、ロッシーニルネサンス以降の軽量級テノールではなく、イタリアの伝統的なリリコ・レッジェーロのテノールで、高いハ音は 当てる といった出し方をしている。したがってネオクレスの大半の部分は柔らかい声で立派に歌っているものの、第3幕のエールはいくらか端折って最高音をいくつか外して何とか歌い切っている。とはいえこの時代にネオクレスを余裕をもって歌えるテノールはいなかったろう。ダーノ・ラッファンティも同様で、彼はは1980年代前半に最初期のロッシーニテノールとして活躍した人ではあるが、発声的は伝統的なイタリアのテノールである。ただクレオメヌは技術的にはそれほど難しくないので、総体的に安定してはいる。パオロ・オルミは規模の大きな作品にだいぶ苦労しており、時々安全運転せざるを得ないこともあるが、この難しい作品をよくまとめてはいる。
演出は1992年当時としても伝統的、写実的なもの。今となってはかえって貴重な舞台で、劇場で見れば強い印象を受けるだろうが、録画が不鮮明なのが惜しい。
使用楽譜についての説明は見当たらなかったが、基本的にはTROUPENAS社の出版総譜に基づいていると思われる。ただし第2幕の前半は、TROUPENAS社の出版ピアノ伴奏譜と同様、イスメヌと女声合唱のバラード ⇒ パミラのレシとエール ⇒ パミラとマオメのレシと二重唱 という順番に変えている。バレは第1番、第2番とも採用。また第3幕の三重唱は出版ピアノ伴奏譜にはあるが出版総譜にはない第1節(ネオクレス)がある。
短いカットがあちこちにあり、特に第2幕フィナルから第3幕に目立つ。

参考 トーマス・シッパーズとランドルフ・ミッケルソンによる改竄譜を用いた録音

前述の通り、これらは⇒ トーマス・シッパーズとランドルフ・ミッケルソンによる改竄譜を用いており、これをロッシーニの《コリントスの包囲》として聞いてはならないものである。

CD
EMI
7 64335 2
Maometto ⅡJustino Diazbasse
CleomeneHarry Theyardténor
PamiraBeverly Sillssoprano
NeocleShirley Verrettténor
JeroGwynne Howellbasse
AdrastoGaetano Scanotenore
OmarRobert Lloydténor
IsmeneDelia Wallissoprano

Ambrosian Opera Chorus
Chorus MasterJohn McCarthy

London Symphony Orchestra
ConductorThomas Schippers

All Saints, Tooting, UK
30 & 31 July, 1-3, 5. 6, 12-15 August 1974

⇒ トーマス・シッパーズとランドルフ・ミッケルソンによる改竄上演。
べヴァリー・シルズはそろそろ活動末期に入る頃(1980年に引退)ながら、まだまだ衰え知らずで見事に歌っている。シャーリー・ヴァーレットは、翌年METでもネオークレを歌うことになるが、本質的にロッシーニを歌うメッゾソプラノではなく、終止居心地の悪さを感じさせる歌に留まっている。

CD
MELODRAM
MEL 27043
Maometto ⅡJustino Diazbasse
CleomeneFranco Bonisolliténor
PamiraBeverly Sillssoprano
NeocleMarilyn Horneténor
JeroPaolo Washingtonbasse
AdrastoPiero De Palmatenore
OmarGiovanni Foianiténor
IsmeneMilena Paulisoprano

Coro del Teatro alla Scala
Maestro del coroRoberto Benaglio

Orchestra del Teatro alla Scala
Direttore d'orchestraThomas Schippers

Teatro alla Scala, Milano, Italy
April or May 1969

⇒ トーマス・シッパーズとランドルフ・ミッケルソンによる改竄上演。
収録日は初日4月11日としている場合が多いが、その確証はない。
楽譜の問題をさておけば、共にスカラ座デビューのベヴァリー・シルズとマリリン・ホーンは、彼女たちを初めて聞くスカラ座の観客 の度肝を抜くだけの歌ではある。特にホーンは、当時のイタリアには彼女ほど鮮やかに装飾歌唱を捌けるメッゾソプラノはおらず(そしてこの後20年以上イタリアでは登場しなかった)、メッゾは太く強いと信じていた観客にとっては革命的な歌唱だったことだろう。シルズはこの頃が全盛期で、超高音と装飾歌唱をたっぷり振り撒いている。フスティノ・ディアスとフランコ・ボニゾッリもこの時がスカラ座デビューだった。ディアスはプエルトリコ生まれなので、主要4役のうち3人が新大陸出身という、1980年代に主流となった 新大陸出身歌手主導のロッシーニ・ルネサンス の先駆けになっている。ディアスは当時としてはかなり装飾歌唱に長けたバスバリトンだったろうが、観客を驚嘆させるほどではない。ボニゾッリはこの頃はまだロッシーニをよく歌っており、ここでも素晴らしいクレオメーネを披露している。