ROSSINI L'OCCASIONE FA IL LADRO

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最新更新 2026年06月27日

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GIOACHINO ROSSINI

L'OCCASIONE FA IL LADRO






初演 1812年11月24日 ヴェネツィア,サン・モイゼ劇場
First performance Venezia, Teatro San Moisè, 24 November 1813

台本 ルイージ・プリヴィダーリ
Libretto Luigi Prividali

原作
Original

《成り行き泥棒》は、ロッシーニがヴェネツィアのサン・モイゼ劇場のために書いた4作目のファルサである。ミラノでの《試金石》初演とその地での体調不良から初演が大幅にずれ込み、僅か11日間で作曲されたというが、しかし音楽は長足の進歩を見せている。

題名の日本語訳について

L'occasione fa il ladro は日本では 成り行き泥棒 もしくは なりゆき泥棒 という訳が一般的である。
L'occasione fa il ladro は直訳すると 機会が泥棒を作る といったものである。これはフィナーレの最後の唱和の中の一節
e se a caso l'occasione
l'uom fa ladro diventar,
そして たとえ たまたま 機会が 人を 泥棒に させる としても、
と呼応したものである。したがって本来は題名も
好機が泥棒を生む
のような、歌詞と一致するものであるべきなのだが、日本ではオペラが舞台に掛けられるよりも前から 成り行き泥棒 / なりゆき泥棒 の訳が定着している。
ここでも 成り行き泥棒 を採用するが、題名が幕切れの歌詞と符合していることは留意すべきである。

作曲

オペラ作曲家ロッシーニの活動初期の拠点は、ヴェネツィアのサン・モイゼ劇場だった。まだオペラの実績のない18歳のロッシーニは、1810年11月3日、この劇場での《結婚手形》でオペラ作曲家としてのデビューを飾った。これは12回の公演と上々の結果を残せた。
彼を抜擢した劇場興行主アントーニオ・チェ―ラはロッシーニに次作を依頼、その《幸せをもたらす策略》は1812年1月8日に初演され、2月11日のシーズン終了までに14回、その年の春のシーズンで再演、さらには秋のシーズンにボローニャのコルソ劇場 Teatro del Corso で上演(その後も1828年ごろまで各地でしばしば上演された)という大成功を収めた。


チェ―ラは若いロッシーニの成功を喜び、《幸せをもたらす策略》初日の翌日1月9日付でボローニャのロッシーニの母アンナに宛てて、《幸せをもたらす策略》が序曲から幕切れまで観客を熱狂させたと報告、さらに彼女の息子が『今から数年のうちに イタリアの誇りになるでしょう sarà un ornamento dell'Italia』と称賛している。
そしてチェ―ラは抜かりなくロッシーニと新作ファルサ3作の契約を結んだ。

契約の3作の最初の作品、《絹のはしご》 は1812年5月9日に初演され、6月11日までに12回の公演があった。一応成功ではあったものの、しかし後ろ8公演は1月に大成功した《幸せをもたらす策略》再演とのダブルビルで、どうやら《絹のはしご》がメインでは公演が長く持たなかったようである。それを裏付けるように《絹のはしご》の初演後の上演は稀で、1813年にセニガッリアで上演された他、1820年代に散発的な上演があっただけに終わった。

一方、ロッシーニはこの年の秋、初めて大都市ミラノ(当時はフランス傀儡のイタリア王国の首都)の大劇場スカラ座のために新作オペラを書くこととなった。これがロッシーニ最初の大成功作《試金石》になる。
6月30日付でヴェネツィアからボローニャの母アンナに宛てた手紙に、彼はようやく 私は ミラノに 着くだろう appena sarò Giunto in Milanoと書いており、ロッシーニは7月初旬にミラノ入りしたことが分かる。【1】
そして7月11日付で母アンナに宛てた手紙から 既に第1幕の 導入 と クラリーチェのカヴァティーナ を書き上げた と伝えている。【2】
8月21日付でミラノの劇場群の監督を務めていたカルロ・ブレンタノ・デ・グリアンティ Carlo Brentano de Grianty が内務大臣 パオロ・デ・カピターニ Paolo De Capitani に宛てた手紙には、
【台本作家の】ロマネッリ氏は、今シーズンの2つめの演目のために彼が書かなければならない 劇をほぼすべて、音楽の作曲家 マエストロ・ロッシーニに 既に 引き渡しており、彼は これを すでに 書き上げた、そして パート譜を作るために 写譜師ボルドーニに託した。
il Sig.r Romanelli abbia già consegnato quasi tutto il Dramma, che deve servire per Secondo Spettacolo della presente Stagione al Compositore di Musica Sig.r Maestro Rossini, e che questi lo abbia già scritto, e rimesso al Copista Bordoni per estrarre le Parti. 【3】

とある。この場合の 書いた scritta はオーケストレイション前の状態を意味するのだろう。

ところが、おそらくこの頃、ロッシーニは体調不良になっていた。8月29日付でロッシーニが母アンナに宛てた手紙で、具合が悪かったことを伝えている。【4】 そして9月9日付の母への手紙には
[…]私は 忌々しい風邪にかかり、それは 私に 少しばかり とても強力な 熱を 与えた。
[...] ho avuta una maledetta costipazione la quale mi ha date due potentissime febri.

と、高熱を出したことを伝えている。【5】

翌日の9月10日付でブレンタノ・デ・グリアンティがイタリア王国の内務大臣ルイージ・ヴァッカーリ Luigi Vaccari 1766―1819 に宛てた手紙には、ロッシーニの病気による《試金石》への影響が伝えられている。
[…]マエストロ・ロッシーニのオペラは まだ7曲が 欠けている[…]マエストロ・ロッシーニは 5日か、6日で 発熱無しになり得る: 回復期に 少なくとも 3日か、4日: 彼のオペラに 欠けているものを 完成するのに 10日か、11日: 練習に 4日か、6日、したがって まだ ほぼ1か月の時間がかかる。
[...] mancano ancora Sette Pezzi all'Opera del Maestro Rossini [...] il Maestro Rossini possa essere senza Febbre in cinque, o sei giorni: tre, o quattro giorni almeno di convalescenza: non meno di otto, o dieci giorni a perfezionare quanto manca all’opera sua: quattro, o sei giorni di Pprove, ed eccoci quasi ad un mese ancora di tempo.


この年のスカラ座の秋のシーズンは8月17日に開幕しており、《試金石》の初演は9月中旬に予定されていたと思われる。【6】 ブレンタノ・デ・グリアンティは、ロッシーニの病気によって《試金石》初演が10月までずれ込むと予想していた。
実際には、回復したロッシーニが大急ぎで残った作業を進めたのだろう、そこまでずれ込むことはなく、《試金石》は 1812年9月26日にスカラ座で初演された。そして計53回の公演という大成功を収めた。

問題はその後である。《試金石》の初演が仮に1週間遅れたとすると、ロッシーニがヴェネツィアに戻るのはそれ以上に遅れることになる。
サン・モイゼ劇場の秋のシーズンは通常9月半ばに始まる。1812年も9月22日に、ステーファノ・パヴェージ Stefano Pavesi 1779―1850 の《愛と高潔 Amore e generosità》の新作初演と、フランティシェク・ヨゼフ・ドゥシーク František Josef Dusík 1765―1817 (ボヘミア、チャースラフの生まれ、ヴェネツィアなど北ドイツ諸都市や、当時オーストリアのライバッハ、現スロヴェニア リュブリャナで活動した)の《幸運な成功 Il fortunato successo》の公演で始まっていた。
ミラノでの《試金石》の初演が9月26日であれば、ロッシーニがヴェネツィアに行けるのは早くても10月になってからになってしまう。
これにサン・モイゼ劇場の興行主チェーラが激怒した。おそらく彼はミラノのロッシーニにヴェネツィア入りを催促する手紙を送っていただろう。
そこでロッシーニは先手を打った。彼は先に挙げた8月29日付で母に宛てた手紙に 前日に大臣と昼食をしたことを伝えているのだが、この大臣は前述の内務大臣ヴァッカーリと推測されている。ロッシーニは音楽愛好家のヴァッカーリと親しくなり、そして彼のヴェネツィア行きが遅れた際に、ヴァッカーリに イタリア王国のアドリア県知事ガルヴァーニ Galvani 宛ての、彼の遅滞の正当性を証明する手紙を認めてもらった。10月6日付のヴァッカーリの手紙にはこうある。
私は マエストロ・ロッシーニが この商業都市に行くのが遅れたので サン・モイゼ劇場の興行主が 彼に 不平を言っていると 思われたが、しかし 私は あなたに彼には過失はないことを確約する というのも 彼は 三日熱の発熱に襲われ、それを なんとかかろうじて 克服することができたものの、スカラ座の公演を 1週間延期せざるを得なかった というだけでなく、医師たちが 彼に 再発を防ぐための一定期間が経過しなければ 旅立たないようにと助言したからでもある。
Ho presentito che l'Impresario di S. Moise possa dolersi del maestro Rossini perche ha ritardato di venire a codesta Piazza, vi assicuro però che Egli non ne ha colpa poiché essendo stato assalito dà Febri terzane chè con molta dificoltà ha potuto vincere, non solo si è dovuto di una settimana ritardare lo spettacolo del Teatro della Scala ma i Medici l'Anno consigliato a non porsi in viaggio se non se trascorso un certo termine che possa far sperare L'Allontanamento di una ricaduta. 【7】


ロッシーニがいつヴェネツィアに到着したのか正確な日付は分からないが、10月20日付の彼の手紙が残されており【8】、その少し前に着いたと思われる。
そして10月30日付で母アンナに宛てた手紙で、彼はこう伝えている。
到着して間もなく 興行主のチェーラが私に文句を言い 私が義務を果たせなかったことに対して すべての損害と費用を支払うよう 要求しました 【しかし】 私が 私の 理由を 理由を話すべきではない彼にではなく 政府に 説明して 最終的に 解決された
Appena arrivato l'Impresario Cera mi ha fatto una protesta e voleva che io pagasi tutti i danni e spese per aver mancato al mio dovere finalmente si è accomodata mentre io le ho dimostrate le mie ragioni non a lui che non mi degno di parlarle ma al governo

【9】
この 頭越しの解決 にチェ―ラが憤慨したことは想像に難くない。こうして両者の関係は一気に悪化した。

ともかくも新作ファルサを初演するには僅かな日数しか残されておらず、ロッシーニはこれを大急ぎで書き上げなくてはならなかった。
先の10月30日付で母アンナに宛てた手紙で、ロッシーニは
私は15日間でファルサを書くことを請け合った
Io mi sono impegnato di scriver la Farsa in quindici giorni

と書いている。
そして初演の6日前の11月18日付で母に宛てた手紙では
私の 11日の 音楽は 稽古で たいへんに好評だった
La Mia musica degl'undici giorni piace moltissimo alle prove

と書いている。これは初演後の11月28日付のアリドリア海の県の新聞 Giornale dipartimentale dell'Adriatico 紙での
マエストロ・ロッシーニ氏は、彼の音楽を11日間で書いた、熱烈な才能の勢いにとっても あまりにも短い期間である、
Il Sig Maestro rossini, ha scritto la sua musica in undici giorni, periodo troppo angusto anche pe' slanci d'un fervido genio.

と一致している。
ロッシーニがヴェネツィア入りしたのが10月20日頃で《成り行き泥棒》の初日が11月24日であれば、台本の制作と初演の音楽稽古を差っ引けば、作曲は2週間程度だったのは間違いないだろう。


1 GIOACHINO ROSSINI LETTERE E DOCUMENTI VOLUME Ⅲa, p.21
2 ibid. p.22
3 GIOACHINO ROSSINI LETTERE E DOCUMENTI VOLUME Ⅰ, p.34
4 GIOACHINO ROSSINI LETTERE E DOCUMENTI VOLUME Ⅲa, p.23
5 ibid. p.25
6 《成り行き泥棒》のクリティカルエディションの校訂者の一人 ジョヴァンニ・カルリ・バッローラ Givanni Carli Ballola は、その序文で、《試金石》の予定された初演を verso il 19 settembre 9月19日頃 としている。彼はその理由を書いていないが、おそらく、前述の10月6日付のヴァッカーリの手紙で彼が 初演を1週間延期せざるを得なかった と書いていいることから、9月26日の1週間前ということで 9月19日頃 ということだと思われる。
7 GIOACHINO ROSSINI LETTERE E DOCUMENTI VOLUME Ⅰ, p.42
8 ibid. p.50
9 GIOACHINO ROSSINI LETTERE E DOCUMENTI VOLUME Ⅲa, p.31

初演

《成り行き泥棒》の初演は、1812年11月24日 ヴェネツィア サン・モイゼ劇場で行われた。

ドン・エウゼービオ
D. Eusebio,
ガエターノ・デル・モンテ
Gaetano Del Monte
テノール
tenore

ベレニーチェ
Berenice
ジャチンタ・グイーディ・カノーニチ
Giacinta Guidi Canonici
ソプラノ
soprano

アルベルト伯爵
Conte Alberto
トンマーゾ・ベルティ
Tommaso Berti
テノール
tenore

ドン・パルメニオーネ
D. Parmenione
ルイージ・パチーニ
Luigi Pacini
バス
basso

エルネスティーナ
Ernestina
カロリーナ・ナーゲル
Carolina Nagher
ソプラノ
soprano

マルティーノ
Martino
フィリッポ・スパーダ
Filippo Spada
バス
basso



注 初演時の出版台本には テレーザ・バタレッリ Teresa Batarelli の名前も挙がっているが、何を演じたのか、あるいは本当に出演したのか、など詳細は不明。

ガエターノ・デル・モンテは四半世紀近くの長きに渡り、主として脇役テノールとして活動した人物。記録に残る最古の出演は1808年カーニヴァルシーズンのアンコーナ。1811年のカーニヴァルシーズンからヴェネツィアを拠点とし、エレテーニオ劇場、サン・モイゼ劇場、サン・ベネデット劇場、サン・ルカ劇場で活動した。その後もフィレンツェなど各地の劇場で歌い、最後の出演記録は1832年10月のボローニャ、《泥棒かささぎ》のイザッコとピッポだった。サン・モイゼ劇場での《絹のはしご》初演 1812 のドルモント、《成り行き泥棒》 1812 のドン・エウゼービオ、《ブルスキーノ氏》 1813 の息子ブルスキーノと警察分署長を創唱した。

ジャチンタ・グイーディ・カノーニチは、1810年代に活躍したソプラノ。生年を含め若い頃の経歴はあまり分かっていないが、最古の出演記録はローマでの1805年のカーニヴァルシーズンで、したがっておそらく1880年代後半の生まれではないかと思われる。1813年までは専ら北イタリアの都市と中部のローマ、イェージなどの劇場で活動。1812年秋のシーズンにヴェネツィアのサン・モイゼ劇場に出演し、その際にロッシーニ《成り行き泥棒》初演のベレニーチェを歌った。1813年秋からナポリに移り、フォンド劇場、フィオレンティーニ劇場、さらにサン・カルロ劇場で歌った。1814年3月、フォンド劇場でのモーツァルト《フィガロの結婚》(ナポリでの初上演だったという)でスザンナを歌った。この上演ではマヌエル・ガルシアがアルマヴィーヴァ伯爵、イザベラ・コルブランが伯爵夫人で、7月11日までに19回の公演があった。1815年10月末、彼女はフィオレンティーニ劇場でナポリで初となる《アルジェのイタリア女》(ナポリ向けに少なからず手直しされた)の公演でイザベッラを歌った。また1816年5月、フォンド劇場での《エリザベッタ》再演では、コルブラン、ノッツァーリ、ダイヴィドらスター歌手との共演でマティルデを歌った(5月19、20、23、25日)。1818年秋から1819年春までパレルモのカロリーノ劇場で活動した。その後3年ほど出演記録がなく(出産育児だろうか)、1822年春にナポリに復帰。1822年5月12日、ヌォーヴォ劇場でのドニゼッティ《ジプシー女 La zingala》初演のアルジッラを歌った。ナポリでは1824年冬まで活動。確認できる最後の出演記録は1827年、パドヴァ。

トンマーゾ・ベルティについての情報は乏しい。記録に残る最古の出演は、1804年8月、ミラノ スカラ座。その後イタリア各地で歌った。1811年秋にはボローニャのコルソ劇場に出演、ここでロッシーニ《ひどい誤解》のエルマンノを創唱した。1812年のカーニヴァルシーズンからヴェネツィアノサン・モイゼ劇場を拠点とし、ここで《成り行き泥棒》 1813 のアルベルト伯爵、《ブルスキーノ氏》 1813 のフロルヴィッレ を創唱した。いずれの役も難易度は高くない。最後の出演記録は1815年、ナポリのカーニヴァルシーズン。

ルイージ・パチーニ 1767―1837 はこの中で一番のベテラン、《成り行き泥棒》初演時には45歳だった。トスカーナの山中の村ポピリオ(フィレンツェから北西に70km強)の生まれ。ローマとナポリで学んだ後、まずテノールで10年以上活動し十分な名声を博した。1804/05年のカーニヴァルシーズンからバッソ・ブッフォに転向。以来四半世紀に渡って、ミラノ、クレモナ、トリノ、ローマ、パヴィア、ボローニャ、ヴェネツィア、ジェノヴァなど、主として北、中部イタリアの諸都市で活躍した。数多くのオペラの初演に参加したが、中でもロッシーニ《イタリアのトルコ男》 1814 ミラノ でのドン・ジェローニオ役として名高い。また初演ではないが、1815年8月9日から始まったミラノ、スカラ座での《アルジェのイタリア女》ではタッデーオを歌い、この公演は49回の上演という大成功を収めた。作曲家ジョヴァンニ・パチーニは息子。

カロリーナ・ナーゲルについても情報は多くない。記録に残る最古の出演は、1809年、ベルガモの 市 いち のシーズン(8、9月と思われる)。1812年5月から1813年2月までヴェネツィアのサン・モイゼ劇場に出演、この間に 《絹のはしご》初演 1812 のルチッラ、《成り行き泥棒》 1812 のエルネスティーナ、《ブルスキーノ氏》 1813 のマリアンナを創唱した。エルネスティーナにはアリアがないが、ルチッラ(脇役アリアがある)やマリアンナに比べると劇における重要度は高い。

フィリッポ・スパーダは、もし同名のバスが二人でなければ、30年以上に渡って活躍したバッソブッフォ。最古の出演記録は1805年秋、フィレンツェ。最後の出演記録は1837年夏 ボローニャ。32年間、北イタリアの諸都市を中心に活動しているが、1825、26年にはポルトガル、リスボンのサン・カルロス劇場にも出演、この際にロッシーニ《アディーナ》初演 1826年 のムスタファを歌った。その他多くのオペラの初演に出演。初演ではないものの1830年代前半にはドニゼッティのブッファ、セミセリアなどを頻繁に歌った。

1812年11月26日付のアドリア海県新聞 Giornale Dipartimentale dell'Adriatico に初日の公演評が載った。

ロッシーニ氏の音楽が優れたものであることは否定しないでおこう、特に 導入: パチーニ氏のアリア【1】の最初のテンポ: ベルティ氏のアリア【2】 そしてカノーノチ夫人のアリア【3】、しかし この素晴らしいものすべてが 心を打つ素晴らしさではなかった。誰かの過失によるというよりは、無関係の状況の力による。[…]続く2晩 このファルサは より幸運を得た と 真実を言わなくてはならない。
La musica del sig. Rossini ha del buono, non nieghisi, massime nell’introduzione; nel primo tempo dell'aria del Sig. Paccini; nell’aria del Sig. Berti e in quella della Sig. Canonici, ma non tutto questo buono fu il buono che colpisce, più per forza di circostanze estranee che per colpa d’alcuno.[...] Ad onor del vero dir dobbiamo che nelle successive due sere questa Farsa ebbe più sorte.


厳しい評ではないが、歯切れの悪いものだ。しかしこれに最後の補足を加えると、おそらく初日は稽古不足で今一つの出来に終わってしまったという残念な思いが評に反映されているのだろう。実際、《成り行き泥棒》の音楽は《絹のはしご》より格段に歌手への要求が高くなっており、短いリハーサル期間でこなしきれなかった可能性は十分ある。
せっかく上向きになった《成り行き泥棒》だが、全部で5回(11月24、26、28日、12月1、3日)の公演に留まった【4】

ところで、《成り行き泥棒》初日の10日前、アリドリア海の県の新聞 Giornale dipartimentale dell'Adriatico 紙が、ラ・フェニーチェ劇場のカーニヴァルシーズンにロッシーニが新作オペラセリアを発表すると予告した。
ロッシーニはサン・モイゼ劇場に3つめのファルサを書く契約が残っていたので、これは小劇場のファルサすなわち《ブルスキーノ氏》と、大劇場のオペラセリアすなわち《タンクレーディ》が競合することを意味した。
同じヴェネツィアでの同時期の2つのオペラに、《成り行き泥棒》の顛末が影響を及ぼすことになる。

1 第2番 パルメニオーネのアリア。
2 第5番 アルベルトのアリア。
3 第8番 ベレニーチェのアリア。
4 サン・モイゼ劇場のファルサは一晩に2本立てが基本。《成り行き泥棒》は、11月24、26、28日の公演ではステーファノ・パヴェージ Stefano Pavesi 1779―1850 《やきもち焼きたちへの忠告 L'avvertimento ai gelosi》(この劇場で1803年8月7日に初演された)と、12月1、3日の公演ではピエトロ・ジェネラーリ Pietro Generali 1773―1832 《寡婦の涙 Le lagrime d'una vedova》(この劇場で1808年12月26日に初演された)との2本立てだった。

初演後の19世紀の上演

サン・モイゼ劇場での初演後、《成り行き泥棒》はしばらくの間上演された形跡がない。
初演から5年後の1817/18年、パレルモ、王立カルリーノ劇場 Real Teatro Carolino で《鞄の取り違え Lo scambio delle valigie》の題での公演があったようだが、詳細は確認できなかった。

クリティカルエディションの解説の脚注には、1818年11月5日からナポリ ヌオーヴォ劇場で《成り行き泥棒》が《鞄の取り違え Il cambio delle valigie》の題で公演があったとある。この時期ロッシーニはナポリで、初演がずれ込んでいた《リッチャルドとゾライデ》 同年12月3日初演 の作曲を急いでいたはずである。彼がどこまでこの《成り行き泥棒》の公演に携わっていたか分からない。

《成り行き泥棒》の上演が活発になるのは1820年代、ロッシーニが人気作曲家として確固たる地位を固めた後のことである。
クリティカルエディションの解説には、1820年から1827年の間にローマ、ミラノ、トリノ、フィレンツェ、ヴェネツィアで公演があったとあるが、詳しい情報は書いていない。
以下、ある程度確かな情報が得られたものだけ記す。

1820年4月、ミラノで公演。ミラノ新聞 Gazzetta di Milano 1820年4月の各日号の 今日の公演 SPETTACOLI D'OGGIによると、《成り行き泥棒》はカルカノ劇場 Teatro Carcano で 4月7,9,11,12,14,16,21,23日 と公演があったという。

1820年秋冬、ジェノヴァで公演。ジェノヴァ新聞 Gazzetta di Genova 紙 の各日号に掲載された公演案内によると、サン・アゴスティーノ劇場 Teatro da S. Agostino で、1820年10月31日を初日に,11月4,8,11,15,22,25日、12月2日に公演があった。

1822年6月19日、ミラノ、スカラ座で公演。ベレニーチェが(マリア・)テレーザ・(ジョルジ・)ベッロク (Maria) Teresa (Giorgi) Belloc 1784―1855 (《幸せをもたらす策略》 1812年初演 のイザベッラ、《泥棒かささぎ》 1817年初演 のニネッタ)、パルメニオーネを ルイージ・ラブラーシュ Luigi Lablache 1794―1858 が歌うという豪華な配役だった。

1822年、バルセロナで公演。バルセロナ・リセウ大劇場の公演検索を用いると、2003年5月公演の補足情報としてバルセロナで初めての《成り行き泥棒》の公演の情報が出て来る。それによると、1822年7月18日、サンタ・クレウ劇場 Teatre de la Santa Creu。これがカタルーニャ初演であるのはもちろん、おそらくスペイン初演でもあるだろう。

1823年春、トリノ、ステラ氏劇場 Teatro del Signor Sutera。出版台本がgoogle booksで閲覧できる。パルメニオーネの ヴィンチェンツォ・ガッリ Vincenzo Galli 1798―1858はローマ生まれのバス。バッソブッフォとして長く活躍した。高名なバス、フィリッポ・ガッリ Filippo Galli1783―1853 の弟。アルベルトの ルイージ・ラヴァーリア Luigi Ravaglia は18266月22日 リスボン サン・カルロス劇場での《アディーナ》初演でセリモを歌った。ドメニコ・レモリーニ Domenico Remolini は《結婚手形》 1810 ヴェネツィア のノルトン。

Coragoでの検索結果によれば、1825年秋、フィレンツェのココーメロ劇場 Teatro del Cocomero で《成り行き泥棒》の公演があったようだが、裏付けが取れなかった。

Coragoでの検索結果によれば、1826年2月6日、ポルトガル、リスボン、キンテラ男爵劇場 Teatro del barone di Quintella で上演があったようだが、裏付けが取れなかった。この劇場はリスボン郊外ラランジェイラスにある男爵の館の私設劇場で、私的上演だったかもしれない。

その後のロッシーニの生前の《成り行き泥棒》の上演についてはよく分からない。

1892年、ロッシーニ生誕100周年を記念して、ロッシーニの故郷ペーザロで《成り行き泥棒》の公演があった。IL TEATRO ILLUSTRATO 誌 1892年7月号によると、1892年7月11日付の記事で
昨晩 新しいロッシーニロッシーニ音楽院のホールで 崇拝すべきマエストロの初期のオペラの一つ《成り行き泥棒》が初めて上演された。
Jeri sera nel grande salone del nuovo Liceo Rossini si eseguiva la prima rappresentazione del l Occasione fa il ladro una delle prime opere del divino maestro.

とある。つまり公演は7月10日に催された。新しいホールとはロッシーニ音楽院のアウティトリウム・ペドロッティ Auditorium Pedrotti のこと。ベレニーチェは エリーザ・ペトリ Elisa Petri 1869―1929。ファブリアーノ生まれでロッシーニ音楽院で学び、この時はまだデビューして数年の若手だったが、後にイタリア各都市、スペイン、南米でも活躍するプリマドンナになった。アルベルトはアルフレード・ゾンギ Alfredo Zonghi 1864―1913。トレンティーノ生まれ、ロッシーニ音楽院で学び、1888年にデビュー。録音が残されており、ヴェリズモ全盛の当時としては軽く端正な歌い口だったことが分かる。パルメニオーネを歌ったのは グワルティエーロ・パニョーニ Gualtiero Pagnoni、地元ペーザロ生まれ。彼については情報が乏しいが、1898年11月22日 ローマでのマスカーニ《イリス》初演でくず拾いを歌ったことが分かっている。特筆すべきはエウゼービオで、20世紀初頭の大スターテノールとなるアレッサンドロ・ボンチ Alessandro Bonci 1870―1940 が受け持った。彼はまだロッシーニ音楽院在学中で正式デビュー前だったと思われる。

20世紀以降の上演

《成り行き泥棒》の20世紀最初の公演は、1913年 トリノ。Il Teatro italiano nel 1913 誌によると、出演者は ポンツァーノPonzano(レオニルデ・ポンツァーノ Leonilde Ponzano 1871―1941 彼女はアルトなのでエルネスティーナだったと思われる)、ミュラー Muller、スカリョッティ Scagliotti、デ・ミケリス De Michelis、フェッレッティ Ferretti、モントゥ Montù、指揮者は アドルフォ・カントゥ Adolfo Cantù。

1916年、ペーザロ。これについてはあまり詳しい情報が見付からなかった。

1924年にトリエステで公演があったようだが、これも詳細が分からなかった。

※普請中※

第二次世界大戦後の上演の情報はあまりよく分からないが、1953年には最初のレコード用の録音がローマで行われた(米国の Period Records が発売する)ので、少なくともイタリアではそれなりに公演があったのではないだろうか。

※普請中※

《成り行き泥棒》は遅くとも1980年代には毎年どこかしらの劇場で取り上げられる人気作になり、公演の追跡は膨大な数になるのでやめておく。

《成り行き泥棒》のクリティカルエディションは1987年に出来上がり、同年にロッシーニ・オペラ・フェスティヴァル ROF でお披露目公演があった。公演記録。この時の音声はCDで発売された。⇒ 参考資料 ジャン・ピエール・ポネル Jean-Pierre Ponnelle が演出、舞台装置、衣装を担当、これは大変好評だったため、ROFには珍しく長年その舞台を用いて再演された。1989年 公演記録、1996年 公演記録、2013年 公演記録。さらに2026年にも公演が予定されている

台本

台本作家 ルイージ・プリヴィダーリ Luigi Prividali については、あまり詳しい記述を見かけない。たとえばロッシーニ財団刊 GIOACHINO ROSSINI LETTERE E DOCUMENTI VOLUME Ⅰ, p.89 の脚注に記述があるが、生没年もない。
Rivista musicale italiana vol. 17 1910年 に掲載された彼の略歴に他からの情報を加えると、以下のような生涯だったようだ。
プリヴィダーリは1771年頃、スロヴェニアとの国境の町ゴリツィアで生まれる(ヴェネツィア生まれとする資料が多い)。まず軍人もしくは弁護士の道を進んだが、すぐに文学、音楽、劇場に携わる仕事に就いた。1804年にはウィーンでオペラの台本作家として活動している。その後ヴェネツィア ラ・フェニーチェ劇場やミラノ スカラ座などで台本作家として盛んに活動している。その一方でヴェネツィアの新聞 ヴェネツィアの観察者 紙のジャーナリストを長年務めた。1827年6月、プリヴィダーリはトリエステのグランデ劇場と翌年から5年間の契約を結んだがこれは短期で辞してしまった。ミラノに移ったプリヴィダーリは、1829年に劇場の一般的批評家 il Censore universale dei teatri 誌を刊行【1】。後年ヴェネツィアに隠居し、1844年に73歳で亡くなった。

今日プリヴィダーリはもっぱら《成り行き泥棒》の台本作家としてばかり知られているが、しかし彼の最大のヒット作は、ジュゼッペ・モスカ Giuseppe Mosca 1772-1839 が音楽を付けた《I pretendenti delusi》(失望した志願者たち という意味だが、あるいは 当ての外れた求婚者たち かもしれない)である。このオペラは1811年9月7日 ミラノ スカラ座で初演されて成功を収め、その後はイタリア各都市の劇場はもちろん、バルセロナやドレスデンでも上演され、十数年も舞台に架かった。サン・モイゼ劇場でも1812年の春のシーズンの開幕公演として3月30日から上演されたのだが、その際ロッシーニは伯爵オドワルドを歌う ラッファエーレ・モネッリ Raffaele Monelli 【2】 のために差替えアリア Alla gloria un genio eletto を書いた。

プリヴィダーリにとってヴェネツィアは第2の故郷とも言える地なので、ロッシーニがサン・モイゼ劇場で活動している間に知り合った可能性は非常に高い。プリヴィダーリは1812年1月23日にラ・フェニーチェ劇場で初演された、カルロ・コッチャ Coccia Carlo 1782―1873 作曲《検証された夢 Il sogno verificato》の台本を書いている。台本作家は必ずしも初演に立ち会うとは限らないが、もしこの時彼がヴェネツィアにいたならば、その半月前にサン・モイゼ劇場で《幸せをもたらす策略》を初演していたロッシーニと間違いなく知り合っていたろう。
残念なことに二人の間の手紙は数年後の1815年5月15日(ロッシーニがナポリに移る直前)付でロッシーニがプリヴィダーリに宛てた手紙しか残っていない。そこからは二人が親しい仲だったことは窺える。

プリヴィダーリがどのように《成り行き泥棒》の台本を書いたのかはよく分かっていない。
この台本の原作は1810年1月13日にパリの ヴァリエテ・アントワーヌ劇場 Antoine Théâtre des Varié で初演された1幕の散文喜劇『思いがけないなりすまし Le Prétendu par hazard』とされる。この散文喜劇の副題 L'Occasion fait le larron の伊語に相当するのが L'occasione fa il ladro である。
この散文喜劇の作者は、初演時の出版台本には M. A. E *** とある。M. は Monsieur なので、A. E. 氏 ということである。これを (Augustin) Eugène Scribe (オギュスタン・)ウジェーヌ・スクリーブ 1791―1861 の作とする見立てが多いが、しかしそうだとすると初演時18歳と20日ほどとあまりにも若いことになり、異論もある。
実はこの散文喜劇とオペラの台本では少なからぬ相違がある。オペラでは重要な要素である鞄の取り違えも二人の女性の入れ替わりも、散文喜劇にはないのだ。その一方で花婿に成りすました男が花嫁に求婚する点は共通している。
おそらくプリヴィダーリはこの散文喜劇を読んだことはあるのだろう。そしてそこから自由に設定と展開を変えて《成り行き泥棒》の台本を書いたのではないかと推測されている。しかし両者の間に未知の何か別の作品、つまり散文喜劇の翻案ものが挟まっている可能性も捨てられない。

さて自筆総譜からは、プリヴィダーリとロッシーニの連携がうまくいっていないと思しき様子も窺える。
たとえば第4番 五重唱 の冒頭 Andantino grazioso でエルネスティーナとパルメニオーネが出会う場面、初演時の出版台本ではこうなっている。

PARMENIONE
(non s'accorda col ritrattoo.)
パルメニオーネ
(彼女は 肖像画と 一致しない。)

ERNESTINA
(E bizzarro, ma grazioso.)
エルネスティーナ
(彼は 風変わりだ、しかし 愛想が良い。)

PARMENIONE
(Eh non serve! il colpo e fatto.)
パルメニオーネ
(えー 【そんなことは】 役に立たない【≒ どうでもいいことだ】!

ERNESTINA
(S'egli fosse almen mio sposo.)
エルネスティーナ
(せめて 彼が 私の 花婿 ならば。)

INSIEME
(Ma non parla?.. Cosa fa?..)
二人
(それにしても 彼は/彼女は 話さないのか?… 彼は/彼女は 何を しているのか?…)

このようにパルメニオーネがベレニーチェと入れ替わっているエルネスティーナが肖像画の美女と似ていないとはっきり言っている。
しかしロッシーニは自筆譜で肖像画への言及を省いて、次のように歌詞を変えてしまった。

PARMENIONE
(L'ho colpita a prima vista, si.)
パルメニオーネ
(私は 一目で 彼女に 印象付けた、そうだ。)

ERNESTINA
(E bizzarro, ma grazioso.)
エルネスティーナ
(彼は 風変わりだ、しかし 愛想が良い。)

PARMENIONE
(Diventata èh mia conquista.)
パルメニオーネ
(彼女は 私の ものにした女に なった。)

ERNESTINA
(S'egli fosse almen mio sposo.)
エルネスティーナ
(せめて 彼が 私の 花婿 ならば。)

INSIEME
(Ma non parla?.. Cosa fa?..)
二人
(それにしても 彼は/彼女は 話さないのか?… 彼は/彼女は 何を しているのか?…)

これではパルメニオーネが花嫁と肖像画の美女が異なっていることにまったく気づいていないことになってしまう。もしかしたらロッシーニは音楽を書き始めた段階では肖像画が美女がアルベルトの妹だと分かっていなかったのかもしれない。
ロッシーニはこれでは問題があると指摘されたようで、後に五線譜外に修正した歌詞と音楽を書いている。クリティカルエディションはこれに基づいている。

PARMENIONE
(L'ho colpita a prima vista, si.)
パルメニオーネ
(私は 一目で 彼女に 印象付けた、そうだ。)

ERNESTINA
(E bizzarro, ma grazioso.)
エルネスティーナ
(彼は 風変わりだ、しかし 愛想が良い。)

PARMENIONE
(non s'accorda col ritrattoo.)
パルメニオーネ
(彼女は 肖像画と 一致しない。)

ERNESTINA
(S'egli fosse almen mio sposo.)
(Ma non parla?.. Cosa fa?..)
エルネスティーナ
(せめて 彼が 私の 花婿 ならば。)
(それにしても 彼は 話さないのか?… 彼は 何を しているのか?…)

PARMENIONE
(Eh non serve! il colpo e fatto.)
パルメニオーネ
(えー 【そんなことは】 役に立たない【≒ どうでもいいことだ】!

にもかかわらず、実際の上演ではそれぞれの最後の行は二人とも (Ma non parla?.. Cosa fa?..) 、つまり修正前の通りに歌われることがほとんどである。これは音楽が元々二人が同じ歌詞で絡みやすいように書かれているからだろう。

この件はさておき、《成り行き泥棒》の台本をよく読むと作劇的に問題がいろいろあることに気付く。
特に問題なのはパルメニオーネだ。彼は鞄の取り違えの直後、マルティーノにアルベルトを追いかけるよう命じたり、彼が鞄を開けようとするのを 悪党 と非難したりと、それなりの良心を持った人物に描かれている。
しかし彼は美女の肖像画を見るや態度を一変させ、花婿に成りすまして花嫁に会うという危険な行為に乗り出す。肖像画の美女によってパルメニオーネが衝動をかき立てられるというのは、パルメニオーネ役に強いエネルギーを与えており、うまいやり方ではある。
ところが館に到着して早々に彼は花嫁(ベレニーチェに扮したエルネスティーナ)が肖像画の美女と異なることに気付いてしまう。出鼻をくじかれたかたちのパルメニオーネは、しかもにもかかわらず彼は成りすましを続ける。フィナーレで彼はエルネスティーナに一目惚れしたと言うのだが、劇中には特にそんな様子は見られない。
パルメニオーネを突き動かした動機が早々に失われてしまうのは、少なくとも演出家やパルメニオーネ役にとっては厄介な問題になる。
おそらく最も簡単な解決法は、パルメニオーネを台本に描かれているよりもさらにいんちきな人間にしてしまうことだろう。つまり彼は純粋に花嫁を求めて愛の衝動に突き動かされているのではなく、花婿に成りすまして(誰であれ)花嫁を得ること、人を騙す楽しさのために動いていることにすればよいのだ。そうであれば相手が違っていてもたいした差はない。近年の演出でパルメニオーネとマルティーノが窃盗団のようないかがわしい人物に描かれることが少なくないのはそのためだろう。

ほかにも台本をよく読むとギクシャクしたものを感じることが少なくない。
プリヴィダーリは散文喜劇からファルサの台本を書くにあたり様々に独自のアイデアを盛り込んだのだが、それに筋を通すことにはあまり頓着していなかったようだ。
その証拠に、ベレニーチェのカヴァティーナの後、彼女がエルネスティーナに入れ替わりを提案した時、エルネスティーナから叔父エウゼービオがどう思うか尋ねると、自筆総譜(レチタティーヴォはロッシーニの書いたものではない)では彼女は
Nol saprà.
彼は 分からないだろう。
と答えている。これは後の展開からはありえないことだ。
もしかしたらプリヴィダーリは当初、二人の入れ替わりにエウゼービオが気付かないまま展開が進むように書いていたのかもしれない。
この箇所は初演時の出版台本では既に
Con noi d'accordo
secondrà il progetto.
私たちに 賛成して
彼は 計画を 手助けするだろう。
と修正されているのだが、この件はプリヴィダーリがあまり細かいことにこだわらない台本作家であることを示唆している。

もちろんプリヴィダーリの台本には優れた点も少なからずある。ことに前半の締めとなる第4番 五重唱は混乱した状況を手際よく見事にまとめ上げており、ロッシーニはこれに398小節もの充実した音楽をつけることができた。第6番 ベレニーチェとパルメニオーネの二重唱の極めて滑稽な尋問の場面も秀逸だ。
つまりプリヴィダーリは、展開よりも場面が巧く作れる台本作家だったのかもしれない。

ともかく、ロッシーニが素晴らしい音楽を書いた以上は、プリヴィダーリの《成り行き泥棒》の台本は立派に役目を果たしている素晴らしい台本と言えるだろう。

1 censore は 検閲官 の意味だが、転じて 厳しい批評家 の意味でも用いられる。つまりこの本は劇場批評集だったのだろう。
2 モネッリはその2か月半前の1月8日の《幸せをもたらす策略》初演でベルトランドを歌っていた。そしてこの1か月強後の5月9日に初演された《絹のはしご》でドルヴィルを歌うことになる。

あらすじ

全1幕
海に面した 田舎の宿屋、嵐の夜。暗い夜。ドン・パルメニオーネが食堂で食事をしている。彼の召使いマルティーノは雷にひどく怯えて、主人が彼に食事をさせようとしても震えるばかり。そこにアルベルト伯爵が彼の召使いと共に嵐を避けて宿屋にやって来る。パルメニオーネとアルベルトは、共に嵐に旅路を邪魔された同士ということで、乾杯して陽気に酒の歌を歌う。ナポリへ向かうアルベルトはパルメニオーネに旅路を共にすることを持ちかけるが、パルメニオーネは、彼もナポリへ向かうことを隠して、行き先が違うとこれを断る。アルベルトはナポリで、まだ顔を見たことのない婚約者と結婚する予定だと打ち明ける。嵐が収まり、アルベルトは先に出発するが、それまで居眠りしていた彼の召使いは寝ぼけてパルメニオーネの鞄を持って行ってしまう。支払いの段になってパルメニオーネは鞄の取り違いに気付き、マルティーノにアルベルトを追いかけるよう命じるが、彼は暗闇の中で馬に乗った旅人を見付けるなんてと断り、そして鞄を開けて旅券やお金、さらに美女の肖像画を見つける。パルメニオーネは肖像画の美女がアルベルトの結婚相手だと思い、アルベルトになりすまして彼女と結婚しようと決意する。
侯爵夫人ベレニーチェの屋敷。彼女の叔父ドン・エウゼービオはエルネスティーナに、家政婦として立ち振る舞わないよう告げる。彼女は不幸な目に遭い、ベレニーチェの世話をする 姪 としてこの館に引き取られた。
花婿の到着を待つベレニーチェは、しかし喜びを感じられず意気消沈している。彼女は気を取り直して、相思相愛の結婚を望むものの、再び気持ちは沈んでしまう。彼女の父が亡くなる前に娘と彼の友人の息子の縁談を決めて、その息子が今日到着するのだが、彼女は見たこともない花婿と結婚するなんて馬鹿げていると思っている。そこで自分と花婿が考えが合うかどうか見極めたいと思い、エルネスティーナと入れ替わることを提案する(叔父も賛成するだろうと)。二人は服を交換し、エルネスティーナが花嫁、ベレニーチェは侍女として振舞うことにする。
アルベルトの盛装を着こんだパルメニオーネが到着、現れた花嫁(エルネスティーナ)にさっそく大げさな惨事を捧げるが、しかし彼女が肖像画の美女と異なることに困惑もする。エルネスティーナの方はこの奇妙な花婿をすぐに気に入り、パルメニオーネも既にことは始まったと腹をくくって彼女に求婚することを決意する。二人はエウゼービオに会いに行く。
一足遅れて到着したアルベルトは、家政婦姿のベレニーチェを花嫁と思い喜ぶが、違うと言われて落胆する。した。ベレニーチェは彼に強く惹かれる。エウゼービオが花婿を出迎えに来るが、そこにエルネスティーナとパルメニオーネが戻り、パルメニオーネは自分が花婿アルベルトだと言い張るので、エウゼービオと二人の女性は当惑する。エウゼービオに証拠を示すよう言われ、パルメニオーネは旅券を見せるが、アルベルトは自らの身を証明できない。一同の激しい混乱。
マルティーノは誰とも会わないよう用心していたが、空腹に耐えかねて食べ物を探しに行く途中、エウゼービオと出くわしてしまう。マルティーノは慌てるが、エウゼービオは親切にも食堂で食事をするよう告げる。
エルネスティーナは、かつて誘惑された男に棄てられたことを思い出し、今度はやって来た求婚者の様子が怪しいことを案じている。アルベルトが現れ、証拠はないものの改めて自分が花婿であることを主張する。彼は、たとえ婚約していても愛していない女性に愛するよう求めることはしない、と告げる。
ベレニーチェは明らかに怪しい花婿を試すことにする(そして抜け目なく彼が持って来た鞄の中のアルベルトの手紙や証明書を読んだ)。偽花婿パルメニオーネは、結婚したら彼女を含めた女をお手伝いとして侍らせると言い、ベレニーチェをあきれさせる。そして彼女は自分こそが真の花嫁だと告げる。パルメニオーネは驚いて自分が下手を打ったことに気付くが、なんとか誤魔化そうとする。ベレニーチェは読んだ手紙の内容から、アルベルトの父の具合や妹の名前などを尋ねる。内容を知らないパルメニオーネは間違いながら誤魔化すが、ベレニーチェの疑いを確実にするだけ。堪忍袋の緒が切れたベレニーチェが彼をペテン師と呼び、出て行くよう言いつけ、パルメニオーネも反論する。
エウゼービオとエルネスティーナはマルティーノを捕まえて、パルメニオーネの正体を話させようとする。マルティーノは主人の不品行を並べ立てつつ、どこにでもいる男だと誤魔化し、そして逃げてしまう。
アルベルトは自分に成りすますパルメニオーネに抗議する。口論を聞きつけてベレニーチェがやって来る。アルベルトは、本来の自分の婚約者(と彼が思っているエルネスティーナ)をパルメニオーネが引き受けるならば、自分は婚約を破棄すると言い、パルメニオーネもそれに同意する。しかしベレニーチェは、彼らが自分を巡って取り引きをしていることを不愉快に思い、いまだ素性がはっきりしない二人に不満をぶつける。パルメニオーネは自分はもうアルベルトではないと答え、アルベルトはベレニーチェが拒まなければ彼女を花嫁にすると言うも、自分抜きで自分の結婚話が結ばれたと感じたベレニーチェは怒って出て行ってしまう。
マルティーノからパルメニオーネの正体を聞かされたエウゼービオは、危うくペテン師の親族になるところだったとぼやくが、エルネスティーナはそのことをあまり気にしていない。当のパルメニオーネが現れ、自分はパルメニオーネで、友人の伯爵エルネストの行方不明の妹を捜しに来ていると明かす。エルネスティーナは、自分こそがその妹であると明かし、パルメニオーネは彼女に求婚する。
アルベルトはベレニーチェを納得させたようで、二人は既に愛の喜びに陶酔している。マルティーノは主人が任務を完遂したことを喜んでいる。パルメニオーネは、鞄の取り違えから肖像画の美女を見つけ思わず成りすましをしてしまったことを明かす。肖像画はアルベルトがベレニーチェの結婚祝いに携えた彼の妹の姿だった。パルメニオーネは間違いに気づいたものの、エルネスティーナに一目惚れしてしまったと白状する。2組の結婚が決まり、一同は喜び、たまたま機会が人を泥棒にさせるとしても、時には正当な理由があるものだ、と唱和する。

音楽

第1番 序曲と導入
序曲 Sinfonia と掲げられているものの、《成り行き泥棒》には通常のオペラの序曲はない。冒頭に33小節の短い序奏的な Andante 3/4 ハ長調 が あり、そのまま嵐の音楽 Tempesta、Allegro 4/4 ハ短調 に続く。稲光と雷鳴、激しい風雨の猛威を巧く描いている。この嵐の音楽は直前の《試金石》第2幕の嵐の音楽の更生、そして後の作品でも嵐の音楽として何度か用いられている。
導入は、急 / 緩 / 急 を基本としている。
急 Frema in cielo il nembo irato, は Allegro 3/4 ハ長調。この箇所自体が大雑把に 緩 / 中間部 / 急(6/8的な音楽)に構成されている。外の荒れ狂う嵐を気にせず食事を取るパルメニオーネと、雷に怯えるマルティーノの姿を、軽快な音楽で描いている。ここではまだ主人パルメニオーネは真っ当な人物像で、召使いマルティーノの滑稽さが強調されている。
アルベルトも嵐を逃れて宿にやって来る。緩 Andante 2/4 変ロ長調 Il tuo rigore insano,。アルベルトのカヴァティーナの役割を果たしている。41小節の短いアリアだが、甘く美しい音楽でアルベルトの人物像を印象付ける。
経過区 Oimè, misericordia!、Allegro 4/4 変ホ長調。パルメニオーネとアルベルトが出会い、同じ嵐から逃れた者同士で意気投合する。 急 Viva Bacco il Dio del vino, は、バッコ 酒の神 を称える歌。Allegro vivace 3/4 変ホ長調。8分音符で動いて歌うパルメニオーネとマルティーノ(しばしば6/8風になる)に対して、アルベルトは伸びやかな旋律で歌う。ここではマルティーノはまだ臆病で冷ややかな人物に描かれている。

第2番 パルメニオーネのアリア
急 / 緩 / 急 の三部構成のアリア。
急 Che sorte, che accidente, は、パルメニオーネが成りすましを決意する内容。Allegro agitato 2/4 ト長調。第2ヴァイオリン以下の弦群の軽快なピッツィカートに乗って、第1ヴァイオリンがスル・ポンティチェッロ(弓を駒に寄せて弾く)のシャリシャリした音でせわしなく動く。一方歌は切れ切れで旋律的にまとまらない。美女の肖像画に魅せられたパルメニオーネの興奮が巧く描かれている。
この末尾にロッシーニは10小節の移行区を据えてパルメニオーネを一旦冷静に戻して、緩 D'arrogarmi un nome finto では彼は危険な成りすましをすることにためらいを見せている。Moderato 4/4 ハ長調 の音楽では再びパルメニオーネの紳士的な面が現れている。
しかし彼はアルベルトに成りすます決意をし、急 E questo il passaporto, ではバッソブッフォらしい猛烈な早口ではやる気持ちを捲し立てる。

第3番 ベレニーチェのカヴァティーナ
Andantino grazioso 3/4 イ長調 のまま調性もテンポも変わることがないが、フェルマータで区切られて中間部ができており、緩 / 急 / 緩 のような三部構成になっている。
緩 Vicino e il momento, は、花婿を知らぬまま婚約した彼女の不安が穏やかな憂いとなっている美しい音楽。
急 Ma dal timore oppressa では音楽が活発になり、ベレニーチェは気を取り直そうとする。 しかし再び最初の憂いの歌詞と音楽が戻る。
ことによるとプリヴィダーリはこの曲の台本を 緩 カンタービレ / 急 カバレッタ の二部構成を念頭に置いて書いたのかもしれない。その場合ベレニーチェは憂いから前向きに気持ちを転じることになる。しかしロッシーニはこのようにもう一度憂いを置き、ベレニーチェの 憂い の方を強調している。

第4番 五重唱
前半を締め括るアンサンブル。エルネスティーナとパルメニオーネの小二重唱、ベレニーチェとアルベルトの小二重唱、経過区、コンチェルタート、経過区、ストレッタ、といった作り。
エルネスティーナとパルメニオーネの小二重唱は 緩 / 急 の構成。緩 Quel gentil, quel vago oggetto, は Andantino grazioso 4/4 ハ長調。お互い偽物の婚約者二人が初めて出会う好奇心(とパルメニオーネには肖像画の美女とは違うという戸惑い)がギクシャクした音楽で描かれている。急 Posso?.. では Allegro vivace の早口でともかくも二人の気持ちが高ぶっている。
ベレニーチェとアルベルトの小二重唱 Se non m'inganna il core は Andantino 6/8 ト長調。第2ヴァイオリン以下の弦群のピッツィカートが二人の高鳴る心臓の鼓動を描写し、さらに木管群と第1ヴァイオリンが恋のざわめきを添えているようだ。二人とも同様な旋律を歌い、初対面で二人が強く惹かれあっている様子が覗える。
エウゼービオがやって来て、経過区 Dov'&egarve; questo sposo?になる Allegro 3/4 ハ長調。さらにエルネスティーナとパルメニオーネが戻って来て本物と偽のアルベルトが出くわす。なんとはない箇所だが、3拍子のウキウキした音楽が次の場面の混乱との良い対比になっている。
コンチェルタート Che strana sopresa, は Andante 4/4 変ホ長調 と速度、拍子、調性まですべて変えている。ベレニーチェとエルネスティーナが並行して旋律的に歌い、エウゼービオもそれに準じるのに対して、アルベルトとパルメニオーネは早口で交互に捲し立て、しかも途中から三連符を多用してさらにスピード感を増して対比が強まる。
速度、拍子、調性とも戻って、経過区 Orsù, spiegatevi. になるが、先と異なり臨時記号で調性が揺らぎ、アルベルトの窮地による不安定さが濃くなっている。
ストレッタ Di tanto equivoco, di tal disordine, は Allegro spiritoso 4/4 ハ長調。ロッシーニお得意の早口のアンサンブルによるストレッタ。80小節と短く、Più mosso で速度が上がることもないが、猛烈なスピードで駆け抜ける素敵な音楽だ。

第5番 アルベルトのアリア
緩 カンタービレ / 急 カバレッタ の二部構成のアリア。
緩 D'ogni piu sacro impegno は Andante 4/4 変ロ長調。ゆったりとした気品のある旋律でアルベルトの高潔な性格が現れている。
テンポ・ディ・メッゾ Ma se un sospetto indegno は Allegro 4/4 変ロ長調。面白いことにロッシーニは後半の歌詞をここですべて使ってしまっている。もしかしたら台本作家プリヴィダーリはこの箇所の歌詞をカバレッタ用に書いたのかもしれないが、しかしロッシーニはカバレッタにはカンタービレの歌詞を繰り返して用いている。これと同様な例に《オテッロ》 第2幕 第6番 ロドリーゴのアリア Che ascolto! ahimè! che dici! がある。
急 Amor da voi non chiede, は Più Lento 4/4 変ロ長調。三連符を多用して常に動き回るような歌。ロッシーニがテノールのアリアでここまで音符を詰めたのはこれが初めてではないだろうか。後のロッシーニのテノールのための超絶技巧アリアの先駆に思われる。このアリアには13小節の長めのコーダがあり、そこでアルベルトの複雑な心情が見て取れる。

第6番 ベレニーチェとパルメニオーネの二重唱
緩 / 急 / さらに急 の三部構成の二重唱。
緩 Voi la sposa! は Andante 4/4 ヘ長調。付点のリズムを多用した滑稽味のある音楽になっている。
急 Il padre vostro si porta bene? はベレニーチェがパルメニオーネを尋問する場面。Allegro 4/4 変ロ長調。二人ともほとんど八分音符で捲し立てる応酬が愉快だ。
a piacere での短いやり取りの後、さらに速度が上がって Ah uomo petulante, の言い合いになる。Presto 4/4 ヘ長調。スピードのある激しい罵り合いは実に滑稽だ。

第7番 マルティーノのアリア
速度指示、拍子とも変化のない単一構成のアリアだが、曲調の変化によって中間部が生じ、大雑把に A / B / A' の三部構成のようにもなっている。脇役バッソ・ブッフォのアリアで音楽的に強い特徴があるわけではないが、快活な中にもピリリとした皮肉っぽさがあって、相手を小馬鹿にして煙に巻く様子が楽しく描かれている。

第8番 レチタティーヴォとベレニーチェのアリア
レチタティーヴォ・アッコンパニャートを前に置いた 急 / 緩 / 急 の三部構成のアリア。
急 Voi la sposa pretendete, は Maestoso 4/4 変ホ長調。Maestoso なのでテンポは速いわけではないが、ベレニーチェはスタッカート付きの16分音符や32分音符が多く(彼女の苛立ちを著している)、速い印象を受ける。
緩 Deh non tradirmi amore は Andante 2/4 変イ長調。愛の神に祈るベレニーチェのゆったりと美しい歌。
4/4 変ホ長調に戻って経過区を経た後、急 Allegro 4/4 変ホ長調になるが、Io non soffro quest'oltraggio は急への序奏あるいは第の経過区のようなものになっている。その勢いに乗って e d'un misero attentato ではベレニーチェは二人に激しい憤りをぶちまける。後半で彼女の最高音である高いハ音に3回達するが瞬間的である。極端に難易度の高い技術は必要としないものの聞き映えするよう巧く工夫が凝らされている。

第9番 フィナーレ
フィナーレは、急 / 緩 / 急 / 締め括りのアンサンブル といった作りになっている。
まず 急 でパルメニオーネとエルネスティーナが結ばれ、エウゼービオを含めた三重唱 Quello, ch'io fui, ritorno, となる。Allegro 3/4 ニ長調。
続いて 緩 わだかまりが解けたベレニーチェとアルベルトの二重唱 Oh quanto son grate。Andantino 6/8 変ロ長調。8分の6拍子に乗って二人がゆったりと美しい旋律を繰り広げる。
最初と同じ Allegro 3/4 ニ長調 に戻り、Miei signori, allegramente, で物語の決着がつけられる。ここは歌らしい歌は少なく、オーケストラも8分音符の刻みに乗って第1ヴァイオリンが細かく動く程度で、あまり込み入った音楽ではない。
最後に全員による教訓的な D'un si placido contento で締め括られる。Allegro vivace 4/4 ニ長調。僅か38小節である。
正直なところ andantino の二重唱を除くとあまり手を掛けていない印象のフィナーレだが、11日間で大急ぎで書き上げなくてはならなかった影響なのかもしれない。

《成り行き泥棒》では、ミラノでの《試金石》の経験を経て、ロッシーニの音楽は総じて著しい成長を見せて、彼の個性がより明確になっている。ことに第8番のベレニーチェのアリアでの怒りの中に見える気高さや、第5番のアルベルトのアリアでの誠実な人柄といったものは、既にファルサのレベルを超えていると言ってよいだろう。ロッシーニは既にサン・モイゼ劇場には収まらない作曲家になっていたのだ。

対訳付き音楽設計図

登場人物

ドン・エウゼービオ
D. Eusebio,
ベレニーチェの叔父
Zio di
テノール
tenore

ベレニーチェ
Berenice,
アルベルト伯爵の花嫁
Sposa del
ソプラノ
soprano

アルベルト伯爵
Conte Alberto
テノール
tenore

ドン・パルメニオーネ
D. Parmenione

バス
basso

エルネスティーナ
Ernestina

ソプラノ
soprano

マルティーノ
Martino,
召使い
Servo
バス
basso

日本語訳は極力文学的色づけをしない直訳にしてある。
歌詞とト書きは、校訂のクリティカルエディション総譜に記載されているものに従っている。

N. 1
Sinfonia e Introduzione





Andante
3/4
C major
Tempesta Allegro
4/4
c minor
Allegro
3/4
C major
SCENA Ⅰ第1場
(Sala in un albergo di campagna, che introduce in diverse stanze numerate. Notte oscura, e tempestosa.
D. Parmenione, che mangia e beve ad una tavola rusticamente, imbandita e rischiarata da un lucerniere: Martino seduto in disparte, che approfitta dei di lui avanzi, malgrado lo spavento che soffre al fragore dei tuoni, ed al chiaror dei lampi)
(田舎の 旅館の 広間、それは 番号の付けられた 様々部屋を 導く。暗い、そして 暴風雨の 夜。
ドン・パルメニオーネは、その者は、ご馳走を並べられた そして カンテラで 照らされた 飾り気のない食卓で 食べて そして 飲んでいる; 傍らに 座った マルティーノは、その者は 彼の 残り物を 利用している【≒ パルメニオーネが 食べ残したものを 食べている】、恐怖にもかかわらず それは 雷鳴の 大音響に、そして 稲光の輝きに 苦しむ 【恐怖にもかかわらず】)


PARMENIONEパルメニオーネ
Frema in cielo il nembo irato,空で 荒れ狂った 雨雲が 唸るがいい、
scoppi il tuono, e fischi il vento;雷鳴が 爆発するがいい、そして 風が ピューと唸るがいい、
che qui placido, e contentoここで 穏やかに、そして 満足して
io mi voglio riposar.私は くつろぎ たい 【↑】から。
Quanto è dolce il mar turbatoなんと 快いことか 波立たされた 海を
dalle sponde il contemplar!渚から 眺めることは!

tuono雷鳴

MARTINOマルティーノ
Ah saette maledette,ああ 忌々しい 稲光め、
deh! lasciatemi mangiar!お願いだから! 私に 食べる がままにさせなさい!
(si spavento)(ぎょっとして)

PARMENIONEパルメニオーネ
Cosa è stato?どうした?

MARTINOマルティーノ
Eh niente, niente.えー 何でもない、何でもない。

PARMENIONEパルメニオーネ
Ma tu tremi.しかし 君は 震えている。

MARTINOマルティーノ
Oh, no signore.ああ、いいえ 旦那様。

PARMENIONEパルメニオーネ
Tieni, e mangia allegramente.【食べ物を】 掴みなさい、そして 陽気に 食べなさい。

MARTINOマルティーノ
Tante grazie...どうも ありがとう…

(tuono)(雷鳴)

Oimé, che orrore!ああ、なんという 恐怖だ!
(lascia cadere il piatto ricevuto dal padrone, e vuol fuggire)(主人から 受け取った 皿を 落とすが ままにする、そして 急いで立ち去 ろうとする)

PARMENIONEパルメニオーネ
Senti, olà! di su, vien qua.聞きなさい、そら! ここに 来なさい。

MARTINOマルティーノ
Che comandate?あなたは 何を 命じるのか?
(si ferma)(立ち止まる)

PARMENIONEパルメニオーネ
Dove vai?君は どこに 行くのか?

MARTINOマルティーノ
Non m'arrestate.私を 止める でない。

PARMENIONEパルメニオーネ
Scaccia, bestia, il tuo timore.愚か者め、君の 恐れを 振り払いなさい。

MARTINOマルティーノ
Non vi posso contentar,私は あなた【の希望】を 満たすことは できない、
non m'arrestate.私を 止める でない。

PARMENIONEパルメニオーネ
Cosa fai là sciocco in piè?ばか者よ 君は そこで 立って 何をしているのか?
Siedi qui vicino a me.ここに 私の傍に 座りなさい。
Se anche vedi il ciel cascar,もし 君が 空が 落ちるのを 見る にしても
mangia, bevi, e non badar.食べなさい、飲みなさい、そして 気にかけるでない。

MARTINOマルティーノ
Voi morir mi fate affé,誓って あなたは 私を 死なせる、
o seduto, o stando in piè.座ろうと、立って いようと。
Par che debba il ciel cascar.空が 落ちる に違いない と思われる。
Come posso non tremar?どうして 私が 震える はずが ない と?
(D. Parmenione sforza il suo servo a sedere vicino a lui, facendolo tacere e mangiare, per quanto è possibile, tranquillamente)(ドン・パルメニオーネは 彼の 召使を 無理に 彼の 傍に 座らせる、彼を 黙らせて そして 食べさせる、できる限り、穏やかに)
Andante
2/4
B-flat major
SCENA Ⅱ第2場
(Il Conte Alberto, accompagnato da un domestico, il quale dopo aver gettato la valigia del padrone a canto a quella di D. Parmenione, si addormenta sopra una panca, e detti)(アルベルト伯爵、一人の従僕に 同行されて、その者は 主人の 鞄 かばん を ドン・パルメニオーネのそれの脇に 投げた 後に 長椅子の上で 眠る、そして 前の場の人たち)

ALBERTOアルベルト
Il tuo rigore insano,おまえの 正気でない 手厳しさを、
fiero destin, sospendi:過酷な 運命よ、中止しなさい:
quel Dio d'amore offendi,おまえは あの 愛の神の 感情を害している、
che scorta mia si fa.その者は 私の 護衛に なっている【≒ 私に 付き添い 私を 守ってくれている】
Tu gli elementi invanoおまえは 四大元素を 虚しく
a danno mio fomenti;私の 損害に 扇動している【≒ おまえが 風や雨に 私を打撃するよう 煽っても 無駄だ】
di te, degli elementiおまえに【= 過酷な 運命に】、四大元素に
amor trionferà.愛の神は 勝利を収めるだろう。
Tu gli elementi invano
gli elementi 四大元素。火、空気、水、土があらゆるものの根源とする考え方。

Allegro
4/4
E-flat major
(tuono e lampo)(雷鳴と 稲光)

MARTINOマルティーノ
Oimè, misericordia!ああ、なんてことだ!
(cade con la sedia)(椅子と共に 倒れる)

ALBERTOアルベルト
Chi è là?誰が そこに いるのか?

PARMENIONEパルメニオーネ
Siam noi.私たちが いる。

ALBERTOアルベルト
Chi siete?君たちは 誰だ?

PARMENIONEパルメニオーネ
Dal tempo trattenuto天気によって 引き留められた
qui forestier vedete.他所から来た男を 君たちは ここに 見ている。

ALBERTOアルベルト
E la cagion medesimaそして 同じ 理由が
m'ha pur condotto qua.私も ここへ 導いた。

MARTINOマルティーノ
E chi sa quando il Diavoloそして 誰が 知っているのだ いつ 悪魔が
da qui ci porterà!ここから 私たちを 連れて行くであろうか【≒ いったい いつになったら ここから 出られる というのだ】

PARMENIONEパルメニオーネ
Dunque, facciamo un brindisiそれでは、乾杯を しよう
con questo vin perfetto.この 素晴らしい ワインで。

ALBERTOアルベルト
L'amico invito accetto,好意的な 誘いを 私は 受け入れる、
di vostra urbanità.あなたの 優雅の【≒ あなたの 粋な 友好的なお誘いを 私は 歓迎する】
qui forestier vedete.
forestiero は 他所から来た男 と訳す。

Allegro vivace
3/4
E-flat major
PARMENIONE E ALBERTOパルメニオーネ と アルベルト
Viva Bacco il Dio del vino,酒の神 バッコ万歳、
viva il sesso femminino!女性 万歳!
che al piacer ogn'alma desta,それは あらゆる 魂を 喜びに 目覚めさせる、
che fa i cori giubilar;それは 心を 大喜びさせる;
e anche in mezzo alla tempestaそして それは 嵐の 最中でも
fa i perigli disprezzar.危険を ものとも させない【≒ 酒と 女が あれば 心は 嵐の只中でも 危険を ものともしない】

MARTINOマルティーノ
Che terribile destinoなんと 恐ろしい 運命だ
a tai pazzi star vicino!こんな 変人たちの 近くに いることは!
Riscaldata han già la testa彼らは 既に 熱くさせられた 頭を 持っている
non san più cos'han da far;彼らが 何を しなければならないのか 彼らは もはや 分かっていない【≒ 彼らは、もう 頭が熱くなって、何をすべきなのか 分かっていない】
ma già un fulmine la festaしかし もう 雷が 宴会を
viene or ora a terminar.ちょうど 終えるだろう

(toccano i bicchieri e li vuotano, poi si rimettono a sedere.)(彼らは グラスを 軽く当て【あっ】て そして それらを 空にする、それから 座りに 再び身を置く)
[Recitativo] Dopo l'Introduzione


4/4
(C major)
ALBERTOアルベルト
Grato conforto è l'incontrar per viaggioありがたい 慰めだ 旅で 出会うことは
un passaggier cortese!親切な 旅人と!

PARMENIONEパルメニオーネ
Il fortunato幸運な男だ
in caso tal son io.このような 場合において 私は。

ALBERTOアルベルト
Bene obbligato.とても 感謝している。
Se v'aggrada, possiamoもし あなたに 気に入る ならば【≒ もし よろしければ】、私たちは
a Napoli recarci in compagnia.ナポリに いっしょに 行く 【↑】ことができる。

PARMENIONEパルメニオーネ
Quella, signor, non è la strada mia.それは、貴君よ、私の 進路では ない。

MARTINOマルティーノ
Come!なんだって!

PARMENIONEパルメニオーネ
A che c'entri tu?何に 君は 関係しているのか【≒ 君には 関係ないだろ】

ALBERTOアルベルト
Me ne dispiace;残念だ;
perché in paese ignotoなぜなら 未知の 村で
fra tanta oscurit%agrave; può facilmente多くの 暗闇の 中で 容易に
l'un per l'altro cammin prendere in fallo,あるものから 別のものへと 道を 間違って 取る 【↑】かもしれない 【↑】からだ、
chi solo, come me, viaggia a cavallo.一人で、私のように、馬で 旅をする 者は【≒ どうしてかというと 私のように 一人で 馬に乗って 旅をする 者は、見知らぬ村の ひどい暗闇の中で ある道を 別の道と 間違って 選んでしまう かもしれない からだ】

PARMENIONEパルメニオーネ
Esser deve l'affar di gran premura,大いに 急ぐことの 用事に 違いない、
che a Napoli vi chiama.それは ナポリに あなたを 呼び出す【≒ あなたが ナポリへ 呼び出されるのは とても 緊急の 用事に 違いない】

ALBERTOアルベルト
Un matrimonio.結婚だ。

PARMENIONEパルメニオーネ
Bravo!素晴らしい!

ALBERTOアルベルト
Certo.もちろん。

PARMENIONEパルメニオーネ
La sposa花嫁を
voi conoscete?あなたは 知っているのか?

ALBERTOアルベルト
Oibò. Molto impazienteああ。【↓】それどころか 【↓】私は とても
sono anzi di vederla; e giacché parmi,彼女に会い 【↑】たくてたまらない; そして 私には、
che la tempesta omai sia per finire,嵐が 今や 終わりに 向かって いる 【↑】と思われる 【↑】ので、
con vostra permissione voglio partire.あなたの 許可を得て 私は 出発したい。

PARMENIONEパルメニオーネ
Come v'aggrada.あなたに 気に入る ように【≒ お好きなように】

MARTINOマルティーノ
E noi?それで 私たちは?

PARMENIONEパルメニオーネ
Taci.黙りなさい。

ALBERTOアルベルト
Su prestoさあ 急いで
la valigia riprendi, andiam, che ho fretta.鞄 かばん を 再び取りなさい、行こう、私は 急いでいる から。
Vi ringrazio di nuovo, e vi saluto.もう一度 私は あなたに 感謝する、そして あなたに 【別れの】 挨拶をする。

PARMENIONEパルメニオーネ
Mille felicità.千の 幸運を!

ALBERTOアルベルト
Molto tenuto.とても 感謝している。

(Alberto scuote il suo servo, che non ben desto ancora, prende senza avvedersi la valigia dell'altro forestiere per quella del suo padrone, e lentamente con lui s'allontana)(アルベルトは 彼の従僕を 揺する、まだ あまり 目を覚ましていない その者は、他の 他所から来た男の 鞄を 彼の 主人の それと 気付かないまま 掴む、そして ゆっくりと 彼と共に 離れる)


SCENA Ⅲ第3場
(Parmenione, Martino)(パルメニオーネ、マルティーノ)

MARTINOマルティーノ
E noi qui che facciam?それで 私たちは ここで 何を しよう?

PARMENIONEパルメニオーネ
Noi partiremo.私たちは 出発するだろう。

MARTINOマルティーノ
Per Napoli?ナポリに 向けて?

PARMENIONEパルメニオーネ
Si sa.当然。

MARTINOマルティーノ
Ma perché direしかし なぜ 言ったのか
di non volerci andar, perché con l'altro私たちは 行き たくない と、なぜ もう一人の男と
uniti non ci siam?私たちは 合流しないのか?

PARMENIONEパルメニオーネ
Perché non voglioなぜならば 私は
far sapere ad ognuno i fatti miei,誰にも 私の 自分のことを 知ら せ 【↑】たく 【↑】ない 【↑】からだ、
perché soffrir non posso,なぜならば 私は 我慢することが できないからだ、
d'andar con chi può farmi i conti addosso.私に 勘定を 背負わ せる 者と 共に 行くのを。

MARTINOマルティーノ
Sarà bene così.その方が 良いだろう。

PARMENIONEパルメニオーネ
Paghiamo il conto,勘定を 支払おう、
e poi si vada.そしてそれから 行こう。
(va per aprire la valigia, dove tiene il denaro)(鞄を 開けに 行く、そこに 金 かね を 取っておいている)

MARTINOマルティーノ
A meraviglia.素晴らしい。

PARMENIONEパルメニオーネ
Oh bella!なんてことだ!
(si sforza inutilmente d'aprir la valigia)(鞄を 開けようと 虚しく 精いっぱい努力する)

MARTINOマルティーノ
Cos'è?何が 【おきたのか】

PARMENIONEパルメニオーネ
Per tua indolenza il forestiere君の 怠惰の せいで 他所から来た男が
con la valigia sua cambiò la mia.彼の 鞄と 私のものを 替えた【≒ 他所から来た男が 彼の鞄を 私の鞄と 取り違えた】

MARTINOマルティーノ
Credo, che un mal per voi questo non sia.私は 思う、このことは あなたにとって 悪いことでは ないと。

PARMENIONEパルメニオーネ
Che dici?君は 何を 言うのか?

MARTINOマルティーノ
Eh c'intendiam.えー 分かり合おう【≒ 私の言いたいことは あなたも 分かるだろう】

PARMENIONEパルメニオーネ
Presto, va'...急いで、行きなさい…

MARTINOマルティーノ
Dove?どこに?

PARMENIONEパルメニオーネ
Le mie carte... il denaro... ah, il passaporto...私の書類が… 金 かね が… ああ、旅券が…
corri...急いで向かいなさい

MARTINOマルティーノ
Ma dove mai?それで いったい どこへ?

PARMENIONEパルメニオーネ
Corri a cercarlo.彼を 捜しに 急いで向かいなさい、

MARTINOマルティーノ
Nel suo galoppo, al buio ove trovarlo?彼の ギャロップで【≒ 彼は 疾走する 馬に 乗っているのに】、暗闇で どこに 彼を 見付けると?

PARMENIONEパルメニオーネ
Ma intanto?しかし 今のところは?

MARTINOマルティーノ
Intanto approfittar bisogna今のところは 利用する べきだ
del favor della sorte.運命の恩恵を。

PARMENIONEパルメニオーネ
E vuoi?...それで 君は 何を 望んでいるのか?…

MARTINOマルティーノ
Lasciateさせておきなさい
ch'io sia l'indagator di tal scoperta.私が そのような発掘の 捜査官に なる ことを【≒ 私に 中を 調べ させなさい】

PARMENIONEパルメニオーネ
Cosa fai?君は 何を するのか?

MARTINOマルティーノ
Cosa faccio?私が 何を するかって?
Eccola aperta.そら それは 開けられた
(spezza il lucchetto, strappa la catena, ed apre la valigia)(南京錠を 砕く、鎖を はぎ取る、そして 鞄を 開ける)

PARMENIONEパルメニオーネ
Oh che ribaldo!あ なんという 悪党だ!

MARTINOマルティーノ
Zitto: ecco una borsa.黙って: ほら 財布が。

PARMENIONEパルメニオーネ
Lascia star...あるが ままにしなさい【≒ 触らないで おきなさい ≒ そのままに しなさい】

MARTINOマルティーノ
Quante gioie! Oh! oh! un ritratto.なんという 喜び! ああ! ああ! 肖像画だ。

PARMENIONEパルメニオーネ
Mostralo.それを 見せなさい。

MARTINOマルティーノ
Che vi par?あなたには どう 思われるか?

PARMENIONEパルメニオーネ
Che bella cosa!なんと 美しい ことだ【≒ なんという 美女だ】

MARTINOマルティーノ
Che diavolo sarà?いったい 何だろう?

PARMENIONEパルメニオーネ
Quest'è la sposa.これは 花嫁だ。

MARTINOマルティーノ
Buono! Qui c'è un grand'abito da gala.いいぞ! ここに 立派な 盛装が ある。

PARMENIONEパルメニオーネ
Oh che vaga, e gentil fisonomia!ああ なんて 優雅な、そして 愛らしい 顔つきだ!

MARTINOマルティーノ
Che fina biancheria!なんて 上質な 肌着だ!

PARMENIONEパルメニオーネ
M'incanta.それは【= 顔つきは】 私を 魅了する。

MARTINOマルティーノ
Un passaporto...旅券が…

PARMENIONEパルメニオーネ
Un passaporto!旅券だって!
(lo prende)(それを 手に取る)

MARTINOマルティーノ
Certo: e molte cambiali. Io ve l'ho detto,確実に: そして たくさんの 手形が。私は あなたに そのこと【= 次行のche節】を 言った、
che non vi pentirete.後悔しない と。

PARMENIONEパルメニオーネ
Oh che bel colpo!ああ なんと 素晴らしい 不意の出来事だ【≒ なんという 願ってもない話だ】
Più resister non posso.私は もう 我慢することが できない。

MARTINOマルティーノ
Ebben?それでは?

PARMENIONEパルメニオーネ
Si faccia.やろう。

MARTINOマルティーノ
Come!なんと!

PARMENIONEパルメニオーネ
Riponi presto entro ogni cosa.あらゆる ものを 急いで 中に 戻しなさい。

MARTINOマルティーノ
E volete?..それでは あなたは 望んでいるのか?…

PARMENIONEパルメニオーネ
Per me voglio la sposa.私は 私に 妻を 望んでいる。
Me ne dispiace; から chi solo, come me, viaggia a cavallo. まで省略可記号 Vi--deあり。

E noi qui che facciam? から Sarà bene così. まで省略可記号 Vi--deあり。


un passaggier cortese!
passaggiere = passeggero = passeggiero 旅人

A che c'entri tu?
entrarci 関係がある。

A meraviglia.
この a meraviglia は meraviglioso と同義 素晴らしい。パルメニオーネの si vada 行こう を受けて、それについて それはいい という意味で返している。

Che diavolo sarà?
この diavolo 悪魔 は疑問の強調 いったい。

Riponi presto entro ogni cosa.
この entro は副詞 中に。

N. 2
Aria Parmenione

Parmenione
Allegro agitato
2/4
G major
PARMENIONEパルメニオーネ
Che sorte, che accidente,なんという運命だ、なんという 偶発事件だ、
che sbaglio fortunato!なんという 幸運な 間違いだ!
Amor mi vuol beato,愛の神は 私が 最高に幸せになることを 望んでいる、
ed io ringrazio amor.そして 私は 愛の神に 感謝する。
Martino, allegramente!マルティーノよ、陽気に!
andiamo a farci onor.名を上げに 行こう【≒ 栄光を 掴みに 行こう】

MARTINOマルティーノ
Ma come?..しかし どうやって?…

PARMENIONEパルメニオーネ
Che scioccone!なんて 大馬鹿だ!
Non sai capir?君は まだ 理解することが できないのか?

MARTINOマルティーノ
Che cosa?何を?

PARMENIONEパルメニオーネ
Osserva che boccone,注意深く見なさい 美味なものが【≒ 美女が】
che pasta deliziosa美味しい パスタが【≒ 美女が】
consolerà il mio cor.私の心を 喜ばせるだろう 【↑↑,↑】ことを。

MARTINOマルティーノ
Piuttosto d'un bastoneむしろ 棒の
vi toccherà il favor.恩恵が あなたに ふりかかるだろう。

PARMENIONEパルメニオーネ
Che bestia, che buffone,なんという 愚か者だ、なんという おどけ者だ【≒ なんという 間抜けだ】
che ignobile timor!なんという 卑しい 不安だ【≒ なんという 馬鹿げた 不安だ】
急 / 緩 / 急 の三部構成のアリア。
急。

andiamo a farci onor.
farsi onore 名声を博する,名をあげる。この場合の onore は 肖像画の美女と結婚する 栄光 を意味する。

vi toccherà il favor.
この toccare は 自動詞 (身に)ふりかかる。

Moderato
4/4
C major
D'arrogarmi un nome finto偽の 名前を 僭称する という
veramente il passo è ardito,決断は 本当に 大胆だ、
e può mettermi in procintoそして それは 私を 持っていく かもしれない まさに
di mangiare il pan pentito;後悔の パンを 食べ 【↑】ようと しに 【≒ その決断によって 私は 今まさに 後悔しようと 向かっている のかもしれない】
ma se l'oro all'altro io rendo,しかし もし 私が もう一人の男に【= アルベルトに】 金銭を 返すならば、
se rinunzio [a] ogn'altro effetto,もし 私が あらゆる 他の 実行を 断念する ならば、
l'interesse non offendo,私は 【アルベルトの】利益を 損なわない【し】
non pregiudico l'onor.私は 【自分の】名誉を 傷つけない。
Ma poi questo bel visettoしかし とはいえ この 美しい 可憐な顔が
fa scusabile ogni error.あらゆる 誤りを 許さ せる。
緩。

veramente il passo è ardito,
passo 第一歩 ⇒ 決意,決断。

e può mettermi in procinto
in procinto di 不定詞 = sul punto di 不定詞 まさに―しようとしている,―するところだ。

di mangiare il pan pentito;
mangiare il pan pentito にはいくつかの意味があるが、この場合は 後悔する。


4/4
C major
MARTINOマルティーノ
Ebben, Don Parmenione?..それで、ドン・パルメニオーネよ?…

PARMENIONEパルメニオーネ
Chiamami: Conte Alberto.私を 呼びなさい: アルベルト伯爵 と。

MARTINOマルティーノ
Alberto... voi...アルベルト… あなたが…

PARMENIONEパルメニオーネ
Sì, certo.そうだ、もちろん。
6小節。すべて a piacere。

Allegro
4/4
G major
È questo il passaporto,これが 旅券だ、
che mi conduce in porto;それは 私を 目的地へと 導く;
è questo il gran ricapito,これは 素晴らしい 証明書だ、
che sottoscrive amor.それは 愛を 署名している【≒ それは 愛を 約束している】

MARTINOマルティーノ
Ma per pietà...しかし 後生だから…

PARMENIONEパルメニオーネ
Eh, finiscila;えい、やめろ;
non odo più consigli,私は もう 忠告を 聞かない。
non curo più perigli;私は もう 危険に 気を配らない;
Amore bricconcello,いたずら坊主の 愛の神が、
m'ha colto nel cervello;私の 頭に 【矢を】 射った;
e questa cara immagineそして この いとしい 像が
mi pizzica, mi stuzzica,私を つねり、私を つつき、
in petto mi fa crescereそれは 胸の 中で 大きくさせる 私の
dall'allegrezza il cor.心を 喜びの感情で【≒ 私の心は 喜びで 胸の中で 大きく膨らんでいる】
Martino, allegramente!マルティーノよ、
Andiamo a farci onor.名を上げに 行こう【≒ 栄光を 掴みに 行こう】

(Martino ripone tutti gli effetti nella valigia, e portandola seco, segue il padrone, che pieno d'entusiasmo lo ha preceduto)(マルティーノは すべての 身の回り品を 鞄の中に 戻す、そして それを 彼と共に 持って行く、主人の 後を追う、その者は 熱狂に満ちて 彼に 先行した)
急。

è questo il gran ricapito,
この ricapito は 証明書。Dizionario di italianismi in francese, inglese, tedesco (DIFIT)には ricapito について Documento di attestazione, in partic. di un credito. 証明の書類、とりわけ信用の。とある。またロザルバ・カネッタ Rosalba Canetta 編、チェーザレ・ベッカーリア Cesare Beccaria の 政府の行為 ATTI DI GOVERNO 巻末の用語説明でも qualsiasi tipo di documento, di attestazione, di autorizzazione, di appoggio, di referenza どのような種類の証明書でも とある。ここではおそらく花婿の 身上書 のようなものではないかと思われる。

[Recitativo] Dopo l'Aria Parmenione



4/4
(C major)
SCENA Ⅳ第4場
(Grand'atrio terreno in casa della Marchesa elegantemente addobbato, con ampio verone di prospetto, che mette nel giardino, e con varie porte laterali che introducono ai rispettivi loro appartamenti)(優美に 飾り付けられた 侯爵夫人の家の 地面と同じ高さの 大きな 中庭、正面に 広い 露台のある、それは 庭に 通じる、そして 様々な 側面の 扉のある それらは それぞれの 彼らの 居室に 導く)

D. Eusebio, Ernestina, Serviドン・エウゼービオ、エルネスティーナ、使用人たち

EUSEBIOエウゼービオ
Non lo permetto.私は そのようなことを 認めない。

ERNESTINAエルネスティーナ
Il mio dover...私の 義務が…

EUSEBIOエウゼービオ
Scusate:失礼:
dell'urbano trattar so la maniera.私は 都会風の もてなしの 作法を 知っている。

ERNESTINAエルネスティーナ
Ma in questa casa io son per cameriera.しかし 私は 家政婦 として この家に いる。

EUSEBIOエウゼービオ
Il caso vostro esigeあなたの 状況は 必要としている
rispetto, e compassione, e mia nipote尊重を、そして 同情を、そして 私の 姪は
sua compagna vi chiama.あなたを 仲間と 呼んでいる。

ERNESTINAエルネスティーナ
So, che molta bontà per me conserva...私は 分かっている、彼女が 多大な 善意を 私に 持っている ことを…

EUSEBIOエウゼービオ
È ver, si trattaそれは 本当だ、
d'un sposalizio in grande;大がかりな 結婚式が 【↑】大切だ【≒ たしかに 盛大な 結婚式は 重要だ】
e lo sposo da noi splendidamenteそして 花婿は 私たちのところに 輝かしく
oggi s'accoglierà.今日 迎えられるだろう。

ERNESTINAエルネスティーナ
Dunque?それで?

EUSEBIOエウゼービオ
Per questoそれの ために
in uffizi servili il vostro grado屈従的な 役目に あなたの身分を
non dovete abbassar, che se vi piaceあなたは 低くする 必要はない【≒ 結婚式だからといって あなたが 家政婦の役目をするほどに あなたの立場を 下げる 必要はない】、もし あなたに 気に入るならば
manifestar per noi qualche premura,私たちに なんらかの 配慮を 表明することが【≒ もし あなたが 私たちに 何らかの 気遣いを したいのであれば 】
agl'altri il comandar sia vostra cura.他の人たちに 命じることが あなたの 心遣いに なるだろう。

ERNESTINAエルネスティーナ
Ebben, permetterete?..それでは、あなたは 【そのように】 認めるであろうか?…

EUSEBIOエウゼービオ
Anzi: a voi, prestoそれどころか【≒ もちろん】: 急いで
attenti i cenni suoi tutti ascoltate,彼女の 指示を 注意深く すべて 聞きなさい、
e quanto essa dirà, fate, e disfate.そして 彼女が 言うだろう ところのことを、しなさい、そして 取り消しなさい。
(via)(去る)

ERNESTINAエルネスティーナ
Eppur del mio destinoそれでもなお 私の運命を
non mi posso lagnar, se in mezzo a tante私は嘆くことが できない、【私が】 これほどたくさんの
mie sciagure infinite...私の 果てしない 不幸の 【↑】只中に 【ある】 【↑】以上は。
Basta, non ci pensiam: voi mi seguite.もういい、それについて 考えないようにしよう: 君たちは 私に ついて来なさい。
(partono coi Servi)(去る 使用人たちと共に)
Ebben, permetterete?.. から最後まで 省略可記号 Vi--de あり。


Non lo permetto.
lo そのようなこと は、エルネスティーナが家政婦として働くことを指す。

Scusate:
ドン・エウゼービオはエルネスティーナに2人称単数形敬称を用い、さらにこの後彼女を voi あなた で呼ぶ。フィナーレでエウゼービオはエルネスティーナが伯爵エルネストの妹だと知って驚いており、つまり彼は彼女の素性を知らなかったようだが、しかし彼女がどこかの高貴な家柄の女性であることは察していたのだろう。

dell'urbano trattar so la maniera.
trattar は本来動詞だが、ここでは動詞の名詞化したもの もてなし と理解した。

Il caso vostro esige
フィナーレの前のレチタティーヴォで、エルネスティーナは悪い男に誘惑されて彼と駆け落ちしたものの、彼女が彼を拒んだためにこの地に棄てられ取り残されたことが分かる。ドン・エウゼービオはそんな彼女を哀れんで家に呼び寄せ、しかし彼女を家政婦とし扱いたくはない、ということ。。

attenti i cenni suoi tutti ascoltate,
これは他の使用人たちに対する指示。

N. 3
Cavatina Berenice

Berenice
Andantino grazioso
3/4
A major
SCENA Ⅴ第5場
(Berenice, indi Ernestina, e detta)(ベレニーチェ、その後 エルネスティーナ、そして 前の場の人たち)

BERENICEベレニーチェ
Vicino è il momento,瞬間は 近い、
che sposa sarò,私が 花嫁に なるであろう【瞬間は】
eppure contentoにもかかわらず 喜びを
il core non ho.心は 抱いて いない。
Il solito ardireいつもの 向こう見ずなことを
non trovo più in me,私は もはや 私の中に 見出せない【≒ 私は いつもの 勇気を 自分に 感じられない】
mi sento languire,私は 私が 悶々としているのを 感じている【≒ 私は 自分が 気落ちしているのを 感じている】
né intendo perché.それでも なぜなのかは 分からない。
このカヴァティーナは調性もテンポも変わることがないが、フェルマータで区切られて中間部ができており、緩 / 急 / 緩 の三部構成になっている。
緩。

(Andantino grazioso)
3/4
A major
Ma dal timore oppressaけれども 圧迫された 不安によって
la mia ragion non resti:私の 判断力が 【気落ちした】 ままでいないように:
arbitra di se stessaそれ自身の 決定を下すものへと
l'anima mia si desti;私の 魂が 目を覚ますように;
e ceda solo ai palpitiそして それが【= 私の 魂が】 屈するように ただ
d'un corrisposto amor.報いられた 愛の 【↑】ときめきに 【↑】だけ。
急。

(Andantino grazioso)
3/4
A major
Vicino è il momento,瞬間は 近い、
che sposa sarò,私が 花嫁に なるであろう【瞬間は】
eppure contentoにもかかわらず 喜びを
il core non ho.心は 抱いて いない。
Il solito ardireいつもの 向こう見ずなことを
non trovo più in me,私は もはや 私の中に 見出せない【≒ 私は いつもの 勇気を 自分に 感じられない】
mi sento languire,私は 私が 悶々としているのを 感じている【≒ 私は 自分が 気落ちしているのを 感じている】
né intendo perché.それでも なぜなのかは 分からない。
緩。

[Recitativo] Dopo la Cavatina Berenice


4/4
(C major)
Sposarsi ad un, che non s'è mai veduto,ある人と 結婚することは、その者は 一度も 見られておらず、
senza saper se brutto o bello sia,彼が 醜いのか それとも 美しいのか 知らぬまま【≒ 一度も会ったことのない、醜いのか美しいのかも分からない人と 結婚するのは】
mi sembra una pazzia;私には 狂気の沙汰に 思われる;
ma un certo non so che se in lui non trovo,けれども 私は 確かなことを 知らない 私が 彼に 見出さない かどうか、
che col mio modo di pensare combina...彼が 私の 考え方と 合う ことを【≒ 彼が 私の 考え方と 合うのか 私には 分からない】
Oh, te appunto io volea, cara Ernestina!ああ、私は まさに 君を 望んでいた、親愛なる エルネスティーナよ!

ERNESTINAエルネスティーナ
Comandate.命じなさい【≒ ご用命を】

BERENICEベレニーチェ
Io per te non ho comandi.私は 君に対する 命令を 持っていない。

ERNESTINAエルネスティーナ
Ma almen...しかし せめて…

BERENICEベレニーチェ
Già sai, che al figlio d'un suo amico既に 君は 知っている【≒ 君も 知っての通り】、彼の【= 私の 父の】友人の 息子に
il mio buon genitor pria di morire私の 心優しい 父親は 死ぬ前に
destinò la mia man.私の【右】手を 運命付けた【≒ 私の 心優しい 父親は 死ぬ前に 彼の友人の息子を 私の結婚相手を 決めていた】

ERNESTINAエルネスティーナ
Lo intesi a dire.私は 【あなたが】 そのことを 言うのを 聞いた。

BERENICEベレニーチェ
E sai, che dopo i viaggi suoi lontaniそして 君は 知っているか、彼の 遥かな 旅の 後で
questo sposo a me ignoto私には 未知の この花婿が
oggi qui giungerà?今日 ここに 到着するであろうことを?

ERNESTINAエルネスティーナ
Ciò pur m'è noto.そのことも 私に 知られている。

BERENICEベレニーチェ
Nell'incertezza, ch'ei mi piaccia, e ch'io不確かさの 中で、彼が 私に 気に入られるかどうか、あるいは 私が
a lui possa piacer, mia dolce amica,彼に 気に入られることが できるか どうか、私の 優しい 友よ、
ho bisogno di te.私は 君が 必要だ。

ERNESTINAエルネスティーナ
Parlate.話しなさい。

BERENICEベレニーチェ
Io voglio私は
cambiar teco di nome.君と 名前を 交換し 【↑】たい。

ERNESTINAエルネスティーナ
In qual maniera?どのような やり方 で?

BERENICEベレニーチェ
Diventando tu sposa, io cameriera.君が 花嫁に なって、私が 家政婦に。

ERNESTINAエルネスティーナ
Che dirà vostro zio?あなたの 叔父は なんと 言うだろう?

BERENICEベレニーチェ
Con noi d'accordo私たちに 賛成して
seconderà il progetto.彼は 計画を 手助けするだろう。

ERNESTINAエルネスティーナ
E qual motivoそれで どのような 動機が
v'induce?あなたに 仕向けているのか?

BERENICEベレニーチェ
E che? non lo conosci ancora?なんだって? 君は まだ それを 理解していないのか?
Di noi due vo' scoprir chi l'innamora.私たち 二人のうち 誰が 彼を 惚れさせるのか 見出し たい。

ERNESTINAエルネスティーナ
Pensate...考えなさい…

BERENICEベレニーチェ
Ho già pensato.私は もう 考えた。

ERNESTINAエルネスティーナ
Un tal pretesto...そのような 動機は…

BERENICEベレニーチェ
Tu pensa a compiacermi, io penso al resto.君は 私を 満足させるように 考えなさい、私は 残りを 考える。

[partono][【二人とも】 去る]


SCENA Ⅵ第5場

(d. Parmenione in abito da gala, e Martino)(ドン・パルメニオーネ 盛装して、そして マルティーノ)

PARMENIONEパルメニオーネ
Eccomi al gran cimento.さあ 私は 大きな 試練に。

MARTINOマルティーノ
Aiuto!助けて!

PARMENIONEパルメニオーネ
Cosa fai?君は 何を しているのか?

MARTINOマルティーノ
Tremo all'aspetto私は 震えている
della tempesta, che per noi s'imbruna.嵐の 【↑】様子に それは 私たちに 向かって 暗くなる。

PARMENIONEパルメニオーネ
Eh! bisogna arrischiar, per far fortuna.えー! 危険を冒す 必要がある、成功 する には。

MARTINOマルティーノ
Ma se...しかし もし…

PARMENIONEパルメニオーネ
Taci, ubbidisci, e fà ch'ognuno黙りなさい、言うことを聞きなさい、そして 一人一人が
sia dell'arrivo mio tosto informato.私の到着を すぐに 知らせる 【↑】ように しなさい。

MARTINOマルティーノ
(Già non guarisce più chi pazzo è nato.)(変人に 生まれた 者は もはや 二度と 治ることはない。 )
(via)(去る)

PARMENIONEパルメニオーネ
L'unico dubbio mio sta nel sapere,私の 唯一の 不明な点は 知ることに ある、
se sono il preceduto, o il precedente;私が 先行された者 なのか、あるいは 先行している者なのか【≒ 私が アルベルトより先に 着いたのか 後なのか 分からないことが 私が 唯一 分からないことだ】
ma d'ogni inconvenienteしかし あらゆる 不都合から
mi trarran questi fogli: e giacché a tuttoこれらの書類が 私を 救い出すだろう: そして すべてを
son pronto a rinunziar, fuorché alla sposa,私が 放棄する 用意がある 【↑】ので、花嫁に対して を除いて【≒ 花嫁の他の人たちには】
non sarà il fallo mio poi sì gran cosa.私の 罪は 結局 それほど 大きな ことには ならないだろう。
Chi mai s'avanza? È dessa... oh che portento!..いったい 誰が 近付いて来るのか? 彼女だ… ああ なんという 奇跡だ!…
Fatti onor Parmenione, il primo omaggio名を 上げなさい パルメニオーネよ、最初の 敬意を
si vada a tributarle.彼女に 捧げに 行こう。


SCENA Ⅶ第6場
(Ernestina, e Parmenione)(エルネスティーナ、そして パルメニオーネ)

ERNESTINAエルネスティーナ
(Alma coraggio!)(勇気を出そう!)
Con noi d'accordo
自筆総譜ではこのベレニーチェの台詞は
Nol sarà.
彼は そのことを 分からないだろう。
となっている(レチタティーヴォなのでロッシーニではなく協力者の書いたものである)。つまりエウゼービオは二人の入れ替わりに気付かないだろう と言っている。これはその後の展開を見ればあり得ないことである。一方初演時の出版台本ではエウゼービオは 同意するだろう とあり、自筆総譜でもそのように添え書きされている。

della tempesta, che per noi s'imbruna.
imbrunarsi = oscunarsi 暗くなる。

N. 4
Quintetto





Andantino grazioso
4/4
C major
PARMENIONEパルメニオーネ
Quel gentil, quel vago oggetto,この 愛想の良い、この 優雅な 対象は、
che a voi sposo il ciel destina,天が あなたに 花婿の 運命を定めている ところの、
tutto foco s'avvicinaすっかり 燃え上って 近付いている
alla cara sua metà.いとしい 彼の つれあいに【≒ 天が あなたの 花婿に なるべく定めた この 粋で 気立ての良い 男は すっかり 燃え上って いとしい 彼の 婚約者に 近付いている】

ERNESTINAエルネスティーナ
Io m'inchino con rispetto私は 敬意をもって お辞儀をする
alla vostra gran bontà,あなたの 大きな 善意に、
con rispetto alla vostra civiltà.あなたの 礼儀正しさに 敬意を もって。

PARMENIONEパルメニオーネ
(L'ho colpita a prima vista, sì.)(私は 一目で 彼女に 印象付けた、そうだ。)

ERNESTINAエルネスティーナ
(È bizzarro, ma grazioso, sì.)(彼は 風変わりだ、しかし 愛想が良い、そうだ。)

PARMENIONEパルメニオーネ
(non s'accorda col ritratto, no.)(彼女は 肖像画と 一致しない、そうだ。)

ERNESTINAエルネスティーナ
(S'egli fosse almen mio sposo.)(せめて 彼が 私の 花婿 ならば。)
(Ma non parla?.. Cosa fa?..)(それにしても 彼は 話さないのか?… 彼は 何を しているのか?…)

PARMENIONEパルメニオーネ
(Eh non serve! il colpo è fatto.)(えー! 【そんなことは】 役に立たない【≒ どうでもいいことだ】! 一撃は なされた【≒ ことは 進み始めた】
Marchesina!侯爵夫人よ!

ERNESTINAエルネスティーナ
Mio Contino!私の 伯爵よ!

PARMENIONEパルメニオーネ
Io son qui.私は ここに いる。

ERNESTINAエルネスティーナ
Qui sono anch'io.私も ここに いる。
(Eh non serve! il colpo è fatto.)
多くの上演ではここでパルメニオーネも (Ma non parla?.. Cosa fa?..) と歌っている。自筆総譜や初演時の出版台本ではここは二人ともこの歌詞だったが、ロッシーニがその前の部分を書き改めた時にパルメニオーネの歌詞が変わった。⇒ 作曲 にもかかわらず上演で二人に同じ歌詞を歌わせることが多いのは、その方が音楽的に絡みやすいからだろう。

Allegro vivace
4/4
C major
PARMENIONEパルメニオーネ
Posso?..よろしければ?…

ERNESTINAエルネスティーナ
Presto andiamo da mio zio,急いで 私の 叔父のところに 行こう、
che al vedervi esulterà.その者は あなたに 会って 歓喜するだろう。

PARMENIONEパルメニオーネ
Con voi sono, a voi m'arrendo私は あなたと いっしょだ、私は あなたに 屈する
lucidissima mia stella!この上なく 光る 私の 星よ!
qual s'arrende pulcinellaプルチネッラが 屈する ように
a chi muovere lo fa.彼を 動か させる 人に。
(via)(去る)

ERNESTINAエルネスティーナ
(Più lo guardo, più m'accendo(私が 彼を 見詰める ほどに、ますます 私は 燃え上る
a quel garbo, a tanto brio.)あの 粋なふうに、たくさんの 快活に。)
Presto andiamo da mio zio,急いで 私の 叔父のところに 行こう、
che al vedervi esulterà.その者は あなたに 会って 歓喜するだろう。
(via)(去る)
qual s'arrende pulcinella
pulcinella プルチネッラ は、イタリアの伝統的喜劇 コンメディア・デッラルテに登場する道化役のこと。ただしこの場合は、次行の muovere lo fa 彼を 動か させる からすると、コンメディア・デッラルテそのものではなく、その流儀の操り人形を指すのかもしれない。

Andantino
6/8
G major
SCENA Ⅷ第8場
(Alberto, e Berenice da parti opposte incontrandosi)(アルベルト、ベレニーチェ 向かい合っている側から 出会って)

ALBERTOアルベルト
Se non m'inganna il coreもし 【↓】鼓動をもった 心が 私を 欺いていない ならば、
coi palpiti, ch'io provo,それを 私が 感じている、
quella beltà in voi trovo,私は あなたに あの美女を あなたに 見出している
che sposa mia sarà.その者は 私の 花嫁に なるだろう【≒ 私の 感じている ときめく 心が 私を 騙しているので なけ れば、私は あなたに 私の 花嫁になるであろう 美女を 見出している】

BERENICEベレニーチェ
Degna d'un tanto onoreそれほどたくさんの 名誉に
no, mio signor, non sono;いいや、私の 貴君よ、私は 【↑】値しない:
altra l'illustre dono他の 令名高い 恵みが
di vostra man godrà.あなたの 手を 享受するだろう。

ALBERTOアルベルト
Come?..どういうことだ?…

BERENICEベレニーチェ
Vi ho detto il vero.私は あなたに 真実を 言った。

ALBERTOアルベルト
Dunque?..それでは?…

BERENICEベレニーチェ
In error voi siete.あなたは 間違っている。

ALBERTOアルベルト
Ma voi?..では あなたは?…

BERENICEベレニーチェ
Non conto un zero.私は 【自分を】 無価値な者と みなしている【≒ 私は 役に立たない者だ】

ALBERTOアルベルト
La sposa mia?..私の 花嫁 では?…

BERENICEベレニーチェ
Vedrete.あなたは 【彼女に】 会うだろう。

ALBERTOアルベルト
Mi sembra un impossibile.私には 不可能に 思われる。

BERENICEベレニーチェ
Vero vi sembrerà.あなたには 真実に 思われるだろう。

ALBERTOアルベルト
Oh sventurato errore,ああ 不幸な 間違いだ、
oh perdita affannosa!ああ つらい 喪失だ!
Perché non è mia sposaどうして 私の 花嫁では ないのか
questa gentil beltà?この 愛らしい 美女が。

BERENICEベレニーチェ
Oh generoso amore,ああ 寛大な 愛の神よ、
oh mio destin beato!ああ 私の 最高に幸せな 運命よ!
sposo di lui più grato彼よりも さらに 感じのいい 花婿を
l'alma bramar non sa.魂は 熱望することが できない。
Non conto un zero.
この zero ゼロ は つまらぬ人,無価値な人 の意味。この non は zero と関わる冗語。インターネット上で閲覧できる19世紀の伊独辞典によると non conto un zero は eine Null sein 役立たずである とのこと。

Allegro
3/4
C major
SCENA Ⅸ第9場

(D. Eusebio, e detti, indi D. Parmenione con Ernestina)(ドン・エウゼービオ、そして 前の場の人たち、それから ドン・パルメニオーネ エルネスティーナと共に)

EUSEBIOエウゼービオ
Dov'è questo sposo?その 花婿は どこに いるのか?

BERENICEベレニーチェ
È qui per l'appunto.彼は まさいく ここに いる。

EUSEBIOエウゼービオ
Oh siete alfin giunto!ああ あなたが ついに 着いたのだ!

ALBERTOアルベルト
Vi son servitor.私は あなたの 僕 しもべだ。

PARMENIONEパルメニオーネ
Dov'è questo zio?その 叔父は どこに いるのか?

ERNESTINAエルネスティーナ
È lì, nol vedete?彼は あそこだ、あなたは 彼を 見ないのか?

PARMENIONEパルメニオーネ
Oh alfin permettete...ああ とうとう 許しなさい【≒ ああ やっとのことで 失礼を】

EUSEBIOエウゼービオ
Chi siete, signor?あなたは 誰だ、貴君よ?

PARMENIONEパルメニオーネ
Io son Don Alberto,私は ドン・アルベルトだ、
or vostro parente.今や あなたの 親族だ。

BERENICEベレニーチェ
Voi proprio?あなたが 本当に?

PARMENIONEパルメニオーネ
Sì certo.そうだ もちろん。

ALBERTOアルベルト
Ed io?..では 私は?…

PARMENIONEパルメニオーネ
Non so niente.私は 何も 知らない。

ALBERTOアルベルト
Ed io?..では 私は?…

PARMENIONEパルメニオーネ
Non so niente,私は 何も 知らない、
io sono il sposo.私が 花婿だ。
Vi son servitor.
謙った挨拶。相当する日本語はないと思われるので、そのまま訳す。

Andante
4/4
E-flat major
BERENICE, ERNESTINA ED EUSEBIOベレニーチェ、エルネスティーナ と エウゼービオ
Che strana sopresa,なんという 奇妙な 驚くほどのできごとだ、
che caso inaudito!なんという 前代未聞の 事件だ!
chi è il vero marito,誰が 本当の 夫なのか、
chi è mai l'impostor?誰が いったい 詐欺師なのか?

ALBERTO E PARMENIONEアルベルト と パルメニオーネ
Ravviso il rivale,私は 恋敵を 認知している、
conosco l'imbroglio;私は いかさまを 見極めている;
ma ardito esser voglio,しかし 私は 勇敢で あり たい、
qui è vano il timor.ここでは 恐れは 無駄だ。
Primo Tempo [Allegro]
3/4
C major
EUSEBIOエウゼービオ
Orsù, spiegatevi.さあ、説明しなさい。

ALBERTO E PARMENIONEアルベルト と パルメニオーネ
Cosa ho io da dire?何を 私は 言わなくてはならないのか?

BERENICEベレニーチェ
Legittimatevi.自らを 正当と認めなさい【≒ 自身の 証明を しなさい】

ERNESTINAエルネスティーナ
Fate sentire...【私たちに】 聞か せなさい…

ALBERTOアルベルト
Io son lo sposo.私が 花婿だ。

PARMENIONEパルメニオーネ
Quello son io.私が それだ【≒ 私が 花婿だ】

EUSEBIOエウゼービオ
Le prove io voglio,私は 証拠が 欲しい、
perché son zio.なぜなら 私は 叔父だ からだ。

PARMENIONEパルメニオーネ
Le prove? Subito: eccole qua.証拠だって? すぐに: ほら ここに。

ALBERTOアルベルト
Le prove? Come... Oh barbara fatalità!証拠だって? なんだって… ああ 残酷な 運命だ!

EUSEBIOエウゼービオ
Tutto va in regola.すべては 規定通りに なっている。

PARMENIONEパルメニオーネ
Mi son spiegato.私は 【自分について】 説明した。

BERENICE ED ERNESTINAベレニーチェ と エルネスティーナ
Voi state mutolo.あなたは 口が利けないでいる。

ALBERTOアルベルト
Sono ingannato.私は 騙された。

PARMENIONEパルメニオーネ
Non gli credete, non gli badate;【の言うこと】を 信じるでない、彼を 気に掛けるでない;
son tutte frottole mal inventate.すべては 拙く でっち上げられた 嘘だ。
Ch'io sono il sposo provato è già.私が 花婿で ある ことは 既に 証明された。

EUSEBIOエウゼービオ
Dunque lasciateci in libertà.それでは 私たちを 自由に させなさい【≒ 私たちを 解放させなさい】

ALBERTOアルベルト
Voi siete un asino, siete un briccone,あなたは 愚か者だ、あなたは 小悪党だ、
rendere pubblica la mia ragione,私の 言い分を 公然に させることで、
ch'io son lo sposo si proverà.私が 花婿で あることが 証明されるだろう。

EUSEBIOエウゼービオ
Dunque lasciateci in libertà.それでは 私たちを 自由に させなさい【≒ 私たちを 解放させなさい】

ALBERTOアルベルト
Quest'è un ingiuria.これは 侮辱だ。

PARMENIONEパルメニオーネ
Meglio parlate.【あなたは】 話す 方がいい。

EUSEBIOエウゼービオ
Questa è una cabala.これは 陰謀だ。

PARMENIONEパルメニオーネ
Non v'alterate.かっとなる でない。

EUSEBIOエウゼービオ
Posso...私は できる…

PARMENIONEパルメニオーネ
Tacete.黙りなさい。

ALBERTOアルベルト
Voglio...私は したい…

PARMENIONEパルメニオーネ
Finite.止めなさい。

EUSEBIOエウゼービオ
Sono...私は…

PARMENIONEパルメニオーネ
Cedete.諦めなさい。

ALBERTOアルベルト
Sento...私は 感じている…

PARMENIONEパルメニオーネ
Partite.去りなさい。

BERENICE ED ERNESTINAベレニーチェ と エルネスティーナ
Ma via calmatevi, per carità.さあ 落ち着きなさい、後生だから。
Allegro spiritoso
4/4
C major
BERENICE, ERNESTINA, ALBERTO, EUSEBIO E PARMENIONEベレニーチェ、エルネスティーナ、アルベルト、エウゼービオ と パルメニオーネ
Di tanto equivoco, di tal disordine,多くの 誤解の、これほどの 混乱の
nel cupo, orribile, confuso vortice,暗黒の、恐ろしい、混乱した 旋風きの 中で、
urta, precipita, s'avvolge, rotola,衝突し、墜落し、絡み付き、転がる、
perduto il cerebro per aria va:途方に暮れて 頭脳は 空を 行く【≒ 多くの 誤解と これほどまでの 混乱の 旋風は 真っ黒で、恐ろしく、混乱している その旋風の 中で 頭は ぶつかり、落下し、絡み付き、転がり、途方に暮れて 空を 飛んで行く】
ma si dissimuli, che senza strepitoしかし 知らぬふりをしよう、大騒ぎ なしに
già tutto in seguito si scoprirà.すぐに すべてが 後に 暴かれるだろう 【↑】から。

[partono][【全員】 去る]
già tutto in seguito si scoprirà.
単純未来形の文で用いられる gia は fin d'ora 今から,すぐに と同義。

[Recitativo] Dopo il Quintetto
4/4
(C major)
SCENA Ⅹ第10場
(Martino, poi D Eusebio)(マルティーノ、その後に ドン・エウゼービオ)

MARTINOマルティーノ
Non so più cosa far. Cauto m'impone私は もう 何を するのか わからない。用心深く 私に 命じている
il timor del bastone棒の 恐れは
d'evitar chi si sia: vuol l'appetito,誰であれ 避けることを【≒ ひどい目に 遭わないように 私は 用心深く 誰とも 会わないように している】: 食欲が 欲している、
che ad incontrar qualche pagnotta io vada;私が なんらかの パンに 出くわしに 行く ことを;
onde [trovando], o non trovando alcuno,だから 【誰かと】 [遭遇するならば] あるいは 何一つ 見つけないならば、
bastonato morir devo, o digiuno.私は きっと 死ぬに 違いない 棒で叩かれて 、あるいは 絶食して【≒ そんなわけで 私が 誰かと 出くわすならば 棒で叩かれて 死ぬに違いない、あるいは 何も 見つけられなければ 空腹で 死ぬに違いない】

EUSEBIOエウゼービオ
Voi chi siete?あなたは 誰だ?

MARTINOマルティーノ
(Ecco il caso.)(そら 【危惧した 通りの】 状況だ【≒ そら 来た】。)

EUSEBIOエウゼービオ
Ebben?それで?

MARTINOマルティーノ
Signore!貴君よ!
io sono il servitore...私は 召使いだ…

EUSEBIOエウゼービオ
Del forestiero?他所から来た男の?

MARTINOマルティーノ
Appunto.そのとおりだ。

EUSEBIOエウゼービオ
E qui che fate?それで ここで あなたは 何を しているのか?

MARTINOマルティーノ
Io? Niente.私が? 何も。

EUSEBIOエウゼービオ
Dunque andate.それでは 行きなさい。

MARTINOマルティーノ
Vorrei...私は したいのだが…

EUSEBIOエウゼービオ
Non serve il replicar.言い返すことは 役に立たない。

MARTINOマルティーノ
Ma almeno...しかし せめて…

EUSEBIOエウゼービオ
Andate dico.行きなさい と 私は 言っている。

MARTINOマルティーノ
E dove?それで どこに?

EUSEBIOエウゼービオ
Oh che insensato!ああ なんという 馬鹿だ!
In cucina a mangiar.調理場で 食事をしに。

MARTINOマルティーノ
(Ripiglio fiato.)(私は 息を 取り戻している【≒ ほっとした】。)
(via)(去る)


SCENA ⅩSCENA Ⅰ第11場
(Ernestina indi Alberto)(エルネスティーナ、それから アルベルト)

ERNESTINAエルネスティーナ
Qual strano caso è il mio!私のは なんという 奇妙な 状況だ【≒ 私の状況は なんと 奇妙なのだ】
Perdo un ingrato私は 【かつて】 不愉快な男を 失っている
che mi sedusse: a vagheggiarmi un nuovoその者は 私を 籠絡 ろうらく した: 【今度は】 取り入りに 別の
amante arriva, e questi...恋人が 到着している【≒ 今度は 別の 求婚者が 私に 求愛しに 来ている】、そして この人は…

ALBERTOアルベルト
Oh alfin vi trovo!ああ 私は ついに あなたを 見付けている!

ERNESTINAエルネスティーナ
Che cercate, signor?あなたは 何を 求めているのか、貴君よ?

ALBERTOアルベルト
Ragione io cerco私は 理由を 求めている
dell'insulto sofferto.被った 侮辱の。

ERNESTINAエルネスティーナ
E sostenete ancor?..それで あなたは まだ 主張しているのか?…

ALBERTOアルベルト
D'essere Alberto.アルベルトで ある ことを。

ERNESTINAエルネスティーナ
Il vostro ardir...あなたの 大胆は…

ALBERTOアルベルト
È quell'ardir, che ispiraその 大胆だ、それが 吹き込んでいる
il vero onor. Da un impostor tradito,真の 名誉を【≒ 大胆こそが 真の名誉を 生じている】。裏切者の ペテン師によって、
dall'apparenza condannato io sono;見かけから 私は 糾弾されている;
ma il dritto mio, lo sbaglio vostro in breveしかし 私の 権利は、あなたの 思い違いは 間もなく
risarcito sarà.修復される だろう。

ERNESTINAエルネスティーナ
Qualunque drittoどんな 正当性を
meco, signor, voi richiamate invano,私に対して、貴君よ、あなたが 無益に 促しようとも、
che vostra esser non può mai questa mano.決して この【右】手は あなたのものに なり 得ない。

ALBERTOアルベルト
Voi pure dunque a mio dannoそれでは あなたは たとえ 私の 損害に なっても
i torti vostri agli altrui torti unite?あなたの 誤りを 他の人の 不正と 結び付けるのか【≒ それでは あなたは たとえ 私が 損害を 被ろうとも あなたの間違いを あの男の不正と 結び付けるというのか】
Se un preventivo, fortunato affettoもし 先立って、幸運な 情愛が
occupa il vostro cor, approvo, e lodoあなたの 心を 占めている ならば【≒ もし もう既に あなたの心が 幸せな 愛に 包まれているならば】、私は 認める、そして 賞賛する
sì bella ingenuità; ma se v'induceそれほどに 美しい 純真さを; しかし もし あなたに 仕向ける ならば
un error tanto ingiusto ad oltraggiarmi,それほどに 不当な間違いが 私を 侮辱するように【仕向ける ならば】
trovar la via saprò di vendicarmi.私は 仕返しをする 道を 見付けることが できるだろう。
第10番全体に省略可記号 Vi--deあり。

onde [trovando], o non trovando alcuno,
[trovando]とある箇所は、台本にはあるのだが、レチタティーヴォ・セッコを書いた者がこれを省いてしまった。クリティカルエディションでは意味を通すためにこれを入れることを勧めている。
ここはジェルンディオを用いた条件文。代名詞の alcuno は 条件文で 誰か の意味にもなり、また否定文で 何一つ の意味にもなる。

dall'apparenza condannato io sono;
dall'apparenza 結婚の許可を求めて来たのに盛装していないことを意味する。

Voi pure dunque a mio danno
この pure は 副詞 たとえ―であっても。

i torti vostri agli altrui torti unite?
torto には 間違い、誤り の意味と 不正 の意味がある。パルメニオーネの torti は意図的な 不正 であり、エルネスティーナのそれは 誤り である。

N. 5
Aria Alberto

Alberto
Andante
4/4
B-flat major
ALBERTOアルベルト
D'ogni più sacro impegnoどんな この上なく 神聖な 誓約からも
sciolta pur sia la fede,【愛の】 誠実が どうか 解放される ように、
amor da voi non chiede,あなたから 愛を 求めはしない、
chi amor per voi non ha.あなたへの 愛を 抱いて いない 者は。
Pera, chi vuol costringere滅びるがいい、締め付け たい 者は
del cor la libertà.心の 自由を。
緩 カンタービレ / 急 カバレッタ の二部構成のアリア。
緩。

sciolta pur sia la fede,
この fede は 正直に愛する気持ち のような意味合い。続くアルベルトの歌詞から、彼はベレニーチェ(に扮しているエルネスティーナ)と婚約していることになっているが、彼は既に家政婦姿の本当のベレニーチェに心を奪われており、ベレニーチェに扮しているエルネスティーナに、たとえ婚約していても愛していない人から愛されることを望みはしない、と言っている。

Allegro
4/4
B-flat major
Ma se un sospetto indegnoしかし もし 不適切な 疑惑が
di soverchiarmi intende,私を 抑圧する つもり 【↑】ならば【≒ もし あらぬ 疑いが 私に 圧し掛かるろうと する ならば】
quel generoso sdegno,その 大きな 怒りが、
che il mio decoro accende,それは 私の 尊厳に 火を点ける、
dalla ragione armato,権利によって 武装されて、
dal vero onor guidato,真の 名誉に 導かれて、
un vano ardir confondere,中身のない 厚かましさを
e impallidir farà.そして 蒼ざめ させるだろう。
テンポ・ディ・メッゾ(中間部)

もしかしたら台本作家プリヴィダーリはこの箇所の歌詞をカバレッタで用いられるように書いたのかもしれないが、ロッシーニはこれをテンポ・ディ・メッゾ で使ってしまい、カバレッタにはカンタービレの歌詞を用いている。カンタービレの歌詞をカバレッタでも用いるのは、例えば《オテッロ》 第2幕 第6番 ロドリーゴのアリア でも行っている。

Più Lento
4/4
B-flat major
Amor da voi non chiede,あなたから 愛を 求めはしない、
chi amor per voi non ha.あなたへの 愛を 抱いて いない 者は。
Pera, chi vuol costringere滅びるがいい、締め付け たい 者は
del cor la libertà.心の 自由を。
D'ogni più sacro impegnoどんな この上なく 神聖な 誓約からも
sciolta pur sia la fede.【愛の】 誠実が どうか 解放される ように。
(parte)(去る)
カバレッタ(急)。

[Recitativo] Dopo l'Aria Alberto
4/4
(C major)
ERNESTINAエルネスティーナ
Quei fermi accenti, quel sicuro aspettoあの 決然たる 口調を、あの 確かな 様子を
nel mirar, nel sentire,見る時、聞く時、
impossibile par, ch'abbia a mentire.ありえないと 思われる、彼が 嘘を吐かなければならない とは

[parte][去る]


SCENA ⅩSCENA Ⅱ第12場
(Berenice, indi D. Parmenione)(ベレニーチェ、その後に ドン・パルメニオーネ)

BERENICEベレニーチェ
Per conoscere l'inganno, un espediente欺瞞を 見極める ために、方策を
chi m'insegna a trovar? Ho un gran sospetto,見つけることを 誰が 私に 教えるのか? 私は 大きな 疑念を 抱いている、
che questo sposo un temerario sia,あの 花婿が 無謀な男で ある という、
un basso avventuriere;卑劣な ペテン師 【であるという】
ma il vero come mai si può sapere?けれども 真実を いったい どうやって 知ることが できるのか?

PARMENIONEパルメニオーネ
(Fino adesso va ben.)(今までは うまく 行っている。)

BERENICEベレニーチェ
(Voglio provarmi.)(私は 試して みたい【≒ やってみよう】。)

PARMENIONEパルメニオーネ
Oh! chi vedo?ああ! 私は 誰を 見ているのか?

BERENICEベレニーチェ
(inchinando)(お辞儀して)
Signor!..貴君よ!…

PARMENIONEパルメニオーネ
Brava, ragazza:素晴らしい、娘【さん】よ:
tu mi piaci.君は 私に 気に入られている。

BERENICEベレニーチェ
Davver?本当に?

PARMENIONEパルメニオーネ
Certo: e se trovoもちろんだ: そして もし 私が 見出す ならば
in te condotta, e abilità discreta,君に 品位を、そして 節度ある 能力を、
della mia protezione【↓】ことによると 私の 庇護の
forse t'onorerò.栄誉を授けるだろう。

BERENICEベレニーチェ
(Che mascalzone!)(なんという 悪党だ!)

PARMENIONEパルメニオーネ
Cosa?なんだって?

BERENICEベレニーチェ
Troppo favore.過度の 愛顧を。

PARMENIONEパルメニオーネ
Io già ho fissato,私は 既に 定めた、
dopo il mio sposalizio,私の 結婚式の後、
di tener varie donne al mio servizio..私の 奉公に 様々な 女たちを 保有することを…。
onde...その結果…

BERENICEベレニーチェ
Dopo?その後は?

PARMENIONEパルメニオーネ
Si sa.周知のとおり。

BERENICEベレニーチェ
Badate beneよく 留意しなさい
a quel proverbio, che facendo il contoこの格言に、勘定を すると
senza l'oste, talvolta飲食店の主人 無しに、時に
si va a rischi di farlo un'altra volta.もう一度 それをする 危険に 行く【≒ 食堂の主人がいない時に 支払いを計算しても しばしば やりなおしになる 危険が ある】

PARMENIONEパルメニオーネ
Olà! Men confidenze: e se ti premeおい! より少ない 親密さを【≒ 分をわきまえなさい】: そして もし 君に 重要である ならば
di stare in questa casa,この家に いることが、
bada di non mi far mai la dottora,私に対して 決して もったいをつけ ないよう 注意しなさい【≒ 私に えらそうな口を利かないよう 気を付けなさい 】
o ch'io...さもなければ 私は…

BERENICEベレニーチェ
Signor! Non siete sposo ancora.貴君よ! あなたは まだ 花婿では ない。

PARMENIONEパルメニオーネ
Se nol son, lo sarò.私が 【まだ】 それで ないにせよ、私は それに なるだろう。

BERENICEベレニーチェ
Ci son dei dubbi.【多くの】 疑いが ある。

PARMENIONEパルメニオーネ
Quai dubbi?どんな 疑いだ?

BERENICEベレニーチェ
Che appianar prima dovete,それを まず あなたは 解決す べきだ、
e poi ci parleremo.そして それから 話し合おう。

PARMENIONEパルメニオーネ
E che! in tal guisaいったい 何を! そのようにして
una vil serva in faccia mia favella,卑しい お手伝い女が 私に 面と向かって 話すのか、
e non trema?そして 震えないのか?

BERENICEベレニーチェ
Sbagliate: io non son quella.あなたは 間違っている。私は その女では ない。

PARMENIONEパルメニオーネ
E chi sei dunque?それでは 君は いったい 誰なのか?

BERENICEベレニーチェ
Io sono un farfarello,私は 蝶だ、
che girar fa l cervello,それは 頭を 回 させる、
a chi non ha giudizio.良識を 持たない 者の【頭を】

PARMENIONEパルメニオーネ
Orsù! T'accheta,そら! 鎮まりなさい、
lasciami.私を 放っておきなさい。

BERENICEベレニーチェ
Io son...私は…

PARMENIONEパルメニオーネ
Via dillo, in tua malora.そら それを 話しなさい、【君は】 君の破滅に 【向かうぞ】

BERENICEベレニーチェ
Io sono...私は…

PARMENIONEパルメニオーネ
Una servaccia ardimentosa.向こう見ずの お手伝いの娘だ。

BERENICEベレニーチェ
Oh! Tutt'altro, signor:ああ! まったく他の者だ、貴君よ:
io son... la sposa.私は… 花嫁だ。
Quei fermi accenti, quel sicuro aspetto から impossibile par, ch'abbia a mentire. まで省略可記号 Vi--de あり。

a quel proverbio, che facendo il conto / senza l'oste, talvolta / si va a rischi di farlo un'altra volta.
fare i conti senza l'oste 飲食店の主人なしに 客が支払勘定をする、つまり 責任者不在で何か自分に有利なことをしようとする の意味で、結果、やり直さなければならない,そう上手くはいかない といった内容。この場合は、パルメニオーネが 結婚したら周囲にお手伝いの女たちを侍らせる という目論みに、ベレニーチェが そんなことはさせない と警句を発している。

bada di non mi far mai la dottora,
fare il dottore たいそうもったいをつける。
dottore 医者 の女性形は一般的に dottoressa で、dottora は蔑んだ言い方。

N. 6
Duetto [Berenie - Parmenione]

Berenie
Parmenione
Andante
4/4
F major
PARMENIONEパルメニオーネ
Voi la sposa!あなたが 花嫁だって!

BERENICEベレニーチェ
Appunto quella.まさに その女だ。

PARMENIONEパルメニオーネ
E quell'altra?それで あの 別の女は?

BERENICEベレニーチェ
È mia sorella.彼女は 私の 妹だ。

PARMENIONEパルメニオーネ
(Se ciò è ver, l'ho fatta bella.)(つまり もし それが 本当ならば、私は 面倒を 起こした【≒ 私は 拙いことを やらかしたぞ】。)

BERENICEベレニーチェ
(S'incomincia a imbarazzar.)(彼は まごつき 始めている。)

PARMENIONEパルメニオーネ
D'un parlar sì stravaganteそれほどに 奇妙な 話によって
non son molto persuaso;私は あまり 納得していない;
pur se quella siete a caso,たとえ あなたが たまたま その女で【= 花嫁で】 あっても、
il mio sbaglio è da scusar.私の 間違いは 正当化する べきだ【≒ 私の間違いは 大目に見てもらう べきだ。】

BERENICEベレニーチェ
Per un vero e gran birbante真の そして 大した ペテン師 と
presso ognun qui voi passate;ここでは 皆において あなたは みなされている;
ma il contrario se provate,しかし もし あなたが 反対だと 証明する ならば、
anch'io so quel ch'ho da far.私も 私が 何を すべきか 分かる。

PARMENIONEパルメニオーネ
Le mie lettere...私の 手紙を…

BERENICEベレニーチェ
Ho vedute.私は 見た。

PARMENIONEパルメニオーネ
I ricapiti?..証明書を?…

BERENICEベレニーチェ
Li ho letti.それらを 私は 読んだ

PARMENIONEパルメニオーネ
Quai son dunque i miei difetti?それでは 何が 私の 過ち なのか?

BERENICEベレニーチェ
Or vi voglio esaminar.今こそ 私は あなたを 尋問し たい。
カンタービレ 緩 / カバレッタ 急 の二部構成の二重唱。
カンタービレ 緩。

Voi la sposa!
それまでお手伝い姿のベレニーチェに対して2人称単数親称を用いてきたパルメニオーネが、彼女が実は花嫁その人と分かった途端に敬称 voi を用いる。

(Se ciò è ver, l'ho fatta bella.)
farla bella 面倒を起こす。

il mio sbaglio è da scusar.
この scusare は (非難されるような行為を)正当化する。

Per un vero e gran birbante / presso ognun qui voi passate;
passare per - ―とみなされる。

I ricapiti?..
ricapito については 第2番 パルメニオーネのアリア の傍注を参照。証明書。

Allegro
4/4
B-flat major
Il padre vostro si porta bene?あなたの 父親は 元気に 健康であるか?

PARMENIONEパルメニオーネ
Egli sanissimo è sempre stato.彼は いつでも この上なく 健康で いる。

BERENICEベレニーチェ
Ma se ci ha scritto, ch'era ammalato?けれども そのことについて 彼が 書いた 時には、彼は 病気だった と。

PARMENIONEパルメニオーネ
Egli ha voluto così scherzar.彼は そのように 冗談を言い たかったのだ。

BERENICEベレニーチェ
Come si chiama vostra sorella?あなたの 妹は なんと 呼ばれているのか?

PARMENIONEパルメニオーネ
È un brutto nome, detta è Pandora.不細工な 名前だ、彼女は パンドーラ と 言われている。

BERENICEベレニーチェ
Nelle sue lettere si scrive Aurora.彼女の 手紙には アウローラと 書かれている。

PARMENIONEパルメニオーネ
Io la più giovine volli indicar.私は 最も 若い人を 指そうと していた【≒ 私は 一番下の 妹の ことを 言おうとしていた】

BERENICEベレニーチェ
E del processo che nuove avete?それでは あなたは 何の 裁判の ニュースを 持っているか?

PARMENIONEパルメニオーネ
Il tribunale ci dà ragione.裁判所は 私たちの 言い分を 認めるだろう。

BERENICEベレニーチェ
Ma qual'è il punto della questione?だが 何が 問題の点 なのか?

PARMENIONEパルメニオーネ
Non so spiegarvelo, lungo è l'affar.私は それを 説明 できない、事は 長い。

BERENICEベレニーチェ
Non c'è più equivoco, mi trovo a segno,もはや 曖昧な状態は ない、私は 私が 的を射ていると 見出している【≒ 私は 図星を 指していると 思う】
scoperto è il perfido vile impostore.悪意のある 卑怯な ペテン師は 暴かれた。
Un foco, un impeto mi sento in core,私は 私の 心に 火を、 激情を 感じている、
non so la collera dissimular.私は 怒りを 包み隠すことが できない。

PARMENIONEパルメニオーネ
Sempre più critico divien l'impegno,私の 責任は ますます 危機的になる【≒ 私の 【アルベルトになりすます】任務は ますます 危うく なっている】
d'un passo simile quasi mi pento:このような 歩みを 私は ほとんど 後悔している:
un certo brivido al cor mi sento,私は いくらかの 身震いを 私の心に 感じている、
ma forza e spirito convien mostrar.しかし 力と 才気を 見せ なければならない。
(Allegro)
4/4
(B-flat major)
BERENICEベレニーチェ
E così contino mio?それでは 私の 伯爵よ?

PARMENIONEパルメニオーネ
Cosa far per voi poss'io?私は あなたに 何が できるのか?

BERENICEベレニーチェ
Mi saluti il genitore.【あなたの】 父親に よろしく。

PARMENIONEパルメニオーネ
Lo farò con tutto il core.すべての 心を もって 私は そのことを しよう。

BERENICEベレニーチェ
E la cara sua sorella?そして あなたの いとしい 妹は?

PARMENIONEパルメニオーネ
La Pandora[?]パンドーラかね?
Sempre buona, quanto bella.いつでも 元気だ、美しいのと 同じくらい。

BERENICEベレニーチェ
Guadagnato è già il processo?裁判は もう 勝ったのか?

PARMENIONEパルメニオーネ
Così almen mi fu promesso.少なくとも そのように 私に 確信された。

BERENICEベレニーチェ
Dunque tutto va a dovere?それでは すべては 然るべく 進んでいるのか?

PARMENIONEパルメニオーネ
Tutto va come ha da andar.すべては 進むべき ように 進んでいる。
この箇所は前の Allegro から続いているが、歌のほとんどは a piacere なので、区分した。

Presto
4/4
F major
BERENICEベレニーチェ
Ah uomo petulante,ああ 厚かましい 男め、
incomodo, arrogante!不快な、尊大な 【男め】
cessate di mentire,嘘を吐くのを 止めなさい、
scoperto è il vostro ardire;あなたの 厚かましさは 暴かれている;
voi siete un impostore,あなたは 詐欺師だ、
un vile avventuriere,卑劣な ペテン師だ、
e queste le maniereそして これらは
non sono di trattar.【人を】 扱う やり方ではない【≒ そんな やり方で 人を 扱っては ならない】
Per forza, o per amore力に よって、あるいは 愛に よって
da qui dovrete andar.あなたは ここから 行かなくては ならない。

PARMENIONEパルメニオーネ
Ragazza impertinente,生意気な 娘め、
ridicola, imprudente!おかしな、無分別な【娘め】
a te non rendo conti,君に 釈明しない、
da te non voglio niente;私は 君から 何も 望まない。
io sono un uom d'onore,私は 紳士だ、
un cavalier son io,私は 騎士だ、
so dire il fatto mio,私は 私の 行為を 言うことが できる、
so il modo di trattar.私は【人を】 扱う やり方を 知っている。
Per forza, o per amore力に よって、あるいは 愛に よって
mi voglio vendicar.私は 仕返しを したい。

[partono][去る]
a te non rendo conti,
rendere conto a qlcu. ―に釈明する。

[Recitativo] Dopo il Duetto Berenice e Parmenione
4/4
(C major)
SCENA ⅩSCENA Ⅲ第12場
(D. Eusebio, Ernestina, e Martino)(ドン・エウゼービオ、エルネスティーナ、そして マルティーノ)

EUSEBIOエウゼービオ
Qui non c'è scampo.ここには 逃げ道は ない。

ERNESTINAエルネスティーナ
Qui parlar bisogna.ここで 話す 必要がある。

MARTINOマルティーノ
Cosa ho da far?何を 私は しなくては ならないのか?

EUSEBIOエウゼービオ
La verità ci spiega.真実を 私たちに 説明しなさい。

MARTINOマルティーノ
La verità! Ma come mai, signore,真実を! しかし いったい どうして、貴君よ、
pretenderla si può da un servitore?召使いから それを【= 真実を 女性名詞単数】 強要 できるのか?

ERNESTINAエルネスティーナ
Meno pretesti.もっと少ない 言い訳を【≒ つべこべ言わないで】

EUSEBIOエウゼービオ
Il tuo padron vogliamo私たちは 君の 主人を
conoscere da te.【の口】から 知り 【↑】たい。

MARTINOマルティーノ
Vorrei...私は したいのだが…

ERNESTINAエルネスティーナ
Palesa明かしなさい
il suo nome.彼の 名前を。

MARTINOマルティーノ
Mi spiace...私には 残念に思われる【≒ 残念ながら】

EUSEBIOエウゼービオ
Il suo casato...彼の 姓は…

MARTINOマルティーノ
V'assicuro...私は あなたたちに 保証する…

ERNESTINAエルネスティーナ
Il suo stato...彼の 地位は…

EUSEBIOエウゼービオ
Quel che fa.彼が していることは。

ERNESTINAエルネスティーナ
Quel che pensa.彼が 考えていることは【≒ 彼の 目論見は】

MARTINOマルティーノ
E voi bramate?..それで あなたたちは 切望しているのか?…

ERNESTINAエルネスティーナ
Tutto saper da te.すべてを 君から 知るのだ

MARTINOマルティーノ
Dunque ascoltate.それでは 聞きなさい。


N. 7
Aria Martino

Martino
Allegro
2/4
C major
MARTINOマルティーノ
Il mio padrone è un uomo,私の 主人は 男である、
ogun che il vede il sa:誰もが その者は 彼を 見る そのことを 知っている【≒ 彼に 会う人は 誰でも そのことを 知っている】
rassembra un galantuomo,彼は 紳士に 似ている、
e forse lo sarà.そして ことによると それ なのだろう。
Vecchio non è, né giovine,彼は 老いて おらず 若くも ない、
né brutto, né avvenente,醜く なく、愛らしくも ない、
non è villan, né principe,田舎者ではなく、王子でもない、
nè ricco, né indigente,裕福でもなければ、貧窮してもいない、
insomma un di quegli esseri要するに 彼は あれらの 人間たちの 一人である
comuni in società.社会に 一般的な【≒ 要するに 彼は 世間に よくいる 人たちの 一人だ】
速度指示、拍子とも変化のない単一構成のアリアだが、曲調の変化によって中間部が生じ、A / B / A' の三部構成のようにもなっているので、一応区分を入れる。

(Allegro)
2/4
C major
Portato è per le femmine,彼は 女性たちに対して 天賦の才がある【≒ 彼は 生まれながらの 女たらしだ】
gli piace il vino, e il gioco,ワインは 彼に 好まれる、そして 賭け事は【≒ 彼は 酒も ギャンブルも 好きだ】
amante è di far debiti,彼は 借金を する ことを 好む、
ma di pagarli poco,しかし それらを 支払うことは ほとんどない、
tutto censura, e critica,彼は あらゆることを 非難する、そして 酷評する、
benché sia un ignorante,彼は 教養のない人 にもかかわらず、
Portato è per le femmine,
この essere porto は 才能がある,天賦の才がある の意味。essere porto a + 不定詞 ―する才能がある で用いられることが多い。

(Allegro)
2/4
C major
con tutti fa il sensibile,誰に対しても 彼は 敏感だ、
ma di sé solo è amante,しかし 彼は 自分自身だけが 好きである、
procura ognor di vivere彼は いつでも 生きようと 努力している
in pace e sanità;平安に そして 健康【に】
è amante di far debiti,彼は 借金を する ことを 好む、
portato è per le femmine,彼は 女性たちに対して 天賦の才がある【≒ 彼は 生まれながらの 女たらしだ】
è in somma un di quegli esseri要するに 彼は あれらの 人間たちの 一人である
comuni in società.社会に 一般的な【≒ 要するに 彼は 世間に よくいる 人たちの 一人だ】
Il mio padrone è un uomo,私の 主人は 男である、
ogun che il vede il sa:誰もが その者は 彼を 見る そのことを 知っている【≒ 彼に 会う人は 誰でも そのことを 知っている】
rassembra un galantuomo,彼は 紳士に 似ている、
e forse lo sarà.そして ことによると それ なのだろう。
è in somma un di quegli esseri要するに 彼は あれらの 人間たちの 一人である
comuni in società.社会に 一般的な【≒ 要するに 彼は 世間に よくいる 人たちの 一人だ】
(fugge)(逃げる)
[Recitativo] Dopo l'Aria Martino
4/4
(C major)
EUSEBIOエウゼービオ
Senti, aspetta, ove vai?聞きなさい、待ちなさい、君は どこに 行くのか?
(lo insegue)(彼を 追う)

ERNESTINAエルネスティーナ
Se fosse vero,もし 本当ならば、
ciò che vero pur sembra, io sperereiたぶん 事実に 思われる ことが、私は 望むのだが
di vedere appagati i voti miei.私の 願いが 満たされるのを 見る のを。
(parte)(去る)


SCENA ⅩSCENA Ⅳ第14場

(D. Parmenione, ed Alberto incontrandosi)(ドン・パルメニオーネ、そして アルベルト 出くわして)

ALBERTOアルベルト
Voi qui appunto io cercava.私は ここで ちょうど あなたを 捜していた。

PARMENIONEパルメニオーネ
Ed io correvaそして 私は 走っていた
giusto in traccia di voi.まさに あなたの 跡を。

ALBERTOアルベルト
Dopo l'eccesso行き過ぎの 後に
della vostra imposturaあなたの 詐欺の
mostrate tanto ardir?あなたは それほどたくさんの 厚かましさを 見せるのか?

PARMENIONEパルメニオーネ
Dopo d'avermi私から
tolta la mia valigia私の 鞄を 奪った 【↑】後で
non arrossite ancor?あなたは いまだに 恥じ入らないのか?

ALBERTOアルベルト
Dei cenci vostriあなたの 不用品を
io non ne so che far.私は それらについて 何を する【べき】か 分からない。

PARMENIONEパルメニオーネ
Io non mi curo私は 関心を持って いない
delle vostre ricchezze.あなたの 財産に。

ALBERTOアルベルト
Ebben, sul fattoそれでは、ただちに
io le voglio.私は それらを 欲しい。

PARMENIONEパルメニオーネ
Le avrete,それらを あなたは 受け取る、
quando gl'effetti miei mi renderete.あなたが 私の 身の回り品を 返すであろう 時に。

ALBERTOアルベルト
E il finto nome, e la mal tolta sposaそして 偽の名前は、そして 不正にも 奪われた 花嫁は
chiedon riparo.対策を 求めている【≒ 私の名を騙るのも、花嫁を 奪おうとしていることも いい加減にしてほしい】

PARMENIONEパルメニオーネ
Oh! questa è un'altra cosa!ああ! それは 別の ことだ!

ALBERTOアルベルト
Resistete?あなたは 逆らうのか?

PARMENIONEパルメニオーネ
Ma già.そうさ。

ALBERTOアルベルト
Così a un par mio?...私のような者に そのように?…

PARMENIONEパルメニオーネ
Un mio pari risponde.私のようなものが 答えている。

ALBERTOアルベルト
Soffrir non so...私は 我慢することが できない…

PARMENIONEパルメニオーネ
Ceder non posso...私は 屈することが できない…

ALBERTOアルベルト
Io giuro,私は 断言する
che vi farò pentir.私は あなたを 後悔さ せる と。

PARMENIONEパルメニオーネ
Ed io protesto,それでは 私は 主張する、
che non mi pentirò.私は 後悔し ない と。


SCENA ⅩⅤ第15場
(Berenice, e detti)(ベレニーチェ、前の場の人たち)

BERENICEベレニーチェ
Qual chiasso è questo?これは 何の 騒ぎなのか?

PARMENIONEパルメニオーネ
Tu qui che vuoi?君は ここで 何を 望んでいる?

BERENICEベレニーチェ
Più flemma.もっと多い 冷静さを【≒ もっと 冷静になりなさい】

ALBERTOアルベルト
(Oh quanto è bella!)(ああ 彼女は なんと 美しい ことか!)

PARMENIONEパルメニオーネ
Ebben, che cerchi?それで、君は 何を 要求するのか?

BERENICEベレニーチェ
Se per mia disgraziaもし 私には 運の悪いことに
lo sposo foste voi, nulla io ricerco;花婿が あなた である ならば、私は 何も 求めない。
ma se poi...しかし 万が一…

ALBERTOアルベルト
Se la prova,もし 証拠が、
che lo sposo son io, fosse evidente?私が 花婿である という、明らかである 【↑】ならば【≒ もし 私が 花婿で ある という 証拠が 明らかであるならば】

BERENICEベレニーチェ
Allora parlerei diversamente.その場合は 私は 違う風に 話すだろうに。

PARMENIONEパルメニオーネ
Tanto meglio.その方がいい。

BERENICEベレニーチェ
Eh, già so, ch'altra v'accendeえー、私は 既に 知っている、あなたに 火を点けている ことを 別の
di me più vaga, e più gentil donzella.私より もっと かわいらしい、そして もっと 愛らしい 娘が。

PARMENIONEパルメニオーネ
La tua padrona, e la mia sposa è quella.その女は 君の 女主人、そして 私の 花嫁だ。

BERENICEベレニーチェ
Bravo da ver.本当に 素晴らしい。

ALBERTOアルベルト
Dunque restiam d'accordo,それでは 同意見に なろう【≒ 合意しよう】
che se l'altra è la sposa, io ve la cedo,もし 別の女が【= エルネスティーナが】 花嫁ならば、私は あなたに 彼女を 譲り、
e gl'insulti sofferti a voi perdono.そして 【私が】被った 侮辱を あなたに対して 私が 容赦する 【↑】ことに 【合意しよう】

PARMENIONEパルメニオーネ
Ottimamente.たいへん結構。

ALBERTOアルベルト
Ma del vero Albertoしかし 【↓】そのことが 本当の アルベルトの
se il premio è questo, l'usurpato nome,褒賞で ある 以上は、横領された 名前が、
i lesi dritti, l'onor mio tradito,損害を受けた 権利が、傷つけられた 私の名誉が、
e questa man, che m'appartiene, io voglio.そして この 【右】手が、私のものである ことを、私は 望む。【≒ 合意が 本物の アルベルトの褒賞で あるならば、騙られた 私の 名も、損害を受けた 権利も、傷つけられた 私の 名誉も、ベレニーチェに求婚する この右手も、私のもとに 回復することを 私は 願う】

PARMENIONEパルメニオーネ
E così finirà qualunque imbroglio.そして どんな いかさまも このように 終わるだろう。
Senti, aspetta, ove vai? から di vedere appagati i voti miei. まで省略可記号 Vi--de あり。

Ebben, sul fatto
sul fatto = sull'atto ただちに。fatto も atti も 行為 を意味し、行為の上で ⇒ その場で ⇒ ただちに。

Ma già.
ma は返事の強調。già は小馬鹿にしたような はい,そうさ。

Così a un par mio?...
par は 名詞 pari の語尾省略形で 同等の人 の意味だが、par +所有形容詞 で用いられる場合の par はその人自身を指し、―のような人,者 の意味で用いられる。un par mio 私のような人。

se il premio è questo, l'usurpato nome,
この questo は そのこと (性に無関係に使える) 。その前の話題を指す時に用いられる。

N. 8
Recitativo e Aria Berenice

Berenice

4/4
C major
BERENICEベレニーチェ
Ma se incerti voi siete,けれども あなた方が 不確かで ある ならば、
quale la sposa sia, dubbia non menoどちらが 【それぞれの】 花嫁で あるのか、【↓】私は より少なく なく 不確かだ
del mio destin, dell'esser vostro io sono;私の運命について、あなたの 本質について【≒ 私も 同様に 私の 運命について、あなたが どのような人であるかについて 不確かだ】
né tai patti si fan in mia presenza,そのような 取り決めは 私の前で なされはしない、
prima di conseguir la mia licenza.私の 許可を 得る 前に。
quale la sposa sia, dubbia non meno
non meno 同様に

Aria Berenice

Maestoso
4/4
E-flat major
Voi la sposa pretendete,あなたは 花嫁を 強く求め、
voi mi fate il cascamorto:あなたは 私に対して 女性にべたべたする男を 行っている【≒ あなたは 私に 言い寄っている】
ma, signori miei, chi siete,けれども、私の 貴君たちよ、あなたたちは 誰なのか、
chi ha ragion, di voi, chi ha torto?あなたたちの うちで、誰が 正しいのか、誰が 間違っているのか?
Se l'intrigo mi sciogliete,もし あななたちが 私の 苦境を 解決する ならば、
qualche cosa nascerà.何かが 生まれるだろう。

PARMENIONEパルメニオーネ
Se voi sposa esser bramate,もし あなたが 花嫁に なることを 切望している ならば、
più non sono il Conte Alberto.私は もはや アルベルト伯爵では ない。

ALBERTOアルベルト
Se il mio cor non rifiutate,もし あなたが 私の 心を 拒ま ない ならば、
io vi sposo, ancorché incerto.私は あなたと 結婚する、たとえ 【私の正体が】 不確かに せよ。

BERENICEベレニーチェ
Che parole inzuccherate,なんという 優しい 言葉だ、
che obbligante ingenuità!なんという 親切な 純真さだ!
急 / 緩 / 急 の三部構成のアリア。
急。もっとも Maestoso なのでテンポは速いわけではない。

voi mi fate il cascamorto:
fare il cascamorto 男性から女性であれば 言い寄る,女性から男性であれば 色目を使う のような表現。伊和辞典には用例として fare il cascamorto con una ragazza 女の子のしりを追う とある(もちろん男性の場合)。

Andante
2/4
A-flat major
Deh non tradirmi amore愛の神よ お願いだから 私を 裏切るでない
in sì fatal mistero!これほどに 宿命的な 謎に おいて!
Tu mi rischiara il veroおまえは【= 愛の神は】 私に 真実を 明るくする
in tanta oscurità.たくさんの 闇の 中で。

ALBERTO E PARMENIONEアルベルト と パルメニオーネ
Se siete un uomo d'onore,もし あなたが 信義の男である ならば、
io sono un uomo sincero:私は 誠意の 男だ:
prima si scopra il vero,まず 真実を 公表しよう、
e poi si parlerà.そして それから 話し合おう。
緩。

Se siete un uomo d'onore,
お互いに言い合っている。


4/4
E-flat major
BERENICEベレニーチェ
E così, nessun favella?それで このように 誰も 話さないのか?

ALBERTOアルベルト
Mia vi voglio ad ogni costo.私は なんとしても あなたを 私の女に したい【≒ 私は あなたを ぜひとも 私の 妻に したい】

PARMENIONEパルメニオーネ
Per me scelto ho l'altra bella.私には 私は もう一人の 美女を 選んだ。

BERENICEベレニーチェ
Vo' saper la verità.私は 真実を 知りたい。

ALBERTOアルベルト
Io v'ho detto.私は それを あなたに 行った。

PARMENIONEパルメニオーネ
Io v'ho risposto.私は あなたに 答えた。

ALBERTO E PARMENIONEアルベルト と パルメニオーネ
Stabilito il patto è già.協定は 既に 決定された。
経過区。

Allegro
4/4
E-flat major
BERENICEベレニーチェ
Io non soffro quest'oltraggio私は この 侮辱を 我慢しない
chi voi siete vo' sapere:私は あなたたちが 誰なのか 知りたい:
d'ingannarmi chi ha coraggio,私を 騙す 厚かましさを 持つ 者は、
chi deciso ha di tacere,黙っていると 決心した 者は【≒ 沈黙を 決め込む 者は】
qui scoperto, smascherato,ここで 公表されて、真相が解明されて、
vilipeso resterà;蔑まれる だろう;
ここは最後の 急 の序奏といったもの。Allegro 本体の前半後半の間にも素材が用いられる。

(Allegro)
4/4
E-flat major
e d'un misero attentatoそして 卑しい 危害を加えるような企てを
tardi poi si pentirà.遅れて それから 後悔するだろう【≒ それから 卑しい 企てを 遅ればせながらに 後悔するだろう】

ALBERTOアルベルト
Io v'ho detto.私は あなたに 言った。

BERENICEベレニーチェ
No, non soffroいいえ、私は 我慢しない

PARMENIONEパルメニオーネ
Io v'ho risposto.私は あなたに 答えた。

BERENICEベレニーチェ
quest'oltraggi,この侮辱を、

ALBERTOアルベルト
Ma sentite.だが 聞きなさい。

BERENICEベレニーチェ
chi voi sieteあなたたちは 誰なのか

PARMENIONEパルメニオーネ
Ascoltate.聞きなさい。

BERENICEベレニーチェ
vo' sapere:私は 知りたい:
d'ingannarmi chi ha coraggio,私を 騙す 厚かましさを 持つ 者は、
chi deciso ha di tacere,黙っていると 決心した 者は【≒ 沈黙を 決め込む 者は】
qui scoperto, smascherato,ここで 公表されて、真相が解明されて、
vilipeso resterà, sì:蔑まれる だろう、そうだ:
(parte)(去る)
急。

[Recitativo] Dopo l'Aria Berenice

4/4
(C major)
ALBERTOアルベルト
Fermatevi.止まりなさい。

PARMENIONEパルメニオーネ
Che c'è?何が あるのか【≒ どうしたというのか】

ALBERTOアルベルト
L'impegno preso受け入れた 取り決めを
dovete mantener.あなたは 守らなければ ならない。

PARMENIONEパルメニオーネ
Son pronto.私は 用意ができている。

ALBERTOアルベルト
Insiemeいっしょに
verificar dobbiam qual sia la sposa.私たちは 確認し なくてはならない どちらが 【それぞれの】 花嫁なのか。

PARMENIONEパルメニオーネ
E poi, come s'è detto...そして それから、言われた ように…

ALBERTOアルベルト
Il patto convenuto avrà il suo effetto.取り決めは その結果を 決めるだろう。
[parte][去る]


SCENA ⅩSCENA Ⅵ第15場
(D. Eusebio, Ernestina, indi D. Parmenione e detti)(ドン・エウゼービオ、エルネスティーナ、それから ドン・パルメニオーネ と 前の場の人たち

ERNESTINAエルネスティーナ
Il suo trascorso alfine結局 彼の 間違いは
un capriccio sarà, non un delitto.気紛れだろう、罪では なく 【≒ 要するに 彼は 出来心で 過ちを 犯した のであって、罪というほどでは ないだろう】

EUSEBIOエウゼービオ
Ma se ancor non parlava il servitore,だが もし 召使い【= マルティーノ】が いまだに 話して いな ければ、
io parente sarei d'un impostore.私は ペテン師の 親族に なるのだが。

ERNESTINAエルネスティーナ
Non mi pare.私には 【そうとは】 思われ ない。

EUSEBIOエウゼービオ
Perché?どうして?

ERNESTINAエルネスティーナ
Perché direttoなぜなら
egli aveva a me sola ogni desio.彼は 私に 【↑】向けられて だけ あらゆる 希望を 抱いている からだ。

PARMENIONEパルメニオーネ
Eccomi al vostro piè, bell'idol mio.ほら 私は あなたの 足元に、私の 美しい 偶像よ。

ERNESTINAエルネスティーナ
Lo sentite?あなたは 彼【の言うこと】を 聞いているか?

EUSEBIOエウゼービオ
Oh! la burlaああ! 悪ふざけを
v'invito a terminar: già l'esser vostro終える ために 私は あなたを 招いている; もはや あなたの 存在は
più un mistero non è.もう 謎では ない。

PARMENIONEパルメニオーネ
Se anche lo fosse,もし仮に そのようなことで あるとしても、
vengo io stesso a finire ogni questione,私 自身が あらゆる 問題を 終えに 来ている、
e più Alberto non son,そして 私は もう アルベルト ではない、
son Parmenione.私は パルメニオーネだ。

ERNESTINAエルネスティーナ
Voi Parmenione di Castelnuovo?あなたが パルエニオーネ・ディ・カステルヌオーヴォなのか?

PARMENIONEパルメニオーネ
Appunto,その通りだ、
del Conte Ernesto, or gravemente infermo,伯爵エルネストの、今は 重く 病身の、
l'amico io son, scelto a inseguir la sua私は 友人だ、【私は 彼に】 追うために選ばれた 彼の
fuggitiva sorella.逃げた 妹を。

ERNESTINAエルネスティーナ
Voi trovata l'avete:あなたは 彼女を 見つけた:
ecco io son quella.ほら ここに 私が その女だ。

PARMENIONEパルメニオーネ
Voi!あなたが!

EUSEBIOエウゼービオ
Che sento!私は 何を 聞いているのだ!

ERNESTINAエルネスティーナ
Ah! purtroppo io fui sedottaああ! 運悪く 私は 誘惑された
da un'alma scellerata,邪悪な 魂に よって、
che vincer non potendo il mio rigore,それは 私の 手厳しさに 打ち勝つことが できなかったので、
sola qui mi lasciò!私を ここに 一人 残した。

PARMENIONEパルメニオーネ
Che traditore!なんという 詐欺師だ!

EUSEBIOエウゼービオ
Or comprendo...今や 私は 理解している…

PARMENIONEパルメニオーネ
Non più: giacché m'è toltoもう よい: 私には 認められていない 以上
di punir quell'indegno, all'onor vostroその 恥ずべき男を 罰することが、あなたの 名誉への
un riparo sarà forse non vano,おそらく 無駄では ない 対策に なるだろう、
l'offerta ch'io vi fo della mia mano.私が あなたに 私の 【右】手の 申し出を する ことは【≒ 私が その 恥ずべき男を 罰することが 許されて いない 以上は、私が あなたに 求婚することは あなたの名誉の回復に 役立つだろう 】
Fermatevi.からその場の終わりまで 省略可記号 Vi--de あり。

Fermatevi.
パルメニオーネに対して言っている。

Voi Parmenione di Castelnuovo?
カステルヌオーヴォ Castelnuovo という地名はイタリア各地に存在する。ナポリに近い都市だと、カステルヌオーヴォ・チレント Castelnuovo Cilento という小都市があるが、それでも100km ほど離れている。もっとも所領なのでそこに住んでいるわけではないのかもしれないが。

N. 9
Finale

Berenice
Allegro
3/4
D major
PARMENIONEパルメニオーネ
Quello, ch'io fui, ritorno,私は その男に、私が それで あった、戻る【≒ 私は かつての自分に 戻って】
chiedo all'error perdono:私は 過ちに 許しを 乞う:
se sposo vostro io sono,もし 私が あなたの 花婿で ある ならば、
più che bramar non so.私は さらに 望むことは できない。

ERNESTINAエルネスティーナ
D'un sì prezioso donoそれほどに 尊い 贈り物の
l'offerta accetterò.申し出を 私は 受け入れるだろう。

EUSEBIOエウゼービオ
Ma chi sarà frattantoだが その一方で 誰なの だろうか
quell'altro forestiero?あの もう一人の 他所から来た男は?

PARMENIONEパルメニオーネ
Egli è lo sposo vero,彼は 本当の 花婿だ、
già tutto io vi dirò.私は すぐに すべてを あなたに 言うだろう。

ERNESTINAエルネスティーナ
Che bel momento è questo!これは なんという 素晴らしい 瞬間だ!

PARMENIONEパルメニオーネ
Che fortunato giorno!なんという 幸運な 喜びだ!

EUSEBIOエウゼービオ
Io sbalordito resto.私は びっくり仰天させ られた。

ERNESTINAエルネスティーナ
Io vostra ognor sarò.私は これからもずっと あなたの女に 鳴ろう。

PARMENIONEパルメニオーネ
Io vostro ognor sarò.私は これからもずっと あなたの男に なろう。

ERNESTINA, EUSEBIO E PARMENIONEエルネスティーナ、エウゼービオ と パルメニオーネ
A propagar si vada広めに 行こう
l'inaspettato evento.予期しない 出来事を。
Del giubilo, ch'io sento喜びを それを 私は 感じている
ognuno a parte io vo'!皆が 分かち合うことを 私は 望む!

[partono][【二人とも】 去る]
Ma chi sarà frattanto
この frattanto は 同時に ⇒ その一方で。

già tutto io vi dirò.
単純未来形の文で用いられる già は fin d'ora 今から,すぐに と同義。

Andantino
6/8
B-flat major
SCENA ⅩSCENA Ⅶ第17場
BERENICE E ALBERTOベレニーチェ と アルベルト
Oh quanto son grateああ なんと ありがたい ことか
le pene d'amore,愛の 心痛が、
se premio al doloreもし 苦悩の 褒美で
è un tanto piacer! ある 【↑】ならば これほどたくさんの 喜びが!

BERENICEベレニーチェ
Fidarmi poss'io?私は 【君を】 信頼しても よいのか?

ALBERTOアルベルト
E ancor stai dubbiosa?それでは 君は まだ 疑いを抱いた ままなのか?

BERENICEベレニーチェ
Tu sei dunque mio.それゆえに 君は 私の男だ。

ALBERTOアルベルト
Tu sei la mia sposa.君は 私の 花嫁だ。

BERENICE E ALBERTOベレニーチェ と アルベルト
Un tenero io provo私は 感じている 甘い
tumulto nel petto.動揺を 胸の中に。
A tanto dilettoこれほどたくさんの 喜びに
si perde il pensier.思いは 迷っている【≒ 何も 考えることが できない】
Primo Tempo [Allegro]
3/4
D major
SCENA ULTIMA最終場
(Martino, e detti, indi D. Eusebio con Ernestina, e D. Parmenione)(マルティーノ、そして 前の場の人たち、それから ドン・エウゼービオ エルネスティーナと共に、そして ドン・パルメニオーネ)

MARTINOマルティーノ
Miei signori, allegramente,私の 貴君貴女たちよ、陽気に、
ogn'imbroglio è accomodato.あらゆる 厄介な事情は 解決された。

BERENICEベレニーチェ
Cosa dici?君は 何を 言っているのか?

ALBERTOアルベルト
Cosa è stato?どうしたのか?

MARTINOマルティーノ
Ciò ch'è stato, non val niente,あったことは、価値が ない、
buono è ciò che seguirà.あるであろうことが 良い【≒ 起こったことは どうでもよい、これから起きることが 大事だ】

ALBERTOアルベルト
Dunque?..それでは?…

BERENICEベレニーチェ
Parla...話しなさい…

MARTINOマルティーノ
Appunto viene,まさに 来ている、
chi più chiaro parlerà.明白に 話すであろう 者が。

EUSEBIOエウゼービオ
Ah nipote!ああ 姪よ!

ERNESTINAエルネスティーナ
Anima mia!私の 魂よ!

PARMENIONEパルメニオーネ
Io son vostro servitore.私は あなたの 僕 しもべ だ。

BERENICEベレニーチェ
D'onde vien quest'allegria?この 喜びは どこから 来ているのか?

ALBERTOアルベルト
D'onde mai tal buon umore?そのような 良い 気分 いったい どこから?

EUSEBIOエウゼービオ
Non vedete?あなたは 見【え】ないのか?

ERNESTINAエルネスティーナ
Non capite?あなたは 分からないのか?

PARMENIONEパルメニオーネ
D'ascoltar se favorite,もし あなたが 聞いてくださる ならば、
tutto noto si farà.すべてが 周知に なるだろう。
Voi padron m'avete elettoあなたは【= アルベルトは】 私を 持ち主に 選んだ
per un gioco della sorte運命の いたずらに よって
delle vostre proprietà:あなたの 所有物の【≒ 運命のいたずらによって あなたは 鞄を 取り違え、私を あなたの 鞄の 持ち主に した】
io per esserlo in effetto,私は その通り実際 それに【= 鞄の持ち主に】 なるために、
volli ancor, che la cosorte私は さらに 望んだ、配偶者に
diventasse mia metà;なることを 私の 狙いが【≒ 私は さらに 私が目を付けた女性が 妻になることを 望んだ】
e fu sol questo ritratto,そして ただ この肖像画 だけが
che colpevole mi ha fatto私に 罪を犯させた
di sì gran bestialità.これほどに 大きな 愚かな行動の。

BERENICEベレニーチェ
Come mai?..いったい どうして?…

ALBERTOアルベルト
Di mia sorella私の 妹の
il ritratto è questo qua.肖像画だ ここの これは。
Alla sposa mia novella私の 新婚の 花嫁に
era in dono destinato.それは 贈り物に 差し向けられている【≒ それを 新婚の 花嫁への 贈り物に する つもりだった】

PARMENIONEパルメニオーネ
Vidi anch'io d'aver sbagliato,私も 間違ったと 分かった、
ma allor tardi era di già.しかし その時には もう 遅かった。

EUSEBIOエウゼービオ
Dunque?..それでは?…

PARMENIONEパルメニオーネ
Invece ho ritrovato,その代わりに 私は 見つけた、
ciò che appunto io ricercava.まさに 私が 求めていた ものを。

MARTINOマルティーノ
Così amore ha qui pigliatoこうして 愛の神は ここで 取った
due piccioni ad una fava.2羽の鳩を 1つのソラマメで。

PARMENIONEパルメニオーネ
Spero alfin, che scuserete...私は 最後に 期待している、あなたたちが 許すであろう ことを…

BERENICEベレニーチェ
Già scusato appien voi siete.あなたは もう 十分に 許されている。

ERNESTINAエルネスティーナ
Io per me contenta sono.私として 私は 満足だ。

ALBERTOアルベルト
Io v'abbraccio, e vi perdono.私は あなたを 抱擁する、そして 私は あなたを 容赦する。

EUSEBIOエウゼービオ
Ed un doppio matrimonioそれでは 二重の 結婚が
la burletta finirà.悪ふざけを 終わらせるだろう。
Io son vostro servitore.
第4番 五重唱 Andantino の傍注を参照。

Così amore ha qui pigliato due piccioni ad una fava.
イタリアの諺 prendere due piccioni con una fava 1つのソラマメで 2羽の鳩を 獲る に基づいている。つまり 一石二鳥。

Allegro vivace
4/4
D major
BERENICE, ERNESTINA, ALBERTO, EUSEBIO, PARMENIONE E MARTINOベレニーチェ,エルネスティーナ,アルベルト,エウゼービオ,パルメニオーネ と マルティーノ
D'un sì placido contentoこれほどに 穏やかな 喜びを
si partecipi ogni core,あらゆる 心が 分かち合うように、
e costante il Dio d'amoreそして 愛の 神が 不動に
renda il nostro giubilar;するように 私たちの 歓喜を;
e se a caso l'occasioneそして たとえ たまたま 機会が
l'uom fa ladro diventar,人を 泥棒に なら 【↑】させる 【↑】としても、
c'è talvolta una ragione,時折 理由がある、
che lo può legittimar.それは 彼を 正当と認めることが できる 【≒ たとえ たまたま 機会が 人を 泥棒に させる としても、時には その人を 正当化できる 理由が あるものだ】

参考資料

Le siège de corinthe / Programma di Sala / Rossini Opera Festival, Pesaro, Italy / 2017

Le siège de corinthe / Programma di Sala / Rossini Opera Festival, Pesaro, Italy / 2000

GIOACHINO ROSSINI LETTERE E DOCUMENTI VOLUME Ⅱ / FONDAZIONE ROSSINI PESARO / 1996

GIOACHINO ROSSINI LETTERE E DOCUMENTI VOLUME Ⅲa / FONDAZIONE ROSSINI PESARO / 2004

Dizionario Rossiniano / Eduardo Rescigno / Biblioteca Universale Rizzoli / 2002 / ISBN 88-17-12894-5 / 9788817128940

NAXOS
Blu-Ray Disc
NBD0137V
730099013765

DVD
2.110706
747313570652
D. EusebioPatrick Kabongotenore
BereniceVera Talerkosoprano
Conte AlbertoKenneth Tarvertenore
D. ParmenioneLorenzo Regazzobasse
ErnestinaGiada Frasconimezzosoprano
MartinoRoberto Maiettabasso

Virtuosi Brunensis
ConductorAntonino Fogliani

Stage Director / Set DesignerJochen Schönleber
ChoreographerMatteo Marziano Graziano
Costume DesignerClaudia Möbius
Lighting DesignerMichael Feichtmeier
and Jochen Schönleber


Königliches Kurtheater, Bad Wildbad, Germany
13 and 22 July 2017

ドイツ、バート・ヴィルトバートでの ヴィルトバートでのロッシーニ Rossini in Wildbad での2017年公演のライヴ収録。会場は1865年開場の国王の保養劇場(収容は200人程度の小劇場)。この音楽祭が公開している公演プログラムのPDFファイルによると、公演は7月8,13,22日。
使用楽譜は、BRDには言及がないが、先の公演プログラムには Die neu erstellte Ausgabe von Aldo Salvagno アルド・サルヴァーニョによって新たに作成された版 とある。これはロッシーニの自筆譜に加えて、1826年6月、ウィーンで上演された際のものと思しき筆写譜も参考にしているという。
ベテランのロッシーニ・バッソ、ロレンツォ・レガッツォが狡猾なパルメニオーネを素晴らしく歌い演じて圧倒的。ラトヴィアの若いソプラノ、ヴェラ・タレルコは、透明な美声と卓越した歌唱技術で見事なベレニーチェを歌っているものの、演技がまだいかにも若手らしい。アルベルトのケニス・ターヴァーは軽い声のテノールで装飾歌唱の技術もありアリアを立派に歌っているが、演技は平凡。マルティーノのロベルト・マイエッタはまずまず堅実な歌い口だが、しかしバッソブッフォとしては生真面目過ぎる。
この音楽祭の音楽監督、アントーニオ・フォリアーニの指揮は勢いがあって素晴らしい。
演出のヨッヘン・シェーンレーバーは長くこの音楽祭の芸術指導者を務め、2000年から総監督でもある。シェーンレーバーはこの音楽祭に現代化した舞台を積極的に取り入れて来て、この《成り行き泥棒》もその路線である。彼は様々なアイデアを舞台に盛り込んでこの拙い台本のオペラに捻りを加えようとしている。たとえばパルメニオーネとマルティーノを旅行者専門のかなりたちの悪い窃盗団に仕立てている。パルメニオーネが最後エルネスティーナから逃げ出す様子は、台本の欠点を知っていれば そりゃそうだ とニヤリとさせられる。さて冒頭、嵐の音楽でパルメニオーネがトランプ米国大統領のような金髪姿で親指を立てて現れる。この大統領はこの上演の年の1月に就任したばかりだった(このアイデアはマルティーノのアリアの歌詞に基づいたものだろう)。しかしこれは本編で発展することはなく、時事的な遊びという以上ではない。こうした工夫を凝らしているにもかかわらず、それらがファルサの面白さを引き立てているようにはあまり思われず、全体としては安っぽさが目立つ舞台である。
レチタティーヴォに多少のカットあり。

NAXOS
CD
8.660314-15
730099031479
D. EusebioJoan Ribaltatenore
BereniceElizaveta Martirosyansoprano
Conte AlbertoGarðdar Thór Cortestenore
D. ParmenioneGianpiero Ruggeribasse
ErnestinaFanie Antoneloumezzosoprano
MartinoMauro Utzeribasso

Württemberg Philharmonic Orchestra
Antonino Fogliani

Kursaal, Bad Wildbad, Germany, 14, 17, 21 July 2005

ドイツ、バート・ヴィルトバートでの ヴィルトバートでのロッシーニ Rossini in Wildbad での2005年公演のライヴ収録。この音楽祭の常としてインターネット上での公演情報は既に無く、また当時の公演評、感想もごく僅かしか見付からない。そのため正確な公演日は分からなかったが、初日は7月8日だったようである。
使用楽譜について、CDのバックインレイカードには Edition: Casa Ricordi/Universal Music Publishing-Fondazione Rossini, Pesaro とある。
ベレニーチェを歌うジョージアのソプラノ、エリザヴェータ・マルティロシャンが最も上出来だが、まだ若く旨味があるというほどには至っていない。その他の歌手はあまり芳しくなく、CDで音だけを聞くとなると物足りない。録音ももやついている。アントーニオ・フォリアーニの指揮は溌剌としていて良いのだが。
レチタティーヴォにカットがやや多めに入っている。

DVD
EURO ARTS
2054998
880242549983
D. EusebioStuart Kaletenore
BereniceSusan Pattersonsoprano
Conte AlbertoRobert Gambilltenore
D. ParmenioneNatale de Carolisbasse
ErnestinaMonica Bacellisoprano
MartinoAlessandro Corbellibasso

Radio-Sinfonieorchester Stuttgart
Gianluigi Gelmetti

Staged and DesingnedMichael Hampe
CostumesCarlo Diappi

1-3 May 1992
Schlosstheater Schwetzingen, Schwetzingen, Germany

1992年5月、ドイツ、シュヴェツィンゲンのシュロステアター Schlosstheater(城劇場 の意味)での公演の収録。
パルメニオーネを当たり役として度々歌ったナターレ・ディ・カロリスが、インチキ臭い中にも気品を感じさせる絶妙な役作りで最も充実している。アレッサンドロ・コルベッリのいつもながらに卓越したブッフォで、脇役マルティーノではもったいないくらいだ(本来の意味の役不足)。ロバート・ギャンビルのアルベルトはまずまずだが、この数年後にはヴァーグナーなどのドラマティックなテノール役へと転じる頃で、既にロッシーニにしては声が重めなのが気にならなくもない。スーザン・パターソンのベレニーチェは破綻なく歌っているものの、歌も舞台姿も魅力が薄い。
ジャンルイージ・ジェルメッティの指揮が素晴らしい。技術的にはイタリアのオーケストラよりもずっと優秀だがしかしファルサを演奏となるとだいぶ真面目過ぎるドイツのオーケストラから、イタリアの良い味を巧いこと引き出している。
ミヒャエル・ハンペの演出は、台本をよく読み込んだ上で丁寧に描き込んだ誠実なもの。現代化した舞台を好まない人には歓迎されるだろう。その一方で、このシリーズのすべてに言えることだが、ハンペの舞台作りはファルサの豪快な娯楽のエネルギーとは微妙に相反しており、しばしば理屈っぽくて面白さに欠ける。
レチタティーヴォにカットがいくらか入っている他、第2番 パルメニオーネのアリアの後のレチタティーヴォ(第4場)をそっくり 第3番ベレニーチェのカヴァティーナの後に移し、カヴァティーナの後のレチタティーヴォを冒頭から che col mio modo di pensare combina... までカットしている(つまり第4場のレチタティーヴォの後に Oh, te appunto io volea, cara Ernestina! 以降が続く)。

CD
claves
CD 50-9208/9
D. EusebioFulvio Massatenore
BereniceMaria Bayosoprano
Conte AlbertoIorio Zennarotenore
D. ParmenioneNatale de Carolisbasse
ErnestinaFrancesca Provvisionatosoprano
MartinoFabio Previatibasso

English Chamber Orchestra
ConductorMarcello Viotti

18-24 February 1992
Rossly Hill Chapel, London, UK

Claves社のロッシーニのファルサ全集の一つ。商業セッション録音。
いかにも録音のための演奏といった、丁寧だけれど舞台の熱気に乏しい演奏で、ファルサにしてはおとなしすぎる。ジューリアのマリア・バーヨが美しい声と優れた技術表現で素晴らしい。パルメニオーネを得意としたナターレ・デ・カロリスも良いが、ここでは借りてきた猫のようで本領を発揮していない。この二人の他は今一つ。アルベルトのイオリオ・ゼンナーロは、アリアでの装飾歌唱の捌きは悪くないが、全般に声が頼りない。
使用楽譜は、クレジットがないので、おそらくクリティカルエディションではないようである。また第4番 四重唱 での Andantino grazioso でパルメニオーネが (non s'accorda col ritratto, no.) と歌う行が、ロッシーニが当初書いた (Diventato mia conquista.) に置き換えられている。
レチタティーヴォに少なめながらカットが入っている。

CD
OEPRA RICORDI FONIT CETRA
RFCD 2001
D. EusebioErnesto Gavazzitenore
BereniceLuciana Serrasoprano
Conte AlbertoRaul Giméneztenore
D. ParmenioneJ. Patrick Rafterybasse
ErnestinaLuciana D'Intinosoprano
MartinoClaudio Desderibasso
Orchestra Giovanile Italiana
DirettoreSalvatore Accardo

August 1987
Auditorium Pedrotti, Pesaro, Italy

1987年 ロッシーニ・オペラ・フェスティヴァル ROF での公演のライヴ録音。これがクリティカルエディションを用いた初の公演だった。
ファルサやブッファのソプラノのヒロイン(もちろんそれだけではないが)を歌わせたら天下一品だったルチアーナ・セッラのベレニーチェがたいへんに素晴らしい。第3番 カヴァティーナでのしっとりとした情感も、第8番 アリアでの激しい憤りの爆発も圧巻、後者のカバレッタではヴァリアンテをたっぷりつけて大喝采を貰っている。アルベルトのラウル・ヒメネスもすらりとした美声、技術、そして気品の高さと申し分ない。パルメニオーネのJ.パトリック・ラフテリは若々しく張りのある高めのバリトンで、やや粗いものの豪快なパルメニオーネを歌っている。彼は有望な若手バリトンだったが、1992年にテノールに転向し、このパルメニオーネの他にロッシーニのバリトン役の録音を残さなかったのは残念だ。マルティーノのクラウディオ・デズデーリも実に演技達者。
名ヴァイオリニストのサルヴァトーレ・アッカルドが指揮を受け持っている。プロの指揮者のような余裕や巧さないものの、彼のロッシーニ愛が強く感じられる気持ちの良い音楽を繰り広げている。総じてクリティカルエディションお披露目公演の熱気が満ちた素晴らしい演奏である。
レチタティーヴォにいくらかのカットが入っている。

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